メキシコ政治情勢(5月)

平成28年6月9日
〈概要〉

【内政】
・15日の教師の日を境に,教職員労働者全国協議会(CNTE)を中心とする教育改革に反対する勢力の抗議活動が再び活発化している。他方,30日,教育省は2016-17年度より,基礎教育分野の学校がそれぞれ,従来の授業日200日又は授業日185日から選択できるようにする新しい教育プランを発表した。
・17日,ペニャ・ニエト大統領が同性婚合法化に向けた憲法改正及び連邦民法の改正案を連邦議会に提出した。
・18日,上院,下院共に6月13日~17日に臨時国会が開催される旨発表された。
・19日,ルイス=マシュー外相が墨外務省にてアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件被害者遺族と面談した。

【外交】
・2日,ルイス=マシュー外相が訪墨中のハモンド英国外務・英連邦大臣と会談した。
・4日~7日,ルイス=マシュー外相がカリフォルニア州を訪問した。
・5日,ペニャ・ニエト大統領はオバマ大統領と電話会談を行った。
・10日,ルイス=マシュー外相が「国連,平和及び安全」に関する国連総会ハイレベル・テーマ別討論に出席し,ステートメントを行った。
・16日,ルイス=マシュー外相と訪墨中の胡春華中国共産党広東州書記と会談した。
・18日,ルイス=マシュー外相は訪墨したジョンソン・ジャマイカ外相と共に,第8回メキシコ-ジャマイカ二国間委員会を主催した。
・23日~27日,メキシコ市で国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の第36回総会が開催された。
 
〈内政〉

1.教育労働者全国協議会(CNTE)の抗議活動
(1)15日の教師の日,教職員労働者全国協議会(CNTE)を中心とした教育改革に反対する勢力がメキシコ市を含む9州でデモ行動を実施した。その後も,メキシコ市,オアハカ州,チアパス州等で教育改革反対のデモ行動が断続的に続けられている。
(2)教育改革反体勢力による抗議活動に対し,教育省は18日,3日間以上無断で授業を放棄した約3,000人の教師を,法に基づき解雇する旨発表する等,教育改革の推進に向け,厳格な姿勢で対応している。
(3)16日付「エクセルシオール」紙が掲載したBGC社との共同世論調査によると,回答者(成人400人)の76%がCNTEのデモに反対しており,79%が教育省以下関係機関の教育改革推進に向けた姿勢を評価している。
(4)30日,教育省は2016-17年度(2016年8月~2017年7月)より,基礎教育分野の学校がそれぞれ,従来の授業日200日又は授業日185日から選択できるようにする新しい教育プランを発表した(注:185日を選択した場合,1日の授業時間を延長し,200日の授業日で行われる授業時間と同様の授業時間を確保する)。教育省は,地域の習慣,気候等によって,各学校がより効果的に授業を行うことができる環境を整備するために教育プランである旨説明している。
 
2.同性婚合法化に向けた憲法改正及び連邦民法の改正案の提出
(1)17日,ペニャ・ニエト大統領が同性婚合法化に向けた憲法改正及び連邦民法の改正案を議会に提出した(注:正式名称は「差別のない婚姻法」であり,同性婚のみを規定するものではないが,報道においては同性婚合法化が焦点となっている)。
(2)現在はメキシコ市,キンタナ・ロー州,コアウイラ州のみにおいて州民法(メキシコ市は市民法)で同性婚を規定しているが,2015年5月の連邦最高裁判所が,同性婚を禁止する州民法は憲法が定める個人の権利の侵害にあたるという判決を下している。同判決によって,メキシコ全土で同性婚は合法とされているが,州民法で規定されていない州においては,アンパロ訴訟を起こす必要がある。その他,シビル・ユニオンの制度を導入している州もあるが,今般のペニャ・ニエト大統領のイニシアティブは,メキシコ全土で男女間の婚姻と同様の権利を有する同性婚の合法化を目指したものである。
 
3.臨時国会の開催日程の発表
(1)18日,ガンボア制度的革命党(PRI)上院会派長,エレーラ国民行動党(PAN)上院会派長,バルボサ民主革命党(PRD)上院会派長,カマチョPRI下院会派長,コルテスPAN下院会派長,アコスタPRD下院副会派長が共同記者会見を開き,上院,下院共に6月13日~17日に臨時国会を開催する旨発表した。
(2)同臨時国会では,国家汚職対策システム関連二次法案(実施法案),統一州警察の創設にかかる憲法改正案,マリファナの医療目的及び個人使用合法化に向けた法案の審議・採決が行われる予定。
 
4.ルイス=マシュー外相とアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件被害者遺族の面談
 19日,ルイス=マシュー外相が墨外務省にてアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件被害者遺族と面談し,米州機構(OAS)人権委員会から派遣されていた専門家グループ(GIEI)が行った20項目の勧告も考慮し,同事件被害者遺族及びOAS人権委員会との対話を継続しながら,同事件の真相解明に取り組んでいく旨約束した。
 

〈治安〉

1.メキシコ警察の評価
 5日,国際警察学協会(International Police Science Association)が発表した2016年世界警察及び国内治安指標(World Internal Security & Police Index)によると,調査対象127ヶ国中,メキシコは118位であった。警察機構の能力,法整備,成果等を基準に1.000満点で評価されたメキシコのポイントは0.394であり,ラテンアメリカ地域ではベネズエラの0.381ポイントに次いで,ワースト2位という結果であった。
 
2.現役メキシコ・サッカー代表選手の誘拐事件
(1)28日,ギリシャ・リーグのオリンピコスに所属し,メキシコ・サッカー代表でもプレイするガルシア・アラン・プリド選手が,タマウリパス州ビクトリア市で誘拐される事件が発生した。
(2)30日,治安当局のオペレーションにより,プリド選手は無事解放された。また,同選手の親族が誘拐容疑で逮捕された。
 
〈外交〉

1.ルイス=マシュー外相とハモンド英国外務・英連邦大臣との会談
(1)2日,ルイス=マシュー外相は訪墨中のハモンド英国外務・英連邦大臣と会談,2国間の政治対話,経済協力に関する評価を行うと同時に,法治国家と人権,移民,難民,ジェンダーに関する政治,両国が位置するそれぞれの地域情勢等に関し意見交換を行った。
(2)両外相は,2015年3月2日~5日に実施されたペニャ・ニエト大統領の英国国賓訪問の成果を強調,また,同訪問の枠組みにおいて,ペニャ・ニエト大統領及びキャメロン英首相両首脳立ち会いの下,ミード外相(当時)とハモンド外相の間で署名された英墨共同宣言に関し,同共同宣言の中に含まれた教育,観光,エネルギー等の分野の協力に係る14の合意文書の内容実現に向け,両国が協力を深めていくことで一致した。
 
2.ルイス=マシュー外相のカリフォルニア州訪問
(1)4日~7日,ルイス=マシュー外相がカリフォルニア州を訪問。ブラウン・カリフォルニア州知事,同州議会議員等と会談したほか,ロサンゼルス市のメキシコ人コミュニティーによる5月5日のプエブラ戦勝記念日の催しに出席。同コミュニティーのリーダーを表彰した。
(2)今回の訪問は,メキシコとカリフォルニア州の関係強化及び,米国におけるメキシコ人コミュニティーの重要性をアピールすることに主眼が置かれたもの。
 
3.ペニャ・ニエト大統領とオバマ米大統領の電話会談
(1)5日,ペニャ・ニエト大統領はオバマ米大統領と電話会談を行った。両首脳は,米墨の良好な二国間関係を今後も維持し,両大統領の政権下で更に深化させることで一致した。
(2)オバマ大統領は,ペニャ・ニエト政権における諸種の構造改革,とりわけ,ペニャ・ニエト大統領が先日連邦議会に提出した市民紛争における簡易訴訟制度改革を目的としたイニシアティブを評価した(注:4月28日,ペニャ・ニエト大統領が連邦議会に送付した法案。メキシコにおける訴訟手続きの遅さに鑑み,市民紛争に係る案件を中心に訴訟手続きの簡易化を図る内容)。また,治安対策,刑事司法の分野における両国の協力を賞賛した。
(3)両首脳は,犯罪組織対策等,米墨が共有する地域の課題に関し意見交換を行った。また,中米諸国から米国を目指す同伴者のいない未成年移民に対し,引き続き必要な対応を行っていくことの重要性で一致した。
(4)両首脳は,先日共にそれぞれの議会で承認されたカルロス・サダ駐米メキシコ大使及びロベルト・ジェイコブソン駐墨米大使の就任に対し,相互に祝辞を述べた。また,本年6月にカナダのオタワ市で開催が予定されている第8回北米首脳会談に出席する旨確認した。
 
4.ルイス=マシュー外相の「国連,平和及び安全」に関する国連総会ハイレベル・テーマ別討論出席
 10日,ルイス=マシュー外相が「国連,平和及び安全」に関する国連総会ハイレベル・テーマ別討論に出席し,ステートメントを行った。同ステートメントの概要は以下の通り。
(1)直近の例として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」及びCOP21におけるパリ協定が示すように,今日の国際社会が抱える課題に立ち向かって行く上で多国間主義が必要不可欠である。国連はその正統性及び能力から最も重要な国際機関として承認されてきた。如何なる国も,孤立した状態で国際社会が直面する様々な課題を解決することは出来ない。他方,急激に変化する国際情勢下,我々が構築してきた国際機関が今日生じている変化に充分に適合できていないことも現実であり,とりわけ,平和及び安全の分野では顕著である。
(2)国際場裡におけるパワーバランスに変化が生じ,国家とは異なるプレイヤー,とりわけ,過激派,テロリストがその存在感を高めている状況下,国連が現実に即していない組織であると認識されるリスクが顕在化している。このような中,いくつかの国々が単独主義に陥り,国連憲章によって禁止されている単独での武力行使に及ぶ可能性も考えられるが,このことは国際社会にとっての後退を意味するものであり,歴史はこのような行為が不幸な結果を人類にもたらすことを証明している。
(3)メキシコは国際社会が直面する課題に対し,歴史的に多国間主義による解決を尊重すると同時に,平和及び安全の実現に向けた国連の能力を確信してきた。国際紛争の平和的解決に関し,メキシコ外交における原則と関心は一致している。今日,メキシコは数十年来必要としていた改革に取り組んでいるが,この改革はメキシコに地球規模の責任ある役割を果たす国家への変貌を求めるものでもある。それ故に,2014年,ペニャ・ニエト大統領はメキシコのPKO活動再開という決断を下した。その決断から7ヶ月の間に,メキシコはハイチ,西サハラ及びレバノンのPKO活動に参加した。また,コロンビア政府と左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との和平交渉妥結後に創設されるコロンビア停戦監視団に,メキシコが参加する旨表明する。
(4)メキシコは確固たる決意で国連安保理改革を推進してきた。21世紀の国家の枠組みを超える課題に対し,20世紀の戦後構造で対応することは不可能である。国連安保理は一国の利益を代表するものであってはならず,国際社会のコンセンサスを構築する「共鳴箱」(caja de resonancia)でなければならない。国連安保理は国連加盟国全体を代表することを目的にその理事国を拡張すると同時に,全ての加盟国に同等の権利を保証する制度へと変革しなければならない。それ故に,メキシコは,大量殺人犯罪に関し国連安保理の拒否権の行使を禁止するイニシアティブを推進してきた。
(5)メキシコは,女性のエンパワーメントを国連の全てのアジェンダに含めるべきと考えており,これは,国際紛争の仲介,和平交渉,戦闘行為の停戦においても同様である。国連は加盟国全体を代表する国際機関であるが,加盟国全体の人口の過半数以上が女性であることも踏まえれば,国連が担う全ての責務に対し,女性の参加を促進して行かなければならない。女性のエンパワーメントに関し様々な進捗が見られるが,国際紛争の仲介交渉者に関しては9%,PKO軍に関しては4%のみが女性である。
 
5.胡春華中国共産党広東州書記の訪墨
 16日,ルイス=マシュー外相と訪墨中の胡春華中国共産党広東州書記が,2013年6月の習近平国家主席の訪墨の際に構築された「中墨戦略的・全面的パートナーシップ」の枠組みにおける政治対話を促進させることを目的として会談した。また,同枠組みの中で,在広東州メキシコ総領事館設立10周年が祝われた。
 
6.ジョンソン・ジャマイカ外相の訪墨
(1)18日,ルイス=マシュー外相は訪墨したジョンソン・ジャマイカ外相と共に,第8回メキシコ-ジャマイカ二国間委員会を主催した。同委員会の会合の中で,両国外相は両国間の優れた政治対話及び相互理解に満足している旨述べると共に,二国間関係の更なる深化,協力関係の強化に対し改めてコミットした。また,本年3月18日に祝われた二国間の外交樹立50周年を改めて祝福した。
(2)第8回メキシコ-ジャマイカ二国間委員会では,両国間の二重課税,租税回避を回避するための協定,メキシコ研究者の西インド諸島大学(UWI)受入れのための覚書,メキシコ国立自治大学(UNAM)とUWIの協力協定の延長等が署名された。
 
7.国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)第36回総会
23日~27日,メキシコ市で国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の第36回総会が開催された。
(1)ペニャ・ニエト大統領の開会式における挨拶概要
(ア)メキシコがECLAC総会開催国となるのは光栄。メキシコにとって開催国となる意味は,一つ目はメキシコ人であるバルセナECLAC事務局長をメキシコに迎えることである。バルセナ事務局長はECLACのトップとして能力,プロフェッショナリズムそして指導力を発揮してきている卓越したメキシコ人女性である。二つ目は,ECLACの創設国の一つであるメキシコが,中南米地域の開発についてのECLACのミッションを引き続き強く支持していることにある。三つ目は開発における平等というECLACの掲げるアジェンダがメキシコの政策と一致しているからである。
(イ)メキシコはアジェンダ2030の策定に積極的に参加した。そして17の目標の達成に向けた行動をしかるべくフォローするために,大統領府との連携の下に特別技術委員会を設立した。
(ウ)アジェンダ2030の履行と関連して,メキシコにおける今政権の3年半の公共政策や構造改革を通じて学習した内容を共有する。第一に,公共政策は,社会がその企画立案及び実施に参加することにより,より充実したものとなるということである。第二に,構造改革は改革が行われる分野の間に一貫性と相互補完性がなければならないということである。たとえば,金融改革が社会包摂プログラムを補完することで,社会政策がより充実したものとなる。また,通信改革と教育改革のシナジーが教育水準の向上につながる。第三に,権利が保障される社会をめざすことである。法によって認められた権利をすべての人々が平等に享有することを推進するアプローチが重要である。この観点から,メキシコはすべての国民にインターネットアクセス権利を認め,議会選挙への候補者の半数を女性候補とすることを政党に義務付け,母子家庭の母親のための生命保険設立や高齢者への年金の拡大を図り,メキシコ国内の地域格差を是正するために南部の後発開発地域での経済特区の開設も近く実現する。第四に,価値の創造,投資促進,競争力や生産性の向上のために,制度的安定と透明性を確保することである。その観点から経済競争委員会や通信委員会の制度的強化に努めている。さらに石油やクリーンエネルギー分野の入札では信頼でき透明性のある入札を確保している。第五に,天然資源の保存と環境保護に向けて政府は確固たる政策を推し進めることである。メキシコは,気候変動に関するパリ協定に署名し,温室効果ガス排出削減のためにエネルギー源をクリーンエネルギーに移行させるための立法を行い,自然保護区域を拡大した。これら5点は,ECLACの目標である「平等のための成長,成長のための平等」を実現するために本質的に重要な要素である。メキシコは,中南米地域の持続的開発のために引き続き努力する所存。
(エ)この地域の統合,繁栄及び持続的開発のためにECLACの役割は極めて重要。中南米各国国内及び中南米諸国間の格差を是正するためにECLACが負っているミッションを果たすためにメキシコ人女性であるバルセナ事務局長が行ってきた努力に対し,改めて深い敬意を表したい。
(2)閉会式におけるルイス=マシュー外相の挨拶概要
(ア)総会が閉会するとともに,アジェンダ2030の履行という厳しい段階が始まる。今次総会はアジェンダ2030履行のための出発点となった。アジェンダ2030という地球規模の課題の履行をECLACという地域の会合で議論したことの意義は,次のとおり要約できる。(1)今次総会で採択された「2030の地平」などの文書が,中南米各国が統合的かつ柔軟に自国の事情を勘案しつつ推進する開発政策の指針になる。この指針に沿って,中南米諸国は共に発展する。(2)人間を中心とした中期,長期的な公共政策を促すことになる。今次総会で設立が合意されたフォーラムが,政策の実施状況を確認する場として機能する。(3)すべてのセクターを包含する包摂的開発の重要性が確認された。
(イ)メキシコは中南米地域の協力の拠点になる努力を続け,2年後に議長国をキューバにバトンタッチするとき,どこまで前進したかを明らかにする。成長のモデルは様々で,変革のインパクトの大きいモデルを各国が選択することができるのは有益である。公共政策に市民社会が参加し,計画から評価まで市民社会が行うことが目標である。
(ウ)メキシコ人女性のバルセナ事務局長が8年間にわたりECLACのトップを務めてきたことは,メキシコにとって大きな誇りである。バルセナ事務局長はECLAC初の女性事務局長でもある。この場を借りて,バルセナ事務局長がメキシコ,そして中南米地域を代表してきたことに敬意を表したい。