メキシコ政治情勢(12月)
〈概要〉
内政では,1日,当地各紙は8~9月期より政権支持率が5~11ポイント低下した旨世論調査結果を発表。7日,ムリージョ連邦検察庁長官が会見において,アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件にて行方不明となっていた学生43名のうち,1名の遺骨の身元が確認されたと発表した。15日,通常国会が閉幕し,11月27日にペニャ・ニエト大統領が発表した治安対策パッケージの審議は,翌年2月1日にはじまる次期通常国会に持ち越される見通しとなった。16日,ミチョアカン州において地方警備隊同士の衝突事件が発生し,11名が死亡した。
外交では,4日,イランの議員団が訪墨,ミード外相と会談を行った。4~5日,ミード外相は,南米諸国連合(UNASUR)新事務局の開所式に特別招待国として出席するため,エクアドルのキトを訪問した。7~9日,第24回イベロアメリカ・サミットが,ベラクルスで開催され,開催国メキシコのペニャ・ニエト大統領を含む,全加盟国22カ国中,16カ国の首脳が出席した。10日,ペニャ・ニエト大統領は,COP20に出席するため,ペルー,リマを訪問した。12日,ミード外相がイタリア及びバチカンを訪問した。16日,ジョンソン米国土安全保障長官が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領表敬の他,ミード外相,オソリオ内相と会談を行った。19日~20日,李金早(Li Jinzao)中国国家観光局長が訪墨し,ホアキン観光省観光イノベーション・開発担当次官((ルイス=マシュー観光大臣代理)等と会談した。
〈内政〉
1. 大統領支持率
12月1日付当地「レフォルマ」紙及び「エル・ウニベルサル」紙,並びに当地世論調査会社Parametria社(1日)が,ペニャ・ニエト政権3年目の世論調査結果を発表した。ペニャ・ニエト大統領の支持率は,いずれの調査機関においても,本年1月に施行された新税制の影響で低下したが,その後はエネルギー改革を含め,8月までの一連の構造改革実現の中で徐々に回復基調にあったものの,9~11月にかけて再び大きく悪化したことが明らかになった。なお,「レフォルマ」紙,Parametriaは,政権不支持の背景として,治安,汚職,経済情勢の問題を指摘しており,具体的には,アヨチィナパ教員養成学校学生襲撃事件,大統領夫人所有の邸宅をめぐる疑惑等が示唆されている。
(1)「レフォルマ」紙
「レフォルマ」紙が実施した世論調査によると,一般回答者の支持率39%(前回8月調査比:11ポイント減),有識者の支持率21%(前回比:19ポイント減)と,ペニャ・ニエト大統領の支持率は大きく低下。一般回答者,有識者共にペニャ・ニエト政権発足後,最低の支持率となったのみならず,一般回答者による支持率39%という数字は,セディージョ政権がテキーラ・ショック経済危機後の1995~96年に記録した34%に次いで低い数字であり,「レフォルマ」紙は支持率の歴史的急落と報じた。
(2)「エル・ウニベルサル」紙
「エル・ウニベルサル」紙がブエンディア&ラレド社と共同で行った世論調査によると,ペニャ・ニエト政権支持率は41%(前回8月調査比:5ポイント減),不支持率は50%(前回比:5ポイント増)であった。同調査で支持率が不支持率を下回ったのは,本年1月に施行された新税制の影響で支持率が低下した2月の調査(支持率44%,不支持率46%)以来2度目。不支持率が50%に達したのは今回の調査が初めて。
(3)Parametria社
政権支持率44%(前回9月調査比:7ポイント減)という数字は,同社が行っている世論調査としては,本年1月から施行された新税制の影響で支持率が低下した1月-2月時調査結果と同じで最も低い数値となった。また,46%が過去12ヶ月に経済状況は悪化したと回答しており,87%が治安情勢に不安を感じていると回答している。
2.アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件被害者の身元判明
(1)1日,メキシコ市,ゲレロ州,モレロス州,プエブラ州,ミチョアカン州,ハリスコ州,オアハカ州,チアパス州等でペニャ・ニエト大統領の辞任を要求,行方不明事件解明を求める抗議デモが実施された。その後も抗議デモはメキシコ市,ゲレロ州を中心に断続的に行われ,14日,チルパンシンゴ市で連邦警察官と「学校」生徒が2度にわたり衝突,16名のけが人を出す事件があった。26日,事件発生から3ヶ月に合わせ,メキシコ市で抗議デモが実施され,メキシコ市治安当局発表によると2千人強のデモ隊が,独立記念塔から革命記念塔へとデモ行進した。その際,覆面を被った一部デモ隊が政府機関や商業施設等にスプレー缶等で抗議のスローガンを書くなどしたが,それまでのデモに見られた破壊行為等はなかった。
(2)12月7日,ムリージョ連邦検察庁長官は会見を開き,ゲレロ州イグアラ市におけるアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件にて行方不明となっていた学生43名のうち,1名の遺骨の身元が確認されたと発表した。今般身元が判明したのはアレクサンデル・モラ・ベナンシオ(Alexander Mora Venancio),同教員養成学校の1年生であった。連邦検察庁は11月12日に,ゲレロ州コクラ市のゴミ捨て場及びサンフアン川の岸辺で採取した17体の遺骨をオーストリアのインスブルック大学法医学研究所に送り,DNA鑑定を依頼していた。
3. 通常国会の閉幕
15日,通常国会が閉幕。11月27日にペニャ・ニエト大統領が発表した治安対策パッケージの審議・採決に関し,政権与党制度的革命党(PRI)は臨時国会の召集,同臨時国会における審議・採決を目指したが,同治安対策パッケージの内容,とりわけ市警察の統一州警察への統合方法に関し,PRIと野党の国民行動党(PAN),民主革命党(PRD)との間で合意に達しなかったこと,またPANが全国汚職対策システム発足のための関連法案の審議・採決を優先する姿勢を見せ,同本案に関する合意がPRIとPANの間でなされなかったことから,PANが臨時国会の召集を拒否した結果,治安対策パッケージの審議・採決は2月1日に開幕される次期通常国会に持ち越される見通しとなった。
〈治安情勢〉
- ミチョアカン州地方警備隊の衝突
(1)16日,ミチョアカン州ブエナビスタ市のフェリペ・カリージョ・プエルト区,通称「ラ・ルアナ」で,イポリト・モラ・チャベス(Hipolito Mora Chavez)率いる地方警備隊とルイス・アントニオ・トーレス(Luis Antonio Torres),通称「エル・アメリカーノ」の率いる地方警備隊による銃撃戦で,11名が死亡する事件が発生した。
(2)17日,カスティージョ「ミチョアカンの治安及び統合開発のための委員会」コミッショナーは会見を開き,今回の銃撃戦は,両警備隊に存在する歴史的ライバル関係が引き起こしたと説明した。ミチョアカン州では治安悪化を受け,2013年頃より武装した住民による自警団が複数結成され,過激な制裁による殺人が発生するなど問題となっていたところ,2014年1月,連邦政府との取り決めにより,自警団に地方警備隊としての公的位置付けが与えられ,自警団は地方警備隊へと転身していたが,カスティージョ・コミッショナーが,イポリト・モラ・チャベスは自身の率いるグループが地方警備隊として活動することを快く思っていなかったと説明するように,異なる自警団から構成される地方警備隊は一枚岩ではなかったことが,事件の背景の一つとして挙げられている。
(3)28日,取り調べを受けるためにイポリト・モラ・チャベスがミチョアカン州検察庁に出頭,その後,モレリア市のミル・クンブレス刑務所に収監された。31日,ルイス・アントニオ・トーレスがミチョアカン州検察庁に出頭し,同様にミル・クンブレス刑務所に収監された。
〈外交〉
1.イラン議員団の訪墨。
12月4日,イランの議員団が訪墨,ミード外相と会談を行った。なお,本年は墨イラン外交関係設立50周年にあたる。
2.ミード外相のエクアドル訪問
12月4~5日,ミード外相は,南米諸国連合(UNASUR)新事務局の開所式に特別招待国として出席するため,エクアドルのキトを訪問。
3. 第24回イベロアメリカ・サミット
12月7~9日,第24回イベロアメリカ・サミットが,ベラクルスで開催され,開催国メキシコのペニャ・ニエト大統領を含む,全加盟国22カ国中,16カ国の首脳が出席した。
(1)フェリペ6世・スペイン国王が,国王として初めて出席したほか,グリーンスパン・イベロアメリカ事務局長にとっても就任後初。
(2)中南米共通の課題となっている持続可能な発展,貧困削減及び格差是正に重要な役割を果たす「教育,イノベーション,文化」というテーマについて,首脳間で各国の経験の共有がなされた。
(3)12月7日に開催されたグリーンスパン事務局長及びミード外相を含むトロイカ外相主催オブザーバー国との会合においては,山田大使が日本政府代表として出席。同事務局長から,防災,教育,企業分野における日本との協力に関心が表明された。
(4)12月9日,本サミットの成果文書として,ベラクルス宣言が全会一致で採択された。同概要は以下のとおり。
(ア)SEGIB(イベロアメリカ事務局)に対して,知識(Conocimiento),文化(Cultural),社会的団結(Cohesion Social)に関するイベロアメリカ(協力)圏(Espacio Iberoamericano)の強化を指示。
(イ)SEGIB及びOEI(教育・科学及び文化のためのイベロアメリカ諸国機構)に対して,頭脳流出を防止し,その負の影響を軽減しつつ,学生,教授及び研究者の流動性を高めることを可能とする「学術分野の流動性のための同盟(Alianza para la Movilidad Academica)」促進を委任。具体的には,SEGIB及びOEIが,各国の高等教育政策を所管する当局,CUIB(イベロアメリカ大学評議会)等と連携し,高等教育分野の流動性を確保する制度の創設に向けた戦略を立案する。
(ウ)教職員養成課程の質の向上を目的としたPaulo Freireプロジェクトの始動を承認。また,修士・博士課程の流動性にかかるPablo Nerudaプログラム等の既存のプログラム強化や,研究者の流動性向上のためのイベロアメリカ・ポータル等の新たなスキーム策定を通じて,イベロアメリカ地域の研究者の流動性を促進。
(エ)SEGIBに対して,イベロアメリカ圏において,①若者の職業技能訓練(capacitacion laboral)の機会拡大のためのイベロアメリカ企業における短期研修の促進,②幹部,従業員の企業間の流動性,③高度人材(profesionales titulados)及び研究者の流動性,④投資家・企業家の流動性につながるイベロアメリカ枠組み協定(Convenio-Marco Iberoamericano)の実現可能性の分析を指示。
(オ)SEGIB及びOEIに対して,他分野の専門性が要求される複雑な問題解決のための,学際的人材育成プログラムの促進を委任。
(カ)旧識字率向上プログラム(2007-2015)に,ジェンダーや社会的少数派の視点を取り入れた,識字率向上・生涯学習にかかるイベロアメリカ新計画(2015-2021)を支援。
(キ)OEIに対して,教育政策のモニタリング,グッドプラクティスの特定及び格差是正を目的として,イベロアメリカ地域における教育システムに関する指標を提供。
(ク)8歳未満の子供の統合的発育を目的とした早期教育の強化。SEGIBに対して,OEIやその他の機関と連携して,グッドプラクティスの共有を促進するための計画策定を委任。
(ケ)若年層との対話を促進。また,若年層への投資を改善するため,情報,グッドプラクティス等の共有媒体として,イベロアメリカ・ユース・プログラムの実施,また,若年層の知識プラットフォームを承認し,支援。さらに,教育,文化,スポーツ分野において,イベロアメリカ地域の若年層の交流,参加,統合を促進するための,OIJ(若年世代のためのイベロアメリカ機構)のイニシアティブを支援。
(コ)SEGIB及びOEIに対して,各国政府等と協力しつつ,イベロアメリカのためのデジタル文化アジェンダを始動するよう指示。同アジェンダは,イベロアメリカ文化圏の強化及び世界的情報網へのイベロアメリカ地域の統合に貢献することが期待される。
(サ)SEGIBに対して,加盟国と連携しつつ,文化・クリエイティブ産業強化のための計画策定・実施を委任。また,本セクターにおけるイベロアメリカ企業間の協力,共同プロジェクトへの参加等を促進。
(シ)SEGIBに対して,加盟国と連携しつつ,各国の文化遺産の特定,保護のための計画を策定するよう委任。
(ス)SEGIB及びCOMJIB(イベロアメリカ諸国司法担当大臣会合機構)に対し,既に存在する商業紛争にかかる地域の紛争解決手続を補完するオプションとして,特に中小企業の必要性に重点を置いた,イベロアメリカ仲裁センターを設立する提案のフォローアップを行うよう委任。
(セ)イベロアメリカ各機関,特にSEGIBに対して,中南米の先住民族の開発のための基金の支援及び強化を指示。また,アフリカ系住民とその文化への支援を強化。
(ソ)持続的な経済・社会発展を促進するため,電子政府(gobierno digital)の分野における地域協力を緊密化。
(タ)SEGIB及びOPS(汎アメリカ保健機構)に対して,技術革新,情報システム等を念頭に置いた専門家ネットワーク,及び保健向上,疾病予防等を促進のための情報・知識の交換が可能なウェブ上のプラットフォームの設置を委任。
(チ)SEGIBに対して,CODEIB(イベロアメリカ機関戦略検討委員会)の調整役として,ジェンダーの視点をイベロアメリカ・システムに導入し,協力プログラム及び評価メカニズムを含む戦略を策定するよう委任。
(ツ)SEGIBに,イベロアメリカにおける労働(環境)検査に関するグッドプラクティス・バンクの始動を支援するよう指示。
(テ)科学技術分野におけるイベロアメリカ・アジェンダの策定を進める。
(ト)イベロアメリカ・システムに対し,あらゆる差別に対する対処策を強化するよう指示。
(5)その他成果文書
今次サミットにおいては,ベラクルス宣言とあわせて,以下の成果文書が全会一致で採択された。なお,これらの成果文書は,墨外務省HP,(http://saladeprensa.sre.gob.mx/index.php/es/comunicados/5363-declaracion-de-veracruz-)より閲覧可能。
イベロアメリカ・サミット行動計画
イベロアメリカ会議に関するベラクルス決議
イベロアメリカの協力優先分野
米国のキューバに対する経済・通商・金融封鎖の終了の必要性にかかる特別コミュニケ
あらゆる形態のテロとの闘いを支持する特別コミュニケ
人権理事会の新メンバー(歓迎)に関する特別コミュニケ
児童・青年の移民に関する特別コミュニケ
COP20への支持に関する特別コミュニケ
イベロアメリカ諸国薬剤担当当局間の協力に関する特別コミュニケ
内陸国の途上国であるパラグアイの困難克服に向けた効果的メカニズム創設の必要性に関する特別コミュニケ
マルビーナス諸島問題に関する特別コミュニケ
世界の麻薬問題に関する特別コミュニケ
アルゼンチン提出のソブリン債務リスケに関する特別コミュニケ
コロンビア政府とFARCの和平対話に関する特別コミュニケ
4. ペニャ・ニエト大統領のペルー訪問
12月10日,ペニャ・ニエト大統領は,COP20に出席するため,ペルー,リマを訪問。太平洋同盟各国首相とともに,気候変動に関する太平洋同盟首脳宣言を発表,太平洋同盟が気候変動問題に責任をもって対処することで一致した。
5.ミード外相のイタリア及びバチカン訪問
12月12日,ミード外相がイタリア及びバチカンを訪問。イタリアでは,ジェンティローニ外相と会談し,両国の経済関係の一層の強化,及び貿易投資促進にかかるプログラムの強化に合意。バチカンでは,パロリン国務長官(首相)と会談,同伴者のいない児童移民の問題等について意見交換を行った。
6.ジョンソン米国土安全保障長官の訪墨
12月16日,ジョンソン米国土安全保障長官が訪墨。ペニャ・ニエト大統領を表敬し,オバマ大統領による移民問題に関する行政的措置等の問題について意見交換を行ったほか,ミード外相,オソリオ内務相と会談を行った。
7.李金早(Li Jinzao)中国国家観光局長の訪墨
12月19日~20日,11月のペニャ・ニエト大統領訪中の際の両首脳合意のフォローアップとして,李金早・中国国家観光局長が訪墨し,ホアキン観光省観光イノベーション・開発担当次官(ルイス=マシュー観光大臣代理として出席),その他墨観光省,墨観光促進協議会(CPTM)幹部等とのハイレベル会合において,「中国における墨観光年」である2015年に向けた課題設定等に関する議論を行ったほか,墨中両国の旅行会社による合意文書の署名式に出席した。
ハイレベル会合において,李局長は,両国間の観光客数を増加させるための取組として,両国間での協力強化,観光促進キャンペーンの実施,ビザ発給手続の簡素化,直行便の頻度引き上げ,メキシコの空港,観光施設,宿泊施設等における中国語表記の普及,中国における同様の施設における西語表記の普及等を提案した。これに対してホアキン次官は,メキシコにとって観光産業は開発を促進している優先的分野の一つであり,中国はアジアにおける主要な市場の一つである旨述べた。 |