メキシコ政治情勢(5月)
〈概要〉
内政では、11日、エネルギー改革二次法案に関し、PRIとPANの間で大筋合意に達した。15日、連邦下院において、政治・選挙改革関連法案が可決され、官報掲載のため連邦政府に送られた。また、同改革関連法案とあわせて可決された憲法第41条修正案は、州議会へ送付された。18日、PAN党首選が実施され、マデロ党首が再選を果たした。
外交では、4月29日から2日にかけて岸外務副大臣が訪墨した。8日、ミード外相がソリス新コスタリカ大統領の就任式典へ出席するため同地を訪れた。11日から12日、ミード外相はペニャ・ニエト大統領の訪葡に向けた事前調整のためポルトガルを訪問し、パッソス・コエーリョ首相、ポルタス副首相らと会談した。14日から15日、ミード外相はヒューストン、ニューヨークを訪問した。19日から20日、シャンムガム・シンガポール外相が訪墨し、外相会談を行った。21日から22日、ケリー米国務長官が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領、ミード外相らと会談した。22日、ガルシア=マルガージョ・スペイン外相が訪墨し、ミード外相と二国間委員会会合を開催した。29日から30日、太平洋同盟第24回高級実務者会合、及び同第11回閣僚級会合が開催された。
〈内政〉
1.エネルギー改革に関する与野党大筋合意
11日、制度的革命党(PRI)及び国民行動党(PAN)所属議員は、エネルギー改革二次法案に関し、大筋合意に達した旨明らかにした。なお、民主革命党(PRD)は、従来通り公聴会を求める姿勢を崩さず、同法案を支持しない方針を表明している。
2.政治・選挙制度改革関連二次法案14日、15日、連邦議会は臨時会期を召集した。同会期においては政治・選挙制度改革関連法案が審議され、14日には連邦上院議会において、15日には連邦下院議会において可決された。今般の可決を受け、同法は官報掲載のため連邦政府に送られた。また、同改革関連法案とあわせて可決された憲法第41条修正案は、州議会へ送付された。
【主なポイント】
(1)選挙制度・手続法(Ley General de Instituciones y Procedimientos Electorales:Legipe)の成立に伴い、2008年1月に官報掲載されていた選挙制度・手続連邦規則(Codigo Federal de Institciones y Procedimientos Electorales:Cofipe)が廃止される。
(2)無所属候補の立候補に関する規定
(ア)無所属候補が大統領選挙に立候補する場合は、有権者リストの1パーセントの署名を有しなければならない。
(イ)無所属候補が他の公職選挙に立候補する場合は、有権者リストの2パーセントの署名を有しなければならない。
(3)在外投票に関する規定
大統領選挙、州知事選挙、メキシコ市長選挙に関し、在外投票権が認められる。在外メキシコ人は、大使館、領事館に設置される投票所、もしくは郵送サービスを用いて投票することができる。
(4)ジェンダー間の平等
公職へのアクセスに関し、男女間の機会平等を政党に義務化。
(5)選挙違反とその罰則に関する規定
選挙違反に当たる行為とその罰則に関して規定を定める。
(6)政党資格のはく奪に関する規定
(ア)公職選挙に実際に参加しない場合。
(イ)直近の連邦上院、下院議員選挙、大統領選挙において3パーセント以下の投票しか獲得できなかった場合。
(ウ)地方政党の場合、直近の地方議員選挙、州知事選挙において3パーセント以下の投票しか獲得できなかった場合。
(7)政治資金に関する透明性
(ア)各政党、無所属候補に対し、国家選挙機関(Instituto Nacional Electoral:INE)へのそれぞれの立候補者の政治運動費用収支報告書の提出を義務化。
(イ)寄付金等による政治資金に関し、連邦区の最低賃金300日を超える額に対しては、各政党に毎月報告書の提出を義務化。
(8)INEに与えられる役割・権能。
(ア)国政選挙の運営、並び州選挙機関の監督。
(イ)選挙の事前キャンペーン並びキャンペーンにおける収入、支出の管理。
(ウ)選挙人名簿の管理。
(エ)テレビ・ラジオのスポットCMの各候補者への時間配当及び監督。
(オ)選挙に関するアンケートの実施とその流布。選挙結果の集計。
(9)公務員特別規定
(ア)すべての公務員は、INEの決定を尊重するとともに、選挙に関連する法を遵守しなければならない。
(イ)すべての公務員は、その行動、もしくは職務怠慢によって、選挙規範を侵してはならない。
(ウ)上記の2点に関する違反は重大なものとみなされる。
(10)憲法第41条の改正
客年12月の憲法改正によって定められた選挙の無効規定「法に定められた規定のスポット時間以外のラジオ・テレビのスポット及び情報枠を購入した場合」に関し、「購入もしくは獲得(adquirir)した場合」と改正。購入のみならず、様々な手段でのラジオ・テレビのスポット枠及び情報枠の獲得を広範にわたり禁止。
(11)連邦選挙裁判所の裁判官への年金
連邦司法権力基本法(Ley Orgnica del Poder Judicial de la Federacion)第209条における、連邦選挙裁判所(Tribunal Electoral del Poder Judicial de la Federacion:TEPJE)の裁判官への年金(Haber de retiro)の支払いに関する規定が、連邦下院にて、賛成232票、反対196票で可決され、成立。裁判官への事前買収にあたるのではないかという批判から、議会は紛糾。野党の国民行動党PANとPRDは、第209条の廃止を求めるイニシアチブを提出する考えを示したのに対し、PRIは、裁判官の職を辞した後、裁判官の専門職を務めることのできない2年の間、年金支給を保証するイニシアチブを提出する旨を公表した。
4.PAN党首選
18日、PANの党首選挙が実施され、マデロ前党首が対立候補コルデロ前上院議長を破り再選を果たした。同党党首選挙としては初めて、党員による投票によって党首を選出するということでも注目を集めた同選挙では(従来はPAN全国委員会(Consejo Nacional de PAN)委員による間接選挙)、約21万7千人のPAN党員の72%以上が投票し、マデロ前党首が56.76%の票を獲得、43.24%だったコルデロ前上院議長を上回った。22日に党首就任宣言を行ったマデロ前党首は、2014年から2015年の任期中、引き続きPANを率いることとなるが、党首選挙を通じて深まった党内対立を如何に克服するか注目されている。
5.大統領支持率
28日付当地「エル・ウニベルサル」紙は、ブエンディア&ラレド社と共同で行った世論調査の結果を発表した。ペニャ・ニエト政権の2014年5月の支持率は48%(前回2月調査比:4ポイント増)、不支持率は40%(前回2月調査比:6ポイント減)であった。本年1月から施行された新税制の影響でいったん2月の調査で低下した支持率(支持率44%、不支持率46%)が、回復傾向にあることを示す結果となった。
6.ミチョアカン州知事の休職宣言
30日、ファウスト・バジェホ・ミチョアカン州知事は、客年6月に受けた肝臓の移植手術の術後経過のメディカルチェックを受けるために、6月末にかけ、州知事職を再び休職することを発表した。同州知事は、2012年2月15日に州知事に就任したが、自身の健康問題から、連邦議会にこれまで3度の休職申請を行っている。
客年、移植手術のため同州知事が6か月休職した間、犯罪組織「テンプル騎士団」との関与疑惑から、のちに連邦検察庁に身柄を拘束されるヘスス・レイナ容疑者が州知事代理を務め、同州の治安が悪化した経緯がある。
7.治安情勢
(1)連邦下院議員への発砲事件
8日、ラモン・モンタルボ・エルナンデス連邦下院議員(PRD)が、メキシコ市に隣接するバジェ・デ・チャルコ市から車で移動中、何者かの銃撃を受け、重傷を負った。同議員は、メキシコ市の病院に搬送され、緊急手術をうけた。同議員は、2006年から2009年にかけ、バジェ・デ・チャルコ市長を務めた経歴を持つ。
(2)ミチョアカン州自警団の市警察への転身
10日、治安悪化が懸念されるミチョアカン州テパルカテペック市において、自警団が同市警察の制服を受け取り、今後、市警察として活動することを宣誓した。同自警団は2013年に組織されたものであり、政府との合意を踏まえて、メンバー100名が市警察職員となることを認められたものである。
(3)タマウリパス州
13日、メキシコ連邦政府は、治安悪化が懸念されるタマウリパス州の治安回復のための新たな治安戦略を発表した。オソリオ内相は、連邦当局、同州当局が合同で行ってきた、同州において活動する主要犯罪組織「湾岸カルテル」、及び「ロス・セタス」の掃討作戦の成果は充分でないことを認め、治安戦略は新たな段階に入ったと述べた。新たな治安戦略においては、同州の4つの地域(国境、海岸沿い、中心部、南部)にメキシコ軍、海軍を展開し、人身売買のルート、麻薬密輸ルートを閉鎖する。
〈外交〉
1. 岸外務副大臣
4月29日から5月2日にかけて岸外務副大臣が訪墨した。同副大臣はアグアスカリエンテス州においてロサノ同州知事と会談、メキシコ市においてはデ・イカサ外相代行、トーレス連邦上院議会アジア太平洋外交委員長、当地進出企業関係者他と会談、2日にはロペス・シナロア州知事と会談したほか、メキシコ全国日系人大会に出席した。
2. ミード外相のソリス新コスタリカ大統領就任式典出席
8日、ミード外相はソリス新コスタリカ大統領の就任式典に出席のため、同地を訪問した。ミード外相はソリス新大統領に対し、ペニャ・ニエト大統領からの祝辞を伝達するとともに、12月にベラクルス州で開催される第24回イベロアメリカ・サミットへの出席を招請した。
3. ミード外相のポルトガル訪問
11日~12日、ミード外相は6月のペニャ・ニエト大統領の訪葡調整のためポルトガルを訪問し、パッソス・コエーリョ首相、ポルタス副首相らと会談した。また、メキシコへの同国企業の投資誘致を目的に、企業関係者らとの会合を持った。
4. ミード外相の訪米
14日~15日、ミード外相はヒューストン、ニューヨークを訪問した。
(1)ヒューストン訪問
(ア)ライス大学のデビッド・リーブロン学長と会談。ミード外相は、二国間の学生交流、学術交流を強化させることの重要性につき強調。
(イ)同大学メキシコ研究所トニー・パヤン所長と会談。ミード外相は、両国社会の相互理解の深化に寄与するため、両国に研究所を増やすことの必要性について言及。
(2)ニューヨーク訪問
(ア)国際フォーラム「メキシコ:グローバルアクター」に出席。メキシコ政府が行う改革の重要性、その改革によってもたらされる成長と、メキシコ国民の生活向上のポテンシャルについて強調。
5.シャンムガム・シンガポール外相の訪墨
19日~20日、シャンムガム・シンガポール外相が訪墨し、外相会談を行った。
(1)両外相は二国間関係強化の必要性につき一致。
(2)2015年内のタン大統領の訪墨を招待。
(3)経済関係促進のため、企業家ミッション、セミナー、展示会等開催を検討することを合意。今後潜在力のある分野としてエネルギー、インフラ、空港、観光、工業、建設、航空宇宙、電機、バイオメディカルを列挙。TPPの重要性、可能な限り早期の交渉妥結に向けた意向につき一致。
(4)科学技術、文化、教育分野での協力強化につき一致。情報技術、ナノテクノロジー、保健、健康、気候変動、学術交流での協働プロジェクト推進を合意。大学院レベル奨学金プロジェクトに向けた協力協定の締結を歓迎。
(5)ミード外相はシンガポールの太平洋同盟オブザーバー国入りを歓迎。シャンムガム外相は太平洋同盟・ASEAN間の対話促進の重要性を強調。
(6)気候変動、開発などのマルチ分野での緊密な連携を続けることを確認。国連、WTO、APEC、FEALACなどを通じた協力の継続を確認。
(7)在墨シンガポール大使館(実館)開設の可能性も含めた、外交関係強化について意見交換。
6.ケリー米国務長官の訪墨
21日~22日、ケリー米国務長官が訪墨し、ペニャ・ニエト大統領、ミード外相らと会談した。
(1)ペニャ・ニエト大統領との会談
(ア)二国間ハイレベル対話、高等教育・技術革新に関する二国間フォーラム、起業・イノベーション墨米委員会を通じ、経済関係が強化されていることを確認。
(イ)両国機関の協力・協調の重要性を確認。
(ウ)高等教育・技術革新に関する二国間フォーラムの始動を歓迎。
(エ)両国社会の相互理解と共有された繁栄のため協力する意向を確認。
(2)ミード外相との会談後の記者会見
(ア)ミード外相発言
(a)高等教育・技術革新に関する二国間フォーラムを正式に始動させた。その成果として、英語と工業技術の研修のためのメキシコ人グループを昨日派遣した。
(b)米国に居住するメキシコ人コミュニティは経済の原動力であり、地域の発展を担っている。領事サービスを通じメキシコ人の権利、人権を保護していく。
(イ)ケリー国務長官発言
(a)両国首脳会談により設置が合意された経済ハイレベル対話のフォローアップとして、本日メキシコ人企業家と会合を行う予定。
(b)教育、科学分野での二国間協力も重要。
(c)また、安全保障・移民についてもミード外相と意見交換を行った。共有された責任と相互尊重の精神に基づき、問題に対処していくことを改めて確認した。組織犯罪対策においてメキシコ政府が挙げている最近の成果を歓迎。今後も協力を継続する。また、オバマ大統領に移民制度改革実行の意思があることを再度ミード外相に伝達した。
7.ガルシア=マルガージョ・スペイン外相の訪墨
22日、ガルシア=マルガージョ・スペイン外相が訪墨した。
(1)ミード外相はガルシア=マルガージョ外相とともに第11回二国間委員会会合を開催した。
(2)外相会談では、2014年12月にベラクルスで開催されるイベロアメリカ・サミット、太平洋同盟、6月のペニャ・ニエト大統領訪西等について意見交換を行った。
(3)ガルシア=マルガージョ外相は企業家との会合を行った。
(4)二国間委員会共同宣言概要
(ア)各分科会は、様々な二国間協定について意見交換を行った。これら協定は、6月9日、10日に予定されているペニャ・ニエト大統領訪西に合わせて署名される予定。
(イ)2007年に合意された戦略的パートナーシップ改定の必要性につき一致。第11回二国間委員会最終報告書を作成することを合意。
(ウ)人材交流、人材育成を促進する何らかの制度設立の必要性につき一致。
(エ)2007年に合意された、第三国における大使館・領事館施設共同利用のための覚書の最大限の活用を模索することで一致。また、外交官人材交流のための覚書署名の必要性につき一致。
(オ)双方は、メキシコ・EU間の協力の枠組みで、メキシコに化学・生物・核・放射能リスク緩和センターを設立することへの関心を強調。
(カ)相互の投資促進、中小企業の参加促進につき一致。
(キ)イベロアメリカ・サミットの見直しにつき意見交換、再活性化に向けた協力を合意。ガルシア=マルガージョ外相は太平洋同盟との協力を強化するメカニズム創設に向けた関心を表明。
(ク)ミード外相は、メキシコ・EU間グローバル合意の更新に係るスペインの支持に謝意表明。
(ケ)国連安保理選挙を含む様々な相互支持を歓迎。三角協力の新たな方向性につき協議。民主主義、人権、死刑廃止、ジェンダー間の暴力根絶、法治国家、気候変動、ポスト2015開発目標など、共通の関心事項を確認。国連安保理改革にむけ現実的な提案を続ける意向を確認。
(コ)エネルギー、化石燃料、再生可能エネルギー、放射性廃棄物処理につき協力を進化させる必要性を強調。
(サ)司法共助、未成年の返還、領事サービスでの協力を強化し続ける意向を確認。
(シ)環境、気候変動、技術教育、犯罪被害者支援、ミチョアカン州チン・ツン・ツァンの住居再生プロジェクトなどにおける科学技術協力の進展を歓迎。主要産業のグッドプラクティス共有、三角協力、開発のための官民協力などにおいて革新的なモダリティを推進することを合意。二国間協力、三角協力の新たな方向性につき一致。
(ス)単位・学位相互認定協定締結を推進することを合意。文化遺産保護の協力促進につき意見交換。近く、水中遺産保護にかかる覚書を署名予定。
(セ)外交官人材交流、出版物・情報共有分野での取り組みを歓迎。
(ソ)両国軍による対話・協力を歓迎。
8.太平洋同盟
(1)29日、当地にて太平洋同盟第24回高級実務者会合(GAN)が開催された。
(ア)メキシコ市において第24回GANが開催され、メキシコからはルビオ外務省ラテンアメリカ・カリブ担当次官、ローゼンウェイグ経済相国際経済担当次官が参加した。
(イ)2月にカルタヘナで開催された首脳会合以降の進捗につきレビューし、6月19日、20日、プンタミタで開催される次回首脳会合の準備状況につき意見交換が行われた。
(ウ)会合には、IDB、OECD、太平洋同盟企業委員会(Consejo Empresarial de la Alianza del Pacifico)の代表者も参加した。
(エ)会合の主要なテーマの一つは、オブザーバー国(現在30)の参加についてであり、また、農産品、企業・中小企業支援についても意見交換が行われた。
(2)30日、当地にて太平洋同盟第11回閣僚級会合が開催された。
(ア)同閣僚会議に、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーから外務大臣、経済担当大臣がそれぞれ参加した。
(イ)会合では専門家会合の進捗を点検し、次回首脳会合のアジェンダ設定が行われた。また、貿易と統合、人・資本・サービスの移動、協力について合意事項の履行状況について説明が行われた。
(ウ)オブザーバー国とのワーキングプログラム、また太平洋同盟の基本方針と合致するオブザーバー国の関心事項が採択された。トリニダード・トバゴとベルギーが新たにオブザーバー国となった。
(エ)メルコスール・メンバー国、および周辺国と、情報提供を目的とした閣僚級会合を開催することが合意された。
(オ)スポーツ、文化、料理分野でイベントを開催することを合意。次回首脳会合では、メンバー国産の鉱物に関する展示会、スポーツ関連行事が開催される予定。
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