メキシコ政治情勢(10月)

平成28年11月14日

 
〈概要〉
【内政】
・3日,2014年11月にペニャ・ニエト大統領が治安対策パッケージの一つとして提案した全国統一緊急時通報電話911の運営が16州で開始された。
・12日,ドゥアルテ・ベラクルス州知事が休職し,その後,失踪した。
・17日,連邦最高裁判所判事のアントニオ・ベルムーデス氏が,メキシコ州メテペック市で殺害される事件が発生した。
・25日,ペニャ・ニエト大統領は,ラウル・セルバンテス前上院議員を連邦検察庁(PGR)長官に,アレリ・ゴメスPGR長官を公共行政相に任命する人事案を連邦上院議会に提出した。
【外交】
・4日,ルイス=マシュー外相は,ジャン=マルク・エロー仏外務・国際開発相の招待に応じフランスを公式訪問した。
・11日~12日,ジェイ・ジョンソン米国土安全保障長官が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領,ルイス=マシュー外相,ミード大蔵公債相とそれぞれ会談した。
・12日,ルイス=マシュー外相は,訪墨したディオン加外相と第1回ハイレベル戦略的会合(DESAN)に出席した
・12日,ペニャ・ニエト大統領は,訪墨したユハ・シピラ・フィンランド首相と首脳会談を行った。
・26日~29日,ペニャ・ニエト大統領がコロンビアを訪問した。
 
〈内政〉
1.ドゥアルテ・ベラクルス州知事の休職及び失踪
(1)12日,ドゥアルテ・ベラクルス州知事は同州議会に対し,休職願を提出した。同州知事はビデオメッセージを発出し,本年6月に実施された選挙戦におけるネガティブキャンペーンとして野党がねつ造した同州知事に対する公金横領疑惑に対し,自身の潔白を証明したいとし,州知事の任期終了まで48日(11月末まで)のタイミングで休職願を提出することとした理由を説明した。同日夜,同州議会は同州知事の休職を承認し,フラビーノ・リオス同州内務長官を代理知事に任命した。
(2)ドゥアルテ・ベラクルス州知事には350億ペソの公金横領疑惑がかけらており,PGR及び連邦高等司法官(ASF)が捜査を行っている。また,本年9月26日には,同州知事が所属する与党制度的革命党(PRI)はドゥアルテ州知事の党員資格を停止する処分を行った。
(3)ドゥアルテ政権の6年間(2010~16年)で,ベラクルス州の債務は113%増加しており,総額1,800億ペソを超えている。また,同時期の経済成長率はカンペチェ州,チアパス州,タバスコ州に次いで全国ワースト4位となる年平均1.6%と低迷してきた。更には,同州北部地域において,100を超える場所で犯罪組織に殺害されたとみられる身元不明の遺体が相次いで発見される等,治安情勢の悪化も指摘されてきた。このような情勢に対する有権者の不満は,本年6月の同州知事選で,与党PRIが初めて同州知事職を失う結果を招いた。
(4)ドゥアルテ州知事は,その後失踪し,現在,PGRが公金横領疑惑,犯罪組織との関与疑惑等の容疑で,その行方を追っている。
 
2.ペニャ・ニエト政権の内閣改造
(1)25日,ペニャ・ニエト大統領は,ラウル・セルバンテス前上院議員をPGR長官に,アレリ・ゴメスPGR長官を公共行政相(本年7月18日にアンドラーデ前公共行政相が辞任した後空白となっていた)に任命する人事案を連邦上院議会に提出した。
(2)同26日,上院議会はセルバンテス前上院議員をPGR長官に任命する人事を,賛成82票,反対3票,棄権1票で承認し,同日,セルバンテス新PGR長官が就任宣言を行った。
(3)同27日,上院議会はゴメス前PGR長官を公共行政相に任命する人事を,賛成95票,反対3票で承認し,同日,ゴメス新公共行政相が就任宣言を行った。
 
〈治安〉
1.全国統一緊急時通報電話911の開始
3日より,2014年11月にペニャ・ニエト大統領が治安対策パッケージの一つとして提案した全国統一緊急時通報電話911の運営が16州(バハ・カリフォルニア,コアウイラ,コリマ,チアパス,チワワ,ドゥランゴ,グアナファト,モレロス,ナジャリット,ヌエボ・レオン,オアハカ,キンタナ・ロー,ソノラ,トラスカラ,プエブラ,サカテカス)で開始された。
 
2.連邦最高裁判所判事の殺害事件
17日,連邦最高裁判所判事のアントニオ・ベルムーデス氏が,メキシコ州メテペック市で何者かに殺害される事件が発生。同判事は,シナロア・カルテルのホアキン「チャポ」グスマンの裁判等,犯罪組織関連の裁判を複数担当しているところ,今回の殺害にはいずれかの犯罪組織の関与が疑われている。
 
3.イグアラ警察署長の逮捕
21日,2014年9月に発生したアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件の際に,イグアラ市の警察署長を務めていたフェリペ・フローレス・バラスケス容疑者が逮捕された。同容疑者の逮捕により,アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件の真相解明に進展が期待される。
 
〈外交〉
1.ルイス=マシュー外相のフランス公式訪問
(1)4日,ルイス=マシュー外相は,ジャン=マルク・エロー仏外務・国際開発相の招待に応じフランスを公式訪問し,同外務・国際開発相との間で,2014年のオランド仏大統領の訪墨及び,2015年のペニャ・ニエト大統領の訪仏の際に二国間で取り交わされた108の合意文書に対するフォローアップを行った。
(2)ルイス=マシュー外相は,メキシコにとってフランスは,教育,保健,農業,宇宙航空産業,環境,観光の分野における協力のための優先的パートナーである旨述べ,とりわけ,経済及び観光の分野における二国間の交流の重要性について言及した。また,メキシコとEUの関係及びマルチ外交において,フランスはメキシコにとって不可欠な同盟国である旨述べた。
(3)両外相は,墨仏の18歳~30歳の若者が,観光のために両国に入国しながら,滞在費を得るために働くことを許可する休暇・労働プログラムが開始されたことを歓迎した。
(4)両外相は,二国間の戦略的パートナーシップを深化,強化するために,(1)政治・戦略的対話,(2)国際問題及び持続可能な開発,(3)経済協力,(4)教育・科学・文化の分野における交流及び若者の交流の4点を軸とするロードマップを策定することで合意した。また,両外相は,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」,PKO,気候変動等,マルチ外交のアジェンダに関し意見交換を行った。
(5)ルイス=マシュー外相は,昨今フランスで発生したテロ事件に対し,フランス政府及びフランス国民への連帯の意を表明した。また,メキシコで開始される2017年セルバンティーノ祭に,フランスが名誉招待国として参加することが発表された。
 
2.ジェイ・ジョンソン米国土安全保障長官の訪墨
11日~12日,ジェイ・ジョンソン米国土安全保障長官が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領,ルイス=マシュー外相,ミード大蔵公債相とそれぞれ会談した。
(1)ルイス=マシュー外相との会談(11日)
(ア)ルイス=マシュー外相は,墨米両国の社会及び経済の利益のために,米国二大政党の主要人物との対話及び協力関係の強化を図ってきたメキシコの戦略の成果を,ジェイ・ジョンソン米国土安全保障長官と共有した。また,同外相は,米国大統領選の結果に関係なく,メキシコは米国との二国間関係の深化に取り組んでいく旨改めて述べた。
(イ)両者は,二国間の国境地帯における協力,とりわけ,インフラ,貿易,人の移動の促進に関し,引き続き協力していく必要性で一致した。その上で両者は,二国間の貨物の移動を促進している共同通関検査プロジェクトの成果を評価した。墨米は3千kmを超える国境を共有しており,日々,同国境を100万以上の人々及び43万7千の車両が行き来している。
(ウ)ルイス=マシュー外相は,二国間の諸案件に対しメキシコと共に取り組んで行こうとするオバマ政権の決意及び約束に対し感謝の意を述べた。また,同外相は,約58万人のメキシコの若者に利益を与えてきた「幼少時に入国した若者たちのための強制退去措置の延期(DACA)」の実施におけるジェイ・ジョンソン長官の役割を評価した。
(2)ペニャ・ニエト大統領との会談(11日)
 ペニャ・ニエト大統領とジェイ・ジョンソン長官は,内輪な会談を行い,墨米二国間の様々なテーマに関し,意見交換を行った。ジェイ・ジョンソン長官は,墨米両国国民が,両国関係は両国の更なる繁栄及び安全に寄与するものであることを知ることが重要である旨述べた。
(3)墨米国境対話(11日)
(ア)墨内務省において,墨米国境対話と題された会談が実施され,ルイス=マシュー外相,オソリオ内相,ジェイ・ジョンソン長官が出席した。ルイス=マシュー外相は,ジェイ・ジョンソン長官の訪墨は,墨米二国間の対話が今後も恒久的に存在し,強固なものであることを示していると述べた。また,同外相は,墨米両国のハイレベルな対話は,21世紀のアジェンダにおいて目に見える成果をあげることを可能とすると同時に,世界の中で最も競争力のある繁栄した北米地域を構築するロードマップの策定を可能とした旨述べた。
(イ)さらに同外相は,今日,国境を障害と理解するのではなく,墨米二国間関係を超えた機会を提供する地域と理解しなければならない旨述べた。また,同外相は,多面的な性格を有する21世紀の国境は,孤立主義をとる国家の能力の限界を上回っており,それ故に,貿易,移民,治安,気候変動等の共通の課題に対し,地域共同の解決策が必要である旨,墨米の国境はその統合性及び多面性から,この新しい価値観の転換を示す顕著な一例である旨述べた。
(4)ミード大蔵公債相との会談(12日)
(ア)ミード大蔵公債相とジェイ・ジョンソン長官は会談において,墨米間の通関に係る取り組みの進捗,その成果に関する評価を行った。両者は,テキサス州ラレド空港,バハ・カリフォルニア州メサ・デ・オタイ税関所で既に開始されている貨物の事前検査プログラムの成果を評価し,同プログラムを拡大することの必要性で一致した。また,両者は,国境のインフラに関し,墨米両国政府関係者の対話メカニズムとして設置された21世紀国境実行委員会,ハイレベル経済対話(DEAN)に対する支持を表明し,これらの対話メカニズムにより,国境地帯におけるインフラ計画の立案,実行における二国間の連携が容易なものとなる見解で一致した。
(イ)更に両者は,墨米両国は国境における通関法の適用のために,調査,違反物の差し押さえ,違反者への罰則等を共同で行ってきたが,今後も係る協力を継続し,密輸入,不正商品,マネーロンダリング対策に取り組んでいく意思を表明した。
 
3.ディオン加外相の訪墨
12日,ルイス=マシュー外相は,訪墨したディオン加外相と第1回ハイレベル戦略的会合(DESAN)に出席した
(1)ルイス=マシュー外相とディオン加外相は,第1回DESANにおいて,(1)共有される誰もが享受できる繁栄,(2)二国間関係の強化及び人の移動の促進,(3)治安,(4)地域及び国際場裡におけるリーダーシップという4つのテーマを二国間アジェンダの軸と定めた。
(2)両外相は,両国政府がハイレベルな政治対話を促進し,二国間,地域、国際場裡における共通の利益に関し,二国間関係を強化する責務を有していることを再確認した。その上で,本年6月に開催された第8回北米首脳会談及び,同月に実施されたペニャ・ニエト大統領のカナダ公式訪問の際になされた取決めの進捗具合を確認した。カナダ入国に際しメキシコ人に対し取得が求められていたビザの廃止(本年12月1日より),カナダ製の食肉製品のメキシコへの輸入解禁,学術交流の促進,エネルギーセクター及び採取産業における協力,治安分野における協力等が,墨加二国間の協力における突出した成果である。
(3)両外相は,領事館に勤務する公務員の交流プログラムが開始されたことを歓迎した。このプログラムにより,両者の経験及び非常事態に対する対応におけるグッド・プラクティスを共有することが可能となる。また,両外相は,両国の協力の成功事例として,42年間にわたって実施されているメキシコ人のカナダへの農業分野における季節労働者プログラムをあげた。2016年,同プログラムには2万3千以上のメキシコ人が参加している。
(4)両外相は,中米における墨加共同による協力の機会を強化すること,また,国際場裡における協力テーマに関し話し合う墨加二国間対話を設置することで合意した。
 
4.ユハ・シピラ・フィンランド首相の訪墨
(1)12日,ペニャ・ニエト大統領は,訪墨したユハ・シピラ・フィンランド首相と首脳会談を行い,両首脳は良好な墨-フィンランド二国間関係の下で行われた政治対話を評価し,墨-フィンランドの新しい関係を促進するきっかけとなった2015年5月のニーニスト・フィンランド大統領のメキシコへの国賓訪問の重要性について言及した。同大統領の訪墨以降,企業関係者,学術関係者,議会関係者等,様々な分野のハイレベルによる両国間の行き来が増加している。
(2)ペニャ・ニエト大統領は,フィンランドとの経済関係の強化及び,教育,科学,PKO活動参加に係るメキシコ軍の能力強化の分野における協力に,引き続き取り組んでいきたい旨述べた。
(3)これに対し,ユハ・シピラ・フィンランド首相は,ペニャ・ニエト政権による構造改革,とりわけ,フィンランド政府としては,通信改革によって生じる機会に関心を有している旨述べた。
 
5.ペニャ・ニエト大統領のコロンビア訪問
 26日~29日,ペニャ・ニエト大統領がコロンビアを訪問した
(1)日程
(ア)公式訪問(26日~27日)
(a)サントス・コロンビア大統領との首脳会談
(b)ペニャロサ・ボゴタ市長との会談
(c)コロンビア議会関係者及び最高裁判所関係者との会談
(イ)第25回イベロアメリカ・サミットへの出席(28日~29日)
(a)第11回イベロアメリカ企業家との会合
(b)第一セッション
(c)加盟国各首脳との会談
(2)サントス・コロンビア大統領との首脳会談(27日)
(ア)ペニャ・ニエト大統領は,サントス・コロンビア大統領の招待に応じ,コロンビアを公式訪問し,サントス大統領と首脳会談を行った。ペニャ・ニエト大統領は,コロンビア国民のみならず,地域全体にとっても,コロンビアの和平プロセスが重要である旨述べ,コロンビア紛争が終結し,安定的で継続した平和が築かれることを願う旨述べた。また,両首脳は,政治,経済,社会,文化の各分野におけるつながりによるメキシコ-コロンビアの戦略的関係の重要性について述べた。
(イ)両首脳の立ち会いの下,規制改革,消費者保護,文化,考古学,環境,スポーツの分野に係る9つの協力合意文書が署名された。また,税関に関する相互行政支援及び情報交換条約の交渉を開始することが発表された。
(ウ)また,両首脳は,国際犯罪組織撲滅にかかる協力の重要性に言及し,墨内務省とコロンビア国家警察間による協力にかかるMOU締結に向けた交渉を歓迎するとともに,違法薬物の密輸取り締まりに向けた二国間協力委員会の活動を再開することで合意した。
(エ)首脳会談終了後,共同コミュニケが発表された。
(オ)また,墨大統領府は,同27日,コロンビアの「El Tiempo」紙に掲載された「平和と繁栄のための友情」と題されたコロンビア和平プロセスに対するメキシコの支持及び連帯の意を表明するペニャ・ニエト大統領の投稿文章を掲載した。
(3)第25回イベロアメリカ・サミットへの出席(28日~29日)
(ア)第11回イベロアメリカ企業家との会合(28日)
(a)ペニャ・ニエト大統領は,サントス・コロンビア大統領,バチェレ・チリ大統領,クチンスキー・ペルー大統領,ソウザ・ポルトガル大統領と共に,第11回イベロアメリカ企業家との会合に出席した。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,同政権下において推進される教育改革には反対する勢力が存在するが,根本的な改革を行おうとする際には,常に起こることである旨述べ,対象となっている教職員の90%が既に能力評価試験を受けたことを始め,メキシコの教育改革は進捗している旨述べた。
(c)また,ペニャ・ニエト大統領は,メキシコが昨今推進している構造改革は,同国を,「低賃金が魅力」という国から,同国で「付加される価値が魅力」である国に変換させる試みである旨述べた。その上で同大統領は,自動車産業,航空宇宙産業等,年15%~16%で成長している産業を例として挙げ,メキシコの産業構造が多面化している点を紹介した。
(d)更に同大統領は,メキシコの次世代が,専門職に従事するキャリアを築くことを可能とする構造改革の成功は,人材育成にかかっている旨述べ,この点からも教育改革が重要である旨述べた。
(イ)第一セッション(29日)
(a)ペニャ・ニエト大統領は,イベロアメリカ各国政府に対し,同地域における教育の質の向上に向けた挑戦に加わることを呼びかけるとともに,サントス・コロンビア大統領が,コロンビアの2019年の目標はサッカーの南米選手権に優勝すること及び教育の質向上の面で最も良い成果を挙げることである旨述べたことを受け,グリーンスパン・イベロアメリカ事務局長に対し,教育の質向上を測る新しい取り組みとして「教育杯(la Copa por la Educacion)」の創設を提案した。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,イベロアメリカ各国政府は,教育が,個人及びその家族の生活条件のみならず,地域及び国家の発展につながる平等な手段であるとの考えを共有している旨述べ,同政権下における教育改革の成果を紹介した。
(c)同大統領は,イベロアメリカの最大の魅力はその人口の若さであり,それ故に,イベロアメリカ・サミット加盟各国政府は,若者の能力を最大限に活かし,社会的参加を実現するための公共政策を推進していかなければならない旨述べた。
(d)同大統領は,2014年12月に墨ベラクルスで開催された第24回イベロアメリカ・サミットにおけるベラクルス宣言で謳われた,普遍的且つ質の高い教育の保証に向けた革新的戦略に加盟国が取り組んでいくことの重要性について再度言及した。
(ウ)加盟国各首脳との会談(いずれも29日)
(a)ペニャ・ニエト大統領は,クチンスキー・ペルー大統領と会談し,政治,文化,経済,貿易,治安の各分野における二国間協力を推進する重要性について意見交換を行った。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,モラレス・グアテマラ大統領と会談し,インフラ,地域の発展,移民政策という二国間の優先事項に関し,二国間協力を推進する重要性について意見交換を行った。