メキシコ政治情勢(11月)

平成27年12月17日
〈概要〉

【内政】
・4日,連邦最高裁判所が,市民団体「犯罪に対するメキシコの団結」メンバー4名が行っていた保護請求訴訟(アンパロ違憲審査)に関し,同4名のマリファナ自家栽培と消費を認める判決を下した。
・7日,民主革命党(PRD)新党首にアグスティン・バサベ・ベニテス前連邦下院議員が選出された。
・13日,連邦下院議会にて,2016年歳出案が承認された。
・14日より,教育改革によって定められた現職教職員の教務継続に係る能力評価試験が順次開始された。
・20日,ロペス・オブラドール元大統領候補が国家再生運動(Morena)党首に選出された。
【外交】
・6~7日,ラウル・カストロ・キューバ国家評議会議長がメキシコを国賓として訪問した。
・10日,メキシコ市において,墨EUハイレベル政策対話第2回会合が実施された。
・15~16日,ペニャ・ニエト大統領はトルコのアンタルヤを訪問し,G20首脳会議に出席したほか,カナダ,中国,イタリア,トルコの首脳と二国間会談を実施した。
・17日,ペニャ・ニエト大統領は,APEC首脳会議に先立ち,フィリピンを国賓として訪問した。
・18日~19日,ペニャ・ニエト大統領はフィリピンのマニラで開催されたAPEC首脳会合に出席した。また,同大統領は,同会合のマージンで,太平洋同盟-APEC首脳の非公式会合に出席したほか,豪との首脳会談を実施した。
・30日,ペニャ・ニエト大統領はフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会合(COP21)首脳会議に出席した。
 
〈内政〉
1.連邦最高裁判所によるマリファナの一般消費に関する判決
4日,連邦最高裁判所は,市民団体「犯罪に対するメキシコの団結(Mexico Unido Contra la Delicuencia A.C)」のメンバー4名が行っていた保護請求訴訟(アンパロ違憲審査)に関し,同4名のマリファナ自家栽培と消費を認める判決を下した。右判決は同4名のみに適用されるものであり,当国では少量の携帯は刑法の例外であるものの,栽培・消費・販売は引き続き認められていない。連邦政府は,同判決はあくまで限定された個人を対象としており,国民全般に適用されるものではないことを強調しつつ,マリファナ合法化に関しては,これに反対する姿勢を表明しつつ,広く国民的議論を検討していくべきとしている。
 
2.民主革命党(PRD)党首交代
(1)7日,前日(6日)に辞任したナバレテ民主革命党(PRD)前党首及びバウティスタ前幹事長の後任を選出するPRD全国評議会が開催され,304人の全国評議員による投票のうち,295票を獲得したアグスティン・バサベ・ベニテス前連邦下院議員がPRD党首に選出された。また,併せてモヒカ前ゲレロ州知事候補が幹事長として選出された。
(2)バサベ新党首は制度的革命党(PRI)元党員(2002年1月に離党)であり,本年8月28日にPRD党員として登録されていた。PRDはバサベ新党首が党首選に立候補できるよう,今般の党首選を前に,党員としての活動歴が2年に満たない者でも党首選に出馬できるように党規を変更していた。
(3)PRDを巡っては,党内最大派閥である新左派,通称「ロス・チュチョス」とその他派閥との対立が表面化し,複数の離党者を招いてきたが,どの派閥にも属さないとみられるバサベ新党首の今般の選出は,各派閥間の争いを避けるための,各派閥間の合意によるものと見られる等報じられた。
 
3.2016年歳出案の承認
13日,2016年歳出案が連邦下院議会で承認された。
(1)歳出総額は,政府提出案より169億2,800万ペソ増額,歳入総額とほぼ同額の約4兆7,638億ペソで承認された。また,2016会計年度における財政赤字額は6,092億ペソを見込んでいる。連邦下院議会における修正では,社会福祉,教育,生産性の向上,インフラの各分野において,政府提出案より総額719億9,700万ペソを増額,他方,人件費等の政府支出は総額75億ペソ減額した。
(2)一般歳出は3兆5,620億4,810万ペソで,構成比別では,社会開発が61.7%,経済開発が29.0%,政府支出(人件費等)が9.3%であった。公共投資には前年比マイナス20%となる7,123億ペソが割り当てられている。
(3)大蔵公債省はプレスリリースにて,2016年歳出案は治安,科学・技術,高等教育,文化,生産性向上,及び経済活動の促進をプライオリティーにゼロベース予算に基づき提出された政府案を,連邦下院議会においてさらに精査し,貧困の撲滅,社会的権利への効果的アクセスの増大,生産性向上と経済活動を促進するプログラムへの投資を優先したものである旨説明している。
 
4.現職教職員の教務継続に係る能力評価試験の実施
(1)14日より,教育改革によって定められた現職教職員の教務継続に係る能力評価試験が順次開始された。教育省によると,今回の能力評価試験の受験対象者は,基礎教育の教員11万6,826人,後期中等教育の教員2万9,025人及び基礎教育の管理職3,898人の計14万9,749人であり,12月13日までに数回に分けて能力評価試験が実施される。なお,現職教職員の教務継続に係る能力評価試験が実施されるのは今回が初めて。同試験の結果概要に関しては,明年2月15日に発表される予定となっている。
(2)今回の能力試験の実施に際しては,複数の州で試験実施に抗議するデモ行動が発生,とりわけ,ベラクルス州,ミチョアカン州,ゲレロ州,オアハカ州,チアパス州においては教員改革に反対する教職員労働者全国協議会(CNTE)等の勢力が,試験実施のために派遣された連邦警察を含む治安当局と衝突する事態が複数発生した。なお,ミチョアカン州での試験には5千名,オアハカ州での試験には1万名の連邦警察隊員が警備のため派遣されていた。
(3)反対勢力の存在により,28日に実施されたオアハカ州での試験では受験率は60%に留まったものの,クエ・オアハカ州知事はメディアのインタビューにて,同州における教育改革によって定められた各種試験へのボイコット率は,試験を実施する度に低下しており,これまで同州の教育行政を実質的に支配してきたCNTE第22セクションの影響力は確実に失われている等述べ,オアハカ州における教育改革の進捗にポジティブな見通しを示した。
(4)CNTEを中心とする抗議活動が発生しているものの,29日までに実施された試験では,オアハカ州を除く他州では大旨95%以上が受験しており,現職教職員の教務継続に係る能力評価試験は順調に実施されている。
 
5.最低賃金を各種罰金,住宅ローン等の算出基準から切り離す憲法改正案の可決
19日,連邦下院議会は賛成417票の満場一致で最低賃金を各種罰金,住宅ローン等の算出基準から切り離す憲法改正案を可決。同憲法改正案は,10月22日に連邦上院議会で賛成90票で可決済であり,同日,審議・採決のため各州議会に送付された。本件については,最低賃金が各種算出基準に用いられているため(注:例えば,罰金は最低賃金何日分といったかたちで定められている。),最低賃金の引き上げが即ち罰金・ローン等の引き上げにつながり,最低賃金が低水準に維持される原因として問題視されていた経緯がある。
なお,今期国会会期で成立した最初の憲法改正案であるが,右憲法改正に伴い,連邦・州と合わせて2,413の法律の修正が必要になると見られている。
 
6.ロペス・オブラドール元大統領候補の国家再生運動(Morena)党首就任
(1)20日,メキシコ市で開催された国家再生運動(Morena)の第2回全国大会において,ロペス・オブラドール元大統領候補(2006年,2012年と2度の大統領選にPRD大統領候補として出馬)が同党党首に選出された。マルティ・バドレス前党首の後任(注:マルティ・バドレス前党首は本年10月,Morenaのメキシコ市代表になるため,党首職を辞任)として立候補していたのはロペス・オブラドール元大統領候補のみであり,300人の同党全国評議会のメンバーにより,同元大統領候補が予定通り,新党首に選出された。
(2)Morenaは,2010年,ロペス・オブラドール元大統領候補を2012年大統領選に勝利させることを目的に,PRD内の会派として誕生し,ロペス・オブラドール元大統領候補が2012年の大統領選の敗北後,PRDを離党したことを受け,独立した政党として2015年に政党登録が認められたものである。ロペス・オブラドール元大統領候補は,Morena全国評議会会長を務めていたが,マルティ・バドレス前党首に代わる等の実質的リーダーであることは周知の事実であった。
(3)今般のロペス・オブラドール元大統領候補のMorena党首就任は,同元大統領候補の2018年大統領選出馬に向けた党の戦略とみられている。
 
7.エスコバル内務省予防・市民参加担当次官の辞任
 25日,エスコバル内務省予防・市民参加担当次官が,連邦検察庁の選挙犯罪対策専門検察局(FEPADE)が裁判所に対し,本年6月の中間選挙における選挙法違反の罪で同次官の逮捕状を申請したことを受け,辞任した。エスコバル次官は中間選挙の選挙戦時は緑の党(Verde)党首職にあり,有権者に対して,8千以上の店で割引サービスを受けられるPremia Platinoカードを配布したことが,選挙法違反に当たるとされた。
 
〈治安〉
犯罪組織「カルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン」ナンバー2の逮捕
(1)18日,ガリンド連邦警察コミッショナーが会見を開き,連邦治安当局が同日早朝,犯罪組織「カルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)」のナンバー2,イバン・カサリン・モリーナ(Ivan Cazarin Molina)を,ハリスコ州トラホムルコ・デ・スニガ市で逮捕した旨発表した。同容疑者からの抵抗はなく,同容疑者の逮捕は一発の銃弾も撃たれることなく実施された。なお,同容疑者と同時に3名のCJNG構成員が逮捕され,ライフル,拳銃等の銃器及びコカイン等が押収された。
(2)ガリンド連邦警察コミッショナーは会見において,同容疑者は,CJNGのリーダー,ネメシオ・オセゲラ・セルバンテス容疑者,通称「メンチョ」に直接情報を提供していた側近中の側近であり,ハリスコ州グアダラハラ市大都市圏におけるCJNGのオペレーションを取り仕切っていたと見られている旨,また,本年5月1日に発生したハリスコ州におけるCJNGによる治安当局のヘリコプターに対する襲撃事件に関し,同容疑者が関与した可能性について捜査している旨説明した。
 
〈外交〉
1.ラウル・カストロ・キューバ国家評議会議長のメキシコ国賓訪問
6日~7日,キューバのラウル・カストロ国家評議会議長が,2006年の議長就任後初めて,メキシコ(ユカタン州メリダ)を国賓として訪問。同訪問の枠組みで,移民,学術交流を通じた外交官研修の強化,基礎教育,観光,漁業・農業分野における二国間協力に関する5本の合意文書が署名された。
(1)ペニャ・ニエト大統領発言
合意文書署名式後に実施された両首脳による共同記者会見において,ペニャ・ニエト大統領は,カストロ議長による国賓訪問の成果として以下を挙げた。
(ア)最も高いレベルでの政治対話の再構築
(イ)国賓訪問の枠組みで署名された以下の5本の合意文書を通じた,二国間の法的枠組みのアップデート及び拡大
●両国間の移民の流れを合法で,安全で,秩序立ったものとすることを保障し,人身売買やその他の移民に関する犯罪を防止するための合意
●学術交流を通じ,両国の外交官の研修を強化するための合意
●基礎教育,特に識字率の向上,読書及びスポーツの普及等,キューバがラテンアメリカ地域の中でも模範となる分野での協力を拡大するための合意
●メキシコへの訪問者がキューバにも訪問し,また,キューバへの訪問者がメキシコにも訪問することを促進するために,観光分野におけるベスト・プラクティスの共有を行うための合意
●漁業及び農業分野におけるベスト・プラクティスの共有を行うための合意
(ウ)さらに多くのメキシコ企業及び投資家がキューバに投資するための条件を整えることへの両政府によるコミットメントがなされたこと
(2)ペニャ・ニエト大統領から,1928年~2012年までの間に墨キューバ間で署名された合意文書を数えると15本になるが,墨キューバ両政府による歩み寄り(reencuentro)後,つまり現政権(「ペ」大統領政権)になって以降,両国関係を強化するための9本の合意文書が署名され,本日,新たに5本の合意文書が署名された旨発言があった。
(3)ペニャ・ニエト大統領から,メキシコはキューバで生じている(ビジネス)機会を評価しており,この変化と開放のプロセスにおいて(キューバの)盟友となることを望んでいる旨述べた。また,同大統領は,メキシコの投資家は,キューバの経済モデルの現代化プロセスにおいて,同国への投資を通じて,両国で雇用を創出し,二国間経済関係の強化に寄与するための機会を見いだしている旨述べた。
(4)ラウル・カストロ議長による発言
(ア)ラウル・カストロ議長は,共同記者会見において,ペニャ・ニエト大統領による墨キューバ関係の歩み寄りにより,両国の結びつきは,政治や外交分野だけでなく,文化,経済,通商,科学技術協力といった分野においても,刷新され強化されている旨強調した。また,同議長は,2013年11月から本日までに締結された両国間の重要な合意文書は,二国間関係の法的枠組みを強化し,両国が共通関心を有する様々な分野において引き続き協力を進展させ,深化させるという両国政府による確固たる政治的意思の表れである旨述べた。
(イ)カストロ議長は,キューバ,特にマリエル開発特区における,農業や観光分野でのビジネス・投資にメキシコ企業が関心を有していることを歓迎する,これらの分野におけるメキシコの経験は評価されており,我々が進めている経済モデルの現代化プロセスにおいて重要な一助となる旨述べた。
(ウ)カストロ議長は,キューバの英雄ホセ・マルティが「メキシコは全てのキューバ人が自分のものとして愛でるべき土地である」旨記したことを紹介し,メキシコはキューバ革命にとって,またキューバにとって,特に重要であった時期に,米国からの圧力によって他国がキューバとの外交関係を断絶する中,中南米の中で唯一外交関係を維持した国である旨述べた。また,同議長は,パナマでの米州サミットへのキューバの参加,米国との外交関係再構築,キューバに対する不公正で,不法で,非道徳的なエンバーゴの停止にかかる国連総会における事実上全会一致の要求は,世界の,そして特にメキシコが重要な役割を担った中南米カリブにおける連帯の勝利でもある旨述べた。
(エ)カストロ議長は,今回の訪墨は,メキシコと共に地域の統合を強化し,CELAC,カリブ諸国連合といった地域統合プロセスを推進していくとのコミットメントを再確認するものである,また,それは2014年1月にハバナで開催されたCELAC第2回首脳会議において各首脳が示した,中南米カリブ地域を平和な地域として維持していくという責務を含むものである旨述べた。
(オ)両首脳による共同記者会見後に開催されたペニャ・ニエト大統領主催午餐会において,カストロ議長は,2018年2月24日をもって政界から引退する旨述べ,二期目の任期満了後に政界引退という従来からの姿勢を堅持した。
 
2.墨EUハイレベル政策対話第2回会合
10日,メキシコ市において,墨EUハイレベル政策対話第2回会合が実施された。会合では,特に墨EU・FTA(正式名称はAcuerdo de Asociacion Economica, Concertacion Politica y Cooperacion)の現代化プロセスの進展へのコミットメントが強調され,また,MIKTA,イラン核合意,シリア情勢,中央アジア地域,欧州における難民危機等,双方が共通の関心を有する事項につき情報共有が行われた。
 
3.ペニャ・ニエト大統領のG20首脳会議出席等
 15~16日,ペニャ・ニエト大統領はトルコのアンタルヤを訪問し,G20首脳会議に出席したほか,カナダ,中国,イタリア,トルコの首脳と二国間会談を実施した。
(1)G20首脳会議におけるペニャ・ニエト大統領発言
15日,ペニャ・ニエト大統領は,「包摂的成長,雇用,投資」というテーマについて議論がなされた第一ワーキング・セッションに参加したところ,同大統領の発言概要は以下のとおり。
(ア)ペニャ・ニエト大統領は,低成長,高いボラティリティ,投資家のリスク回避的行動によって特徴づけられる現在の国際経済情勢を踏まえ,G20諸国は,強靭で包摂的な成長の実現のために,迅速で断固とした措置をとる必要がある旨述べた。
(イ)同大統領は,メキシコの国内投資・外国投資を誘致するための措置として以下に言及した。第一に,(市場の)信頼と確実性を創出すべく,政権発足以降,マクロ経済の安定を確保し,健全な財政政策を強化することにコミットしてきた点を強調。第二に,構造改革,公共政策,インフラ・プロジェクトの実施を通じて,ビジネス環境の改善に努めてきた点を強調し,その例として以下に言及した。
●現政権の下で,労働,金融,経済競争,通信,財政,エネルギーの6分野で経済改革を実施。
●フォーマル・セクターへの移行促進プログラムであるEstrategia Crezcamos Juntosや,18~30歳の若手起業家の支援プログラムであるCredito Joven等に代表される革新的な政策を実施。
●国家インフラ・プロジェクトでは,459百万ドルに及ぶ投資,52の新規高速道路の建設が予定されているが,既に17の高速道路が建設され,総延長は1千キロ以上に及ぶ。また,4千キロ以上に及ぶ80の高速道路の近代化にコミットしているが,現時点で46の高速道路(総距離1千8百キロ)の工事が完了している。港湾については,貨物取扱能力を260百万トンから500百万トン以上に倍増することにコミットしており,既に42%が完了している。ガスパイプラインについては,パイプライン網の75%拡大を目標としている。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコがドイツ及びインドネシアとともに共同議長国となっているG20作業部会IIWG(Investment and Infrastructure Working Group)が推奨している措置を紹介しつつ,インフラへの投資は,国家が短期的及び長期的に経済活動を推進し,雇用を創出するための,最も効率的かつ責務を有する措置の一つである旨述べた。同大統領は,IIWGで議論された措置の中でも,特に,G20の集団的措置として金融の強化に言及し,MDGsのリソースを拡大し,その効果を最適化するための方途や,特にPPPをはじめとするインフラ・プロジェクトの法的・制度的枠組みの改善を含め,投資を促進するための経済システムの改善が議論された旨紹介した。
(2)16日,ペニャ・ニエト大統領は,貿易とエネルギーについて議論がなされたG20ワーキング・ランチに出席した。
(ア)ペニャ・ニエト大統領は,現在のグローバル経済の低成長期において,G20諸国が貿易を促進し拡大するための努力を刷新する必要がある旨述べた。同大統領は,メキシコのGDPに占める貿易総額の割合は63%であり,(右指標によると)G20諸国の中で5番目に開かれた経済であるということになるが,メキシコは自国の自由貿易協定網の更なる拡大を追求し,現政権の下では,パナマとのFTAが署名され,太平洋同盟の枠組みでの貿易協定が具体化され,TPP交渉の大筋合意を実現した旨述べた。同大統領は,これら協定の発効後,メキシコは52カ国との間で13本の自由貿易協定を有することとなり,13.09億人の潜在的消費者を抱える市場へのアクセスが可能となる旨述べた。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,より多くの,より良いエネルギー源が利用可能になること,また,より効率的な技術を採用することは,持続的な形で経済成長を加速化させるために必要不可欠である,エネルギー改革によって,メキシコはパラダイム・チェンジを行い,民間セクターによる炭化水素のバリュー・チェーンのすべての段階に,また,実質的にすべての電力セクターに参入することが可能になった旨述べた。また,同大統領は,構造改革によって,透明性があり,効率的,競争的かつ持続可能な形でエネルギーの生産・流通量を増加させるための条件が確立したため,現下の石油価格の低下の文脈においても,メキシコへの投資にかかる高い関心が存在する旨述べた。
 
(3)二国間会談
(ア)カナダ
(a)15日,ペニャ・ニエト大統領は,トルドー・カナダ首相と首脳会談を実施,両首脳は今回の会談が墨加二国間関係の新たな時代の出発点となる点で一致した。トルドー首相からは,ペニャ・ニエト大統領に対して,同首相当選後初の祝辞を同大統領から得たことに感謝している旨述べた。
(b)両首脳は,トルドー首相の選挙公約の1つである,カナダへのメキシコ人渡航者に対する査証免除の可能性の再検討につき対話を行った。トルドー首相は,ペニャ・ニエト大統領に対して,既に査証免除の可能性につき再検討するよう,移民・難民・市民担当大臣及び外務大臣に対して指示した旨述べた。
(c)両首脳は,カナダが主催することとなっている次期北米首脳会合(注:米加墨の三カ国で輪番で主催をしているが,前回は昨2014年2月にメキシコ(トルーカ)で実施。本2015年はカナダ主催で2月に開催される予定であったが,ハーパー前首相の判断で延期となっている。)の開催準備を進めることで合意した。
(d)両首脳は,TPP,パリで開催されるCOP21を見据えた気候変動問題への対処,薬物に関するグローバルな課題について分析を行うために2016年4月に開催される国連麻薬特別総会等,両国の優先課題について意見交換を実施した。
 
(イ)中国
(a)16日,ペニャ・ニエト大統領は,習近平中国国家主席と,両政権発足後5回目となる墨中首脳会談を実施した。会談において,両首脳は,ペニャ・ニエト大統領による国賓訪中から1年間の二国間アジェンダの進捗状況を確認した。
(b) 習近平国家主席は,ペニャ・ニエト大統領との会談を「古い友人との会合」と表現し,両国の友好関係を引き続き緊密化していく用意がある旨述べた。ペニャ・ニエト政権の下,両国関係は,貿易・投資関係の拡大を伴う,より踏み込んだ作業アジェンダの構築に向けた重要な進捗があった。
(c) ペニャ・ニエト大統領は,本年10月の中国工商銀行(ICBC)のメキシコにおける支店開設に祝意を述べた。
(d) 両首脳は,G20は(世界経済の)安定を維持し,強靭で,均衡のとれた,包摂的な成長を促進し,また,グローバル経済ガバナンスを改善するための重大な任務を負っている旨述べた。ペニャ・ニエト大統領は習近平国家主席に対して,中国のG20次期議長国としての成功を祈念するとともに,メキシコのG20議長国としての経験の共有,また,明2015年9月に開催予定のG20首脳会議への支援をオファーした。
(e)習近平国家主席は,中国はメキシコにおける重要な投資プロジェクトに関心を有している旨述べるとともに,特に,ペニャ・ニエト大統領が提唱しているメキシコ南部諸州の経済特区設置への関心を示した。
(f)両首脳は,墨中関係の大局的,長期的な観点を重要視する(privilegiar)ことの重要性を強調し,ハイレベルの政策対話の密度が両国関係の新たなフェーズの基本的柱となったという点で一致した。この点に関し,両首脳は,政策協議メカニズムや,両国の閣僚,議員,地方政府当局による相互訪問の実現を歓迎した。
(g)両首脳は,2016年に開催される二国間常設委員会(Comision Binacional Permanente)において,野心的で両国関係のポテンシャルに合致した共通行動計画が採択されることへの期待を表明した。
(h)貿易関係に関しては,両首脳は,最近署名された白とうもろこし,冷凍牛肉の輸出にかかる議定書や,農業牧畜水産品の輸出入にかかる検疫証明書の電子的交換に関する議定書を通じた,メキシコ産農業食糧品の中国市場への進出に祝意を表した。
 
(ウ)イタリア
(a)16日,ペニャ・ニエト大統領は,レンツィ・イタリア首相と首脳会談を実施し,様々な二国間アジェンダや,両国の経済・貿易関係を強化するための行動につき議論を行った。会談において,両首脳は6月15日にミラノで実現した,再生可能エネルギー,航空宇宙,観光,保健分野における経済協力,司法協力等の合意のフォローアップを行った。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,レンツィ首相に対して,明2016年にメキシコへの訪問に招待する旨述べ,可能な限り早期に訪問日程を決定することが合意された。
(c)レンツィ首相からは,メキシコの構造改革によって,イタリア企業から特にエネルギー・セクターにおける対墨投資に高い関心が寄せられている旨述べつつ,イタリア企業はメキシコの経済成長,政治・経済的安定に信頼を持っている旨強調した。
(d)会談には,イタリアのエネルギー大手のENI社のClaudio Descalzi CEOが出席し,ラウンド・ワンの落札企業(当館注:メキシコ・エネルギー改革の原油鉱区入札ラウンド・ワン第2段階で浅海鉱区を落札。)として浅海鉱区における炭化水素の採掘を進めていきたい旨述べた。また,同CEOは,メキシコにおける投資拡大に対する関心を表明,また,PEMEX(メキシコ石油公社)との提携を模索している旨述べた。さらに,レンツィ首相は,イタリアのエネルギー大手のENEL社が,経験とベスト・プラクティスの共有を行うために,CFE(メキシコ電力公社)との協議を行っている旨明かした。
 
(エ)トルコ
(a)16日,ペニャ・ニエト大統領は,エルドアン・トルコ大統領と会談を行い,墨トルコFTA交渉について協議を行い,同交渉が両国にとって満足のいく形で進んでいる旨表明した。
(b)ペニャ・ニエト大統領からは,トルコのG20議長国としてのリーダーシップ及びG20首脳会談の開催につき賛辞が送られた。
(c)両首脳は,2014年に888百万ドルの貿易実績を有する両国の多層的で深化した関係を引き続き強化していくことへの関心を強調した。エルドアン大統領は,本年2月の同大統領による国賓訪墨において両首脳の間で設定された,両国貿易額を50億ドルまで引き上げるという共通目標に言及し,右目標の実現は両国にとっての成功である旨述べた。
 
 
5.ペニャ・ニエト大統領のフィリピン国賓訪問
17日,ペニャ・ニエト大統領は,APEC首脳会議に先立ち,メキシコ大統領としては1962年以降初,また,今回のAPEC首脳会議に出席した各国首脳の中では唯一,フィリピンを国賓として訪問。二重課税回避,観光,治安対策等の分野で合意文書が締結された。
【共同記者会見におけるペニャ・ニエト大統領発言】
(1)共同記者会見においてペニャ・ニエト大統領は,フィリピンとメキシコは強固な経済と大きなポテンシャルを有する,フィリピンは,安定し,強靭で,ダイナミックな国である旨強調した。同大統領は,今回の国賓訪問の枠組みで,両国関係の深化の指針となる墨フィリピン行動計画を設定するための様々な合意が具体化した,この制度的土台の更新によって,協力と交流の新たな機会の扉を開くことになる旨述べた。
(2)ペニャ・ニエト大統領は,アキノ大統領がメキシコと同様に,経済成長の減速,金融ボラティリティ,リスク回避等に特徴づけられるグローバルな課題に対応するため,ビジョンをもって革新と構造変化のアジェンダを推進している点を評価した。また,同大統領は,メキシコとフィリピンは,経済的な安定や対外的な市場の信頼をもたらし,雇用を創出し社会に便益をもたらす,マクロ経済のファンダメンタルズを強化していくというビジョンを共有している旨述べた。
(3)ペニャ・ニエト大統領は,今回の国賓訪問の枠組みでなされた合意につき以下のとおり述べた。
(ア)経済分野で両国政府は,二重課税の問題を回避し,両国の貿易,金融活動を促進するための合意に署名した。
(イ)観光分野においては,研究開発,教育と人材育成,プロモーション,投資といった事項に関する協力を強化するための合意が署名された。
(ウ)治安対策の分野では,今後,麻薬組織に共同で対抗するためにグッドプラクティスや情報の交換を行う予定である。
(エ)両国政府は,(1)1952年に締結された航空サービス協定の更新・近代化,(2)双方向の投資を増加させるための投資の相互促進及び保護に関する協定の締結,(3)両国の雇用創出につながる双方向の投資を促進するための作業計画を議論するための経済合同委員会の設置,という3つの重要なイニシアティブの妥結に向けたプロセスを加速化させることに合意した。
【共同記者会見におけるアキノ大統領発言】
(1)共同記者会見においてアキノ大統領は,ペニャ・ニエト大統領との間で,両国関係のプロセスに関し,非常に生産的な関係を築くことができている旨述べた。
(2)アキノ大統領は,CEMEX社,FEMSA社等のメキシコ企業によるフィリピンへの投資,フィリピン企業によるメキシコへの投資の拡大に裏付けられているように,両国は投資に関する貿易・経済活動を強化してきた,我々の兄弟であるメキシコ人に,フィリピンが世界に提供できる成長の機会をさらに活用してほしい旨述べた。
(3)アキノ大統領は,ペニャ・ニエト大統領に対して,開かれた政府パートナーシップの議長国としての采配につき祝意を示した。
 
6.ペニャ・ニエト大統領のAPEC首脳会合出席等
18日~19日,ペニャ・ニエト大統領はフィリピンのマニラで開催されたAPEC首脳会合に出席した。また,同大統領は,同会合マージンで,太平洋同盟-APEC非公式首脳対話会合に出席したほか,墨豪首脳会談を実施した。
 
(1)APEC首脳会議
【第1リトリート】
19日,ペニャ・ニエト大統領は,「経済統合を通じた包摂的成長」をテーマとするAPEC首脳会議第1リトリートに出席したところ,同大統領の発言概要は以下のとおり。
(ア)ペニャ・ニエト大統領は,複雑なグローバル経済情勢の中,アジア太平洋地域は,最もダイナミックな地域であり続けており,均衡のとれた,包摂的で,持続可能で,革新的で安全な成長を実現するために取り組む上で勇気づけられる旨述べた。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,経済成長の強化には構造改革の実現が重要であることは,APEC諸国の成功経験によって繰り返し証明されてきた,メキシコは,労働,教育,通信,経済競争,財政,金融,エネルギーといった戦略的分野において構造改革を推進,具体化してきており,これらの改革に共通する目的は競争力を向上させ,潜在性を最大限に引き出すことである旨述べた。また,同大統領は,かかるビジョンをもって,メキシコは構造改革に関するAPEC刷新アジェンダ2016-2020へコミットする旨述べた。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,経済成長が我々の経済にとって重要であるとすれば,その経済成長が包摂的で,持続可能なものであることが同様に重要である,メキシコはAPECの下でも議論された質の高い成長の強化へコミットしている旨述べた。また,同大統領は,メキシコの目標は,質の高い教育,質の高い住居,社会保障,保健サービス,賃金の高い労働を通じた,開発への平等の機会が保障された,包摂的で繁栄を享受するメキシコの実現である旨述べた。
(エ)ペニャ・ニエト大統領は,国際貿易は経済成長のエンジンである旨述べつつ,メキシコは世界で最も開かれたエコノミーの一つとして,WTOの枠組みにおける貿易円滑化協定の施行,ドーハ・ラウンド交渉の早期妥結を通じて,多角的貿易体制に引き続きコミットする旨述べた。また,同大統領は,メキシコは貿易円滑化の重要性を認めており,国境を越えた物品,資本,ヒトの移動を促進するために,税関の近代化及び税関インフラ整備に関する566件のプロジェクトに530百万ドルを投じている旨紹介した。
(オ)ペニャ・ニエト大統領は,中小零細企業がアジア太平洋エコノミーの大部分を構成する柱であり,メキシコでは,GDPの50%以上,雇用の70%以上,企業数の約90%を占めている点を強調しつつ,現政権の下で中小零細企業支援策を開始し,既にエネルギー改革,通信改革,金融改革,経済競争力改革といった構造改革に反映されている旨説明した。
【第2リトリート】
19日,ペニャ・ニエト大統領は,「持続可能で強靱なコミュニティーを通じた包摂的な成長」をテーマとするAPEC首脳会議第2リトリートに出席したところ,同大統領の発言概要は以下のとおり。
(ア)ペニャ・ニエト大統領は,現在の複雑で逆境に直面している国際情勢の中で,APEC首脳は,高い成長率の実現に加えて,包摂的で持続可能な成長を実現するための必要な条件を創出する重要な責務を負っている旨述べた。また,同大統領は,その中でも特に,持続可能で強靭なコミュニティーの確立に向けて市民に対するエンパワーメントを実施することが求められている,これは環太平洋火山帯が位置しており,気候変動の影響により悪化傾向にある自然災害に対して脆弱なアジア太平洋において特に重要である旨述べた。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコにおける自然災害の例として,2002年~13年の間に年間平均2回メキシコに被害をもたらしているハリケーンに言及,特に先月のハリケーン「パトリシア」は西半球では史上最大のものとされたが,メキシコは最悪の事態に備え予防措置をとった,我々は広く共有された市民保護の文化によりこの危機に対応し,乗り切ることができたのだとすれば,国際社会としては,気候変動による影響を軽減するために集団的なコミットメントを行わなくてはならない旨述べた。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,現政権の下,メキシコ史上で初めて,富,競争力,雇用を創出する一方で,我々の自然遺産を保全するグリーン成長に対する明確なコミットメントを国家開発計画の中で打ち出した,また,メキシコはSDGsにも包含された持続可能な消費及び生産を,自国の開発計画の中で初めて優先分野として扱った国の一つである旨述べた。また,ペニャ・ニエト大統領は,財政改革,エネルギー改革等の例を挙げつつ,現在推進している構造改革においてもグリーン成長の観点が盛り込まれている旨説明した。
 
(2)太平洋同盟-APEC首脳非公式会合
(ア)18日,ペニャ・ニエト墨大統領は,APEC首脳会合マージンで開催された太平洋同盟-APEC首脳非公式会合に出席し,太平洋同盟及びAPECの加盟国であるメキシコとして,両メカニズムが共通の関心を有するテーマにおいて協力を促進するための作業部会を設置し,両メカニズム間の対話を制度化することを提案した。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,APECと太平洋同盟間のより緊密な協力によって,現在の貿易関係を更に強化することができ,我々を繋ぐ太平洋の両側の国々に利益をもたらすことが可能である旨述べた。
(ウ)その上で,同大統領は,APEC-太平洋同盟間の協力が可能な分野として,少なくとも,(1)中小企業によるグローバル・バリュー・チェーンへの参加,(2)地域経済統合,(3)人的資本開発,の3分野が挙げられる旨述べ,それぞれの分野についてメキシコが太平洋同盟の枠組みで推進してきた取組につき概要以下のとおり紹介した。
(1)中小企業によるグローバル・バリュー・チェーンへの参加
 中小企業は我々の経済において,成長のエンジンであり,また,重要な雇用創出源である。太平洋同盟の下には,中小企業によるグローバル・バリュー・チェーンへの参加という戦略的目的を有する,中小企業作業部会が設置されている。メキシコは,中小企業支援として,以下の3つの政策を実施している。
●中小企業によるグローバルな生産スキームへの参画の機会が存在する分野を特定するためのOECDとの共同研究
●2016年より操業を開始する予定で,中小企業及び地域の起業家に対する人材育成及びコンサルティング支援を行う企業開発センター網(Red de Centro de Desarrollo Empresarial)の構築
●100百万ドルまでの初期投資資金を有し,2017年より操業開始が予定されている起業資本ファンド(Fondo de Capital Emprendedor)の創設
(2)地域経済統合
 APECはアジア太平洋地域の自由貿易の主導役であり,太平洋同盟も同様の目的を有している。両ブロックの経済的繋がりは既に非常に重要であり,太平洋同盟の貿易の75%はAPECのエコノミーと行われており,APEC市場で消費される果実の4分の1が,太平洋同盟産のものである。また,APECが輸入する銅の23%が太平洋同盟産であり,APECの自動車購入の13%が太平洋同盟からのものである。
(3)人的資本開発
 人的資本の開発は,我々の経済の競争力を高める上で必要不可欠であるところ,太平洋同盟加盟国は,加盟4カ国間の大学間において交流を実現すべく,学生・学術交流プラットフォーム(Plataforma de Movilidad Estudiantil y Academica)を設置した。
 
(3)墨豪首脳会談
(ア)18日,ペニャ・ニエト大統領は,APEC首脳会合開催前に,ターンブル豪首相と二国間会談を実施し,両国の様々な共通の関心事項について対話を行った。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコは豪との教育・文化交流を活発化させ,また,より多くのメキシコ人労働者が豪を訪問し,居住できるよう取り組んでいるところである旨述べた。また,同大統領は,両国は様々なレベルで多くのコンタクトを有しており,地理的距離は問題ではない,貿易,経済,投資関係の更なる強化の機会を見いだすべく,アジェンダ設定を行う必要がある旨述べた。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,墨豪がともに参加しているTPPの重要性を強調し,TPPは参加国間の経済・貿易関係の強化に重要な役割を果たす旨述べた。また,同大統領は,墨,インドネシア,韓国,トルコ及び豪によって構成される経済ブロック(発言のママ)であるMIKTAの枠組みで,メキシコはこれらの国と共に,高い成長率を実現し,社会により多くの便益をもたらすための作業計画を設定した旨述べた。
(エ)ペニャ・ニエト大統領は,ターンブル首相に対して,メキシコへ公式訪問をするよう招待した。
(オ)これに対して,ターンブル首相からは,豪は中南米地域,特にメキシコを今後より注視していく旨述べた。また,同首相は,メキシコで具体化されている構造改革に言及し,ペニャ・ニエト大統領に賛辞を述べるとともに,豪企業が,特に都市インフラの分野において対墨投資への関心を有している旨強調した。
 
8.ペニャ・ニエト大統領のCOP21首脳会議出席
30日,ペニャ・ニエト大統領はフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会合(COP21)首脳会議に出席した。
(1)第1ワーキング・セッション等
(ア)30日,ペニャ・ニエト大統領は,オランド仏大統領,潘基文国連事務総長及びファビウスCOP21議長(仏外相)が議長を務めた,COP21首脳会議第1ワーキング・セッションに出席し,今回のCOP21は世界にとっての分水嶺とならなくてはならない,我々は低炭素経済へ移行し,より強靭な世界を創り上げるために集結しなくてはならない旨述べた。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコがこの歴史的会合を欠席するわけにはいかなかった理由として,メキシコが,(1)グローバルな責任を有するアクターであり,(2)気候変動の影響に対して特に脆弱である点を挙げた。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコが途上国の中で最初に約束草案を提出した国である点を強調しつつ,メキシコは経済及び社会開発にブレーキをかけることなく,気候変動にかかる新たなレジームを確保することが可能であると確信している,我々の環境に配慮しつつ,社会便益をもたらすための経済的成長を実現することは可能である旨述べた。
(エ)ペニャ・ニエト大統領は,10月に発生した史上最大規模のハリケーンである「パトリシア」を想起し,同ハリケーンの発生は気候変動に関連した結末とリスクがいかなるものかを再度示した,ますます多くの頻度で発生し,極端で危険となっているかかる気象現象の存在は,ダイナミックで,明確な目的を有する,グローバルな長期的コミットメントの緊急性を示している旨述べた。
(オ)ペニャ・ニエト大統領は,パリで発生したテロ事件に関し,支援と連帯の意を表明した。
(カ)ペニャ・ニエト大統領は,第1ワーキング・セッション終了後,第2ワーキング・セッションにおいて,オランド仏大統領の要請により,第1セグメントの議長を務めた。また,同大統領はオランド大統領主催午餐会に出席した。
(2)カーボン・プライシングに関するパネル
(ア)30日,ペニャ・ニエト大統領は,カーボン・プライシングに関するパネルに出席し,温室効果ガスの排出を削減し,よりクリーンな燃料の使用を促進する上でカーボン・プライシングが効果的な措置であると認識している旨述べた。
(イ)ペニャ・ニエト大統領は,Jim Yong Kim世銀総裁が議長を務めた本パネルにおいて,カーボン・プライシングの分野で重要な進歩を遂げてきたドイツ,カナダ,チリ,フランス等の首脳を前に,メキシコは本件にかかるイニシアティブを支持する旨宣言した。同大統領は,カーボン・プライシングの経済的な合理性は明白であり,カーボンの真の価格を設定することで,消費を削減し,経済主体がより効率的なプロセス,よりクリーンで,より持続可能なエネルギー・ミックスに投資することを奨励することにつながる旨述べた。
(ウ)ペニャ・ニエト大統領は,低炭素経済への移行は,政府,機関,企業,市民社会を含む全ての主体によって共有された責任であり,メキシコの国家開発計画は,富を産出すると同時に,自然資源を保護し社会開発を促進する包摂的なグリーン成長を推進している旨述べた。
(エ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコによる取り組みの例として,天然ガスよりも高い排出量を伴う化石燃料に対する炭素税の導入(2013年)や,炭素市場の創設にかかる進捗を紹介した。同大統領は,炭素税は,国際的なベスト・プラクティスを参考に設計されており,含有炭素量に応じてそれぞれの化石燃料に適用される,また,炭素の排出を削減すると同時に,気候変動への対処行動を促進するための資源を徴収することを目指している旨説明した。
(オ)ペニャ・ニエト大統領は,メキシコは約束草案を提出した最初の途上国であり,2030年までに温室効果ガスを22パーセント,ブラックカーボンを51パーセント削減することを目標に掲げている,さらに,全電源に占めるクリーンエネルギー比率を2024年までに35パーセント,2030年までに43パーセントに引き上げることにもコミットしている旨述べた。さらに,同大統領は,緑の気候基金及び地球環境ファシリティ(GEF)への拠出を含め,メキシコは気候変動分野における国際協力も推進している旨述べた。