メキシコ政治情勢(2月)

 
 

 

メキシコ政治情勢(2月)

 

 

〈概要〉
【内政】
・8日,ペニャ・ニエト大統領は大統領官邸において内閣改造を発表した。
・17日,ビデガライ大蔵公債相が,2016年度予算における1,323億ペソ削減案を発表した。
・29日,ヌニョ教育相は,2015年11月より順次開始されていた2015-16年度の現職教職員の教務継続に係る能力評価試験の結果を発表した。


【外交】
・12日~17日,ローマ法王フランシスコがメキシコを公式訪問した。
・21日~22日,ペニャ・ニエト大統領がテキサス州ヒューストンを訪問した。
・25日,バイデン米副大統領が訪墨した。
・25日~26日,エルナンデス・ホンジュラス大統領が国賓として訪墨した。
・29日,モラレス・グアテマラ外相が訪墨した。

 

〈内政〉
1.内閣改造
8日,ペニャ・ニエト大統領は大統領官邸において内閣改造を発表した。また,右発表に続き直ちに宣誓式が開催され,正式に新閣僚が就任した。
(1)内閣改造人事
(ア)メキシコ石油公社(PEMEX)総裁(閣僚級)
ホセ・アントニオ・ゴンサレス・アナヤ前社会保険庁(IMSS)長官
(イ)保健大臣
ホセ・ナロ・ロブレス前国立自治大学学長
(ウ)社会保険庁長官
マイケル・アリオラ・ペニャロサ前連邦衛生リスク保護委員会委員長
(2)ペニャ・ニエト大統領は,任命に際し,概要以下のとおり述べた。
(ア)ゴンサレスPEMEX総裁には,2つの課題に取り組んでもらいたい。第1に,環境保全に努めつつ,エネルギー改革によってもたらされた好機を最大限に活かすべく,PEMEX社の変革を加速化する。第2に,国際石油価格の低下を踏まえつつ,PEMEX社の財務・生産体質の強化を図る。これら観点から,コスト構造を見直し,支出計画を再検討し,投資プロセスを強化する必要がある。
(イ)ナロ保健大臣には,保健カバレージの拡大に取り組むこと,保健サービスの質的改善に取り組むこと,連邦と州レベルの保健組織の連携強化を図ること等を指示した。

 

2.2016年度予算の削減
17日,ビデガライ大蔵公債相が,2016年度予算における1,323億ペソ削減案を発表した。全体の4分の3強となる1,000億ペソがPEMEX予算からの削減である。ビデガライ大蔵公債相は今回の予算削減の要因として,ペソ安,原油価格下落による補填は昨秋実施した同価格付保で保証されるものの来年分はまだ付保されていないこと,PEMEXが新たな原油価格状況に対処できるよう更なる構造改革を必要としていることの3点を挙げている。

 

3.現職教職員の教務継続に係る能力評価試験の結果発表
(1)29日,ヌニョ教育相は,2015年11月より順次開始されていた2015-16年度の現職教職員の教務継続に係る能力評価試験の結果を発表した,なお,同試験はペニャ・ニエト政権による教育改革後,初めて実施されたものである。
(2)対象教職員150,086名のうち,134,140名が能力評価試験を受験。受験率は89.5%。
(3)オアハカ州,チアパス州,ゲレロ州,ミチョアカン州の4州では,教育改革に反対する教職員組合の反対活動により,12,586名の教職員が未受験の状態。公共教育省は,これら教職員に対して,本年上半期中に試験を実施予定。
(4)全体受験者の15.3%が不可,36.2%が可,40.5%が良,8.0%が優又は最良の結果であった。
(5)試験が実施されていない4州を除くメキシコ全土28州にて,試験を受験しなかった3,360名(対象教職員の2.2%)の教職員が3月1日付けで解雇された。
(6)不可の結果であった教職員は教職を失うのではなく,教職員能力向上のための講座を受講後,12ヶ月以内に再試験を受けなければならない。
(7)可の結果であった教職員は,教職員能力向上のための講座を継続的に受講し,4年後に再度評価試験を受ける。
(8)良,優,最良の結果であった教職員には,それぞれの成績に応じ,昇給,一時ボーナス等がインセンティブとして支払われる。

 

〈外交〉
1.ローマ法王フランシスコのメキシコ訪問
(1)全体概要
(ア)12日~17日,ペニャ・ニエト大統領からの招待に応じる形で,ローマ法王フランシスコがメキシコを公式訪問し,メキシコシティ,メキシコ州,チアパス州,ミチョアカン州,チワワ州にて公式行事及び宗教行事に参加した。
(イ)墨外務省は,12日,法王のメキシコ着前に発出したプレスリリースにて,バチカンは国際的課題における重要な役割を担っており,今般の法王のメキシコ訪問は,墨政府が取り組む環境保全,平和と安全保障,移民の保護,包摂的成長,貧困撲滅,核軍縮,人権等の幅広いテーマに係る対話を推進する機会となる旨説明した。
(ウ)法王は,各訪問先で実施したミサにおいて,貧困,汚職,犯罪組織,麻薬,強制失踪,移民問題,先住民問題等,メキシコが抱える社会問題に関し言及するメッセージを送り,これら問題にメキシコ社会が立ち向かっていくよう呼びかけた。
(2)訪問の様子及び意義
(ア)映像メディアは法王のメキシコ訪問中,連日にわたり終日ライブ放送を実施した。他方,当地新聞等のメディア報道においては,憲法にて政教分離を謳っているにも関わらず,カトリックの最高指導者の歓迎式典を国立宮殿で行ったことを問題視する意見や,法王のメキシコ訪問に割かれたであろう多額の国家予算が無駄遣いである等の批判があった。この他、2014年9月26日に発生したアヨチィナパ教員養成学校襲撃事件(注:同教員養成学校生徒43名が,犯罪組織の浸透した地方警察によって殺害されたとみられている事件)の被害者遺族との面談が実現しなかったことを批判的に報じる報道もあったが、法王はバチカンへの帰路の機中で記者会見を開き,多くの犯罪被害者遺族グループからの面談の嘆願があった中,これらグループの間には対立が見られるところ,特定のグループと面談するのではなく,犯罪による全ての被害者遺族グループを17日のフアレス市におけるミサに招待した旨述べた。
(イ)18日付当地「エクセルシオール」紙に掲載された世論調査によると,回答者の67%が,今般の法王の訪問はメキシコにとって重要なものであったと回答している。また,同日付当地「レフォルマ」紙の世論調査によると,今般の法王の訪問により回答者の58%はカトリック教会をより身近なものと感じるようになると回答している。
(ウ)法王は今般の訪問において,貧困,汚職,犯罪組織,麻薬,強制失踪,移民問題,先住民問題等,メキシコが抱える社会問題に関し言及するメッセージを送り,これら問題にメキシコ社会が立ち向かっていくよう呼びかけた。「レフォルマ」紙の世論調査では,66%が法王のメッセージには言及すべきメキシコの深刻な問題が含まれていたと評価している。また,同調査では,法王の訪問により幾つかの項目において,今後メキシコの現状が改善されることが期待できるとの回答がなされ,今般の法王の訪問を契機とする前向きな変化への国民の期待が示される結果となった。
(法王の訪問により改善が期待される項目(上位5項目):子供への扱い:64%,メキシコのカトリック教会の現状:62%,若者への機会提供:55%,先住民への扱い:49%,メキシコ国内における移民への扱い:44%)
(エ)
17日,バチカンへの帰路の機中における記者会見で,ドナルド・トランプ米共和党大統領候補について問われた法王は,移民問題に関し米墨国境に壁を築くことを主張しているトランプ候補に関し,「橋を架けるのではなく壁を築くことを考える者はキリスト教徒ではない」と述べた。これに対し,トランプ候補はすぐさま,宗教指導者が他人の信仰を疑問視することは恥ずべきことと応酬した。

 

2.ペニャ・ニエト大統領のテキサス州訪問
21日~22日,ペニャ・ニエト大統領がテキサス州ヒューストンを訪問(ルイス=マシュー外相同行)した。
(1)グレッグ・アボット・テキサス州知事との会談
22日,テキサス州ヒューストンを訪問したペニャ・ニエト大統領は,グレッグ・アボット(Greg Abbott)テキサス州知事と会談。双方はメキシコ-テキサス州間国境の統合に関し,墨タマウリパス州マタモロス市-テキサス州ブラウンズビル市間及び墨チワワ州フアレス市(グアダルーペ地区)-テキサス州エル・パソ市(トルニージョ地区)間をつなぐ横断鉄道プロジェクト等に関し,意見交換を実施した。また,両者は,メキシコのエネルギーセクターの見通し及びテキサス州の企業による同セクターへの投資の可能性に関し強調した。
(2)IHS CERAWeekの開会式
22日,ペニャ・ニエト大統領はエネルギー業界関係者の会議であるIHS CERAWeekの開会式に出席。ダニエル・ヤーギン(Daniel Yergin)CERA(Cambridge Energy Research Associates)会長より,IHS Ceraweek Global Energy Lifetime Achievement Awardがペニャ・ニエト大統領に授与された(同賞が国家元首に授与されるのは今回が初)。
ペニャ・ニエト大統領は開会式において,メキシコのエネルギー改革の説明を行うと同時に,エネルギー改革に係る3つの施策を以下(ア)~(ウ)の通り発表した。
(ア)2016年第2四半期,連邦電力庁(CFE)が,民間企業参加による初の送電線の
入札を公示する。
(イ)同年12月初頭,ラウンド・ワン第4段階,メキシコ湾大水深の鉱区入札を実施する。
(ウ)同年4月1日より,ガソリン及びディーゼルの輸入が全ての企業に解禁される。

 

3.バイデン米副大統領の訪墨
25日,バイデン米副大統領が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領と会談した他,ルイス=マシュー外相らと「ハイレベル経済対話」(DEAN)第3回会合に出席した。
(1)ペニャ・ニエト大統領との会談
(ア)ペニャ・ニエト大統領発言概要
(a)墨米二国間の航空サービスに係る協定を,批准のために連邦上院議会に送付した。本協定により,二国間のフライト数,新規路線が増加され,両国社会はより近い存在となる。
(b)墨米二国間の貨物に対する共同事前検査プログラムを開始しているが,このプログラムにより,両国を行き交う貨物の輸送に係るコスト及び時間を削減することができる。
(c)両国は,未来の経済における基盤セクターとなる通信及びエネルギーの分野で,より強い協力を行っていく。
(d)両国政府は学術交流促進のため「高等教育・研究・イノベーションに関する二国間フォーラム(FOBESII)」を推進することで合意しているが,FOBESIIの枠組みで,2015年は3万5千以上のメキシコ人学生が米国に留学した。
(e)両国は,相互に作用する統合された経済関係を有する。また,より多くの機会を創出するポテンシャル及び優位性を発揮する二国間関係を,将来に向け構築していくビジョンを共有している。このような両国の関係を閉鎖し,両国の間に壁を築こうと主張する者に対し,そのような試みは孤立を招くだけである旨警告する。
(イ)バイデン米副大統領発言概要
(a)オバマ大統領にとって,また米国にとって,メキシコとの関係は最も重要なものである。世界で何らかの事態が生じ,その危機が米国の対応を強く求めるものであろうとも,米国にとってのメキシコとの関係は,政治的,経済的,戦略的に最重要視されるものである。
(b)米国大統領選挙キャンペーンにおける一部候補者によるメキシコ人に関する有害かつ的外れな言説に対し,自分(バイデン副大統領)は謝罪することをほぼ責務のように感じている。(ペニャ・ニエト大統領に対し)このような一部候補の言説は,米国国民の考えを代表するものではないことを知って頂きたい。
(c)米墨間の貿易は日額15億米ドルに上り,600万人の米国国民がメキシコとの貿易に関する仕事に従事している。米国からメキシコへの輸出額はブラジル,ロシア,インド,中国の4ヶ国への輸出総額を上回る。また,メキシコの輸出の80%は米国向けである。
(d)ペニャ・ニエト大統領とオバマ大統領の最初の会談から,両国は国境地域における適法な通商の保証,エネルギー分野における協力の強化等,重要な成果を挙げてきた。エネルギー分野には,ガス,ガソリンだけではなく,地熱,太陽光,風力,バイオマスにおける協力も含まれる。国境地帯における風力・太陽光エネルギー施設の建設プロジェクトへの投資は10億米ドルに達するものとなっている。
(2)「ハイレベル経済対話」(DEAN)第3回会合
25日,「ハイレベル経済対話」(DEAN)第3回会合が開催され,メキシコ側からはルイス=マシュー外相,ビデガライ大蔵公債相,グアハルド経済相,米国側からはバイデン副大統領,プリツカー商務長官,モニーツ・エネルギー長官が出席した。同会合において,双方は2015年の成果の評価を行うと同時に,2016年の活動計画を設定した。

 

4.エルナンデス・ホンジュラス大統領の訪墨
25日~26日,エルナンデス・ホンジュラス大統領が国賓として訪墨した。
(1)エルナンデス・ホンジュラス大統領の日程(全て26日)
(ア)英雄少年の碑への献花
(イ)国立宮殿における歓迎式典
(ウ)首脳会談
(エ)合意文書の署名式
(オ)共同記者会見
(カ)ペニャ・ニエト大統領主催午餐会
(2)メキシコ側の宣言により,メキシコとホンジュラス両国は,移民,環境,ジェンダーの平等に係る新しいテーマにおける二国間協力を行っていく旨確認。
(3)二国間における著作権に関する協定に署名。
(4)ツーリズム,とりわけ豪華旅行,スポーツツーリズム,アドベンチャーツーリズム,ネイチャーツーリズムの分野での協力を強化することで合意。
(5)ホンジュラス政府は,メキシコとの税関,貿易,天然ガスの輸送に係る協定の批准に向けて取り組んでいる。

 

5.ルイス=マシュー外相への米国WP紙のインタビュー記事
28日付当地各紙が,同27日付ワシントン・ポスト紙デジタル版に掲載された,トランプ米共和党大統領候補に関するルイス=マシュー墨外相へのインタビュー記事の内容を報じた。
(1)ルイス=マシュー墨外相へのワシントン・ポスト紙によるインタビュー概要
(ア)トランプ(共和党大統領候補)氏の政治方針,言説は無知かつ人種差別的である。また,同氏の米墨国境に壁を建設し,その費用はメキシコ側が負担するという主張は,不条理なものである。
(イ)赤いリンゴが赤であるように,無知なことを言う者は無知である。3,200㎞にわたる米墨国境に壁を建設し,両国の貿易を止めようなどと考えることは不可能である。このようなことを主張する者は,現実離れしており,無能で,誤った者であり,率直に申して,知性に欠ける者である。
(ウ)我々メキシコ人は,米国の大多数の国民が,トランプ氏の主張と同様なことを考えていないことを確信している。米国は寛容,開放性に基づき,異なる場所から来た人々を受け入れ,多様性を尊重することによって建国された国家である。このことが米国の価値観である。
(エ)メキシコ政府は,メキシコ系米国人の選挙プロセスへの参加,その意見の選挙への反映を通し,トランプ氏の政治キャンペーンに応える。米国国民がその価値観に基づき,投票を行うことを楽観視している。
(2)トランプ氏の選挙キャンペーンにおける言説に対しては,フォックス元大統領が同氏を,無知であり,偽りの預言者であると,また,カルデロン前大統領が,同氏は米国にとっての脅威であるとするとともに,同氏をヒトラーに例える形で非難している。また,25日に訪墨したバイデン米副大統領は,ペニャ・ニエト大統領との会談において,名指しこそ避けたものの,米大統領選における一部候補者の言説に対し,謝罪を表している。ワシントン・ポスト紙は,今般のルイス=マシュー外相によるトランプ氏への批難を,メキシコ政府による同氏への最も痛烈な批難と報じた。

 

6.モラレス・グアテマラ外相の訪墨
29日,ルイス=マシュー外相は,メキシコを訪問したモラレス・グアテマラ外相と会談,両国外相は2国間アジェンダの見直しを行い,インフラ整備,国境地帯の社会開発,エネルギー,観光,領事手続き,安全保障,移民の各テーマにおける協力を推進することで一致した。また,本年下半期にメキシコ-グアテマラ二国間委員会の第12回会合を開催することを確認した。

 

 

 
Mofaホーム