メキシコ政治情勢(8月)
〈概要〉
内政では,16日,国民行動党(PAN)党首選が実施され,アナヤ前連邦下院議会同党会派長が勝利し,21日,同党首に就任した。20日,カマチョ制度的革命党(PRI)党首の後任として,ベルトローネス連邦下院議会同党会派長が就任した。21日,アンドラーデ公共行政相が,ペニャ・ニエト大統領所有不動産他をめぐり指摘されていた公共事業落札企業との癒着疑惑に関し,いずれも利益相反の事実は存在しない旨の調査結果を発表した。27日,ペニャ・ニエト大統領は大統領官邸において内閣改造を発表した。
外交では,10日~12日,秋葉自民党外交部会長が来墨した。13日~14日,バチェレ・チリ大統領が墨チリ外交再開25周年の枠組みでメキシコを国賓訪問した。21日,ミード墨外相はサン・ホセ(コスタリカ)で開催された第7回FEALAC外相会合に出席した。23日~26日,宇都外務政務官が来墨した。24日,ミード墨外相が,当国キンタナ・ロー州カンクンにおいて,武器貿易条約第1回締約国会合開会式及びハイレベル・セグメントに出席した。
〈内政〉
1.PAN党首の交代
(1)16日,メキシコ全土のPAN党員の投票によるPAN党首選が実施され,アナヤ前連邦下院議会同党会派長が,獲得票数193,944票,得票率81.91%で,ハビエル・コラール上院議員に勝利し,21日,マデロ党首の後任としてPAN新党首に就任した。また,同日,トレホ同党幹事長の後任には,セペダ連邦下院議員が就任した。
(2)アナヤ新党首は,党本部で行われた党首就任式典にて,PANを刷新し,再生させるための行動を起こす時期が来たと述べ,2018年大統領選を見据え,汚職にまみれ,不処罰の問題を引き起しているPRIに,引き続き国家の運営を任せることがあってはならない,PANは2018年大統領選に向け,日々,誠実さ,透明性,価値観を持って取り組んでいく旨述べた。また,汚職及び不処罰の問題に関連し,同日,アンドラーデ公共行政相がリベラ大統領夫人所有豪邸,ペニャ・ニエト大統領所有不動産及びビデガライ大蔵公債相所有不動産を巡る企業との癒着疑惑に関し,利益相反の事実は存在しない旨の調査結果を発表したことに対し,ペニャ・ニエト大統領が任命したアンドラーデ公共行政相が,ペニャ・ニエト大統領を取り巻く利益相反の疑惑はないとする調査結果を発表することは茶番であり,国民を愚弄する行為であると同時に,PRIによる汚職及び不処罰の明らかな証左であると強く批判,このような国家が抱える問題に対応するため,9月1日より始まる次期国会会期において,PANは最重要項目として国家汚職対策システム関連二次法案の成立に取り組む旨述べた。また,メキシコ経済に悪影響を与えているペニャ・ニエト政権下で施行された税制改革の廃止を求めていく旨併せて述べた。
2.PRI党首の交代
(1)20日,カマチョPRI党首の後任として,ベルトローネス連邦下院議会同党会派長が就任した。また,オルテガ同党幹事長の後任には,モンロイ次期連邦下院議員(メキシコ州選出,ペニャ・ニエト大統領の従姉妹)が就任した。なお,両者ともに任期は2019年8月までとなっている。17日,ベルトローネス下院会派長は,PRI党首選に立候補者登録を行い,同日夜,PRI全国内部プロセス委員会は,ベルトローネス候補以外に立候補者がいないことを受け,同党の内規に基づき,ベルトローネス下院会派長をPRI新党首に選出することを承認した。
(2)ベルトローネス新党首は,党本部で開かれた党首就任式典において,PRIは自省と対話を促進し,21世紀のメキシコが必要とする,国民に奉仕し真に効果的な政党に生まれ変わる必要がある旨述べ,ペニャ・ニエト大統領と建設的な対話を維持しながら,政権与党として,メキシコの更なる発展に寄与していく旨述べた。
(3)カマチョ前党首(注:連邦下院PRI会派長に就任)は,同式典にて,86年の歴史を持つPRIは約3年前,20世紀の政党のままでは国民に奉仕できない事実を受け止め,以来21世紀の政党として,国民にとってより価値のある政党へと内部変革に務めてきた,今日,PRIは連邦政府のための政党ではなく,メキシコ社会のための政党として存在している旨述べ,その党としての取り組みの成果が,先の連邦下院議員選で第一党の地位を守る勝利へとつながり,ペニャ・ニエト大統領は21世紀で初めて,中間選挙後の連邦下院議会で第一党となる政権与党を持つ大統領となった旨述べた。また,ペニャ・ニエト政権が推進する歴史的な構造改革の法案整備において,PRI所属連邦下院議員,とりわけ,会派長として議員たちをまとめたベルトローネス新党首の功績に触れ,全てのPRI党員は個人の利益を超え,引き続きこの国家プロジェクトを推進していかなければならない旨呼びかけた。
(4)8月24日,ペニャ・ニエト大統領は大統領官邸にて,ベルトローネス新党首及びモンロイ新幹事長と会談した。ベルトローネス新党首は,PRI党首としてペニャ・ニエト大統領と密接な関係を保っていく考えを明確にした。また,大統領府によると,ペニャ・ニエト大統領とベルトローネス新党首,モンロイ新幹事長は,国家の利益にかかるテーマに関し,意見交換を行った。
3.ペニャ・ニエト大統領他と企業との癒着疑惑に関する公共行政相の調査結果発表
(1)21日,アンドラーデ公共行政相は,ペニャ・ニエト大統領所有不動産,リベラ大統領夫人所有豪邸及びビデガライ大蔵公債相所有不動産をめぐり指摘されていた公共事業落札企業との癒着疑惑に関し,いずれも利益相反の事実は存在しない旨の調査結果を発表した。同調査では,公共事業落札を巡る利益相反の関係を疑われたサン・ロマン氏及びイノホサ氏がそれぞれ経営する企業が受注した公共事業に関し,関連する公共事業の契約に関与した111名の公職者を対象に調査が実施されたが,いずれの事例においても,利益相反の事実は確認されないと結論づけられた。なお,野党であるPANのアナヤ新党首及び民主革命党(PRD)のバルボサ上院会派長は,今般の調査は政府内部の組織による調査であり,信頼できるものではないと強く批判している。
(2)21日,ペニャ・ニエト大統領は国立宮殿で開かれた第38会国家治安委員会の会合後の記者会見において,国民に対し,自身及びリベラ大統領夫人所有不動産を巡る公共事業落札企業との癒着疑惑に関し,今般の公共行政相の調査結果の通り,当該不動産購入は法に基づいた形で行われたものであると述べる一方,今般の疑惑が様々な憶測を呼び,多くの国民を傷つけたこと,また国民の怒りを買ったことに対し謝罪した。他方,このような疑惑が,透明性の向上,アカウンタビリティー,汚職対策に係る真剣な議論の必要性を呼び起こし,国家汚職対策システムの創設につながった旨述べ,国家が更なる発展を遂げるためには,公職に従事する者たちが国民からの信頼を取り戻す必要があり,そのためには,より一層の努力に励まなければならず,言葉ではなく,行動で信頼を取り戻さなければならない旨述べた。
4.ペニャ・ニエト政権の内閣改造
27日,ペニャ・ニエト大統領は大統領官邸において内閣改造を発表した。また,右発表に続き直ちに宣誓式が開催され,正式に新閣僚が就任した。
【内閣改造人事】(括弧内は前任者)。
(1)外務大臣
.......クラウディア・ルイス=マシュー・サリーナス前観光大臣
......(ホセ・アントニオ・ミード・クリブレーニャ)
(2)社会開発大臣
......ホセ・アントニオ・ミード・クリブレーニャ前外務大臣
......(ロサリオ・ロブレス・ベルランガ)
(3)環境天然資源大臣
.....ラファエル・パキアーノ・アレマン前環境天然資源省環境保護次官
.....(フアン・ホセ・ゲラ・アブッド)
(4)農業,牧畜,農村開発,漁業,食糧(農牧)大臣
......ホセ・エドゥアルド・カルサダ・ロビロサ前ケレタロ州知事
.....(エンリケ・マルティネス・マルティネス)
(5)教育大臣
.....アウレリオ・ヌニョ・マイェル前大統領府長官
.....(エミリオ・チュアイフェット・チェモール)
(6)農地土地都市開発大臣
......ロサリオ・ロブレス・ベルランガ前社会開発大臣
......(ヘスス・ムリージョ・カラム)
(7)観光大臣
.......エンリケ・デ・ラ・マドリッド・コルデロ前メキシコ外国貿易銀行総裁
.......(クラウディア・ルイス=マシュー・サリーナス)
(8)大統領府長官
.......フランシスコ・グスマン・オルティス前大統領補佐官
......(アウレリオ・ヌニョ・マイェル)
(9)国家治安コミッショナー
.......レナト・サレス・エレディア前国家誘拐対策調整官
......(モンテ・アレハンドロ・ルビド)
(10)国家公務員共済庁(ISSSTE)長官
.....ホセ・レジェス・バエサ前住宅供給公社(INFONAVIT)理事長
.....(セバスティアン・レルド・デ・テハダ・コバルビアス(2015年5月死去))
(2)ペニャ・ニエト大統領は今般の内閣改造に関し,国家が直面する新たな状況,課題に対応するために内閣改造を行うことを決意した旨説明した。また退任する閣僚に謝意を表明しつつ,国家の変革に向けた努力を一層強固にする段階を迎え,メキシコ人家族のための政策に新たな風を吹き込むべく,新閣僚の任命を行うとした。その上で,国民は国家が果たすべき使命に対し責任を負う政府を求めており,変革の深化に向けて一丸となって取り組みたいと述べた。
〈外交〉
- 秋葉自民党外交部会長の来墨
10日~12日,秋葉自民党外交部会長が来墨。デ・イカサ筆頭外務次官,カントゥ連邦下院外交委員会委員長と会談した他,メキシコ日本商工会議所幹部,日墨協会幹部と懇談した。
2.バチェレ・チリ大統領のメキシコ国賓訪問
13日~14日,バチェレ・チリ大統領が墨チリ外交再開25周年の枠組みでメキシコを国賓訪問した。
(1)訪問概要
(ア)13日~14日,バチェレ・チリ大統領が墨チリ外交再開25周年の枠組みでメキシコを国賓訪問した。なお,メキシコが本年受け入れる国賓訪問はこれで6件目であり,昨2014年7月のウマラ・ペルー大統領の国賓訪問以降,太平洋同盟全加盟国の大統領が国賓訪問を実現。
(イ)今回の国賓訪問の枠組みで,観光,科学,文化等多岐にわたる分野で,二国間関係を促進するための13の文書が署名された。
(ウ)同大統領の日程概要は以下のとおり。
8月13日
.....英雄少年の碑への献花
.....歓迎式典
.....首脳会談
.....合意文書の署名式
.....共同記者会見
....ペニャ・ニエト大統領主催午餐会
8月14日
.....連邦議会常設委員会の特別セッションにおいてスピーチ
.....両大統領によるチリ墨貿易・投資フォーラム出席
.....ジェンダーに関する基調講演
.....墨チリ協力基金に関するイベント出席(ミード外相出席)
.....在墨チリ人コミュニティとの会合
(2)共同記者会見
8月13日,両首脳は共同記者会見を実施した。
(ア)ペニャ・ニエト大統領
(a)ペニャ・ニエト大統領は,今回の国賓訪問の枠組みで署名された合意文書の重要性を指摘しつつ,これらの文書は二国間関係に新たな弾みをつけるものである旨述べた。
(b)同大統領は,特に,南極大陸における科学協力に関するLOI(意図表明書)について,同LOIにより南極大陸における科学調査へのメキシコ人科学者の参加が可能となる,これはチリ政府の政治的意思なしでは成し得なかったことであり,必ずやメキシコの科学者コミュニティの高い関心を呼び起こすだろう旨述べた。
(c)同大統領は,メキシコ軍に対してチリが提供する協力に言及の上,これにより国連PKOの派遣に関しチリが有する経験の共有や,PKOに参加することが見込まれるメキシコ軍に対する訓練が可能となる旨述べた。
(イ)バチェレ大統領
(a)バチェレ大統領は,メキシコは,民主主義の原則,人権の尊重,法の支配,自由貿易,全ての国が開発を実現するための協力の責任等の点に関し,チリと共通のビジョンや似通った立場を有する国である旨述べた。
(b)同大統領は,両国が国際的・地域的なアジェンダに関し立場を共有しているからこそ,様々な機関で協働している,その例として,メキシコの協力もあってチリの加盟が実現したOECDや,太平洋同盟,CELAC,APECが挙げられるが,これらは貿易・投資,教育,文化,治安,イノベーション,海洋,宇宙,科学技術等の分野における共同プロジェクトで協力するための大きな機会を提供している旨述べた。
(3)合意文書の署名
13日,共同記者会見に先立ち,両首脳立ち会いの下,二国間関係を促進するための法的枠組みの設立として,以下を含む13の合意文書が署名された。
(ア)南極大陸における科学協力に関するLOI(意図表明書)
(イ)観光分野における生産性向上,雇用創出,人材育成を目的とした観光協力プログラム
(ウ)研究者間,芸術者間交流の促進及び学位の相互承認に関する文書
(エ)消費者保護に関する文書
(オ)中小企業融資に関する文書
(カ)墨チリ協力基金の融資プロジェクトに関する合意:銀銅細工職人や三角協力を通じて他の中南米諸国が裨益するプロジェクトを採用
(キ)国連PKOに派遣されるメキシコ軍に対する訓練にかかる合意
(4)ジェンダーに関する基調講演
(ア)14日,バチェレ大統領は,在メキシコ・チリ大使館及び連邦上院外交委員会が主催したイベントで,ジェンダーに関する基調講演を実施した。同講演には,クエバス上院議員(連邦上院外交委員会委員長),クルスINMUJERES(Instituto Nacional de las Mujeres)(注:女性政策を所管する連邦政府機関)長官,ルビオ中南米担当外務次官が出席した。
(イ)バチェレ大統領は,現在世界で女性が置かれている現状について示し,自身の個人的・職業的な経験を共有し,また,出席者に対して,あらゆる分野における意思決定に女性の関与の余地をさらに広げるべく貢献し続けることを奨励した。
(ウ)ルビオ次官からは,バチェレ大統領の経歴を紹介しつつ,同大統領が中南米で初めて防衛大臣を務めた女性であり,南米地域で史上3人目の女性大統領である点等を強調した。また,同次官は,現在世界193カ国において15名の女性の首脳がいるが,そのうち5名が中南米カリブ地域出身である旨述べた。
3.ミード外相の第7回FEALAC外相会合出席
21日,ミード墨外相はサン・ホセ(コスタリカ)で開催された第7回FEALAC外相会合に出席したところ,外務省プレスリリースによる右概要は以下の通り。
(1)同外相の出席は,メキシコの外交政策にとって優先的地域である中南米及びアジアとの政策対話,協力対話の大きなポテンシャルにつきメキシコが有する関心に対応するものである。
(2)ミード外相は,国際金融機関による中南米・アジア地域間協力への関心及び取組に謝意を表明するとともに,FEALACのプロジェクトに地域間としての意味合いを付与するために,これらの機関がプロジェクト形成及び資金調達に参加する恒常的なメカニズムを構築することの重要性を強調した。
(3)同外相は,本外相会合の結果,FEALACを地域間の対話及び協力アジェンダの推進フォーラムとして位置づけるというFEALAC加盟国の共通目的に向けた前進があることを確信している旨述べた。
(4)同外相は,メキシコ及び米州開発銀行が共同で,中南米カリブ・アジアの中小企業の生産チェーンの強化に関するセミナーを開催する予定であり,また,国家起業家機構(INADEM)が2016年に中南米・アジアにおける伝統的中小零細企業のイノベーション戦略に関するグローバル・フォーラムを開催予定である旨発表した。
(5)外相会合閉会時に採択されたサン・ホセ宣言では,FEALAC外相は持続的で多元的な開発の強化,南南協力及び三角協力の推進に対するコミットメントを示した。また,FEALAC外相は,持続的な観光を推進し,特に中小企業間の貿易・投資を円滑化することの重要性を強調,また,FEALAC諸国の女性企業家の情報網の構築を支援する旨述べた。
(6)気候変動分野では,FEALAC外相はパリで開催されるCOP21に向けて,全FEALAC加盟国が温室効果ガスの排出削減にコミットすることの重要性を再確認し,気候変動に対するリスク管理,適応と緩和のための協力,技術移転に関する地域プロジェクトの継続を支援する旨述べた。
4.宇都外務政務官の訪墨
23日~26日,宇都外務政務官が訪墨。日墨EPA10周年セミナー開会式,第8回ビジネス環境整備委員会に出席。メキシコ日本商工会議所幹部,日墨協会幹部と懇談した。
5.ミード外相の第1回締約国会合出席
24日,ミード墨外相は,当地キンタナ・ロー州カンクンにおいて武器貿易条約第1回締約国会合開会式及びハイレベル・セグメントを主催した(我が国からは,佐野軍縮代表部大使出席)。
(1)武器貿易条約第1回締約国会合
(ア)24日,ミード外相は,武器貿易条約第1回締約国会合の開会の辞において,特に小型武器・軽火器をはじめとする通常兵器の国際的取引を規制し透明性を確保するための強固な制度的及び手続き的枠組みを設立することにより,武器貿易条約の適用を実現することを目的として開催される本第1回締約国会合の重要性を強調した。
(イ)同外相は,武器貿易条約の主要目的の一つとして,兵器の不十分な規制及びこれら兵器の無責任な取引によって,これらの兵器が犯罪者やテロリスト・グループの手に渡ることによって生じる人的被害を軽減することにある旨述べた。
(ウ)なお,開会式には,ボルヘ・キンタナー・ロー州知事やアリアス・コスタリカ元大統領(ノーベル平和賞受賞者)等が出席した。
(2)武器貿易条約に関するハイレベル・セグメント
(ア)ミード外相は,本第1回締約会合の枠組みで,武器貿易条約に関するハイレベル・セグメントを主催し,同条約の完全な実施及び機能のために必要な明確で強靱な制度を確立するための議論を行った。
(イ)同ハイレベル・セグメントには,中南米カリブ,アジア及びヨーロッパ各国の外相等が出席したほか,締約国からの特使,国際機関の代表等が出席した。
(3)同締約国会合では,アムネスティ・インターナショナル等の市民社会,産業界,学界からのプレゼンスも示された。
|