メキシコ政治情勢(2月)
<概要>
内政では,2月1日に通常国会が開会した。また,シナロア・カルテルの首領であるホアキン・グスマンが逮捕された。
外交では,太平洋同盟首脳会合がコロンビアで開催され,カルタヘナ宣言及び追加議定書に対する署名が行われた。また,19日にはペニャ・ニエト政権にとって初となる北米首脳会合がトルーカにおいて開催された。更に,2月13~14日にかけて,第2回核兵器の人道的影響に関する国際会議がナジャリットで開催された。
この他,我が国との関係では2月21日にホンダ新工場,同27日にマツダ新工場開所式が開催され,いずれもペニャ・ニエト大統領はじめ政権幹部が出席した。
<内政>
1 ミチョアカン州における治安情勢
4日,ペニャ・ニエト大統領は「ミチョアカンのために,ともに達成しよう」イベントに出席のためミチョアカン州モレリア市を訪問。同イベントにおいて,5つの柱に従った行動計画「ミチョアカン計画」を発表するとともに,同計画に対して本年中だけで455億ペソを投じる旨述べた。同イベントには,オソリオ内相,ソベロン海軍相,シエンフエゴス国防相,ムリージョ連邦検察庁(PGR)長官,カスティージョ「ミチョアカンの治安及び統合開発のための委員会」コミッショナー,ビデガライ大蔵公債相,ミード外相,ロブレス社会開発相他,州からはバジェホ知事他が出席した。
ペニャ・ニエト大統領は,ミチョアカン州の治安安定及び社会開発政策のうち,第1段階に当たる地域安定化の達成で大きな前進を見たとしつつ,7日より,第2段階にあたる総合的開発のための素地の再建に着手する,これを達成するために,下記のとおり5つの柱にしたがった250以上の行動に取り組むと述べた。
(1)家計と雇用
経済成長は,ミチョアカンの住民,特に若者が必要とする労働機会の創出及び開発に最良の道であるとして,中小企業の創設,貸付け,職業訓練及び生産支援を通じた高付加価値サプライチェーンへの組み込み,また民間企業からの経済活動の縮小に対する懸念を受け,投資を増加させるため,開発銀行に対し120億ペソの貸付け及び保証を指示。
(2)繁栄のための教育と文化
すべての教育課程で計35万件,計16億ペソに上る奨学金の支給を行う。また,健全な社会的共存を強化しミチョアカン州を一大文化センター,メキシコの歴史的遺産のモデルとして復活させるべく文化・スポーツイベントを促進。
(3)近代的なインフラと尊厳のある住宅
ミチョアカンの生産及び商業のポテンシャルの起爆剤として,インフラ,港湾,エネルギーの近代化を図る。住宅供給公社(INFONAVIT)及び公務員向け住宅基金(FOVISSSTE)に対し,2万4,000世帯,計34億ペソの貸付を行うよう指示。
(4)保健と社会保障
保健サービスの質向上のために保健インフラの近代化を図る。
(5)社会開発と持続可能性
州内30市を飢餓撲滅キャンペーンの対象に加え,食堂(公設炊き出し場)400か所を設置する。
2 国家刑事訴訟法可決
5日,連邦下院において,賛成407票,反対28票,棄権5票で,国家刑事訴訟法が可決された。同法は既に昨年12月5日に連邦上院で可決されており,今般の可決を受け,同法は官報掲載のため連邦政府に送られた。また,本件は2008年の司法改革(憲法改正)を受けて制定されたものであるが,今般2016年6月までに発効しなければならない旨が規定された。
【主なポイント】
(1)同法は検察に対し,必要に応じて捜査の過程で私的通信を盗聴する権限を付与する。
(2)司法手続は書面,音声,映像あるいは複製可能な媒体によって記録することができる。
(3)同法は公開,反論の機会の保障,集中審理,継続性及び即時性の原則を適用するものであり,また法の下の平等,当事者双方の平等性,予審と適切な手続,無罪の推定,二重起訴禁止の原則を保障するもの。
(4)刑事訴訟に関係する被害者,証人及び被告の人権を侵害しないよう監視する監督判事(juez de control)を置く。
(5)裁判は当事者だけでなく,一般者も傍聴することができる。ただし,裁判の様子を録音,録画することはできない。事案によって司法機関の判断により傍聴者を入れない形での裁判を行うことができる。
3.人事
5日、エネルギー省はフランシスコ・ロハス電力公社(CFE)総裁の辞任を発表するとともに、エネルギー省炭化水素担当次官であったエンリケ・オチョア・レサ氏がCFE新総裁に任命され、また同省電力担当次官であったルルデス・メルガル・パラシオス氏を炭化水素担当次官に任命した旨発表した。なお,電力担当次官の後任にはセサル・エミリアノ・エルナンデス・オチョア同省法務部長が就任した。
4.IFAI
7日,昨年11月26日に可決された,連邦情報公開庁(IFAI)改革のための憲法改正が公布された。同改正により,IFAIは情報公開に関する最終決定権を有する組織となった。なお,大統領府及び墨中央銀行については,IFAIの決定に対して,国家安全保障にかかわる事項に限り最高裁判所への異議申し立てできることとなった。しかし,これらの機関を除いて公的資金を受給,行使するすべての個人及び法人には,資金の情報公開が義務づけられることになる。すなわち,連邦・地方の三権機関,独立機関,政党,労働組合,公的資金により運営されている基金,公的基金は,IFAIの決定により情報公開の義務を負うこととなった。
5 マリファナ規制
13日,PRDはメキシコ市議会にマリファナ規制法案を提出した。同法案は,規制の下に,小型商店におけるマリファナの販売を解禁することを目的としたもの。
6.治安情勢
(1)シナロア・カルテル首領逮捕
22日,メキシコ海軍は,シナロア州マサトラン市内のマンションにおいて,米国当局,連邦警察,連邦検察庁及び国家安全調査局(CISEN)の協力により,犯罪組織シナロア・カルテルの首領であるホアキン・グスマン・ロエラ,通称「エル・チャポ」を逮捕した旨発表した。同時に,「エル・チャポ」のほか13名が逮捕され,さらに小銃97丁,グレネードランチャー37丁,手榴弾飛翔装置2台,ロケットランチャー1台,車両43台(内19台が防弾車)が押収され,家16軒,農場4ヶ所が差し押さえられた。同人は,メキシコ州アルモヤ・デ・フアレス市所在のアルティプラノ刑務所に移送された。
なお,「エル・チャポ」は,20年にわたってメキシコの薬物流通を牛耳ってきたシナロア・カルテルの首領である。1993年にグアテマラで逮捕されたが,2001年に最も警備が厳重とされていたハリスコ州プエンテ・グランデ刑務所から脱獄していた。
他方,「エル・チャポ」については,同カルテルの象徴的な存在であるものの,その実質的なオペレーションは,イスマエル・サンバダ,通称「エル・マジョ」,及びホセ・エスパラゴサ,通称「エル・アスール」が行っていたところ,本件逮捕は組織内分裂,内部抗争激化等の問題にはつながらないとの報道もある。
(2)ETAメンバー逮捕
16日,メキシコ当局は,スペイン国家警察及び当地国家安全調査局(CISEN)の協力により,スペイン国家警察が20年以上指名手配していたETAメンバー2名の身柄をプエルト・バジャルタにおいて拘束した旨発表した。スペイン内務省によると両名は90年代初めにETAの特殊部隊「Ekaitz」のメンバーとして18件の殺人に関与しており,20年以上にわたり国外逃亡していた由。両名は不法滞在の容疑で同16日夜にスペインへ移送された。
<外交>
1 クレッグ英副首相訪墨
5日,クレッグ英副首相が,約40名のエネルギー,教育,インフラ,金融,自動車等のセクター代表とともにメキシコを訪問,ペニャ・ニエト大統領と会談を行い,2015年の「英国におけるメキシコ年」と「メキシコにおける英国年」の同時開催,貿易額の拡大に向けた両国のコミット,投資機会のほか,文化,教育,科学技術の分野での協力につき話し合いを行った。
2 ヨルダン国王訪墨
5~7日にかけて,ヨルダンのアブドッラー2世イブン・アル・フセイン国王が訪墨した。6日,ペニャ・ニエト大統領は同国王と会談し,両者は墨ヨルダン間のFTA交渉の範囲につき合意したほか,概要以下のとおり共同声明を発表した。
- アブドッラー2世イブン・アル・フセイン国王は,ペニャ・ニエト大統領の招待を踏まえ,政治対話および両国の友好協力関係を進めるべく,5~7日にかけてメキシコを公式訪問した。
- 両首脳は二国間のテーマや国際情勢につき意見交換を行い,40年間にわたる両国政治経済協力関係を強化することに合意した。また,建設,インフラ,アグロインダストリー,加工食品,自動車,情報通信技術,観光,医療,薬品,エネルギー,鉱業,石油化学の分野において両国企業家の交流,及び貿易を拡大していく必要性に合意した。
- 両国間の市民交流の拡大を歓迎し,学術交流を一層促進する必要性に合意した。
- 両国は,今次訪問に際して,①教育・文化協力合意,②技術協力枠組合意,③両国観光当局間覚書,④両国自由貿易交渉コンセプトペーパー(Nota conceptual para la Negociacion del Tratado de Libre Comercio)が署名されたことを歓迎した。
- 両首脳は,国連機関におけるそれぞれの役割を歓迎,中東平和情勢,パレスチナ問題,シリア情勢につき意見交換を行った。
3 ミード外相のカリブ諸国訪問
6~7日にかけて,ミード外相はドミニカ国,セントルシア,セントビンセント・グレナディーンを実務訪問した。同訪問は4月末にユカタン州メリダで開催予定の墨カリブ共同体(CARICOM)首脳会合及び墨カリブ諸国連合(ACS)首脳会合の準備を目的とするもの。
4 太平洋同盟首脳会合
10日、ペニャ・ニエト大統領はコロンビア・カルタヘナで開催された太平洋同盟首脳会合に出席し,カルタヘナ宣言及び枠組条約追加議定書に署名した。同追加議定書により,92%の品目の関税撤廃,8%の品目の関税の段階的撤廃が合意された。ペニャ・ニエト大統領は,記者会見において,今回の追加議定書署名により、メンバー国間の統合が一層進み、ラ米地域全体の統合にも寄与するだろう,太平洋同盟は、メキシコにとってNAFTA以来の革新的な地域統合メカニズムであり、人・モノ・サービスの流通性を高め、更なる雇用を生むだろう等述べた。
カルタヘナ宣言概要は以下のとおり。
- 92%の品目の関税の撤廃、8%の品目の関税の段階的撤廃
- 関税手続きの簡素化、不当な技術的障害の撤廃
- 政府調達への参入を容易にし、金融サービスの規制を近代化する
- メンバー国国民に対する領事サービスの提供
- 大使館、領事館、貿易振興事務所の共有
- 大学及び大学院の学生258名に対する奨学金
- 出入国管理強化のための情報共有
- 「太平洋同盟旅行者ガイド」の発行
5 第2回核兵器の人道的影響に関する国際会議
2月13~14日,メキシコのナジャリットにおいて,核兵器の人道的影響に関する第2回国際会議が同国政府主催により開催された。本会議は,核兵器の使用がもたらす様々な影響について科学的・技術的見地から議論を行う専門家レベルの会議として開催され,2013年3月にノルウェー政府が主催した第1回会議のフォローアップとの位置付け。146の国,国連及び赤十字国際委員会等国際機関及びNGO等が参加した。我が国からは,外務省関係者のほか,朝長日本赤十字社長崎原爆病院長,藤森日本原水爆被害者団体協議会事務局次長,小栁氏(長崎・高校1年生)他が政府代表団として出席した。5核兵器国(米・英・仏・中・露)は前回に続き参加しなかった。また,本会議の一環として被爆証言が行われ,山下氏(メキシコ),サーロー氏(カナダ),田中日本原水爆被害者団体協議会事務局長,藤森同事務局次長及び小栁氏が被爆証言を行った。
6 ベネズエラ情勢
16日,メキシコ外務省はベネズエラでデモ隊との衝突で発生した暴力事件に関し,暴力を非難しつつ,国内制度や国際法を遵守して,対話による解決を目指すべき旨のプレスリリースを発表した。
7 ハーパー加首相の訪墨
18日、ペニャ・ニエト大統領は,訪墨中のハーパー加首相と会談を行い,概要以下のとおり共同声明を発表した。
共同声明概要
(1)TPP、太平洋同盟を含む地域・地球規模課題での協力に対する強い意向を表明。経済を中心に協力を拡大することを合意。
(2)第3次二国間共同行動計画を歓迎。
(3)エネルギー、航空、自動車、鉱業、金融分野での二国間投資促進を合意。
(4)航空協定、BANCOMEXT・カナダ輸出開発公社(EDC)間の協力、金融機関協力に関する合意文書の署名を歓迎。
(5)高等教育・技術革新分野での協力の重要性を強調。メキシコ公共教育省とカナダ政府によるプログラムMitacs Global Linkの協力を支持。
(6)安全保障、司法、防衛分野での協力の意向を確認。防衛協力に関する文書の署名を支持。
(7)ポスト2015年開発アジェンダに関する協力、領事分野での協力、特に米州における国際場裡での協力を確認。
(8)ハーパー首相はペニャ・ニエト大統領の本年の訪加を招待。
8 北米首脳会合
19日、メキシコ州トルーカ市において北米首脳会合が開催され,ペニャ・ニエト大統領、オバマ米大統領、ハーパー加首相が参加し,概要以下のとおりの共同声明を採択した。
(共同声明)
各国首脳は、北米を最も競争力がありダイナミックな地域とする意思を確認し、以下の点を含む共同声明を採択した。
(1)共有された包摂的繁栄
ア)北米地域の競争力強化に向けた行動計画を各国経済担当大臣級で策定
イ)国際貿易分野での協力、TPPの早期妥結を通じた国際貿易の新たな基準の確立、アジア太平洋地域の自由貿易推進
ウ)貿易・投資の共同プロモーション
エ)北米物流計画を通じた、物流に関する共同規格の導入
オ)関税制度の簡素化、統一
カ)域内の人の移動に関する各国制度間の相互認証
キ)国境管理に関する三カ国間での対話の強化
ク)国内規制に関する三カ国間での対話の強化
(2)新たな可能性の開拓
ア)北米地域の労働市場に関する考察の推進
イ)研究所、大学間での三カ国共同研究の推進
エ)学術交流、留学生の促進
オ)エネルギー担当大臣級会合の開催
カ)女性の社会進出、経済力推進のための協力
キ)モナルカ蝶保護のための共同研究グループの設立
(3)治安、グローバル課題
ア)共有の責任、相互信頼と尊重に基づく、司法機関間での協力
イ)金融機関に対する規制、三カ国の金融システム間のコネクティビティに関する対話
ウ)人身売買に関する協力
エ)インフルエンザ・伝染病対策に関する協力
オ)対中米・カリブ協力
カ)気候変動分野での協力
キ)ポスト2015年開発アジェンダでの協力
ク)Open Government Partnership(Alianza para el Gobierno Abierto)における協力
ケ)民主主義、人権、国際法の尊重の推進
(4)フォローアップ
ア)定期的な対話の継続
イ)市民、学術関係者、企業関係者等の参加する新たなメカニズムの創設
ウ)次回北米首脳会合は2015年にカナダで開催する
9 ミード外相のエクアドル訪問
26日、ミード外相はエクアドルを訪問し,グラス副大統領表敬を行ったほか,パティーニョ外相との会談を行った。外相会談の概要は以下のとおり。
(1)二国間相互利益に関する協議メカニズムの第4回会合として、ミード外相はパティーニョ・エクアドル外相と会談した。
(2)二国間の法的枠組みの強化を通じた二国間関係活性化の意向を確認し、ハイレベル対話の強化、通商・投資分野での二国間の枠組みを再検討することを合意した。また、通商、教育、治安、運輸、文化財保護、スポーツに関する各種二国間協定の交渉妥結の重要性につき一致した。また、CELACにおいて協力を強化することを合意した。
(3)ミード外相は、二国間の経済関係強化のため協力していくことの重要性を強調。
(4)教育、文化、文化遺産、科学技術に関する合同委員会を近く開催することを合意した。
(5)(会談の冒頭においてパティーニョ外相より、今次外相会談は3月上旬のペニャ・ニエト大統領のエクアドル訪問に向けた準備である旨の発言あり)
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