政務班
2005年01月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

内政では、メキシコ北部地域で、麻薬組織に絡む犯罪が急増し、更に政府が治安対策強化の姿勢を打ち出した他、PEMEXの石油流出事故が多発し、周辺環境や経済に多大な被害を与えるなど、国の「安全」に注目が集まった。

外交では、在メキシコ米国大使が発出した当国治安問題を懸念する書簡が大きな波紋を呼んだ。また、メキシコ市で、メキシコが主催する「国連改革に関するフレンズ会合」次官級会合が開催された。一方、曾慶紅・中国国家副主席がメキシコを訪問し、両国間の経済を中心とする関係強化が確認された。

 

<クロノロジー>

1日   サパティスタ民族解放軍(EZLN)、蜂起11周年記念集会を開催するも、マルコス副司令官をはじめ、中心人物は姿を見せず。メキシコ各地で同様の集会が開かれる。(内政)

1日   最厳戒態勢を敷く「ラ・パルマ」刑務所内で、12月31日、麻薬組織のボスの弟が射殺されたと発表。警備体制への批判続出。5日、同刑務所長を含む関係者4名、前述射殺事件に関与したとして逮捕される。(内政)

1日   メキシコ政府、アジアの津波被災地へ18人の専門家を派遣。(外交)

4日   エブラール前メキシコ市治安大臣、昨年11月の市民による警察官暴行殺害事件の責任者として連邦検察庁(PGR)から告発される。(内政)

5日   連邦議会常任委員会、デルベス外相の米州機構(OAS)事務総長選出馬を承認。(内政)

6日   治安省、「治安閣議(Gabinete de Seguridad Publica)」と、犯罪対策担当及び予防・市民参加担当の2つの新次官室創設を発表。10日、リオス犯罪対策担当次官及びユネス予防・市民参加担当次官の任命を発表。(内政)

6日   連邦最高裁判所、2005年度歳出予算に関する違憲審査に対し、12月に下院から出されていた「最高裁における手続き上の不備」を根拠とする反証を棄却。(内政)

7日   「エル・ウニベルサル」紙、メキシコ政府発行の「メキシコ人移民ガイド」は、不法移民を推奨し、メキシコは国として不法移民を送り出しているとの米国内での批判を掲載。メキシコ外務省は、不法移民を薦めているのではなく、国民を保護する義務があるため、注意を促しているだけと反論。(外交)

8日   野党下院議員、2005年度歳出予算に関する違憲審査を受理した最高裁の「休会委員会」当番判事2名に対し、政治裁判実施を提案。現在、審議中。(内政)

8日   ガッジョ・セネガル外相、メキシコを訪問。フォックス大統領、デルベス外相と会談。(外交)

9日   「エル・ウニベルサル」紙、OAS事務総長選に立候補しているフローレス・エルサルバドル元大統領による「フォックス大統領は、OAS事務総長選では中米の候補を推すとの約束を破った」との発言を掲載。メキシコ大統領府は否定。(外交)

10日  「レフォルマ」紙、「ロペス・オブラドール・メキシコ市長の政治生命は本年3月まで」とマルタ・フォックス大統領夫人が発言と報道。ロペス・オブラドール・メキシコ市長は、この記事は大統領府が彼に政治的打撃を与える意図を持っている証左と批判。大統領府はこれを否定。(内政)

10日  ヒル蔵相、米国での国際学会で発表し、現政権中の構造改革は難しいと発言。(内政)

11日  フォックス大統領、訪問先のチアパス州で、「サパティスタ運動は実質的に過去のものだ」と発言。野党議員や有識者から「無責任」、「同運動を生んだ貧困が解決していない」との大きな反発が起こる。12日、大統領は「サパティスタ運動の武力に訴える活動が過去のものと言う意味で、過小評価しているわけではない」と訂正。(内政)

11日  ウエルタ治安大臣とオルテガ・メキシコ市治安大臣が会談。連邦政府とメキシコ市政府が協力してメキシコ市の治安対策にあたることで合意。また、毎月会談の機会を持ち、情報の共有を促進すると約束。(内政)

11日  クリール内相、ブッシュ大統領は移民に関する合意を具体化するよう要請。(外交)

12日  連邦選挙裁判所、先年11月のトラスカラ、プエブラの各州知事選の選挙結果を承認。(内政)

12日  デルベス外相、OAS常設理事会において、事務総長選挙立候補に際し5綱領を発表。(外交)

12日  国家人権委員会、米国アリゾナ州の「法令200(Ley 200)」に関し、外務省は自国民保護のための適切な対応をしてないと批判。連邦議会常任委員会も同様の批判を行う。13日、デルベス外相は、前発言は「状況を把握していない者の発言」と反論。(内政)

13日  クリール内相とベルトローネス下院議長が会談し、2005年歳出予算の違憲審査に関していたずらに政争を煽ることはやめるとの見解で一致。(内政)

14日  軍・連邦予防警察(PFP)・連邦検察庁(PGR)合同部隊、「ラ・パルマ」刑務所の捜査を開始すると共に、麻薬組織関係収監者の移送を行う。同刑務所内及び他の刑務所でも、携帯電話が発見され、麻薬組織のトップが刑務所内から組織をコントロールしていた事実が明るみに。(内政)

14日  海軍の輸送艦2隻、津波被災者支援のためアジアに向けて出航。(外交)

16日  「エル・ウニベルサル」紙による大統領に関する世論調査の結果、大統領の支持率は62%に上昇。(内政)

17日  ロペス・オブラドール・メキシコ市長、下院予審委員会委員、PGR担当者とともに、免責特権剥奪審査の一因となった地所、通称「エル・エンシーノ」視察。免責特権剥奪問題は「政治的陰謀」と重ねて強調。(内政)

17日  メキシコ市で、メキシコ主催「国連改革フレンズ会合」の次官級会合開催。(外交)

17日  クリール内相、リッジ米国土安全保障長官と会談し、移民に関する合意拡大を求める。(外交)

18日  PRIの「反マドラソ党首派」グループ(通称「TUCOM 1」)、グループ内から大統領候補1名を擁立することで合意。21日、親マドラソ派州知事らは、マドラソの大統領選出馬を支援するグループ(通称「TUCOM 2」)を結成。25日、ベルトローネス下院議員他PRI下院議員約70人、「TUCOM 2」への加入を表明。(内政)

18日  メキシコ政府、悪化しているコロンビアとベネズエラの関係改善の仲介役となることを提案。(外交)

20日  タマウリパス州マタモロス市で、刑務所の看守6人が殺害される。メキシコ政府、この事件を麻薬組織による「挑発」と判断。フォックス大統領、治安閣議を招集し、組織犯罪への対応策を協議。(内政)

20日  クアウテモック・カルデナス元メキシコ市長(PRD)、次期大統領選への出馬を正式に表明。(内政)

21日  メディーナ・プラセンシア上院議員、大統領選への出馬を取りやめ、PAN党首選挙へ立候補。党有力者の大半が支持。(内政)

23日  タマウリパス州知事の要請を受け、レイノサ市に軍及び連邦予防警察(PFP)が出動し、特に麻薬組織に対する警戒態勢強化。(内政)

23日  曾慶紅・中国国家副主席、メキシコを公式訪問(〜25日)。24日、フォックス大統領と会談し、刑事司法共助条約、観光旅行実施に関する覚書等7つの文書に署名。デルベス外相や両院議長と会談。(外交)

24日  下院、本年度の下院議員給与を11%増額すると発表。25日、上院、副議長3人(PRI、PAN、PRD各1名)が連名で、下院の決定を非難する声明文を発表するも、下院側はあくまで正当と主張。(内政)

25日  第13回メキシコ−カナダ両国議会間会議開催(〜26日)。一時的移民拡大に関する協議を行うも、合意に達せず。(外交)

26日  ガルサ在メキシコ米国大使、デルベス外相とマセドPGR長官に書簡を送り、メキシコ北部国境地域での治安悪化を懸念する旨表明。大統領府、治安に関する懸念は共有するものの、他国による当国の政策に関する判断や評価は容認出来ない旨表明。政府高官らから「内政干渉」との批判が続発。27日、デルベス外相、ライス米国務長官との電話で遺憾の意を表明。28日、フォックス大統領、両国間の協力関係を強調し、事態収拾を図る。29日、デルベス外相、ガルサ大使と会談し、共同声明発表。沈静化へ。(外交)

27日  カナレス経済相とサットン・ニュージーランド貿易交渉相、二国間経済通商関係推進協定に署名。(外交)

28日  下院、2005年度歳出予算の違憲審査に対する反証を再度提出。予算の一時凍結により影響を受ける21州の州知事及び112の市町村長からの反論も含む。31日、最高裁、「休会委員会」設置手続きに関する間違いを認めたものの、理由としては不十分として棄却。下院からは最高裁の公平性を疑問視する声続出。(内政)

30日 連邦選挙機関(IFE)、「社会民主主義農民変革党(Partido Alternativa Socialdemocrata y Campesina)」の政党登録を承認。(内政)

30日  ラミレスPEMEX総裁、PEMEXの石油輸送管路整備及び環境回復・保全費として1000億ペソの投資が必要との調査結果を発表。(内政)

 

<内政>

1.麻薬組織が関与する犯罪急増と治安当局の取り組み

(1)本年に入り、メキシコ北部の州、特にタマウリパス州では、麻薬組織間の抗争と思われる殺人事件が多発し、18日までの犠牲者数は26人に上った他、シナロア州やティファナ市などでも連日のように殺人事件が報告されている。

(2)一方、当国政府は、昨年12月31日に麻薬カルテルのボスの弟が、最厳戒態勢を敷く「ラ・パルマ」刑務所内で射殺された事件を受け、本年1月14日から軍・連邦検察庁(PGR)・治安省(SSP)合同部隊を同刑務所に配置し、刑務所内の捜査を行ったところ、麻薬や工具が発見されただけでなく、多数の携帯電話が見つかり、収監中の各麻薬組織のトップが、刑務所内から電話で組織をコントロールしていた実態が明らかになった。これは看守等の協力なしでは行い得ないため、ユネス新・予防・市民参加担当治安次官の指示の下、同刑務所の全職員の適性検査等が実施された結果、合格者は46名に留まり、不適格者105名が解雇された。同様の捜査は他の刑務所でも実施され、いずれも認められていない物品が発見されているため、ユネス次官は、刑務所職員の能力向上を図ると明言し、そのためにはより予算が必要となると付け加えた。

(3)他方、「ラ・パルマ」刑務所から、麻薬カルテル関係収監者を他の最厳戒態勢の刑務所へ移送する措置も取られたが、20日、移送先の1つであるタマウリパス州マタモロス市の刑務所の看守等6名が殺害されたため、政府はこの事件を麻薬組織による「挑発」と捉え、治安閣議を招集し、同地域における警備体制強化を表明した。更に、24日よりタマウリパス州知事からの応援要請を受け、連邦予防警察(PFP)及び軍が、同州レイノサ市を警備する大規模な作戦も展開されている。

 

2.PEMEXによる石油流出事故

(1)昨年12月22日、ベラクルス州南東部で、PEMEXの石油輸送管が破裂し、石油約63万リットルが流出する事故が発生、周辺の川や沿岸など自然環境に深刻な被害をもたらす事故を皮切りに、1月末までにベラクルス、タバスコ両州の5カ所で石油流出事故が発生した。

(2)ラミレスPEMEX総裁は、26日事故現場を視察、30日には、PEMEXの石油輸送管路全体の68%が緊急に整備を必要とするとの調査結果を発表した。そのためには、本年度84億ペソの追加予算が必要であり、加えて、2006−2008年分の輸送管整備及び環境回復・保全費として1000億ペソの投資が必須であると強調した。

(3)ベラクルス州では、石油流出により、事故発生箇所付近で操業する漁業民は、全く収入源を絶たれた他、畜産業者などにも被害が出ており、経済に与える影響は深刻である。エレラ・ベラクルス州知事は、26日、フォックス大統領と会談し、事故の再発防止と、同州民の生活保障を訴え、大統領は、出来るだけ早急に全輸送管の点検及び整備を行う旨表明した。

 他方、被害を受けた周辺住民からは、補償を求める声が上がっているが、PEMEX側は、調査を実施し、PEMEXの責任の範囲を特定してから補償額を決定する、と述べるに留まっている。

 

<外交>

1.国境治安問題に関する在メキシコ米国大使の書簡発出の波紋

(1)26日、アントニオ・ガルサ在メキシコ米国大使は、デルベス外相及びマセド連邦検察庁(PGR)長官宛に、国境地域における治安悪化に対する懸念を表明する書簡を発出、同日その内容を外部に公表した。書簡の中で、米国大使は、国境地域のメキシコ治安当局が、麻薬取引、誘拐をはじめ暴力行為一般に対応するに足る能力を有していないと指摘、人的交流、観光、貿易などへの悪影響を憂慮した他、同地域で増大する危険に対し、米国国民に治安問題に関する注意喚起を行った旨述べた。また、メキシコ・米国両政府が、これまで通り協力して事態にあたり、成果をあげることを期待すると表明した。

(2)メキシコ大統領府は、27日、同書簡に対するプレスコミュニケを発出し、当国政府も北部国境地域における治安問題を懸念しており、努力を続けているが、自国の問題解決に対する政府の対応策に関し、如何なる外国政府も判断、評価出来ないと考える、との考えを明らかにした。更に、麻薬撲滅は、メキシコ・米国双方が責任を共有する問題であり、両国間での協力が必要との考えも示した。

  一方、メキシコ政府高官等から、「内政干渉」との強い反発が出ただけでなく、メディアも1面で大きく取り上げるなど、騒ぎが拡大した。

(3)フォックス大統領は、28日、「米国大使の対応は過剰だが、内政干渉とは思っていない。両国はこれまで通り友好的な関係を維持する」と発言し、事態収拾を図った。また、デルベス外相も、29日、ガルサ大使と会談し、米国はメキシコへの渡航自粛を呼びかけているのではない、麻薬取引撲滅のために両国は今後も引き続き取り組んでいく旨の共同声明を出して、本件は沈静化に向かった。

 

2.メキシコ主催「国連改革に関するフレンズ会合」次官級会合開催

17日、メキシコ市において、「国連改革フレンズ会合」の次官級会合が開かれ、15カ国の代表が出席し、オラメンディ当国地球規模問題担当外務次官が議長を務める中、活発な意見交換がなされた。各国代表は、2005年が安保理改革の鍵を握るという認識で一致し、安保理に限らず国連の広範な改革実現に向けて議論を続けていくことを確認した。また、出来るだけ頻繁に会合を行い、国連総会議長や事務総長を通じ、グループの考えを表明していくとした。

  更に、テロとの戦いや人権問題、貧困撲滅、経済発展など広範な分野の問題点についても、並行して議論をしていくことで合意した。

 

3.曾慶紅・中国国家副主席のメキシコ訪問

(1)23−25日、曾慶紅・中国国家副主席は、2003年12月に合意されたメキシコ中国戦略的連携(Asociacion Estrategica Mexico−China)の活動の一環として、メキシコを公式訪問した。

(2)24日、大統領官邸において、フォックス大統領との会談を行った。会談において、曾副主席は、メキシコと中国は、広範な共通利益を有しており、両国の戦略的パートナーシップ関係を充実、深化させなければならない、と述べた。また、(イ)両国のハイレベルの往来を維持し、常設委員会の指導的及び調整的役割を強化、(ロ)相互投資と貿易拡大のための具体的行動の策定と各種産業分野での協力、(ハ)両国の高等教育機関や科学研究機関間等での人的交流と情報交換の強化、(ニ)国連、WTO、APEC等の国際組織及び地域機構での協議と協力の強化を提案し、フォックス大統領もこれに賛同した。

  更に、双方は、両国の経済貿易ハイレベル作業部会の中に、貿易・投資促進、貿易体制分析、貿易統計及び産業政策の4つの小委員会設置に合意した。

また、フォックス大統領は、メキシコ政府は引き続き「一つの中国」政策を堅持すると強調した。

(3)会談後、フォックス大統領と曾副主席は、刑事司法補助条約、観光旅行実施に関する覚書、植物衛生検疫議定書、メキシコ外国貿易銀行(Bancomext)と中国輸出入銀行間のクレジット・ライン取り決め等、7つの文書に署名した。

(4)メキシコ滞在中、曾副主席は、デルベス外相や両院議長との会談を行った他、COMCE(メキシコ貿易協議会)と中国国際貿易促進委員会共催の第14回メキシコ−中国総会に参加した。

 
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