メキシコ政治情勢(10月)
〈概要〉
内政では,5日,民主的革命党(PRD)の党首選が実施され,ナバレテ候補が勝利した。29日及び30日,連邦最高裁判所は,国民行動党(PAN),PRD,国家再生運動(Morena)が行っていた国民投票申請を却下した。30日,連邦下院にて2015年度予算案の一部である歳入法が可決され,成立した。昨月26日に発生したゲレロ州イグアラ市におけるアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件の全貌解明を求める抗議活動の動きは,メキシコ全土に広がり海外でも注目を集め始めている。
外交では,1日,ミード外相がアルゼンチンを訪問し,ティメルマン外相と会談した。3日~9日,秋篠宮同妃両殿下がメキシコを御訪問された。3日,ミード外相がベリーズを訪問した。3日~6日,デ・ビーゴ・スペイン欧州問題担当相がメキシコを訪問,ミード外相ら外務省幹部と会談した。16日~18日,ミード外相は南アフリカ及びアンゴラを訪問した。20日~22日,ミード外相はインドを訪問した。27日~28日,グアナファト大学及びアグアスカリエンテス自治大学において,第2回日墨学長会議が開催され,我が方より,本使及び前川文部科学審議官が出席し,メキシコ側より,ミード外相,マルケス・グアナファト州知事及びロサーノ・アグアスカリエンテス州知事が参加した。
〈内政〉
1.PRD党首選の結果
(1)5日,PRDの党首選が実施され,ナバレテ候補がソテロ候補を破り,PRD党首に就任した。同党首選はPRD全国委員会(Consejo Nacional de PRD)の委員355人による投票によって実施され,ナバレテ候補259票,ソテロ候補26票,無効票11票,棄権59の結果,ナバレテ候補が勝利した。ナバレテ候補は72.9%の支持を獲得した。
(2)本選挙の結果を受け,党内最大派閥である新左派「通称ロス・チュチョス」が引き続き党首職を握ることとなった。
2.国民投票申請の却下
(1)29日,連邦最高裁判所は,PANによる「最低賃金の引き上げ」の是非を問う国民投票請求を却下した。この決定は,憲法35条によって定められている国民投票にかけることができない事項の一つである,国家の歳入・歳出に関わる事項に該当するという判断に基づき下された。
(2)30日,連邦最高裁判所は,PRDとMorenaが個々に提出していた「エネルギー改革」の是非を問う国民投票請求を共に却下した。この決定についても,「最低賃金の引き上げ」と同様,国家の歳入・歳出に関わる事項に該当するという判断に基づき下された。
3.2015年予算歳入法の可決
29日,上院議会は賛成86票,反対25票,棄権2票で,2015年の歳入法案を可決した。本歳入法案は,9月5日,連邦政府から下院議会に提出され,今月16日,下院議会において可決されたものを上院議会で修正の上可決したもの。歳入総額は4兆6,946億7,740万ペソで,政府案と比較して184億4,030万ペソの増額。主要経済指標のうち,原油価格を81ドル/バーレルから79ドル/バーレルに,為替レートは1ドル13ペソから1ドル13.4ペソに修正された。来年の経済成長率(3.7%),インフレ率(3%),原油生産量(240万バーレル/日)は,政府案から修正はなかった。
30日,下院議会は上院議会で可決後再送付された上記歳入法案を賛成375票,反対33票,棄権4票で可決し,2015年歳入法が成立した。
4.ゲレロ州イグアラ市におけるアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件
9月26日,ゲレロ州イグアラ市において発生したアヨチィナパ教員養成学校(Escuela Normal Rural de Ayotzinapa)生徒襲撃事件に対する責任を取る形で,アギ-レ・ゲレロ州知事が10月23日に辞職したが,事件の全貌解明を求める抗議活動の動きは,メキシコ全土に広がり海外でも注目を集め始めている。本事件による混乱は10月末現在も続いており,事態収束の見通しは立っていない。
(1)事件の概要
(ア)9月26日,ゲレロ州イグアラ市において,アヨチィナパ教員養成学校の生徒が乗るバスが,同市警察によって襲撃され,6名が死亡,25名が負傷,43名が行方不明となる事件が発生した。
(イ)本事件の実行犯としては同市警察及び同州を中心に活動する犯罪組織「ゲレロス・ウニードス」が容疑者として挙がっており,10月末日までにイグアラ市警察22名を含む計50人超が逮捕され,殺人及び強制失踪の容疑で取り調べを受けている。また,10日にはモレロス州クエルナバカ市において,「ゲレロス・ウニードス」の首領サロモン・ピネダ・ビジャ容疑者が逮捕された。同容疑者は,アバルカ・イグアラ前市長の妻ピネダの実兄である。
(ウ)事件発生後,休職を申し出たアバルカ前市長とその妻ピネダは当初より本事件への関与が疑われていたが,22日,ムリージョ連邦検察庁長官は会見において,本事件はアバルカ前市長及びその妻ピネダの両容疑者の指示により,同市警察と犯罪組織「ゲレロス・ウニードス」が共謀して行ったものである旨公式発表した。(11月4日早朝,メキシコ市イスタパラパ地区に潜伏中の両容疑者を,連邦警察が逮捕した。)
(エ)イグアラ市周辺では複数の箇所で地中に埋められた遺体が発見されている。連邦検察庁の発表によると,25日現在,計10カ所から38の遺体が発見されており,現在,アルゼンチンの司法解剖チームの協力の下,DNA鑑定が慎重に行われている。
(2)アギ-レ・ゲレロ州知事の辞職とオルテガ暫定知事の就任
23日,アギ-レ・ゲレロ州知事(PRD所属)は州議会に対し,自身の辞職願を提出した。26日,ゲレロ州議会はアギ-レ州知事の後任として,オルテガ・ゲレロ州自治大学事務局長を暫定知事に任命する人事を可決した。同人は,ゲレロ州大学連盟会長,ゲレロ州教育省中等・高等教育担当次官などを務めた経歴をもち,アヨチィナパ教員養成学校関係者と対話のできる人物であることが期待されている。
(3)抗議活動の広まり
(ア)事件に対する抗議活動はメキシコ全土に広まっており,学生,教職関係者,保護者を中心とした一般市民による抗議活動が継続的に行われている。22日には「アヨチィナパのための灯火(Una luz por Ayotzinapa)」と銘打たれた抗議活動がメキシコ全土31州で実施された。メキシコ市ではメキシコ市政府推定で5万人が参加し,独立記念塔から憲法広場までの市内の目抜き通りを,灯火を焚いたデモ隊が行進した。
(イ)また,アヨチィナパ教員養成学校,被害者家族への連帯,事件への抗議の意を示す目的でストライキを実施する学校の動きがメキシコ全土に広まっており,24日までに70以上の大学,教員養成学校がストライキを実施している。
(ウ)ゲレロ州においては,一部暴徒化したアヨチィナパ教員養成学校の関係者並びゲレロ州教員労働者協議会(Coordinadora Estatal de Trabajadores de la Educacion de Guerrero:Ceteg)のメンバーにより,13日,州都チルパンシンゴ市の州庁舎が放火され,またその後には大型スーパーマーケットにおける略奪行為などが発生した。また,同グループは幹線道路の封鎖などを行っており,市民生活に影響が生じている。
(4)国際社会の反応
(ア)22日,メキシコ全土で行われた抗議活動に呼応する形で,米国,カナダ,エルサルバドル,ニカラグア,コロンビア,アルゼンチン,ブラジル,ベネズエラ,ボリビア,英国,ドイツ,オーストリア,イタリア,フランス,スペインの15カ国で抗議活動が実施された。また,ソーシャルネットワークを用い,連帯と抗議の意を示す活動もインターネット上で拡大している。
(イ)28日,米ホワイトハウスのジョシュ・アーネスト報道官は,本事件につき米国政府は懸念を有している旨表明した。
(ウ)29日,フランシスコ・ローマ法王は本事件に関し,行方不明となったままである教員養成学校生徒43人のために祈りを捧げ,本事件及び同様の犯罪事件によって苦しむメキシコ国民と,カトリック信者の心は近くにある旨述べた。
(エ)国連人権理事会は,本事件に対する説明をメキシコ政府に求め,30日より,同理事会の会合にメキシコ政府関係者を招請した。
〈治安情勢〉
1. 犯罪組織「ベルトラン・レイバ」首領の逮捕
1日,内務省等は,連邦治安当局が,グアナファト州サン・ミゲル・デ・アジェンデ市のレストランにおいて,犯罪組織「ベルトラン・レイバ」の首領,エクトル・ベルトラン・レイバ,通称「H」を逮捕したことを発表した。同犯罪組織は,内部抗争を経て,アルトゥロ,カルロス,アルフレド,エクトルのベルトラン・レイバ4兄弟が立ち上げた組織であり,エクトルを除く他の3兄弟はすでに逮捕,または殺害されていた。
2. 犯罪組織「フアレス・カルテル」首領の逮捕
9日,内務省等は,連邦治安当局が,コアウイラ州トレオン市に潜伏していた犯罪組織「フアレス・カルテル」の首領,ビセンテ・カリージョ・フエンテス容疑者,通称「ビセロイ」を逮捕したことを発表した。同容疑者は1997年,実兄であるアマド・カリージョ・フエンテス,通称「空飛ぶ麻薬王」が,整形手術後に合併症で死亡した後,組織を引き継いだ。2000年以降,同犯罪組織が縄張りとするフアレス市の支配をもくろんだホアキン「エル・チャポ」グスマンが率いる「シナロア・カルテル」との抗争により同組織は弱体化しており,今回の同容疑者の逮捕が,「フアレス・カルテル」に決定的な一打を与えることになるのではないかとの報道もある。
3. タマウリパス州マタモロス市における殺人事件
13日,タマウリパス州マタモロス市において,兄弟である学生3名とその友人1名が誘拐され,29日遺体で発見される事件が発生した。学生3名はテキサス州在住のメキシコ系アメリカ人で,親族に会うために同市を訪れていた。本事件には,9月7日に運用が公式発表された同市警察の特殊部隊エルクレス(Hercules)の関与が疑われており,同特殊部隊を導入したサラサル同市長へも責任追及が及んでいる。
〈外交〉
1. ミード外相のアルゼンチン訪問
1日,ミード外相はアルゼンチンを訪問し,ティメルマン外相と共に,メキシコ・アルゼンチン戦略的連携協定政治問題委員会(Comision de Asuntos Politicos del Acuerdo de Asociacion Estrategica entre Mexico y Argentina)に出席した。同委員会において,両国の伝統的な友好関係が再確認されると同時に,両国の戦略的連携を強化にかかる進捗,二国間関係強化に向けた両国の意思が確認された。
また,ティメルマン外相は,フェルナンデス大統領よりペニャ・ニエト大統領をアルゼンチンに国賓として招待する旨をミード外相に伝えた。併せて,12月ベラクルスで開催される第24回イベロアメリカ・サミット,及びアルゼンチンが名誉招待国である2014年グアダラハラ国際ブックフェアの閉会式へのフェルナンデス大統領の出席が確認された。
2.秋篠宮同妃両殿下のメキシコ御訪問
3日~9日,秋篠宮同妃両殿下がメキシコを御訪問。メキシコ市の他,オアハカ市,グアナファト市を御訪問し,大統領表敬及び午餐会に御出席されたほか,セルバンティーノ国際芸術祭開会式に御臨席された(本使所感については、往電中南中代2061号参照)。
3.ミード外相のベリーズ訪問
3日,ミード外相はベリーズを訪問。ウィルフレッド外相と共に2国間委員会会合に出席した。成果として,観光分野における協力,国境の治安維持に関する覚書等の3の文書が署名された。
4.デ・ビーゴ・スペイン欧州問題担当相のメキシコ訪問
3日~6日,デ・ビーゴ・スペイン欧州問題担当相がメキシコを訪問。ミード外相ら外務省幹部と会談した。デ・ビーゴ同担当相とミード外相は,本年6月,ペニャ・ニエト大統領がスペインを国賓として訪問した際に両国間で交わされた「戦略的連携の深化のための行動計画」において示された,「メキシコ-EU経済連携・政策協調及び協力に関する協定」の近代化プロセスに関するスペインの前向きなコミットメントを確認した。
5.ブリュテュス・ハイチ外相のメキシコ訪問
7日,ブリュテュス・ハイチ外相がメキシコを訪問。ミード外相と共に,両国政府間会合に出席した。本訪問は,ミード外相の本年3月のハイチ訪問を受け,二国間関係強化のためのフォローアップとして実現されたもの。また,ブリュテュス・ハイチ外相はメキシコ市トラテロルコ広場で開催された「ハイチ芸術展」の開会式に出席した。
6.ミード外相の南アフリカ及びアンゴラ訪問
16日~18日,ミード外相は南アフリカ及びアンゴラを訪問した。
- 南アフリカでは,マイテ・ヌコアナ=マシャバネ国際関係・協力相と会談し,2010年4月にメキシコで開催された二国間委員会において,二国間関係強化のために提唱された課題に関する進捗状況を確認した。
- アンゴラでは,シコティ外相と会談,また同国企業関係者,市民リーダーらとも会談した。なお,メキシコの外相が同国を訪れるのは今回が初めて。
7.ミード外相のインド訪問
20日~22日,ミード外相は,南アフリカ及びアンゴラに引き続き,インドを訪問。
- 21日,ミード外相は,ニュー・デリーで開催されたミュンヘン安全保障会議に出席,「新興国とグローバル・ガバナンス」のセッションで講演を行った。講演の中で,同外相は,新興国はグローバル・ガバナンスだけでなく,国際社会の安全保障において貢献する必要がある旨指摘,グローバルな責任を有する国としてのメキシコの外交的取り組みやかかる取り組みが国際社会に与える影響等について紹介した。
- 同日,ミード外相は,ProMexico,観光省,Bancomext等の関係者が出席するインド商工会議所連盟(FICCI)主催のビジネス・セミナーの開会式に出席,ペニャ・ニエト政権が進めている構造改革の重要性につき指摘,メキシコへの投資を誘致し,雇用を生み出している旨言及した。
- また,ミード外相は,22日,スワラージ外相と共に,二国間委員会第6回会合に出席。今次委員会では,政治,経済,科学技術協力に関する下部委員会が開催されたほか,文化・教育,農業協力,観光(今回初)に関するワーキング・グループが開催された。経済・貿易分野では,2015年にハイレベル・グループ第4回会合を開催することで合意,同会合では,二国間貿易・投資の拡大及び多様化,並びに中小企業に対する支援について議論される予定。さらに,今次会合の成果として,メキシコ宇宙庁とインド宇宙研究機構(ISRO)との間で,平和的利用を目的とした宇宙分野における科学技術協力強化に関する覚書が署名された。なお,次回二国間委員会会合は,2015年メキシコシティで開催予定。
8.第2回日墨学長会議
27日~28日,グアナファト大学及びアグアスカリエンテス自治大学において,第2回日墨学長会議が開催され,我が方より,本使及び前川文部科学審議官が出席し,メキシコ側より,ミード外相,マルケス・グアナファト州知事及びロサーノ・アグアスカリエンテス州知事が参加した。この他,日本側からは24の大学と3つの政府関係機関,メキシコ側から44の大学及び8の政府関係機関,また,11の日系現地企業が参加の上,今後の大学間協力や産学連携の強化について活発な議論が交わされた。両国の参加大学による共同声明が発表された。また、学長会議の期間中、両国の個別大学間の協定締結も行われた(往電中南中第2156号参照)。
9.モラレス・グアテマラ外相のメキシコ訪問
30日,モラレス・グアテマラ外相がメキシコを訪問,ミード外相と会談した。両国外相は会談の中で,過去2年間に11度実施されている会談が示すペニャ・ニエト大統領とモリーナ大統領の緊密な関係を強調。また,両国間の国境強化を目的とした国境のインフラ整備計画に関し,最初に改善を行うべき地点及びその財源について決定した。
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