メキシコ政治情勢(10月)
平成27年11月13日
〈概要〉
内政では,22日,連邦選挙裁判所が本年6月7日に実施されたコリマ州知事選の結果を無効とする判決を下した。この判決に伴い,30日,コリマ州議会はペレス元コリマ州内務長官を暫定知事として信任した。23日~24日,観測史上最大級とされるハリケーン「パトリシア」が太平洋岸のハリスコ州に上陸,ハリスコ州,コリマ州,ナジャリット州,ミチョアカン州の計41自治体に被害を与えたが,人的被害はなかった。
外交では,4日~7日,米国アリゾナ州の6都市の市長が訪墨し,ルイス=マシュー外相と会談を実施した。4日~7日,Zeid Ra’ad Al Hussein国連人権高等弁務官がメキシコを訪問し,メキシコの人権状況等につき,ペニャ・ニエト大統領,オソリオ内相、シエンフエゴス国防相,ソベロン海軍相,ルイス=マシュー外相等と対話を行った。8日,ヘレル前駐日メキシコ大使が拷問禁止条約委員会委員に選出された。12日,ルイス・マシュー外相が当国で開催された第9回中国・中南米カリブ・ビジネスサミットに出席した。14日~15日,ジョンソン米国土安全保障長官がメキシコを訪問し,ルイス=マシュー外相とワーキングランチを実施した。16日~18日,ルイス=マシュー外相が,外交団向けにバハ・カリフォルニア州ティファナ及びバジェ・デ・グアダルーペへの地方視察旅行を主催(山田大使出席)。19日,ルイス=マシュー外相がキューバを訪問し,ディアスカネル第一副議長表敬,ロドリゲス・キューバ外相との会談を実施した。20日~22日,湯崎広島県知事がグアナファト州を訪問し,マルケス州知事との会談等を実施した。21日~25日,山崎参議院議長一行がメキシコを公式訪問し,ペニャ・ニエト大統領表敬を実施したほか,連邦上院議会における公式行事に出席した。23日~26日,土屋衆議院外務委員会委員長他同委員会一行がメキシコを訪問した。27日~29日,メキシコ市で,開かれた政府パートナーシップ(2014-15年はメキシコが議長国)グローバル・サミットが開催され,開会式にペニャ・ニエト大統領が出席した。
〈内政〉
1.コリマ州知事選結果無効の判決とコリマ州暫定知事の就任
(1)22日,連邦選挙裁判所が本年6月7日に実施されたコリマ州知事選に関し,勝利した制度的革命党(PRI)のペラルタ候補に選挙戦が有利に進むよう,同州政府(注:アンギアノ州知事はPRI所属)が関与したとして,同選挙の結果を無効とする判決を下した。なお,同選挙ではPRI-緑の党-新同盟党のペラルタ統一候補が得票率39.82%で,国民行動党のプレシアード候補の得票率39.65%をわずかに上回り勝利し,11月1日に州知事に就任する予定であった。
(2)30日,コリマ州議会は連邦選挙裁判所の判決を受け,コリマ州議会司法・内務・権力委員会(Comision de Justicia, Gobernacion y Poderes)が推薦したペレス元コリマ内務長官を賛成24票,棄権1票で暫定知事として信任した。あわせて,同暫定知事の任期は,11月1日から翌年1月18日となる旨決定された。
2.ハリケーン「パトリシア」の上陸
(1)23日~24日,観測史上最大級とされるハリケーン「パトリシア」が太平洋岸のハリスコ州に上陸。メキシコ政府は,23日午後のハリケーン上陸前に,ハリスコ州,コリマ州及びナジャリット州の住民,観光客等約5万人を政府設置の避難所や民間宿泊施設に緊急避難させた。24日14時過ぎ,ペニャ・ニエト大統領はツイッターで,同時刻時点で甚大な被害に関する情報はない旨発表した。
(2)連邦政府及びハリスコ州,コリマ州,ナジャリット州,ミチョアカン州政府の発表によると,24日時点,ハリケーン「パトリシア」によって,これら4州の計41自治体で道路等インフラ設備の崩壊,停電等の被害が記録されたが,人的被害はなかった。
〈治安〉
1.モレノ元コリマ州知事への襲撃事件
12日,州都コリマ市のレストランで朝食を採っていたフェルナンド・モレノ・ペニャ元コリマ州知事(1997-2003年在任)を武装した二人組が襲撃し,銃撃の上,同元州知事を負傷させる事件が発生した。モレノ元州知事は計6発の銃弾を受けたが,同州立大学病院に運ばれ,緊急手術を受けた結果,命に別状はなかった。コリマ州では,2010年にもシルベリオ・カバソス元州知事(2005-09年在任)が武装集団に襲撃され,殺害される事件が発生している。
2.メキシコ海軍によるシナロア・カルテル最高幹部,ホアキン・「チャポ」・グスマン容疑者身柄捕獲オペレーション
(1)16日,シナロア・カルテル最高幹部,ホアキン・「チャポ」・グスマン容疑者が,メキシコ海軍による身柄捕獲オペレーションから逃亡を図る中で,片足及び顔を負傷した旨のプレスリリースを内務省,国防省,連邦検察庁,国家治安委員会が共同で発出した。なお,同容疑者の負傷は,メキシコ海軍と同容疑者の直接的衝突によるものではない旨,また連邦治安当局はホアキン・「チャポ」・グスマン容疑者の再逮捕のために,今後もオペレーションを継続していく旨が表明した。
(2)連邦政府によると,本年7月11日に服役中であったアルティプラノ連邦刑務所から脱獄したホアキン・「チャポ」・グスマン容疑者は,シナロア州とドゥランゴ州の州境,西シエラ・マドレ山脈地帯に潜伏しているとみられており,連邦治安当局がその身柄を追っている。
〈外交〉
1.米国アリゾナ州6都市の市長による訪墨
(1)4日~7日,米国アリゾナ州の6都市(Phoenix, Mesa, Nogales, Surprise, Tucson, Yuma。6都市に約90万人のメキシコ系住民が在住。) の市長が訪墨し,ルイス=マシュー外相と会談を実施した。同会談は,メキシコとアリゾナ州の関係再構築,国境地帯の両側コミュニティ間の関係深化の一環として実施され,貿易,エネルギー,国境インフラ,移民といったテーマについて議論が行われた。
(2)6市長は,ルイス=マシュー外相に対して共同宣言を提出した。同宣言において,6市長は,アリゾナ州がメキシコとの貿易や,交流・投資を促進するためのイニシアティブを歓迎する点を強調し,また,学術交流を拡大し,統合を促進させるためのプログラムに対する支援を表明した。さらに,同宣言では,アリゾナ州及び州内各都市におけるメキシコ系コミュニティの貢献に対し評価がなされ,移民の人権尊重が強調された。
(3)訪問の枠組みで,メキシコ市とフェニックスの間で,国際都市経済パートナーシップ(Alianza Economica de Ciudades Internacionales)を構築するための覚書が署名された。
2.Zeid Ra’ad Al Hussein国連人権高等弁務官のメキシコ訪問
(1)4日~7日,Zeid Ra’ad Al Hussein国連人権高等弁務官がメキシコ訪問し,メキシコの人権状況等につき,ペニャ・ニエト大統領,オソリオ内務相、シエンフエゴス国防相,ソベロン海軍相,ルイス=マシュー外相等と対話を行った。
(2)これらハイレベルの会談において,Al Hussein国連人権高等弁務官は,メキシコが近年行っている人権状況改善のための憲法を含む法的・制度的改正につきブリーフを受けた。同高等弁務官は,人権擁護活動家及びジャーナリストの保護メカニズム,被害者保護一般法,児童・青少年の人権にかかる一般法,国家刑事訴訟法(注:各州刑事訴訟法の統一化)等の重要性を強調し,メキシコによる国際人権システムへの貢献を評価した。
3.ヘレル前駐日メキシコ大使の拷問禁止条約委員会委員への選出
8日,第15回拷問禁止条約締約国会合において,ヘレル前駐日メキシコ大使が拷問禁止条約委員会委員に選出された。
4.第9回中国・中南米カリブ・ビジネスサミット
(1)12日,ルイス・マシュー外相は,ペニャ・ニエト大統領の代理として,当国ハリスコ州で開催された,第9回中国・中南米カリブ・ビジネスサミットに出席した。同サミットを通じて,中国及び中南米カリブ域内の貿易・投資関係が強化された。同サミットには,ハリスコ州知事,イダルゴ州知事,デ・イカサ筆頭外務次官, ProMexico長官のほか,中国及び中南米カリブの企業家,外交団等,約1300名が出席した。
(2)ルイス=マシュー外相は,「新たな潮流-大きな機会-共に進歩を」をテーマとする本サミットは,中南米カリブ地域が,特に経済・貿易協力を促進するために有する,中国との長期的な関係における新たな,そして重要なステップである旨述べた。また,同外相は,墨中関係の重要性を強調し,ペニャ・ニエト大統領と習近平国家主席との幾度にもわたる会談はかかる重要性の証左である旨述べた。
5.ジョンソン米国土安全保障長官のメキシコ訪問
(1)14日~15日,ジョンソン米国土安全保障長官がメキシコを訪問し,ルイス=マシュー外相とワーキングランチを実施した。
(2)ワーキングランチにおいて,両者は,国境地帯における二国間アジェンダにつき協議を行い,革新的なプロジェクトを通じて貿易を強化する方途を検討したほか,北米地域におけるヒトの移動の円滑化についても協議を行い,域内の競争力を高めるために,「信頼できる旅客(Viajero Confiable)」北米プログラム等のイニシアティブを引き続き推進していくことの重要性を強調した。
(3)ルイス=マシュー外相は,在米メキシコ系住民のエンパワーメントのために,メキシコ政府が在米領事館ネットワークを通じて行っている様々なイニシアティブにつき説明を行った。この点に関し,在米メキシコ領事館が,より多くの在米メキシコ系住民がDACAプログラム(注:Deferred Action for Childhood Arrivals,16歳未満で米国に入国した不法移民に対して限定的滞在許可を付与する制度)から恩恵を受けるべく,米国当局と協働している点につき評価がなされた。
6.ルイス=マシュー外相主催外交団の地方視察旅行
(1)16日~18日,ルイス=マシュー外相は,外交団向けにバハ・カリフォルニア州ティファナ及びバジェ・デ・グアダルーペへの地方視察旅行を主催。山田大使を含む58カ国の大使,18の国際機関の長が出席したほか,メキシコ外務省からは北米次官を除く3名の次官が同行(北米次官は所用により出席をキャンセル)した。
(2)なお,同視察旅行は,メキシコ外相が外交団及び国際機関の長に対して毎年実施しているもので,毎年訪問先が異なる。
7.ルイス=マシュー外相のキューバ訪問
19日,ルイス=マシュー外相はキューバを訪問。ロドリゲス・キューバ外相と会談を行い,二国間関係の進捗に関する評価を行った。また、ルイス=マシュー外相はディアスカネル第一副議長を表敬し,本年中に予定されているカストロ議長のメキシコ訪問の重要性につき再確認した。
8.湯崎広島県知事のグアナファト州訪問
20日~22日,湯崎広島県知事がグアナファト州を訪問し,マルケス州知事との会談,ロペス・レオン市長との懇談等を実施したほか,セルバンティーノ国際芸術祭における広島神楽団による神楽公演に出席した。また,広島県・グアナファト州経済交流協定締結1周年記念レセプションが実施され,広島県の食文化等が紹介された。
9.山崎参議院議長一行のメキシコ公式訪問
21日~25日, 山崎参議院議長一行がメキシコを公式訪問。ペニャ・ニエト大統領表敬,連邦上院議会における公式行事への出席他,日本企業との意見交換,日墨協会・日墨学院視察等を実施した。なお,詳細は以下大使館HPで観覧可。
https://www.mx.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/00_000201.html
10.土屋衆議院外務委員会委員長他同委員会一行の訪墨
23日~26日,土屋衆議院外務委員会委員長他同委員会一行がメキシコを訪問し,ルイス=カバーニャス外務次官(多国間・人権問題担当),サンブラーノ下院議長を表敬した他,日本企業との意見交換,日墨協会幹部・日系青年との会談等を実施した。なお,詳細は以下大使館HPで観覧可。
https://www.mx.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/00_000202.html
11.開かれた政治グローバル・パートナーシップのサミット開催
(1)27日~29日,メキシコ市において,開かれた政府パートナーシップ(2014-15年はメキシコが議長国)グローバル・サミットが開催された。開会式にはペニャ・ニエト大統領が出席した。また,同サミットには,同パートナーシップ参加国66カ国から475名のハイレベルの代表,44名の大臣・副大臣,61名の議員,9名の市長,4名の州知事,市民社会の代表等,合計2200名以上が出席した。
(2)同サミットでは,透明性,政府会計の公開,様々なレベルにおける市民参加といった,開かれた政府の原則をいかに実施していくかという点,また,持続可能な開発アジェンダ2030の効果的な実施につき意見交換がなされた。
(了)