メキシコ政治情勢(7月)
〈概要〉
内政では、6日、ナジャリット州、コアウイラ州、プエブラ州で地方選挙が実施された。8日、通信改革関連二次法案が連邦下院にて可決され、成立した。9日、全国選挙機関(INE)が3政党の新規政党登録を承認した。17日~21日、上院にて臨時国会が招集され、エネルギー改革関連二次法を構成する4つの細則案が可決された。これら細則案は下院での審議・採決のために下院へと送付された。28日、下院は臨時国会を召集し、右4細則案を含むエネルギー改革関連二次法案の集中審議・採決を開始した。
外交では、5日~6日、ミード外相がヨルダンを訪問した。13日~14日、バチカン法王聖座パロリン国務長官が訪墨し、ミード外相らと会談した。17日、フランク=ヴォルター・シュタインマイヤー・ドイツ外相が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領を表敬、ミード外相らと会談した。17日~18日、オジャンタ・ウマラ・ペルー大統領が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領らと会談した。22日~23日、ミード外相はカリフォルニア州を訪問し、ブラウン・カリフォルニア州知事らと会談した。24日、ペニャ・ニエト大統領はオバマ米大統領と電話会談を行った。25日~27日、安倍総理大臣はメキシコを訪問し、ペニャ・ニエト大統領と3度目の首脳会談を行った。27日~30日、ブラウン・カリフォルニア州知事が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領を表敬、ミード外相らと会談した。
〈内政〉
1.通信改革関連二次法案の可決
4日、連邦上院は臨時国会を召集し、通信改革関連二次法案を賛成80、反対37で可決し、連邦下院での審議のために同法案を連邦下院に送付した。同法案は、8日、連邦下院の臨時国会において、賛成340、反対129、棄権1で可決され、成立した。右可決を受け連邦政府に送付された同法は、14日、官報に掲載された。
【主なポイント】
(1)本改革関連法案の成立によって、下記(ア)及び(イ)の2つの新法が公布され、本改革に関連する11の法が改正される。
(ア)連邦通信・ラジオ放送法(Ley Federal de Telecomunicaciones y Radiodifusion)
(イ)メキシコ合衆国におけるラジオ放送公共システム連邦法(Ley Federal del Sistema Publico de Radiodifusion del Estado Mexicano)
(2)「支配的な事業者(agentes economicos preponderantes)」に関する規定
同改革法を巡り最も焦点となっていた「支配的な事業者(agentes economicos preponderantes)」に関する規定は以下のように定められた。
(ア)「支配的な事業者」は、通信サービスにおける50%以上の独占ではなく、通信セクターにおける50%以上の独占によって認定される。
(イ)連邦通信機関(Instiuto Federal de Telecomunincacion:IFT)に、通信セクターにおける「支配的な事業者」を調査し、認定する権能が与えられる。
(3)メキシコ合衆国におけるラジオ放送公共システム(Sistema Publico de Radiodifusion del Estado Mexicano)の創設
国民の国家への統合を促進し、公徳心、男女平等の意識を育む教育的内容のラジオ放送を多くの国民に提供する目的を持って、メキシコ合衆国におけるラジオ放送公共システムが創設される。
(4)当局による「検閲」の削除
通信改革関連二次法案の審議に対し、一部市民らから懸念の声が上がっていた当局による「検閲」に関し、その可能性を連想させる文言は削除された。
(5)消費者の利益
(ア)2015年より、遠距離電話料金(cobro de llamadas de larga distancia)が廃止される。
(イ)25万の公共の場で、インターネットへの無料アクセスが提供される。
(ウ)プリペイド式携帯電話に関し、使用期限を過ぎた残高は1年以内であれば、次回の加算時に使用できるようになる。
(エ)消費者は、現在の電話番号を保持したまま携帯会社を変更することができる。
(オ)新たに2つのデジタル放送チャンネルが全国放送として創設される。
(6)アメリカ・モバイルの反応
通信改革関連法案の可決を受けて、カルロス・スリムの経営するアメリカ・モバイルは、メキシコ株式市場向けの報告書の中で、独立新事業者に利する形で、株式を分離・売却することを発表した。同報告書によると、本措置の決定は、同社の通信セクターにおける資本参加比率を50%未満とし、Telmex及びTelcelが、本通信改革関連法案において非対称的な規制の対象となる「支配的な事業者」とみなされることを避けることを目的としたものである。
2.地方選挙の暫定結果
6日、ナジャリット州において同州議会選挙及び市長選挙(20市)、コアウイラ州において同州議会選挙、プエブラ州において市長選挙(2市)が実施された。なお、選挙結果については、各州選挙機関の公表している暫定結果。
【選挙暫定結果】
1.ナジャリット州
(1)概要
ナジャリット州議会選挙(定数30議席)、同州市長選挙(20市)が実施された。同州は過去9年間に渡り、PRIが州議会において過半数以上を確保しており、今回の選挙においても、PRIの勝利は確実視されていた。そのような情勢の中、今回の選挙はロベルト・サンドバル現州知事の信任を測る意味において注目を集め、とりわけ、州都テペック市長選が焦点となった。
(2)ナジャリット州議会選挙
(ア)今般の選挙暫定結果
(a)小選挙区(18議席)
「ナジャリットの利益のため(Por el bien de Nayarit)」(PRI、緑の党(PVEM)、新同盟党(Panal)による同盟)14議席、国民行動党(PAN)2議席、民主革命党(PRD)2議席
(b)比例代表制(12議席)
「ナジャリットの利益のため」4議席、PAN 3議席、PRD 2議席、労働党(Partido del Trabajo)2議席、市民運動(Movimiento Ciudadano) 1議席
(イ)選挙前の議席数
「ナジャリットの利益のため(Por el bien de Nayarit)」20議席、PAN 4議席、PRD 2議席、無所属 4議席
(3)ナジャリット州市長選挙(20市)
(ア)今般の選挙暫定結果
「ナジャリットの利益のため(Por el bien de Nayarit)」16市、PAN 3市、無所属 1市
(イ)選挙前の市長数
「ナジャリットの利益のため(Por el bien de Nayarit)」9市、PAN 10市、PRD 1市
(ウ)テペック市長選結果
州都テペック市においては、PANとPRDの統一候補が、78,444票(54.47%)を獲得し、54,588票(37.89%)だった「ナジャリットの利益のため」同盟の候補者を上回り、勝利した。
2.コアウイラ州
(1)概要
コアウイラ州議会選挙(定数25議席)が実施された。同州は長年に渡りPRI政権が続いているが、今般の選挙では、前州知事が負の遺産として残した地方債務超過の問題が、その兄弟であるルベーン・モレイラ現州知事への信任にどのような影響を与えるかという点に注目が集まった。また、回復の兆候が見られない同州の治安情勢も焦点となった。
(2)コアウイラ州議会選挙
(ア)今般の選挙の暫定結果
(a)小選挙区(16議席)
PRI 16議席
「我々は皆コアウイラ(Todos Somos Coahuila)」(PRI、緑の党、新同盟党、社会民主党(Partido Social Democrata)、コアウイラ第一党(Primero Coahuila)、青年党(Partido Joven)、コアウイラ革命党(Partido de la Revolucion Coahuilense)、民衆農民党(Partido Campesino Popular)による同盟)の統一候補7名を含む。
(b)比例代表制(9議席)
PAN 1議席、コアウイラ民主連合(Unidad Democratica de Coahuila)1議席、コアウイラ第一党 1議席、緑の党 1議席、新同盟党 1議席、社会民主党 1議席、PRD 1議席、コアウイラ革命党 1議席、民衆農民党 1議席
(イ)選挙前議席数
PRI 15議席、緑の党 2議席、新同盟党 2議席、社会民主党 1議席、コアウイラ第一党 2議席、PAN 2議席、コアウイラ民主連合 1議席
3.プエブラ州
(1)概要
プエブラ州市長選(2市)が実施された。同州はPANが政権を握っており、PANが擁立した候補(他党との統一候補)が順当に当選する結果となった。
(2)アカヘテ市長選結果
PAN、PRD、新同盟党、プエブラのための約束党(Partido Compromiso Por Puebla)、統合のための社会協定(Pacto Social de Integracion)による統一候補が、8835票(37.03%)を獲得し勝利。
(3)クアピアクストラ・デ・マデロ市長選結果
PAN、PRD、新同盟党、プエブラのための約束党(Partido Compromiso Por Puebla),統合のための社会協定(Pacto Social de Integracion)による統一候補が、1708票(49.63%)を獲得し勝利。
3.新政党登録の承認
9日、全国選挙機関(INE)の理事会は、国家再生運動(Movimiento Regeneracion Nacional:Morena)、社会集会党(Partido Encuentro Social:PES)、人道主義戦線党(Partido Frente Humanista:PFH)の3政党の新規政党登録を承認した。これにより、本年8月より該当の3政党は公的助成金を受け取り、INEの理事会に議席を得ることになる(INEの理事会は、INEの11人の評議員と各政党の代表者、理事会のメンバーの3分の2以上の投票で選ばれる会長によって構成される)。また、テレビ・ラジオにおける選挙スポット放送を行う権利も得る。ただし、これら3政党が発足後、初となる2015年の選挙において、他の政党との間で同盟を組むことは禁止されている。
【新政党の概要】
(1)国家再生運動
党首:マルティ・バトレス・グアダラマ(Marti Batres Guadarrama)
党員数:496,729人
左派。2010年に民主革命党(PRD)内の会派として誕生し、2012年の大統領選挙においてロペス・オブラドール前大統領候補(以下「ロ」前候補)を勝利させることが最大の目的であった。同大統領選挙において、「ロ」前候補が敗れた後、「メキシコのための協約」を巡り、「ロ」前候補がPRDを離脱し、独立した政党としての登録を目指すことを表明した。マルティ・バドレス・グアダラマが党首を務めるが、実質的リーダーは「ロ」前候補であり、自身の新しい政党を「メキシコの希望」と呼ぶ。「ロ」前大統領の知名度を活かし、左派層の支持者、PRDの支持者を取り組んでいくことによって、PRDに代わり、与党制度的革命党(PRI)、野党第一党国民行動党(PAN)に次ぐ第三の勢力になれるか、その動向に注目が集まる。
(2)社会集会党
党首:ウーゴ・エリック・フローレス・セルバンテス(Hugo Eric Flores Cervantes)
党員数:308,997人
政党ホームページに中道政党であることを表明。2006年30日にバハカリフォルニア州の地方政党として登録されている政党であり、今般、全国政党として登録された。支持母体はプロテスタント系信者であるが、政教分離の原則は遵守するとする。「家族のための政党」を自称し、価値観、倫理観を守る政治、家族のつながりを通して社会の団結を促進する政治を掲げる。
(3)人道主義戦線党
党首:ハビエル・エドゥアルド・ロペス・マシーアス(Javier Eduardo Lopez Macias)
党員数:269,515人
左派。エドゥアルド・ロペス党首は、前回大統領選においてPANのバスケス・モタ大統領候補の選挙コーディネータを務めた。その後、複数のPAN所属議員を引き連れ、PANを脱党し、全国農民連合(Confederacion Nacional Campesino)の元リーダー、イグナシオ・イリス・サロモン(Ignacio Irys Salomon)と共にPFHを創設した。
PANとの関係の強さが噂されており、実質的にはPANのサテライト政党ではないかという指摘もあるが、エドゥアルド・ロペス党首はPFHは独自に生まれた政党であり、その決定はPFHの自治によって行われる旨強調している。
4.臨時国会の開催(エネルギー改革関連二次法案)
17日、メキシコ連邦議会は上院にて臨時国会を召集した。21日まで開催された本臨時国会において、エネルギー改革関連二次法案の集中審議・採決が実施され、同改革関連法を構成する4つの細則案が可決された。それら細則案は下院での審議・採決のために下院へと送付された。
28日、メキシコ連邦議会は下院にて臨時国会を召集した。本臨時国会では、上院から送付された4つの細則案を含むエネルギー改革関連二次法案の集中審議・採決が行われている。
5.移民問題
8日、ペニャ・ニエト大統領はメキシコ国内を通過する移民を保護することを目的とした、南部国境プログラム(El Programa Frontera Sur)を発表した。
【主なポイント】
(1)背景
グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルといった中米の国々において、麻薬組織などの活動によりに治安が悪化したことと、オバマ政権の移民政策は未成年者の不法移民に優しいものであるといった誤った認識がこれらの国々で広がったことによって、米国を目指す不法移民が増加しており、とりわけ、同伴者のいない未成年者の不法移民問題が深刻化している(米国のシンクタンク、ピュー研究所の調査によれば、米国の会計2013年度(2012年10月1日から2013年9月30日まで)に米墨国境で身柄を拘束された同伴者のいない未成年不法移民の数は38,759人であったのに対し、2014年度は(2013年10月1日から2014年5月末)46,932人と、年度終了まで4ヶ月残すにも関わらず、117%増加している)。
これら不法移民者はメキシコを通過し、陸路で米国を目指すが、メキシコ領土内で犯罪組織の獲物となる、または、米国国境警備隊に捕捉され、収容所に送られるか、本国に強制送還されるなど、人道的観点からも深刻な問題として取りざたされるようになってきている。このような状況を前に、メキシコ政府が南部国境地帯での取り組みとして発表したのが、今般の南部国境プログラムである。
(2)5つのアクション
(ア)グアテマラ及びベリーズの国民に対し、メキシコ南部のチアパス、タバスコ、カンペチェ、キンタナローの各州での労働を許可する国境労働者カード(Tarjeta de Trabajador Fronterizo)を発行し、メキシコ国内での72時間滞在を許可する。この国境労働カードは、ホンジュラス、エルサルバドルの国民にも今後適用される予定である。
(イ)5つの税関所を国境通過統合アテンションセンター(Centros de Atencion Integral al Transito Fronterizo)として改め、移民局、国税庁、厚生省、国家家族統合発展システム、農牧省の職員を配置し、総合的なサービスを提供すると同時に、国防省、海軍、連邦警察が駐在し、国境地帯の治安の強化を図る。
(ウ)未成年移民者に対する社会的保護、健康面の保護を強化する。
(エ)エルサルバドル、米国、グアテマラ、ホンジュラスと共に、未成年移民者の問題を地域的に取り組んでいく。
(オ)(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)の目標を達成するために、内務省管轄の南部国境における移民統合アテンションのためのコーディネーション(la Coordinacion para la Atencion Integral de la Migracion en la Frontera Sur)が創設される。
(3)南部国境プログラムのコーディネータの任命
15日、オソリオ内相は、フェルナンド・マヤンス(Fernando Mayans)前上院南部国境委員会委員長を南部国境プログラムのコーディネータに任命する人事を発表した。
〈外交〉
1.ミード外相のヨルダン訪問
5日~6日、ミード外相はヨルダンを訪問し、アブドッラー2世・イブン・アル・フセイン国王、アブドッラー・アル=ヌスール首相、ナーセル・ジュデ外相と会談した。今回の訪問は、本年2月、アブドッラー2世・イブン・アル・フセイン国王が訪墨した際に両国で交わされた合意に関するフォローアップ及び、両国間における政治的対話を強化する目的で実施された。
2.バチカン法王聖座パロリン国務長官の訪墨
13日~14日、バチカン法王聖座パロリン国務長官が訪墨し、ミード外相らと会談し、メキシコとバチカンの2国間関係及び、国際的移民問題に関し意見交換を行った。
3,フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー・ドイツ外相の訪墨
17日、フランク=ヴォルター・シュタインマイヤー・ドイツ外相が訪墨。ペニャ・ニエト大統領を表敬、ミード外相らと会談し、政治・経済・文化における両国間の新たな協力の可能性につき意見を交わした。また、18日、同外相はミード外相とともに、グアナファト州シラオ市にてドイツ系企業バイヤスドルフ社の工場開所式に出席した。
4.オジャンタ・ウマラ大統領の訪墨
17日~18日、オヤンタ・ウマラ・ペルー大統領が訪墨。ペニャ・ニエト大統領らと会談し、政治的対話の強化、発展のための協力の深化、両国の貿易拡大につながる戦略的提携協定に署名した。
5.ミード外相のカリフォルニア州訪問
22日~23日、ミード外相はカリフォルニア州を訪問し、ブラウン・カリフォルニア州知事らと会談した。また、同州サンフランシスコ市、サクラメント市のメキシコ人コミュニティーのリーダーたちと会合を持ち、連邦政府は在外メキシコ人に対して領事サービスの拡大等を行っていく旨述べた。
6.ペニャ・ニエト大統領とオバマ米大統領との電話会談
24日、ペニャ・ニエト大統領は、オバマ米大統領と電話会談を行い、同伴者のいない未成年者の不法移民問題に対し協力して対応していく必要性につき一致。
7.安倍総理大臣の訪墨
25日~27日、安倍総理大臣はメキシコを訪問し、ペニャ・ニエト大統領と3度目の首脳会談を行った。詳細については下記、外務省ホームページを参照。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/m_ca_c/mx/page4_000591.html
8.カリフォルニア州知事の訪墨
27日~30日、ブラウン・カリフォルニア州知事が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領を表敬、ミード外相らと会談した。ペニャ・ニエト大統領は、メキシコとカリフォルニア州の経済的・政治的・社会的なつながりの深さに言及。また、教育、環境、及び貿易面での新たな投資及び協力の可能性を示唆した。また、同州知事及びミード外相による共同記者会見において、同外相から、未成年者の不法移民問題については、人道的側面から対応する必要がある旨発言があった。
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