メキシコ政治情勢(9月)
平成27年10月28日
〈概要〉
内政では,1日,連邦議会に大統領教書が提出され,翌2日,ペニャ・ニエト大統領が大統領教書演説を行った。8日,2016年予算案が議会に提出された。
外交では, 8日,アルマグロ米州機構事務総長が訪墨,ルイス=マシュー外相と会談した。9日,カリブ諸国大使向け事務所の開所式が催され,ルイス=マシュー外相が出席した。13日,エジプト西部において同国治安部隊がメキシコ人を含む観光客の乗車した車両を誤爆する事件が発生,15日~18日,ルイス=マシュー外相がエジプトを訪問し,エルシーシ大統領及びシュクリ外相とそれぞれ会談し,事件の迅速な捜査等を要求した。26日~28日,ペニャ・ニエト大統領は第70回国連総会ハイレベル・ウィークに出席するためニューヨークを訪問,28日,一般討論演説を行った。
〈内政〉
1.大統領教書の提出及び大統領による演説
1日,連邦議会秋期通常会期が招集された。直後,オソリオ内相は連邦下院に赴き,サンブラーノ連邦下院議長に対し,第3回年次教書を提出した(教書全文(本文640ページ,統計集864ページ)及び概要(136ページ)については,以下閲覧可能。)http://www.presidencia.gob.mx/tercerinforme/
2日,国立宮殿において,ペニャ・ニエト大統領による大統領教書演説が行われた(演説全文は以下で閲覧可能。)http://www.gob.mx/presidencia/articulos/mensaje-del-presidente-enrique-pena-nieto
【大統領教書演説概要】
(1)ペニャ・ニエト大統領は会場に到着後,ひな壇に上がり,サンブラーノ連邦下院議長、ヒル連邦上院議長,シルバ最高裁長官,オソリオ内相とともに国歌を斉唱した。会場には,閣僚及び各州知事,マンセラ・メキシコ市長,6月7日に実施された各州知事選で勝利した次期州知事,ベルトローネス制度的革命党(PRI)党首,アナヤ国民行動党(PAN)党首,連邦議会各会派長,リベラ大統領夫人及び大統領一家ら要人が出席。また,裁判所関係者,選挙機関関係者,外交団,軍関係者,市民団体,企業団体,労働団体及び農業団体の代表,大学学長,学術関係者,科学関係者,芸術家,スポーツ選手,宗教関係者等が多数出席した。
(2)教書演説の構成及び主要な内容は以下の通り。
(ア)教書演説は,昨年同様,ペニャ・ニエト大統領が就任演説で打ち出した政権の5本の柱((1)平和な国家の達成,(2)包摂国家の達成,(3)全国民が質の高い教育を享受する国家の達成,(4)繁栄する国家の達成,(5)地球規模の責任ある役割を果たす国家の達成)に沿った形で,政権発足より現在に至るまでに実施した政策の成果を強調する内容であった。他方,冒頭部で国家が直面する治安,汚職問題,経済情勢等の問題に触れ,教書演説の最後には,国家が直面する新たな状況,課題に対応するための10の政策(3.)が発表される等,ペニャ・ニエト政権を取り巻く厳しい状況が意識される内容でもあった。
(イ)冒頭部
(a)ペニャ・ニエト大統領は教書演説の冒頭,本年6月7日の中間選挙が民主主義に則って平和裡に行われたことを誇り,全国選挙機関(INE),各州選挙機関,連邦選挙裁判所の役割を称えた。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件,シナロア・カルテルの最大幹部ホアキン・「エル・チャポ」・グスマン受刑囚の脱獄事件に加え,汚職疑惑を生じさせたこと,更には原油価格下落及びペソの対米ドル為替下落によるメキシコ経済の先行き不安に触れ,国家が困難な状況に直面している旨述べた。
(c)その上で,ペニャ・ニエト大統領は,国家のために構造改革が必要と認識されながらも,政治の停滞により実現が不可能であった2012年12月の大統領就任時の政治情勢を想起し,大統領就任日の翌日に結ばれた「メキシコのための協約」により,メキシコが長年に亘り必要としていた,国家の持続可能な発展と成長のためのプラットフォームとなる13の構造改革が成し遂げられた旨述べた。また,メキシコはOECD加盟34カ国の中でも近年最も成長が著しい国であると述べ,メキシコは今後も前進していく旨強調した。
(ウ)平和な国家の達成
(a)政権発足時より,ペニャ・ニエト政権はメキシコ全土で暴力をなくし,一般家庭が平穏を取り戻せるよう取り組んで来ている。中央・地方政府の連携及び連邦政府の治安関係当局間の連携を強化,特に5ブロックに分けられた全国各州の間で情報共有すると共に,更なるインテリジェンスの活用に取り組んでいる。その成果として,最も重要な容疑者122名のうち92名が逮捕され,国家への脅威は減少している。
(b)政権が取り組む治安対策により,治安情勢は改善している。国立統計院(INEGI)の発表によると,2014年の殺人発生数は,2012年比で24.8%減,2011年比で27.78%減となっている。人口10万人あたりの殺人件数も,2012年は22.1件であったのに対し,2014年は16.4件に減少している。この2年間,国内8つの州にて殺人が40%以上減少し,特にヌエボ・レオン州では69.8%減,ドゥランゴ州では63.6%減、コアウイラ州では62%減と,めざましい成果を挙げている。
(エ)包摂国家の達成
(a)メキシコ国家にとって最も大きな課題は,社会格差の是正,地域間における発展の差の解消である。極度の貧困状態にあえぐ国民を支援するために開始された「全国飢餓対策キャンペーン」は,全国自治体に広がりを見せている。様々な社会プログラムの恩恵を受給する国民の数は450万人に達している。子供,老人,妊婦,授乳期の母親等,社会的弱者に食事を提供するコミュニティー食堂の数は,全国7,800以上に上る。
(b)社会開発政策評価評議会(CONEVAL)によると,様々な社会プログラムにより,2013年から2015年までに,対象者の57.5%が食糧不足を克服し,保健サービスへのアクセスが不足していた人々は,33%から9.2%に減少した。生活必需品を安価で購入できる「シン・アンブレ(空腹なし)」カードは,73万1千以上の世帯に配布されている。
(c)従来の「機会プログラム(Programa Oportunidad)」は「繁栄するプログラム(Programa Prospera)」に更新されたが,この「繁栄するプログラム」により,大学生及び専門学校生向けの奨学金制度がより充実したものとなり,家庭の収入増につながる雇用の機会が生じている。CONEVLによると,このプログラムにより,10万人のメキシコ国民が極度の貧困を脱することができた。
(d)一方,2012年から2014年にかけ,貧困層が更に200万人増加した。この結果は,援助を必要としている人々のために,一層の努力を続けなければならないことを示している。
(e)メキシコは,家庭,地域,そして国に貢献する女性の努力をサポートする。家計を支えている570万人の女性が生命保険に加入した。また,政治・選挙制度改革により女性の政治参加が促進され,本年実施された連邦下院議員選挙では,歴史上初めて候補者の半数が女性であった。その結果として,現在連邦下院議員の42%が女性となっている。
(オ)全国民が質の高い教育を享受する国家の達成
(a)教育改革における最も大きな挑戦の一つが,一部のグループの個人的利益のために長年に亘り支配されてきたオアハカ州の公教育行政の権限を取り戻すことであった。そのために,オアハカ州政府と共同で、オアハカ州教育行政機関(IEEPO)を改革し,同州における教育行政実施権限を取り戻すために必要な措置をとった。
(b)教育改革により,今日,多くの者が教職に就く意思を示している。今日までに,33万2千人が新規教員採用試験を受験した。また,4万6,500人の教員が,管理職昇進のための評価試験を受験した。今日,教職員の昇進は,個人の努力と能力によって決定されることは周知の通りである。そして,近く,現職の教員の能力を評価し,研修が必要かどうかを判断するための評価試験が順次実施される予定である。
(c)ペニャ・ニエト政権下,全日制学校(Escuela Tiempo Completo)は6,708校から2万3,182校と3倍以上に増加した。また,これらの学校の半数以上で,生徒への給食が支給されている。
(d)後期中等教育における就学率は,ペニャ・ニエト政権下において8.6%増加し,74.5.%に達した。今日,500万人の生徒がこの分野での教育を受けており,そのうち半数が奨学金を得ている。
(e)教育予算執行の透明性を保証するために,2015年1月より,教職員180万人への給与支払いは,連邦政府によって直接行われるよう変更された。
(カ)地球規模の責任ある役割を果たす国家の達成
(a)メキシコは,(1)国際場裡におけるプレゼンス強化,(2)開発協力の拡大,(3)国際社会におけるメキシコの価値を高める,(4)外国における国家の利益の保証,という4項目を外交の柱としている。
(b)対米国関係
米国との2国間関係においては,治安という重要なアジェンダの存在に加え,経済,エネルギー政策,学術等の幅広い分野でよりダイナミックな関係を深化させてきた。戦略的観点より,メキシコは航空サービス,税関,貨物の事前検査,米墨間ガスパイプの拡張,石油及び天然ガスの売買等の分野で米国との関係を強化してきた。また,マタモロス市―ブラウンズビル市間の国際鉄道の建設等,米墨国境間のインフラ設備に共同で取り組んでいる。
(c)中南米カリブ地域諸国
中南米カリブ地域諸国との関係強化にも取り組んでおり,二国間,マルチの分野で様々な協力プロジェクトを推進している。その中には,道路インフラの整備,中米の病院設備の整備プロジェクトも含まれる。また,メキシコと同地域間のエネルギー供給制度の強化に努め,メキシコから中米諸国にガスパイプラインを通す計画を検討している。
カリブ諸国との関係においては,2014年12月には第24回イベロアメリカ・サミットを開催し,出席した22ヶ国の間で教育,保健,イノベーションの分野におけるアクションプランが合意された。
また,2015年7月1日,パナマとの自由貿易協定が発効。
(d)南米
太平洋同盟加盟国との経済・文化・外交関係を深化。コロンビア,チリ,ペルーとの間では,92%の品目につき関税を撤廃することで合意した。本件は,連邦議会での承認手続き中である。太平洋同盟加盟国からの訪墨者数は,2012年から2014年にかけ,67%増加している。
(e)ヨーロッパ
EUとの関係においては,墨EU間の経済関係を規律している経済連携協定(Acuerdo de Asociacion Economica, Concertacion Politica y Cooperacion)の近代化に取り組んでいる。
本年,スペイン国王夫妻を国賓として迎えた。本訪問は墨西の中小企業にビジネスチャンスを与える契機となるものであった。また,スペイン語振興及び学術交流の促進が合意された。
2015年は英国を国賓として訪問し,16の合意文章をかわすなど,同国との関係においても特別な年である。本年,英国における「メキシコ年」,メキシコにおける「英国年」が相互に祝われている。
またフランスとの2国間関係を再構築したことは突出すべき成果である。フランスを国賓訪問した際には,60以上の合意文章が署名された。
(f)アジア太平洋地域
同地域との関係では,メキシコはTPP交渉に積極的に参加している。
我々は中国,韓国及び日本との二国間対話を強化し,協力,貿易及び投資の新しいチャンスを開いた。
ホンダ,KIA,マツダ,日産,トヨタ等のアジアの自動車企業が対墨投資を実施乃至発表しており,これは総額65億ドルに上る。
(g)中東・アフリカ地域
中東・アフリカ地域におけるメキシコのプレゼンス強化のための戦略を構築。ヨルダン,カタール,ガーナにメキシコ大使館を設立した。
(h)PKO活動
国際社会におけるメキシコの責任を果たす目的で,人道支援のためのPKO活動に参加する決断を行った。この決断はメキシコの伝統的外交姿勢の転換を意味する。
(キ)繁栄する国家の達成
(a)石油収入減少によりメキシコが直面する財政課題に対し,国庫への収入を補填するための選択肢は3つである。その一つは増税であるが,この選択肢は採らない。国民に対し,新課税,既存の税率の引き上げ,付加価値税を食品や衣料品への課税の何れも行わないことを約束する。第2の選択肢は,国の債務を増やすことであるが,この選択肢も採用しない。増税及び債務を増やすという選択肢を採らない以上,残された第3の選択肢は,財政の引き締めである。この目的を達成するために,本年1月,2015年予算の見直し及び2016年予算案作成を指示したが,ひとつひとつのプログラムや予算項目を見直し,少ない予算でより効果が現れる予算案になるよう検討するよう指示した。
(b)税制・財政改革の成果により,石油収入減少の影響に対して,効果的に対処できたと強調。
(c)労働改革により,正式雇用が増加し労働市場が改善されてきている。2015年7月の就業人口における失業率は4.7%であり,7月の失業率としては2008年以来最低であった。
(d)通信改革法施行規則が発効した2014年7月から今日までに,固定電話の短距離通話料金は4.2%減,携帯電話料金は12.4%減,国際通話料金は40.7%減となった。更に,本年より国内長距離通話料金がなくなり,国内通話はすべて短距離通話と同じ料金となった。
(e)エネルギー改革によって,メキシコ石油公社は生産性の高い企業へ生まれ変わり,資本や技術を提供する国内、外国企業と連携することができるようになった。民間との提携で6つのガス管の操業が始まり、天然ガス輸送網が1,100キロ以上延長された。ラウンド・ワンは高い透明性をもって行われ,今後,浅海,陸上,大水深の鉱区入札と続く。電力でも大消費者電力市場が作られた。メキシコ電力公社以外の一般企業が発電し電力を販売できることとなった。電力料金も下がっており,小消費家庭では2%減,大消費家庭は8%減,商業分野では18%減,工業では30%減となっている。
(f)ペニャ・ニエト政権下で,17,000キロの新規道路の建設または近代化を行い,高速道路を17箇所,1,000キロ以上建設した。メキシコ新空港建設は2016年前半に入札要綱が発表され,主要なインフラ工事が始まる。
(g)メキシコは観光客受け入れ国トップ10に返り咲いた。2014年には2,930万人が訪れ,2012年比25.4%増。今年前半も前年同期比7.6%増。外貨収入も2012年比27.2%増となっている。
(h)国連貿易開発会議(UNCTAD)によると,メキシコはこの先,世界で9番目に魅力的な投資先となる。この2年間におけるメキシコへの外国直接投資は827億ドルにのぼり,前政権の同期より38%増となっている。
(i)本年7月の正規雇用は年率4.4%増。ペニャ・ニエト政権で142万の正規雇用が新たに創出された。
(3)10の政策(教書演説の中でペニャ・ニエト大統領が発表)
(ア)法治国家を強化するための法整備
(a)全国汚職対策システム関連二次法案の成立
(b)全国判決適用法案及び全国青少年裁判法案を含む新刑事裁判制度を補完する法整備
(c)人権保護のための拷問禁止法案,強制失踪に関する法案の成立
(d)地方治安当局を強化するための法案及び刑事関係における各機関の権限を再定義するための憲法改正
(イ)日常の紛争解決のための全国合意
民事,労務,商業,行政の上で一般的に生じる問題を解決するための手段を制定する。2017年の憲法100周年に向け,「メキシコ司法のための協約」を結び,日常の紛争解決のための一連の法案を作成する。
(ウ)貧困対策,貧富の格差の是正策として,開発が遅れる地域への援助
今日,国内には北部,バヒオ地方のように経済発展をしている地域と,南部の開発が遅れた地域がある。社会政策だけでは不十分であり,開発の遅れた地域における生産性を高め,富を生み出す努力が必要。そのため連邦経済特別区法案を設定する。
(エ)疎外地農村の生産活動支援
自給自足の農業を営む小農への援助を目的に,2016年予算に「小農支援プログラム」を含め,小農の収入引き上げ支援を実施する。
(オ)教育インフラの改善
教育改革プログラムに従い,メキシコ証券市場に教育インフラ債を起債。これにより,同プログラムに加入する州政府の多目的貢献基金の資金を3年間で倍増させる。
(カ)メキシコの青少年の能力開発
基礎教育の学生を対象とした「全国英語プログラム」を展開するための予算を2016年予算へ含める。
(キ)文化振興
(a)国民の文化へのアクセスを広め,文化への参加を促進する。
(b)文化省(Secretaria de Cultura)設立のための法案を提出する。これはゼロベース予算の検討結果によって出されたもので,歳出を増すのではなく,文化への投資をより効率的なものにすることを目指したものである。
(ク)メキシコ人の家庭福祉のためのマクロ経済の安定
(a)世界経済情勢に対処するため緊縮財政を維持することを受け,2016年予算はメキシコ国民のプライオリティを考慮し,弱者を支援することに注力するものとする。
(b)貧困対策プログラム,治安対策,科学技術開発と国公立大学への資金援助,経済成長促進プログラムに重点的に力を入れる。
(ケ)全国インフラ開発のための金融
インフラ開発のための新規金融手段を取り入れ,エネルギー分野を含めたインフラプロジェクトへの迅速で有効な透明度の高い投資を可能なものとする。
(コ)緊縮財政
2016年予算を引き続き切り詰めたものとし,省庁や公共機関は予算を有効に使う。経費削減し,福祉への投資を増やす。
2.2016年予算案の提出
8日,2016年予算案(歳入法案,歳出案及びマクロ経済指標)が連邦下院に提出された。2016年の歳入額は,約4兆1千億ペソ,借入金を含めた合計額は約4兆7千億ペソと示され,うち税収額は歳入全体の約60%,メキシコ石油公社(PEMEX)の収益金等による石油関連収入が約20%を占めている。世界的石油価格下落の影響により,石油関連収入は30%減少するが,2013年の税制改革により,石油関連収入以外の税収額が19.3%増であると見込まれている。一方歳出額は,借入金を含めた歳入額とほぼ同額の約4兆7千億ペソが見込まれている。
なお,来年の経済成長率は2.6%~3.6%,インフレ率は3.0%,為替レートは15.9ペソ/ドル,メキシコ産石油の価格を50ドル/1バーレルとしている。
〈人事〉
1.第63期連邦議会2015-2016年上下両院新執行部他人事
1日の第63期連邦議会招集に際し,連邦上下両院議会の幹部人事が行われ,上院議長にPANのロベルト・ヒル・スアルス議員,下院議長にPRDのホセ・デ・ヘスス・サンブラーノ・グリハルバ議員が就任した。
1.カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン構成員の逮捕
(1)1日,サレス国家治安コミッショナーは記者会見を開き,カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)の構成員とみられるハビエル・ゲレロ・コバルビアス容疑者を,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。
(2)ゲレロ容疑者はCJNGの構成員の一人とみられ,本年3月19日,ハリスコ州オコトラン市で治安維持活動に従事していた国家軍警察(Gendarmeria Nacional)が襲撃を受け,国家軍警察5名及び一般人3名が死亡した事件の首謀者として,連邦治安当局がその身柄を追っていた。また,ゲレロ容疑者には麻薬の密売,誘拐及び殺人の容疑もかけられている。
2.アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件首謀者の逮捕
(1)17日,サレス国家治安コミッショナーは記者会見を開き,犯罪組織「ゲレロス・ウニードス」の幹部,ヒルドラド・ロペス・アストゥディージョ,通称「エル・ヒル」容疑者を,9月15日,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。
(2)19日,ロペス容疑者は連邦検察庁の取り調べに対し,自身が昨年9月26日に発生したアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件に関し,同学校生徒への襲撃,殺害及び証拠隠滅のため遺体焼却を指示した旨認めた。また,経済的見返りの代わりに,「ゲレロス・ウニードス」の活動を支援している9自治体の首長の名前を明らかにした。なお,連邦検察庁は捜査の妨げになることを避けるために,該当する9自治体の名前は公表していない。他方,SEIDOによると,ゲレロ州,モレロス州,メキシコ州及びメキシコ市のいくつかの自治体では犯罪組織が活動していることが確認されていることを受け,これらの州の自治体がゲレロス・ウニードスの活動に関与していないか併せて調査する旨発表している。
1.アルマグロ米州機構(OAS)事務総長の訪墨
8日,アルマグロ米州機構(OAS)事務総長は,メキシコ外務省においてルイス=マシュー外相と会談を行ったところ,概要以下のとおり。
2.カリブ諸国大使向け事務所の開所式
9日,ルイス=マシュー外相はメキシコ外務省において,メキシコを兼轄しているカリブ諸国の大使向けの事務所の開所式に出席した。同事務所の設置により,メキシコに大使館をもたないカリブ諸国の大使はメキシコ国内に物理的スペースを享受することとなり,要人のメキシコ訪問等の受入れ機能を高めることとなる。同事務所の設置によって,メキシコのカリブ諸国との政治的,経済的,協力関係を強化することが期待される。
3.エジプト軍によるメキシコ人観光客誤爆事件
13日,エジプト西部において同国治安部隊がメキシコ人を含む観光客の乗車した車両を誤爆する事件が発生。8名のメキシコ人が死亡,6名のメキシコ人が負傷した。本件については,当国ハイレベルが前面に立ち,対応の指揮を行っているところ,メキシコ政府の発表内容の取りまとめ次のとおり。
(1)14日,ペニャ・ニエト大統領は軍訓練所の式典における挨拶冒頭において,概要以下のとおり発言した。
昨日,エジプトで発生した遺憾且つ悲惨な事件につき述べさせて頂く。まず,この場を借りて,殺害された被害者の家族友人に哀悼の意を表する。このような事件は,かつて例がなく,メキシコ国家を愕然とさせた。これを受けて,メキシコ政府はエジプト政府に原因の徹底究明を要求しており,同国外相からは首相自身が捜査の指揮を執るとの回答を得ている。また,昨晩,ルイス=マシュー外相と協議を行い,被害者及び同家族の支援のために必要な全ての支援を実施するよう指示した。また,駐エジプト大使と長時間にわたり協議を行い,自分(「ペ」大統領)と外相に対して現状を説明させたほか,被害者が適切な治療を受けられるよう,常に個人的に付き添うよう指示した。
(2)14日,ルイス=マシュー外相は記者会見を開き,概要以下のとおり述べた。
被害者支援のため,トーレス外務省在外メキシコ人保護局長のほか,周辺公館職員を関連業務支援のため現地に派遣した。また,駐メキシコ・エジプト大使に対して,本件事件にかかる徹底究明を行うよう申し入れを行い,同国は事態究明のための特別委員会を結成する予定と承知している。
(3)15日~18日,ルイス=マシュー外相はエジプトを訪問し,エルシーシ大統領及びシュクリ外相とそれぞれ会談し,事件の迅速な捜査等を要求した。
4.バサーニャス駐米メキシコ大使によるオバマ大統領への信任状奉呈
17日,バサーニャス(Miguel Basáñez Ebergenyi)駐米メキシコ大使が,オバマ大統領に対して信任状を捧呈したところ,概要以下のとおり。
(1)ホワイト・ハウスで開催されたセレモニーで,バサーニャス大使はオバマ大統領に対して,ペニャ・ニエト大統領からの挨拶を伝達するとともに,墨米関係を特徴付ける関係強化,協力及びフランクな対話の継続につき,ペニャ・ニエト大統領は引き続きコミットしていく旨述べた。
(2)バサーニャス大使は,幼少時に入国した若者たちのための退去強制延期措置(DACA)の拡大等,オバマ大統領による移民問題に関する行政的措置を評価する旨述べ,当該措置によって,入国に必要な書類を持たない移民(migrantes indocumentados)がより一層米国の社会資本及び経済に貢献できるようになる旨述べた。
5.メキシコ外務省幹部人事
21日,8月末の内閣改造による外相交代を踏まえ,メキシコ外務省の幹部人事が発表されたところ,主要な異動は以下のとおり。
(1)フローレス中南米カリブ担当次官(前外務省米州地域機構・メカニズム局長)
(2)ルイス=カバーニャス多国間・人権担当次官(元駐日大使。前駐イタリア大使)
(3)カサール(Maria Eugenia Casar)AMEXCID長官(現在,UNDPで勤務中のため11月よりAMEXCID長官に就任予定。)
(4)バルボサ(Ana Paola Barbosa Fernandez)大臣首席補佐官(前国連担当局長)
(5)アルダイ(Alejandro Alday Gonzalez)法律顧問(前人権・民主主義担当局長)
6.ペニャ・ニエト大統領による第70回国連総会出席
26日~28日,ペニャ・ニエト大統領は第70回国連総会ハイレベル・ウィークに出席するためニューヨークを訪問したところ,墨大統領府プレスリリースに基づく概要は以下のとおり。
(1)訪問日程
(ア)ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN Women)会合出席(第一部において議長を務める)(9月27日)
(イ)潘基文国連総長との会談(9月27日)
(ウ)国連気候変動会議サミット出席(9月27日)
(エ)太平洋同盟首脳会議出席(9月27日)
(オ)持続可能な開発のための2030アジェンダ採択のための会議出席(9月27日)
(カ)一般討論演説(9月28日)
(2)一般討論演説
28日,ペニャ・ニエト大統領が第70回国連総会一般討論演説を行ったところ,右概要以下の通り。見出しは当館が便宜上付したもの。
(演説全文については,以下で閲覧可能。)
http://www.presidencia.gob.mx/articulos-prensa/intervencion-del-presidente-de-los-estados-unidos-mexicanos-licenciado-enrique-pena-nieto-en-el-debate-general-de-la-70a-asamblea-general-de-la-organizacion-de-las-naciones-unidas/
(ア)70周年
70年前、国連は戦争の恐怖に対する集団的対応として設立された。過去70年間、我々は世界の平和と安定、人権、社会発展といった最も崇高な理想を実現すべく努めてきた。国連によるかかる高い目標のための恒常的努力は、PKOやFAO,UNICEF,UNESCO,WHO、UNDPといった権威ある機関の業務に反映されている。
(イ)ポピュリズムの台頭の危機
格差の拡大,世界的経済危機、社会不満の高まりにより,今日,世界は新しいポピュリズムの台頭の危機に直面している。20世紀は、理解力,責任感,倫理観に欠けた個人が民族を分断した結果に苦しんだ。政治的目的,個人的利益を満足させるために,人々の抱く恐怖や不安を利用し憎悪の念を育てる者の存在に社会は備えなければならない。我々は過去の過ちを繰り返してはならない。我々を人間として定義する原則,すなわち平和,連帯,人権の尊重といった国連を誕生させた高い価値観を取り戻し,支持する時である。移民,女性,人種,宗教,政治的多様性への尊重,とりわけ人間としての尊厳の尊重を支持しなければならない。
今日の世界は複雑かつ不確かであり,様々な隔りが存在するものであるが,分裂は問題解決にはつながらない。
(ウ)グローバルな課題への対応
2015年は,各国が自国の利益を超え,世界市民の利益のために合意に達することができることを示した年である。持続可能な開発のための2030アジェンダ,第3回国連防災世界会議における仙台防災枠組み2015-2030,COP21に向けた取り組み等は,従来のパラダイムを変換し,各国家が国際社会のために行動していくための歴史的決定であった。
(エ)安保理改革
2015年の偉大な国際的合意を励みとし,我々は安保理の改革と近代化を前進させなければならない。1945年に創設されたこの重要なメカニズムは,その限界が明らかになっている。常任理事国が拒否権を自国の利益のために行使し,国際的取り組みを阻止することは断固として受け入れられない。常任理事国は世界の平和と安定に対し特別な責任を負っており,その責任を,とりわけ最も基本的な価値観が侵害されようとしている際に果たさなければならない。この目標を達成するために,メキシコは戦争犯罪,ジェノサイド等の国際法及び人権に対する重大な侵害にあたる事案に対し,常任理事国に拒否権の行使を禁止するフランスのイニシアティブに共に取り組んでいる。
(オ)移民問題
今日,如何なる国家も民族全体の苦しみに無関心でいることはできない。我々は今日,より良い条件を求め移動する数百万の移民を目の当たりとしている。遺憾なことに全ての大陸において,移民たちは常に危険,拒絶と差別,虐待の中を生きている。このような状況は,無関心,誤った信仰,差別主義,政治的思惑により,より深刻なものとなる。移民とその子供たちは,移住した各国の抱える様々な社会問題の元凶であるという烙印を押されている。このような不正義を許してはならない。民主主義の世界から,多様性と包摂の精神を失ってはならない。このような移民に向けられる排除と差別の視線に対し,我々は移民の権利を保護する国際的枠組みを作り上げるための努力を集結させなければならない。世界中に存在する数百万の移民は,一体となったかつ効果的な対策を必要としており,この国際的対策は国連から発出されなければならないものである。
7.ルイス=マシュー外相の第70回国連総会出席
25日~10月1日,ルイス=マシュー外相は第70回国連ハイレベル・ウィークに出席するため,ペニャ・ニエト大統領に同行しニューヨークを訪問したところ,墨外務省プレスリリースに基づく概要は以下のとおり。
(1)マルチのハイレベル会合等
(ア)MIKTA外相会合(9月26日)
(イ)効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(AGCDE)主催の効果的開発のためのジェンダーの視点を伴う予算の役割に関するイベント(9月26日)
(ウ)核兵器の廃絶に向けた国際デー(9月26日)
(エ)太平洋同盟-ASEAN第2回閣僚会合(9月28日)
(オ)エネルギー気候主要経済フォーラム外相会合(9月29日)
(カ)大規模犯罪時における拒否権行使の抑止に関する仏墨主催閣僚級会合(9月30日)
(キ)新開発アジェンダにおける移民・難民問題にかかる協力強化に関するハイレベル会合(9月30日)
(2)バイ会談
ルイス=マシュー外相は,今次国連ハイレベル・ウィークに参加するためにニューヨークを訪問していた各国及び国際機関の外相・代表等と,合計26に及ぶバイ会談を実施した。
米国(ケリー国務長官)
フランス(ファビウス外相)
ドイツ(シュタインマイヤー外相)
スペイン(ガルシア=マルガージョ外務・協力相)
ブラジル(ヴィエイラ外相)
ロシア(ラブロフ外相)
キューバ(ロドリゲス外相)
ヨルダン(Nasser Judeh外相)
EU(モゲリーニ外交安全保障担当上級代表)
エジプト(シュクリ外相)
エルサルバドル(Hugo Martinez Bonilla外相)
グアテマラ(Carlos Raul Morales外相)
ホンジュラス(Arturo Corrales Alvarez外相)
セントビンセント(Ralph Gonsalves首相)
ガイアナ(Carl B.Greenidge副大統領兼外相)
ノルウェー(Borge Brende外相)
スウェーデン(Margot Wallstrom外相)
チェコ(Lubomir Zaoralek外相)
ポーランド(Grzegorz Schetyna外相)
イラン(Mohammad Javad Zarif外相)
トルコ(Ferdiun Sinirlioglu外相)
アラブ首長国連邦(Jeque Abdullah Bin Zayed Al Nahyan外相)
クウェート(Sabah Khalid Al-Hamad Al-Sabah外相)
パレスチナ(Riad Maiki外相)
イベロアメリカ事務局(グリンスパン事務局長)
Zeid Raad Al Hussein国連人権高等弁務官
内政では,1日,連邦議会に大統領教書が提出され,翌2日,ペニャ・ニエト大統領が大統領教書演説を行った。8日,2016年予算案が議会に提出された。
外交では, 8日,アルマグロ米州機構事務総長が訪墨,ルイス=マシュー外相と会談した。9日,カリブ諸国大使向け事務所の開所式が催され,ルイス=マシュー外相が出席した。13日,エジプト西部において同国治安部隊がメキシコ人を含む観光客の乗車した車両を誤爆する事件が発生,15日~18日,ルイス=マシュー外相がエジプトを訪問し,エルシーシ大統領及びシュクリ外相とそれぞれ会談し,事件の迅速な捜査等を要求した。26日~28日,ペニャ・ニエト大統領は第70回国連総会ハイレベル・ウィークに出席するためニューヨークを訪問,28日,一般討論演説を行った。
〈内政〉
1.大統領教書の提出及び大統領による演説
1日,連邦議会秋期通常会期が招集された。直後,オソリオ内相は連邦下院に赴き,サンブラーノ連邦下院議長に対し,第3回年次教書を提出した(教書全文(本文640ページ,統計集864ページ)及び概要(136ページ)については,以下閲覧可能。)http://www.presidencia.gob.mx/tercerinforme/
2日,国立宮殿において,ペニャ・ニエト大統領による大統領教書演説が行われた(演説全文は以下で閲覧可能。)http://www.gob.mx/presidencia/articulos/mensaje-del-presidente-enrique-pena-nieto
【大統領教書演説概要】
(1)ペニャ・ニエト大統領は会場に到着後,ひな壇に上がり,サンブラーノ連邦下院議長、ヒル連邦上院議長,シルバ最高裁長官,オソリオ内相とともに国歌を斉唱した。会場には,閣僚及び各州知事,マンセラ・メキシコ市長,6月7日に実施された各州知事選で勝利した次期州知事,ベルトローネス制度的革命党(PRI)党首,アナヤ国民行動党(PAN)党首,連邦議会各会派長,リベラ大統領夫人及び大統領一家ら要人が出席。また,裁判所関係者,選挙機関関係者,外交団,軍関係者,市民団体,企業団体,労働団体及び農業団体の代表,大学学長,学術関係者,科学関係者,芸術家,スポーツ選手,宗教関係者等が多数出席した。
(2)教書演説の構成及び主要な内容は以下の通り。
(ア)教書演説は,昨年同様,ペニャ・ニエト大統領が就任演説で打ち出した政権の5本の柱((1)平和な国家の達成,(2)包摂国家の達成,(3)全国民が質の高い教育を享受する国家の達成,(4)繁栄する国家の達成,(5)地球規模の責任ある役割を果たす国家の達成)に沿った形で,政権発足より現在に至るまでに実施した政策の成果を強調する内容であった。他方,冒頭部で国家が直面する治安,汚職問題,経済情勢等の問題に触れ,教書演説の最後には,国家が直面する新たな状況,課題に対応するための10の政策(3.)が発表される等,ペニャ・ニエト政権を取り巻く厳しい状況が意識される内容でもあった。
(イ)冒頭部
(a)ペニャ・ニエト大統領は教書演説の冒頭,本年6月7日の中間選挙が民主主義に則って平和裡に行われたことを誇り,全国選挙機関(INE),各州選挙機関,連邦選挙裁判所の役割を称えた。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件,シナロア・カルテルの最大幹部ホアキン・「エル・チャポ」・グスマン受刑囚の脱獄事件に加え,汚職疑惑を生じさせたこと,更には原油価格下落及びペソの対米ドル為替下落によるメキシコ経済の先行き不安に触れ,国家が困難な状況に直面している旨述べた。
(c)その上で,ペニャ・ニエト大統領は,国家のために構造改革が必要と認識されながらも,政治の停滞により実現が不可能であった2012年12月の大統領就任時の政治情勢を想起し,大統領就任日の翌日に結ばれた「メキシコのための協約」により,メキシコが長年に亘り必要としていた,国家の持続可能な発展と成長のためのプラットフォームとなる13の構造改革が成し遂げられた旨述べた。また,メキシコはOECD加盟34カ国の中でも近年最も成長が著しい国であると述べ,メキシコは今後も前進していく旨強調した。
(ウ)平和な国家の達成
(a)政権発足時より,ペニャ・ニエト政権はメキシコ全土で暴力をなくし,一般家庭が平穏を取り戻せるよう取り組んで来ている。中央・地方政府の連携及び連邦政府の治安関係当局間の連携を強化,特に5ブロックに分けられた全国各州の間で情報共有すると共に,更なるインテリジェンスの活用に取り組んでいる。その成果として,最も重要な容疑者122名のうち92名が逮捕され,国家への脅威は減少している。
(b)政権が取り組む治安対策により,治安情勢は改善している。国立統計院(INEGI)の発表によると,2014年の殺人発生数は,2012年比で24.8%減,2011年比で27.78%減となっている。人口10万人あたりの殺人件数も,2012年は22.1件であったのに対し,2014年は16.4件に減少している。この2年間,国内8つの州にて殺人が40%以上減少し,特にヌエボ・レオン州では69.8%減,ドゥランゴ州では63.6%減、コアウイラ州では62%減と,めざましい成果を挙げている。
(エ)包摂国家の達成
(a)メキシコ国家にとって最も大きな課題は,社会格差の是正,地域間における発展の差の解消である。極度の貧困状態にあえぐ国民を支援するために開始された「全国飢餓対策キャンペーン」は,全国自治体に広がりを見せている。様々な社会プログラムの恩恵を受給する国民の数は450万人に達している。子供,老人,妊婦,授乳期の母親等,社会的弱者に食事を提供するコミュニティー食堂の数は,全国7,800以上に上る。
(b)社会開発政策評価評議会(CONEVAL)によると,様々な社会プログラムにより,2013年から2015年までに,対象者の57.5%が食糧不足を克服し,保健サービスへのアクセスが不足していた人々は,33%から9.2%に減少した。生活必需品を安価で購入できる「シン・アンブレ(空腹なし)」カードは,73万1千以上の世帯に配布されている。
(c)従来の「機会プログラム(Programa Oportunidad)」は「繁栄するプログラム(Programa Prospera)」に更新されたが,この「繁栄するプログラム」により,大学生及び専門学校生向けの奨学金制度がより充実したものとなり,家庭の収入増につながる雇用の機会が生じている。CONEVLによると,このプログラムにより,10万人のメキシコ国民が極度の貧困を脱することができた。
(d)一方,2012年から2014年にかけ,貧困層が更に200万人増加した。この結果は,援助を必要としている人々のために,一層の努力を続けなければならないことを示している。
(e)メキシコは,家庭,地域,そして国に貢献する女性の努力をサポートする。家計を支えている570万人の女性が生命保険に加入した。また,政治・選挙制度改革により女性の政治参加が促進され,本年実施された連邦下院議員選挙では,歴史上初めて候補者の半数が女性であった。その結果として,現在連邦下院議員の42%が女性となっている。
(オ)全国民が質の高い教育を享受する国家の達成
(a)教育改革における最も大きな挑戦の一つが,一部のグループの個人的利益のために長年に亘り支配されてきたオアハカ州の公教育行政の権限を取り戻すことであった。そのために,オアハカ州政府と共同で、オアハカ州教育行政機関(IEEPO)を改革し,同州における教育行政実施権限を取り戻すために必要な措置をとった。
(b)教育改革により,今日,多くの者が教職に就く意思を示している。今日までに,33万2千人が新規教員採用試験を受験した。また,4万6,500人の教員が,管理職昇進のための評価試験を受験した。今日,教職員の昇進は,個人の努力と能力によって決定されることは周知の通りである。そして,近く,現職の教員の能力を評価し,研修が必要かどうかを判断するための評価試験が順次実施される予定である。
(c)ペニャ・ニエト政権下,全日制学校(Escuela Tiempo Completo)は6,708校から2万3,182校と3倍以上に増加した。また,これらの学校の半数以上で,生徒への給食が支給されている。
(d)後期中等教育における就学率は,ペニャ・ニエト政権下において8.6%増加し,74.5.%に達した。今日,500万人の生徒がこの分野での教育を受けており,そのうち半数が奨学金を得ている。
(e)教育予算執行の透明性を保証するために,2015年1月より,教職員180万人への給与支払いは,連邦政府によって直接行われるよう変更された。
(カ)地球規模の責任ある役割を果たす国家の達成
(a)メキシコは,(1)国際場裡におけるプレゼンス強化,(2)開発協力の拡大,(3)国際社会におけるメキシコの価値を高める,(4)外国における国家の利益の保証,という4項目を外交の柱としている。
(b)対米国関係
米国との2国間関係においては,治安という重要なアジェンダの存在に加え,経済,エネルギー政策,学術等の幅広い分野でよりダイナミックな関係を深化させてきた。戦略的観点より,メキシコは航空サービス,税関,貨物の事前検査,米墨間ガスパイプの拡張,石油及び天然ガスの売買等の分野で米国との関係を強化してきた。また,マタモロス市―ブラウンズビル市間の国際鉄道の建設等,米墨国境間のインフラ設備に共同で取り組んでいる。
(c)中南米カリブ地域諸国
中南米カリブ地域諸国との関係強化にも取り組んでおり,二国間,マルチの分野で様々な協力プロジェクトを推進している。その中には,道路インフラの整備,中米の病院設備の整備プロジェクトも含まれる。また,メキシコと同地域間のエネルギー供給制度の強化に努め,メキシコから中米諸国にガスパイプラインを通す計画を検討している。
カリブ諸国との関係においては,2014年12月には第24回イベロアメリカ・サミットを開催し,出席した22ヶ国の間で教育,保健,イノベーションの分野におけるアクションプランが合意された。
また,2015年7月1日,パナマとの自由貿易協定が発効。
(d)南米
太平洋同盟加盟国との経済・文化・外交関係を深化。コロンビア,チリ,ペルーとの間では,92%の品目につき関税を撤廃することで合意した。本件は,連邦議会での承認手続き中である。太平洋同盟加盟国からの訪墨者数は,2012年から2014年にかけ,67%増加している。
(e)ヨーロッパ
EUとの関係においては,墨EU間の経済関係を規律している経済連携協定(Acuerdo de Asociacion Economica, Concertacion Politica y Cooperacion)の近代化に取り組んでいる。
本年,スペイン国王夫妻を国賓として迎えた。本訪問は墨西の中小企業にビジネスチャンスを与える契機となるものであった。また,スペイン語振興及び学術交流の促進が合意された。
2015年は英国を国賓として訪問し,16の合意文章をかわすなど,同国との関係においても特別な年である。本年,英国における「メキシコ年」,メキシコにおける「英国年」が相互に祝われている。
またフランスとの2国間関係を再構築したことは突出すべき成果である。フランスを国賓訪問した際には,60以上の合意文章が署名された。
(f)アジア太平洋地域
同地域との関係では,メキシコはTPP交渉に積極的に参加している。
我々は中国,韓国及び日本との二国間対話を強化し,協力,貿易及び投資の新しいチャンスを開いた。
ホンダ,KIA,マツダ,日産,トヨタ等のアジアの自動車企業が対墨投資を実施乃至発表しており,これは総額65億ドルに上る。
(g)中東・アフリカ地域
中東・アフリカ地域におけるメキシコのプレゼンス強化のための戦略を構築。ヨルダン,カタール,ガーナにメキシコ大使館を設立した。
(h)PKO活動
国際社会におけるメキシコの責任を果たす目的で,人道支援のためのPKO活動に参加する決断を行った。この決断はメキシコの伝統的外交姿勢の転換を意味する。
(キ)繁栄する国家の達成
(a)石油収入減少によりメキシコが直面する財政課題に対し,国庫への収入を補填するための選択肢は3つである。その一つは増税であるが,この選択肢は採らない。国民に対し,新課税,既存の税率の引き上げ,付加価値税を食品や衣料品への課税の何れも行わないことを約束する。第2の選択肢は,国の債務を増やすことであるが,この選択肢も採用しない。増税及び債務を増やすという選択肢を採らない以上,残された第3の選択肢は,財政の引き締めである。この目的を達成するために,本年1月,2015年予算の見直し及び2016年予算案作成を指示したが,ひとつひとつのプログラムや予算項目を見直し,少ない予算でより効果が現れる予算案になるよう検討するよう指示した。
(b)税制・財政改革の成果により,石油収入減少の影響に対して,効果的に対処できたと強調。
(c)労働改革により,正式雇用が増加し労働市場が改善されてきている。2015年7月の就業人口における失業率は4.7%であり,7月の失業率としては2008年以来最低であった。
(d)通信改革法施行規則が発効した2014年7月から今日までに,固定電話の短距離通話料金は4.2%減,携帯電話料金は12.4%減,国際通話料金は40.7%減となった。更に,本年より国内長距離通話料金がなくなり,国内通話はすべて短距離通話と同じ料金となった。
(e)エネルギー改革によって,メキシコ石油公社は生産性の高い企業へ生まれ変わり,資本や技術を提供する国内、外国企業と連携することができるようになった。民間との提携で6つのガス管の操業が始まり、天然ガス輸送網が1,100キロ以上延長された。ラウンド・ワンは高い透明性をもって行われ,今後,浅海,陸上,大水深の鉱区入札と続く。電力でも大消費者電力市場が作られた。メキシコ電力公社以外の一般企業が発電し電力を販売できることとなった。電力料金も下がっており,小消費家庭では2%減,大消費家庭は8%減,商業分野では18%減,工業では30%減となっている。
(f)ペニャ・ニエト政権下で,17,000キロの新規道路の建設または近代化を行い,高速道路を17箇所,1,000キロ以上建設した。メキシコ新空港建設は2016年前半に入札要綱が発表され,主要なインフラ工事が始まる。
(g)メキシコは観光客受け入れ国トップ10に返り咲いた。2014年には2,930万人が訪れ,2012年比25.4%増。今年前半も前年同期比7.6%増。外貨収入も2012年比27.2%増となっている。
(h)国連貿易開発会議(UNCTAD)によると,メキシコはこの先,世界で9番目に魅力的な投資先となる。この2年間におけるメキシコへの外国直接投資は827億ドルにのぼり,前政権の同期より38%増となっている。
(i)本年7月の正規雇用は年率4.4%増。ペニャ・ニエト政権で142万の正規雇用が新たに創出された。
(3)10の政策(教書演説の中でペニャ・ニエト大統領が発表)
(ア)法治国家を強化するための法整備
(a)全国汚職対策システム関連二次法案の成立
(b)全国判決適用法案及び全国青少年裁判法案を含む新刑事裁判制度を補完する法整備
(c)人権保護のための拷問禁止法案,強制失踪に関する法案の成立
(d)地方治安当局を強化するための法案及び刑事関係における各機関の権限を再定義するための憲法改正
(イ)日常の紛争解決のための全国合意
民事,労務,商業,行政の上で一般的に生じる問題を解決するための手段を制定する。2017年の憲法100周年に向け,「メキシコ司法のための協約」を結び,日常の紛争解決のための一連の法案を作成する。
(ウ)貧困対策,貧富の格差の是正策として,開発が遅れる地域への援助
今日,国内には北部,バヒオ地方のように経済発展をしている地域と,南部の開発が遅れた地域がある。社会政策だけでは不十分であり,開発の遅れた地域における生産性を高め,富を生み出す努力が必要。そのため連邦経済特別区法案を設定する。
(エ)疎外地農村の生産活動支援
自給自足の農業を営む小農への援助を目的に,2016年予算に「小農支援プログラム」を含め,小農の収入引き上げ支援を実施する。
(オ)教育インフラの改善
教育改革プログラムに従い,メキシコ証券市場に教育インフラ債を起債。これにより,同プログラムに加入する州政府の多目的貢献基金の資金を3年間で倍増させる。
(カ)メキシコの青少年の能力開発
基礎教育の学生を対象とした「全国英語プログラム」を展開するための予算を2016年予算へ含める。
(キ)文化振興
(a)国民の文化へのアクセスを広め,文化への参加を促進する。
(b)文化省(Secretaria de Cultura)設立のための法案を提出する。これはゼロベース予算の検討結果によって出されたもので,歳出を増すのではなく,文化への投資をより効率的なものにすることを目指したものである。
(ク)メキシコ人の家庭福祉のためのマクロ経済の安定
(a)世界経済情勢に対処するため緊縮財政を維持することを受け,2016年予算はメキシコ国民のプライオリティを考慮し,弱者を支援することに注力するものとする。
(b)貧困対策プログラム,治安対策,科学技術開発と国公立大学への資金援助,経済成長促進プログラムに重点的に力を入れる。
(ケ)全国インフラ開発のための金融
インフラ開発のための新規金融手段を取り入れ,エネルギー分野を含めたインフラプロジェクトへの迅速で有効な透明度の高い投資を可能なものとする。
(コ)緊縮財政
2016年予算を引き続き切り詰めたものとし,省庁や公共機関は予算を有効に使う。経費削減し,福祉への投資を増やす。
2.2016年予算案の提出
8日,2016年予算案(歳入法案,歳出案及びマクロ経済指標)が連邦下院に提出された。2016年の歳入額は,約4兆1千億ペソ,借入金を含めた合計額は約4兆7千億ペソと示され,うち税収額は歳入全体の約60%,メキシコ石油公社(PEMEX)の収益金等による石油関連収入が約20%を占めている。世界的石油価格下落の影響により,石油関連収入は30%減少するが,2013年の税制改革により,石油関連収入以外の税収額が19.3%増であると見込まれている。一方歳出額は,借入金を含めた歳入額とほぼ同額の約4兆7千億ペソが見込まれている。
なお,来年の経済成長率は2.6%~3.6%,インフレ率は3.0%,為替レートは15.9ペソ/ドル,メキシコ産石油の価格を50ドル/1バーレルとしている。
〈人事〉
1.第63期連邦議会2015-2016年上下両院新執行部他人事
1日の第63期連邦議会招集に際し,連邦上下両院議会の幹部人事が行われ,上院議長にPANのロベルト・ヒル・スアルス議員,下院議長にPRDのホセ・デ・ヘスス・サンブラーノ・グリハルバ議員が就任した。
〈治安〉
1.カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン構成員の逮捕
(1)1日,サレス国家治安コミッショナーは記者会見を開き,カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)の構成員とみられるハビエル・ゲレロ・コバルビアス容疑者を,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。
(2)ゲレロ容疑者はCJNGの構成員の一人とみられ,本年3月19日,ハリスコ州オコトラン市で治安維持活動に従事していた国家軍警察(Gendarmeria Nacional)が襲撃を受け,国家軍警察5名及び一般人3名が死亡した事件の首謀者として,連邦治安当局がその身柄を追っていた。また,ゲレロ容疑者には麻薬の密売,誘拐及び殺人の容疑もかけられている。
2.アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件首謀者の逮捕
(1)17日,サレス国家治安コミッショナーは記者会見を開き,犯罪組織「ゲレロス・ウニードス」の幹部,ヒルドラド・ロペス・アストゥディージョ,通称「エル・ヒル」容疑者を,9月15日,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。
(2)19日,ロペス容疑者は連邦検察庁の取り調べに対し,自身が昨年9月26日に発生したアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件に関し,同学校生徒への襲撃,殺害及び証拠隠滅のため遺体焼却を指示した旨認めた。また,経済的見返りの代わりに,「ゲレロス・ウニードス」の活動を支援している9自治体の首長の名前を明らかにした。なお,連邦検察庁は捜査の妨げになることを避けるために,該当する9自治体の名前は公表していない。他方,SEIDOによると,ゲレロ州,モレロス州,メキシコ州及びメキシコ市のいくつかの自治体では犯罪組織が活動していることが確認されていることを受け,これらの州の自治体がゲレロス・ウニードスの活動に関与していないか併せて調査する旨発表している。
〈外交〉
1.アルマグロ米州機構(OAS)事務総長の訪墨
8日,アルマグロ米州機構(OAS)事務総長は,メキシコ外務省においてルイス=マシュー外相と会談を行ったところ,概要以下のとおり。
- 両者は,メキシコが主導している戦略的ビジョンの枠組みでOASを近代化し強化するプロセスにつき意見交換したほか,米州大陸の様々な国におけるOASの役割,また,対話,和解等を促進するためのOASの取組にメキシコがどのように貢献できるか等につき協議を行った。
2.カリブ諸国大使向け事務所の開所式
9日,ルイス=マシュー外相はメキシコ外務省において,メキシコを兼轄しているカリブ諸国の大使向けの事務所の開所式に出席した。同事務所の設置により,メキシコに大使館をもたないカリブ諸国の大使はメキシコ国内に物理的スペースを享受することとなり,要人のメキシコ訪問等の受入れ機能を高めることとなる。同事務所の設置によって,メキシコのカリブ諸国との政治的,経済的,協力関係を強化することが期待される。
3.エジプト軍によるメキシコ人観光客誤爆事件
13日,エジプト西部において同国治安部隊がメキシコ人を含む観光客の乗車した車両を誤爆する事件が発生。8名のメキシコ人が死亡,6名のメキシコ人が負傷した。本件については,当国ハイレベルが前面に立ち,対応の指揮を行っているところ,メキシコ政府の発表内容の取りまとめ次のとおり。
(1)14日,ペニャ・ニエト大統領は軍訓練所の式典における挨拶冒頭において,概要以下のとおり発言した。
昨日,エジプトで発生した遺憾且つ悲惨な事件につき述べさせて頂く。まず,この場を借りて,殺害された被害者の家族友人に哀悼の意を表する。このような事件は,かつて例がなく,メキシコ国家を愕然とさせた。これを受けて,メキシコ政府はエジプト政府に原因の徹底究明を要求しており,同国外相からは首相自身が捜査の指揮を執るとの回答を得ている。また,昨晩,ルイス=マシュー外相と協議を行い,被害者及び同家族の支援のために必要な全ての支援を実施するよう指示した。また,駐エジプト大使と長時間にわたり協議を行い,自分(「ペ」大統領)と外相に対して現状を説明させたほか,被害者が適切な治療を受けられるよう,常に個人的に付き添うよう指示した。
(2)14日,ルイス=マシュー外相は記者会見を開き,概要以下のとおり述べた。
被害者支援のため,トーレス外務省在外メキシコ人保護局長のほか,周辺公館職員を関連業務支援のため現地に派遣した。また,駐メキシコ・エジプト大使に対して,本件事件にかかる徹底究明を行うよう申し入れを行い,同国は事態究明のための特別委員会を結成する予定と承知している。
(3)15日~18日,ルイス=マシュー外相はエジプトを訪問し,エルシーシ大統領及びシュクリ外相とそれぞれ会談し,事件の迅速な捜査等を要求した。
4.バサーニャス駐米メキシコ大使によるオバマ大統領への信任状奉呈
17日,バサーニャス(Miguel Basáñez Ebergenyi)駐米メキシコ大使が,オバマ大統領に対して信任状を捧呈したところ,概要以下のとおり。
(1)ホワイト・ハウスで開催されたセレモニーで,バサーニャス大使はオバマ大統領に対して,ペニャ・ニエト大統領からの挨拶を伝達するとともに,墨米関係を特徴付ける関係強化,協力及びフランクな対話の継続につき,ペニャ・ニエト大統領は引き続きコミットしていく旨述べた。
(2)バサーニャス大使は,幼少時に入国した若者たちのための退去強制延期措置(DACA)の拡大等,オバマ大統領による移民問題に関する行政的措置を評価する旨述べ,当該措置によって,入国に必要な書類を持たない移民(migrantes indocumentados)がより一層米国の社会資本及び経済に貢献できるようになる旨述べた。
5.メキシコ外務省幹部人事
21日,8月末の内閣改造による外相交代を踏まえ,メキシコ外務省の幹部人事が発表されたところ,主要な異動は以下のとおり。
(1)フローレス中南米カリブ担当次官(前外務省米州地域機構・メカニズム局長)
(2)ルイス=カバーニャス多国間・人権担当次官(元駐日大使。前駐イタリア大使)
(3)カサール(Maria Eugenia Casar)AMEXCID長官(現在,UNDPで勤務中のため11月よりAMEXCID長官に就任予定。)
(4)バルボサ(Ana Paola Barbosa Fernandez)大臣首席補佐官(前国連担当局長)
(5)アルダイ(Alejandro Alday Gonzalez)法律顧問(前人権・民主主義担当局長)
6.ペニャ・ニエト大統領による第70回国連総会出席
26日~28日,ペニャ・ニエト大統領は第70回国連総会ハイレベル・ウィークに出席するためニューヨークを訪問したところ,墨大統領府プレスリリースに基づく概要は以下のとおり。
(1)訪問日程
(ア)ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN Women)会合出席(第一部において議長を務める)(9月27日)
(イ)潘基文国連総長との会談(9月27日)
(ウ)国連気候変動会議サミット出席(9月27日)
(エ)太平洋同盟首脳会議出席(9月27日)
(オ)持続可能な開発のための2030アジェンダ採択のための会議出席(9月27日)
(カ)一般討論演説(9月28日)
(2)一般討論演説
28日,ペニャ・ニエト大統領が第70回国連総会一般討論演説を行ったところ,右概要以下の通り。見出しは当館が便宜上付したもの。
(演説全文については,以下で閲覧可能。)
http://www.presidencia.gob.mx/articulos-prensa/intervencion-del-presidente-de-los-estados-unidos-mexicanos-licenciado-enrique-pena-nieto-en-el-debate-general-de-la-70a-asamblea-general-de-la-organizacion-de-las-naciones-unidas/
(ア)70周年
70年前、国連は戦争の恐怖に対する集団的対応として設立された。過去70年間、我々は世界の平和と安定、人権、社会発展といった最も崇高な理想を実現すべく努めてきた。国連によるかかる高い目標のための恒常的努力は、PKOやFAO,UNICEF,UNESCO,WHO、UNDPといった権威ある機関の業務に反映されている。
(イ)ポピュリズムの台頭の危機
格差の拡大,世界的経済危機、社会不満の高まりにより,今日,世界は新しいポピュリズムの台頭の危機に直面している。20世紀は、理解力,責任感,倫理観に欠けた個人が民族を分断した結果に苦しんだ。政治的目的,個人的利益を満足させるために,人々の抱く恐怖や不安を利用し憎悪の念を育てる者の存在に社会は備えなければならない。我々は過去の過ちを繰り返してはならない。我々を人間として定義する原則,すなわち平和,連帯,人権の尊重といった国連を誕生させた高い価値観を取り戻し,支持する時である。移民,女性,人種,宗教,政治的多様性への尊重,とりわけ人間としての尊厳の尊重を支持しなければならない。
今日の世界は複雑かつ不確かであり,様々な隔りが存在するものであるが,分裂は問題解決にはつながらない。
(ウ)グローバルな課題への対応
2015年は,各国が自国の利益を超え,世界市民の利益のために合意に達することができることを示した年である。持続可能な開発のための2030アジェンダ,第3回国連防災世界会議における仙台防災枠組み2015-2030,COP21に向けた取り組み等は,従来のパラダイムを変換し,各国家が国際社会のために行動していくための歴史的決定であった。
(エ)安保理改革
2015年の偉大な国際的合意を励みとし,我々は安保理の改革と近代化を前進させなければならない。1945年に創設されたこの重要なメカニズムは,その限界が明らかになっている。常任理事国が拒否権を自国の利益のために行使し,国際的取り組みを阻止することは断固として受け入れられない。常任理事国は世界の平和と安定に対し特別な責任を負っており,その責任を,とりわけ最も基本的な価値観が侵害されようとしている際に果たさなければならない。この目標を達成するために,メキシコは戦争犯罪,ジェノサイド等の国際法及び人権に対する重大な侵害にあたる事案に対し,常任理事国に拒否権の行使を禁止するフランスのイニシアティブに共に取り組んでいる。
(オ)移民問題
今日,如何なる国家も民族全体の苦しみに無関心でいることはできない。我々は今日,より良い条件を求め移動する数百万の移民を目の当たりとしている。遺憾なことに全ての大陸において,移民たちは常に危険,拒絶と差別,虐待の中を生きている。このような状況は,無関心,誤った信仰,差別主義,政治的思惑により,より深刻なものとなる。移民とその子供たちは,移住した各国の抱える様々な社会問題の元凶であるという烙印を押されている。このような不正義を許してはならない。民主主義の世界から,多様性と包摂の精神を失ってはならない。このような移民に向けられる排除と差別の視線に対し,我々は移民の権利を保護する国際的枠組みを作り上げるための努力を集結させなければならない。世界中に存在する数百万の移民は,一体となったかつ効果的な対策を必要としており,この国際的対策は国連から発出されなければならないものである。
7.ルイス=マシュー外相の第70回国連総会出席
25日~10月1日,ルイス=マシュー外相は第70回国連ハイレベル・ウィークに出席するため,ペニャ・ニエト大統領に同行しニューヨークを訪問したところ,墨外務省プレスリリースに基づく概要は以下のとおり。
(1)マルチのハイレベル会合等
(ア)MIKTA外相会合(9月26日)
(イ)効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(AGCDE)主催の効果的開発のためのジェンダーの視点を伴う予算の役割に関するイベント(9月26日)
(ウ)核兵器の廃絶に向けた国際デー(9月26日)
(エ)太平洋同盟-ASEAN第2回閣僚会合(9月28日)
(オ)エネルギー気候主要経済フォーラム外相会合(9月29日)
(カ)大規模犯罪時における拒否権行使の抑止に関する仏墨主催閣僚級会合(9月30日)
(キ)新開発アジェンダにおける移民・難民問題にかかる協力強化に関するハイレベル会合(9月30日)
(2)バイ会談
ルイス=マシュー外相は,今次国連ハイレベル・ウィークに参加するためにニューヨークを訪問していた各国及び国際機関の外相・代表等と,合計26に及ぶバイ会談を実施した。
米国(ケリー国務長官)
フランス(ファビウス外相)
ドイツ(シュタインマイヤー外相)
スペイン(ガルシア=マルガージョ外務・協力相)
ブラジル(ヴィエイラ外相)
ロシア(ラブロフ外相)
キューバ(ロドリゲス外相)
ヨルダン(Nasser Judeh外相)
EU(モゲリーニ外交安全保障担当上級代表)
エジプト(シュクリ外相)
エルサルバドル(Hugo Martinez Bonilla外相)
グアテマラ(Carlos Raul Morales外相)
ホンジュラス(Arturo Corrales Alvarez外相)
セントビンセント(Ralph Gonsalves首相)
ガイアナ(Carl B.Greenidge副大統領兼外相)
ノルウェー(Borge Brende外相)
スウェーデン(Margot Wallstrom外相)
チェコ(Lubomir Zaoralek外相)
ポーランド(Grzegorz Schetyna外相)
イラン(Mohammad Javad Zarif外相)
トルコ(Ferdiun Sinirlioglu外相)
アラブ首長国連邦(Jeque Abdullah Bin Zayed Al Nahyan外相)
クウェート(Sabah Khalid Al-Hamad Al-Sabah外相)
パレスチナ(Riad Maiki外相)
イベロアメリカ事務局(グリンスパン事務局長)
Zeid Raad Al Hussein国連人権高等弁務官