ユカタン半島湿地保全計画

令和元年8月20日

プロジェクトの概要

ユカタン半島は、太古の昔に珊瑚礁によって生成・蓄積された石灰岩に覆われており、広大な半島全体が起伏少ない平坦な地形をしています。石灰岩質の大地は、水が浸透しやすく、半島に降った雨は地中にすばやく浸透するため、地表に川が無い代わりに巨大な地下水脈が形成されています。このような特異な自然条件によって、ユカタン半島には世界的に貴重な生態系が発達しています。
メキシコ政府は、2004年末までにユカタン半島とその沿岸地域に7箇所の生物圏保護区、8箇所の国立公園、4箇所の動植物相保護区を設置し、これらの貴重な生態系を保全する取組みをおこなっています。このように、メキシコ政府は、近年、各種自然保護地域の指定地域を急速に増大させ、2005年4月現在で国土の約9%をカバーするに至りましたが、これらの自然保護地域を管理するための人員や資源が保護地域の物理的な拡大に追いつかず、人員・資源不足に直面しています。
ユカタン半島西岸のユカタン州とカンペチェ州にまたがるリア・セレストゥン生物圏保護区も例外ではなく、少ない人員と資源を最大限有効に活用した保護区管理システムを構築することが急務です。このため、メキシコ政府は日本政府に対しリア・セレストゥン生物圏保護区が有する沿岸湿地生態系の保全・修復、そして持続可能な利用を可能にするための技術協力を要請しました。日本政府はこの要請を受け、国際協力機構(JICA)を通じて2003年3月から5年間の予定で技術協力プロジェクト「ユカタン半島沿岸湿地保全計画」を実施しています。
リア・セレストゥン生物圏保護区は、81,482ヘクタールの広さを持ち、沿岸部はマングローブ林に覆われ、フラミンゴの採餌・繁殖地、ウミガメの繁殖地、生きた化石と言われるアメリカ・カブトガニの生息地として重要であるだけでなく、多くの渡り鳥の避寒地としても重要な役割を果たしています。その重要性から2004年2月に「湿地に関するラムサール条約」に基づく「国際的に重要な湿地」として登録されました。しかしながら、保護区内にある集落から出る廃水・廃棄物による汚染や、法律上禁止されている保護区内水域での漁による水生生態系の破壊、道路建設が原因と疑われる1,000ヘクタールものマングローブ林の枯死など、様々な問題に直面しています。
この共同プロジェクトでは、

 (1)関連する政府機関、NGO、地域住民などが協力して保護区内の環境をモニタリング・管理する体制 の構築

 (2)地域住民や保護区を訪れる観光客への環境教育

 (3)廃水・廃棄物の適正な管理

 (4)枯死マングローブ林の修復

 (5)エコツーリズムなど漁業に代わる代替経済活動の開発支援

 (6)保護区管理事務所職員の能力強化

 などを目標とした活動をおこなっています。これらの活動を支援するため、JICAは、これらの目標に関連する分野の日本人専門家を現地に派遣し保護区管理事務所職員に対して助言・指導を行うとともに、彼らを日本に招聘して技術研修を提供し、また保護区の施設・機材の整備に対する資金的支援などを行っています。