メキシコ政治情勢(3月)
平成28年4月15日
〈概要〉
【内政】
・7日付け当地「エル・ウニベルサル」紙及び「エクセルシオール」紙にそれぞれペニャ・ニエト大統領へのインタビュー記事が掲載された。
・14日付け「エル・ウニベルサル」紙に掲載された同紙と「ブエンディア&ラレド」社共同による世論調査における2016年3月時点のペニャ・ニエト大統領の支持率は,32%であった。
・29日,ペニャ・ニエト大統領は,健康のためのメキシコ財団第35回総会に出席し,保健分野に係る進捗及び同分野における今後の4つの戦略について述べた。
【外交】
・8日,ルイス=マシュー外相は,訪墨したニン・ノボア・ウルグアイ外相と会談した。
・11日~12日,ルイス=マシュー外相がインドを訪問した。
・13日~16日,ルイス=マシュー外相が,本年4月のペニャ・ニエト大統領の訪問準備のためにドイツ,オランダ,デンマークを訪問した。
・17日,ルイス=マシュー外相は,訪墨したサンチェス・ペルー外相と会談した。
・17日,ルイス=マシュー外相,ペルーのサンチェス外相,コロンビアのエチェベリ外務次官,チリのリベロス外務次官,バルセナECLAC事務局長が参加し,太平洋同盟加盟国会合が開催された。
〈内政〉
1.当地主要紙によるペニャ・ニエト大統領へのインタビュー記事
7日付け当地「エル・ウニベルサル」紙及び「エクセルシオール」紙にそれぞれペニャ・ニエト大統領へのインタビュー記事が掲載されたところ,概要は以下の通り。
(1)「エル・ウニベルサル」紙
(ア)トランプ共和党大統領候補の言動
トランプ共和党大統領候補のビジョン,主張を共有することができないことは明白である。私(ペニャ・ニエト大統領)は,同候補によるメキシコに対する無知に基づく言動を遺憾に思い,非難する者の一人である。メキシコ政府が米国の大統領選の行方,結果を尊重する姿勢にあることに変わりはないが,トランプ候補のような言動に関しては,墨米の関係を害するものであると非難する。
(イ)構造改革と経済
現政権下,メキシコの成長の加速化を阻害する様々な障害を取り除く構造改革を実現してきた。構造改革の成果はすでに現れ始めているが,構造改革の着実な実践は時間を要するプロセスであり,現政権は今後も,構造改革を着実に推進していく。メキシコ政府の財政構造は,1980年代のような過度に石油収入に依存したものではもはやない。我々は経済の多様化を進め,開かれた経済,競争力を有する経済の構築に取り組んで来た。今日,メキシコ経済は貿易,工業生産,内需によって支えられる経済へと変貌を遂げている。メキシコは新興経済国であるが,各種経済指標は,世界の多くの国々の経済が停滞しているにもかかわらず,メキシコ経済が成長していることを示している。
(ウ)警察制度改革
私(ペニャ・ニエト大統領)は,統一州警察の創設を支持する立場であり,統一州警察創設に向けたイニシアティブを議会に提出しているが,重要なことは,メキシコ全土の治安強化につながるより能力のある警察組織が構築されることである。
(2)「エクセルシオール」紙
(ア)トランプ共和党大統領候補による米大統領選挙キャンペーン
トランプ候補の主張が米大統領選における単なるレトリックなのかどうかは分からないが,右派左派という政治的イデオロギーに関わらないポピュリズムの台頭の可能性を以前にも警告した。我々人類の歴史は,ある社会が直面する問題,課題の解決には時間を有することを示しているが,残念ながら,単純かつ安易な解決策を叫ぶ声高なレトリックが,人類を不吉な状況に導いてしまうことも我々の歴史が証明している。ムッソリーニやヒトラーは,経済危機という状況下に存在する問題を利用する形で,権力にたどり着いた。そして,このような状況が国際紛争につながったことを,今日,我々は十分に理解している。このような状況が世界の如何なる場所でも繰り返すことがないよう望んでいる。
(イ)独立系候補(Independiente)
独立系候補と呼ばれる者が,ある政党から生まれた者か,完全に独立している者かを問わず,結局のところ,責任を果たす政府を構成しなければならないことに違いはなく,責務を果たすためには,合意を構築する必要があることに変わりはない。
(ウ)メキシコ石油公社(PEMEX)
世界的石油価格の下落により,世界中の石油関連企業が厳しい状況に置かれているが,PEMEXは二つのアドバンテージを有している。まず,政府の支援を得られることである。しかし,政府に依存するのではなく,PEMEX自らが組織改革を行う必要があることも言及しておく。もう一つのアドバンテージは,エネルギー改革の成果により,他の石油関連企業が有していないチャンスをPEMEXが得られる立場にあることである。
(エ)2018年大統領選
2018年大統領選の話をするのは時期尚早であるが,今日,政府を指揮するに適したプロフィールを有する候補者を求める社会的要求が存在することは,幸運なことである。私(ペニャ・ニエト大統領)は,制度的革命党(PRI)の大統領候補擁立に際し,党員の一人として意見を述べることはあろうが,それ以上の役割を担う考えはない。
3.世論調査:大統領支持率
(1)14日付け「エル・ウニベルサル」紙に掲載された同紙と「ブエンディア&ラレド」社共同による世論調査における2016年3月時点のペニャ・ニエト大統領の支持率は,32%(前回11月調査時の42%から10ポイント減)であった。また,不支持率は56%(同51%から5ポイント増)であった。
(2)ペニャ・ニエト政権の取組の中で評価しない項目として,構造改革,物価上昇・ペソ安ドル高,治安対策・犯罪組織対策がそれぞれ8ポイントで最も高い数値という結果であった。
4.ペニャ・ニエト大統領の健康のためのメキシコ財団第35回総会への出席
29日,ペニャ・ニエト大統領は,健康のためのメキシコ財団(La Fundacion Mexicana para la Salud)第35回総会に出席し,保健分野に係る進捗及び同分野における今後の4つの戦略について述べた。
(1)国家開発計画の保健分野における進捗
(ア)現政権下において社会保険のユニバーサル化を推進しており,今日までに,国民保険(Seguro Popular)の加入者は,現政権発足時から約450万人増となる5,700万人に達している。また,加入者の増加のみならず,保健省,メキシコ社会保険庁(IMSS),国家公務員共済庁(ISSSTE)を通じ,医療インフラの整備のために3億4,000万ペソを投資し,580以上の病院,2,800以上の診断所の新規設立及び設備の近代化を実施した。
(イ)病気の予防は国民の健康状態改善のための最重要項目である。現政権下,IMSS及びISSSTEそれぞれの病気予防プログラム,また,国民保険の病気予防プログラムを通じ,国民に対し,生活習慣を改善し,病気の予防に気を遣うための啓蒙活動を国民に対し広く展開している。
(ウ)社会的弱者に対する医療サービスの改善も重要な課題である。移動診療所プログラムを通じ,医療サービスが行き届かない約2万5,000の地域において,420万人以上を対象に診療を実施した。
(エ)質の高い医療サービスへのアクセスの保証に努めており,IMSS及びISSSTEは,救急医療における待ち時間の縮小,外科手術の日程調整の効率化等,組織のイノベーションに取り組んでいる。
(オ)保健分野における国際協力を促進しており,メキシコは国連の持続可能な開発のための2030アジェンダ策定を推進した。また,WHOとも複数のプロジェクトにおいて協力しており,その中にはジカウイルス感染症への対応も含まれる。
(カ)2014年,1歳児を対象とする麻疹,風疹,おたふくかぜの予防接種は,対象者の97.8%に実施された。これによって,メキシコはミレニアム開発目標(MDGs)に定められた目標を達成した。
(キ)2012年~2014年の期間において,乳児死亡率は6.1%減少し,5歳未満の死亡率は7%減少した。また,同期間,妊産婦死亡率は8%減少した。
(ク)社会開発政策評価議会(CONEVAL)によると,同期間,それまで医療サービスへのアクセスを持たなかった450万人が,新たに医療サービスへのアクセスを得た。
(2)保健分野における4つの戦略
(ア)保健分野各関連機関の登録者名簿を精査し,依然,保険,医療サービスへのアクセスを有していない人々を適切に把握する。
(イ)連邦,州のそれぞれの医療機関のみならず,民間の医療機関との連携体制を強化し,医療インフラの効率的な使用体制を構築する。
(ウ)昨今の医療テクノロジーの進化を考慮し,それらを活用した疾病の早期発見,適切な処置を可能とする医療体制を構築する。
(エ)州政府が管轄する医療機関における医療サービスの向上のためのプログラムを策定し,実行する。
〈外交〉
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(1)両外相は二国間関係の評価を行い,二国間の政治対話,貿易・協力関係の重要性について一致した。とりわけ,両外相はメキシコ-ウルグアイ協力共同基金(Fondo Conjunto de Cooperacion Mexico-Uruguay)の役割を強調した。同基金発足後,保健,社会開発,環境,気候変動,文化,科学・テクノロジー等の分野で17の協力プロジェクトが展開されている。
(2)また,両外相は教育分野における協力は二国間協力の要石であり,更なる促進が必要ということで一致,この目的達成のために,2016年第二四半期に,教育・文化協力共同委員会第6回会合を開催することで合意した。
(3)さらに両外相は,ラテンアメリカ・カリブ地域の現状,太平洋同盟,イベロアメリカ首脳会合,国連安保理,本年5月メキシコで開催されるECLAC第36回総会等のテーマに関し意見交換を行った。その中で両外相は,メキシコが参加する太平洋同盟とウルグアイが参加するメルコスールの関係強化に対する興味で一致した。
(4)最後に,ルイス=マシュー外相は,本年10月19日~21日,コアウイラ州トレオン市で開催されるラテンアメリカ統合連合(ALADI)エキスポ2016にウルグアイを招待した。
2.ルイス=マシュー外相のインド訪問
11日~12日,ルイス=マシュー外相がインドを訪問した。
(1)ナレンドラ・モディ首相との会談(11日)
(ア)冒頭,ルイス=マシュー外相は,ペニャ・ニエト大統領からモディ首相への,本年中のメキシコ訪問招待を伝達した。
(イ)両者は,2015年9月の国連総会におけるペニャ・ニエト大統領とモディ首相の首脳会談のフォローアップとして,両国経済の強大なポテンシャル,また,両国それぞれにおいて実施されている構造改革がもたらす二国間の貿易・投資の機会に関し,意見交換を実施した。
(ウ)また,両者は両国共通の関心事項である分野,とりわけ,航空宇宙,エネルギー,通信,農業,食料,住宅,都市開発,教育,技術者養成,中小企業支援の分野における相互の科学・技術協力を促進することで一致した。
(2)スシュマ・スワラージ外相との会談(12日)
(ア)両外相は二国間関係の評価を行い,両国が共有する条件,意欲,ポテンシャルに応えるため,両国の関係をより活性化させる必要性で一致した。また,2016年中にメキシコにおいて,墨印政策協議メカニズム(Mecanismo de Consultas Politicas),貿易・投資・経済協力に係るハイレベルグループ会合及び二国間委員会の会合を実施することを通し,二国間の対話を強化することで合意した。
(イ)また,両外相は,それぞれが墨印を相互に公式訪問するよう招待した。併せて,モディ首相の2016年年末又は2017年初頭のメキシコ訪問実現に向け,両国が共同で取り組む旨確認した。
(ウ)両外相は,両国共通の関心事項である宇宙技術,またその技術を用いた農業,漁業,水質資源,気候変動に係る共同プロジェクトに関し意見交換を実施した。右共同プロジェクトは,2014年の墨宇宙庁とインド宇宙研究機関(ISRO)間による協力のための覚書によって促進されている。
(エ)また,両外相は,エネルギー安全保障,ディアスポラへの対応,科学・技術協力,ジェンダーの平等,気候変動に関する両国の立ち位置及び,メキシコのPKO活動参加に関し意見交換を実施した。
(オ)さらに,両外相は,墨印両国はG20の枠組みにおいて,世界経済の安定及び成長の実現に向け,また,世界経済ガバナンスの良化に向け取り組む旨確認した。
(カ)最後に,両外相は2014年2月よりオブザーバー国として参加しているインドの太平洋同盟における積極的な関与を称えると同時に,同枠組みにおける,科学・技術,情報技術,教育,イノベーション及び中小企業支援の分野における協力の機会につき確認した。
(3)その他(11日)
(ア)11日,ルイス=マシュー外相はThe Indian Council of World Affairs (ICWA)にて,メキシコとインドの二国間関係に関する講演を実施した。
(イ)また,同日,ルイス=マシュー外相はインド産業連盟(CII)代表と会談した。同会談においては,CIIとインド商工会議所連合会(FICCI)の共催で,本年下半期にインド-ラテンアメリカ会議(Conclave India-America Latina)が,メキシコで開催されることが発表された。
3.ルイス=マシュー外相のドイツ,オランダ,デンマーク訪問
13日~16日,ルイス=マシュー外相が,本年4月のペニャ・ニエト大統領の訪問準備のためにドイツ,オランダ,デンマークを訪問した。
(1)ドイツ(13日~15日)
(ア)今般のルイス=マシュー外相のドイツ訪問は,本年4月11日に予定されるペニャ・ニエト大統領のドイツ国賓訪問の準備を目的としたもの。ルイス=マシュー外相はシュタインマイヤー独外相と会談し,二国間アジェンダの見直し,とりわけ,2015年6月ベルリンで開催された墨独二国間委員会(Comision Binacional Mexico-Alemania)で合意された項目に関するフォローアップを実施した。また,両外相はペニャ・ニエト大統領のドイツ国賓訪問の準備状況及び本年予定されているメキシコにおけるドイツ年,ドイツにおけるメキシコ年の準備状況を確認した。
(イ)ルイス=マシュー外相はミュラー独経済協力開発相と会談した。メキシコはドイツとエネルギー,環境,気候変動,教育における二国間協力プログラムを展開しており,とりわけ三角協力及び教育分野における戦略的関係を構築している。今般の会談で,両者は二国間協力プログラムの進捗具合及び優先事項を確認した。
(ウ)その他,ルイス=マシュー外相は,ドイツ連邦議会の独墨友好議連,経済開発委員会,人権委員会,人道的支援委員会,観光委員会にそれぞれ所属する連邦議員との会合を実施した。
(2)オランダ訪問(15日)
(ア)ルイス=マシュー外相はオランダを訪問し,クーンデルス蘭外相と会談,両外相は政治対話,経済関係促進,二国間及び多国間協力に係る二国間アジェンダの見直しを実施した。また,両外相は二国間の学術交流促進のための相互の奨学金プログラムを拡充することに対する関心を確認した。
(イ)さらに両外相は,本年4月に予定されるペニャ・ニエト大統領のオランダへの国賓訪問の準備状況を確認した。
(3)デンマーク訪問(16日)
(ア)ルイス=マシュー外相はデンマークを訪問し,イエンセン・デンマーク外相と会談,保健,エネルギー,環境分野における二国間協力の成果を称えた。ルイス=マシュー外相は,両国政府間のみならず,企業間,大学間等の異なるセクターにおける更なる協力を促進していく重要性を強調した。
(イ)両外相は,地域及び国際的課題に関し意見交換を実施した。ルイス=マシュー外相はヨーロッパにおける難民問題に対し,メキシコ政府は引き続き注視していく旨述べた。他方,イエンセン・デンマーク外相は,2015年7月よりオブザーバー国として参加している太平洋同盟の加盟国と,より緊密な対話を促進していくことに関する興味を示した。
(ウ)さらに,両外相は本年4月13日~14日に予定されるペニャ・ニエト大統領のデンマークへの国賓訪問の準備状況を確認した。
(4)本年4月,ペニャ・ニエト大統領は今般ルイス=マシュー外相が訪問した三国に加え,ノルウェーを訪問する予定。
4.サンチェス・ペルー外相の訪墨
17日,ルイス=マシュー外相は,訪墨したサンチェス・ペルー外相と会談した。両外相は,ラテンアメリカ地域の諸問題,太平洋同盟及びCELACへの両国への関わり,二国間の貿易及び投資,協力アジェンダに関し意見交換を行った。
5.太平洋同盟加盟国(メキシコ,ペルー,コロンビア,チリ)会合
17日,ルイス=マシュー外相,ペルーのサンチェス外相,コロンビアのエチェベリ外務次官,チリのリベロス外務次官,バルセナECLAC事務局長が参加し,太平洋同盟加盟国会合が開催された。同会合では,太平洋同盟加盟国とオブザーバー国の教育,イノベーション,競争力に係る協力プロジェクトが議題となった他,本年7月,チリで開催される第11回太平洋同盟サミットにて俎上に載せられる太平洋同盟の目標及び戦略的アクションに関して議論が交わされた。また,バルセナECLAC事務局長より漁業に係る協力プロジェクトが発表された。