政務班
2006年1月のメキシコの内政・外交の概要
 

 内政では、大統領選挙が公示され、5人の大統領候補の立候補が承認された。「クリスマス休戦」も終了し、本格的に大統領選へ突入した。大統領選挙に絡み、バスケス社会開発相が辞任し、アランダ新社会開発相が任命された。

 昨年来増加の一途を辿っている麻薬カルテル絡みの殺人発生件数は、更に悪化し、1日あたり5人が殺害されている状況となった。また、アカプルコ市中心部で、白昼、麻薬カルテル関係者と治安当局との銃撃戦が行われた。

 外交でも、特に米墨国境地域の治安を巡り、メキシコ・米国双方が批判を繰りひろげた。米国の移民政策に関しては、方針転換を求めるメキシコの立場を中米やコロンビアなどが支持する一方、米国側は、反対勢力を煽っているとしてメキシコの動きを非難した。

  フォックス大統領は、チリを訪問し、二国間のグローバルな統合を目指す戦略的連携協定に署名した。また、チリ訪問の帰途ホンジュラスに立ち寄り、セラヤ新ホンジュラス大統領の就任式に出席した。

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<クロノロジー>

1日   「エル・ウニベルサル」紙、2005年1年間の麻薬カルテルに絡む殺人事件の犠牲者数を1,537人と発表。(内政・治安)

1日   サパティスタ民族解放軍(EZLN)、蜂起12周年。左派の結集を目指し、「別のキャンペーン(La otra campana)」と名付けた運動を開始。6月24日まで全国をキャラバン。マルコス副司令官が、「代表0(ゼロ)(Delegado Zero)」と名乗り、運動を指揮。15日、フォックス大統領、右運動はEZLNが武器を放棄する意志を表していると評価。(内政)

2日   メキシコ外務省、米墨国境を越えようとしたメキシコ人が米国国境警備隊員に射殺された事件に関し、事実関係究明要請と銃器使用に対する抗議を表明した外交書簡発出。6日、米国政府、米墨国境を越えて行われる犯罪に対処する特別チーム創設を発表。15日、米国国境警備隊による2人目の犠牲者発生。17日、メキシコ外務省、再度抗議及び事実究明を要請。(外交)

3日   グアテマラ政府、メキシコ滞在中のポルティージョ前大統領の横領罪に関する証拠をメキシコ側に提出。身柄引き渡しを要求。(外交)

6日   バスケス・モタ社会開発相、カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補の選挙対策チームに加わるため辞任。フォックス大統領、新社会開発相としてアナ・テレサ・アランダ米州児童機関理事長を任命。(内政)

6日   ダウナー・オーストラリア外相、メキシコを訪問。デルベス外相と会談。具体的な相互協力を通じ、両国関係を更に強固なものにしていく重要性を再確認。(外交)

7日   パトリシア・メルカド、「社会民主主義及び農民のための代替党(PASC)」の大統領候補として連邦選挙機関(IFE)に立候補登録申請。8日、ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(ABT)」候補、立候補登録申請。9日、ロベルト・カンパ新同盟党(Panal)候補、立候補登録申請。11日、カルデロンPAN候補、立候補登録申請。12日、PASC農民部会、大統領候補としてビクトル・ゴンサレス(Dr.シミ)を擁立、14日、立候補登録申請。15日、マドラソ「メキシコのための連合(APM)」候補、立候補登録申請。IFE、大統領選立候補登録、在外選挙人登録及び選挙人登録申請締め切り。18日、IFE、5候補の立候補登録を承認。PASCの候補はメルカドと認定。同日、「クリスマス休戦」終了。19日、大統領選挙運動開始。PASC農民部会とゴンサレス、連邦選挙裁判所へ不服申し立て。20日、IFEと放送産業会議所(CIRT)、選挙運動におけるスポットの扱いなどで合意。(内政)

8日   フォックス大統領、「天然ガスを輸出しない」とのモラレス次期ボリビア大統領の発言を批判。10日、モラレス次期大統領、フォックス大統領の発言を批判し、直接対話を要請。11日、デルベス外相、モラレス次期大統領がEZLNを大統領就任式に招待したことに対し、不快感を表明。(外交)

9日   メキシコ、中米各国、ドミニカ共和国及びコロンビアの各国外相、メキシコ市において主に移民問題に関して意見交換。「メソアメリカ共同宣言」を採択。12日、エクアドル、右宣言の支持を表明。(外交)

9日   欧州議会議員団、メキシコを訪問。11日、第2回メキシコ−EU混合委員会開催。EU側、米国の国境治安政策を批判。(外交)

11日  最高裁判所、1968年の「トラテロルコの虐殺」事件に関し、「歴史的に重要な事件であるが、時効を迎えている」として、関係者の逮捕状請求を棄却。12日、PRD(民主革命党)、この判断を批判し、国際刑事裁判所への告訴を検討。(内政)

12日  第27回日墨経済混合委員会開催(〜13日)。フォックス大統領、開会式に出席し、祝辞。(経済・外交)

16日  最高裁、農牧省に対し、接収した10製糖工場の返還を命じる判決。17日、更に3製糖工場の返還を命令。各界より、フォックス政権の農業政策に疑義。(内政)

17日  フォックス大統領、70歳以上で「Oportunidades」計画の対象となっている者を対象に、2ヶ月毎に500ペソの年金を支給すると発表。ロペス・オブラドールは、自分の政策をまねしたとして批判。(内政)

17日  PRD、メキシコ市議会議員候補及びメキシコ市の各区長候補を巡り混乱。22日、党内選挙により各区長候補が選出されるも、不服申し立てが続出。(内政)

19日  国連開発計画(UNDP)、次期大統領選にNGOを中心とした約3万人の監視団派遣を決定。組織するのはメキシコ国内の有識者。監視期間は2月1日から選挙日まで。21日、UNDF、社会開発省の貧困対策用予算が選挙に利用される可能性が高い地域を表した調査結う果を2月に提出予定と発表。(内政)

20日  メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)、2005年の失業率を3.58%と発表(但し、2004年と集計方法を変更したため、比較数値はなし)。(内政)

24日  米テキサス州警察とFBI、23日にメキシコ軍風の制服を着たグループが米墨国境を越えて麻薬を密輸しようとしていたと発表。メキシコ側に事実究明を求める。25日、メキシコ政府、軍の関与を否定。麻薬カルテルによる偽装の可能性を示唆。ガルサ駐メキシコ米国大使、事実の徹底究明と悪化している米墨国境地域の治安改善への取り組みを求める外交書簡発出。26日、メキシコ外務省、駐米メキシコ大使を通じ、メキシコ側の回答を外交書簡でライス米国務長官宛に発出。ガルサ大使の言動に苦言。27日、ガルサ大使、再度国境地域の治安対策に関する外交書簡発出。米国政府も同大使を擁護。フォックス大統領、調査を明言。31日、ブッシュ米大統領、一般教書演説で、不法移民対策強化を再度強調。(外交)

25日  フォックス大統領、チリを訪問(〜26日)。26日、ラゴス・チリ大統領との首脳会談。戦略的連携協定に署名。バチェレ次期チリ大統領と会談。同日、ホンジュラスを訪問(〜27日)。27日、セラヤ・ホンジュラス新大統領就任式に出席。(外交)

27日  アカプルコ市中心部で、白昼、麻薬カルテル関係者と治安当局が銃撃戦。治安省及び連邦検察庁、捜査員を増派し、厳戒態勢を敷く。(治安・内政)

27日  デルベス外相、欧州を訪問(〜2月8日)(外交)

29日  PAN、メキシコ市長選候補選出のための党内予備選実施。デメトリオ・ソディ上院議員(元PRD)を選出。(内政)

31日  当地主要メディア、本年1月の麻薬絡みの殺人事件犠牲者数を150人以上と発表。昨年を上回るペースであり、特にミチョアカン、タマウリパス、ソノラ及びゲレロ州の治安悪化が深刻。(治安・内政)

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<内政>

1.大統領選挙戦開始

(1)1日より大統領選への立候補登録申請が開始され、15日に締め切られるまでに、既に出馬表明をしていたロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(ABT)」候補(以下AMLO)、カルデロンPAN(国民行動党)候補、マドラソ「メキシコのための連合(APM)」候補に加え、カンパPanal(新同盟党)候補、メルカドPASC(社会民主主義及び農民の代替党)候補が登録申請を行った。しかし、PASC農民部会は、メルカド候補の出馬を不満として、独自にメキシコ全土に薬局チェーンを展開する企業家ビクトル・ゴンサレス、自称「Dr.シミ」を擁立し、立候補登録申請を行う波乱の幕開けとなった。18日、連邦選挙機関(IFE)は、AMLO、カルデロン、マドラソ、カンパ及びメルカドの5人の大統領候補の登録を承認した。PASC農民部会とゴンサレス氏は、IFEの判断を不服として、連邦選挙裁判所へ提訴した。

19日午前零時をもって、選挙活動自粛期間「クリスマス休戦(Tregua Navidena)」が終了し、5人の大統領候補者は本格的に選挙運動に入った。

(2)正式に大統領選に突入するのに先駆けて、サパティスタ民族解放軍(EZLN)は、1日、左派の結集を目指し、「別のキャンペーン(La otra campana)」と名付けた運動を開始し、マルコス副司令官が、「代表0(ゼロ)(Delegado Zero)」と名乗り、6月24日まで全国をキャラバンする運動を指揮する。フォックス大統領は、15日。右運動はEZLNが武器を置く意志を表していると評価したが、当地有識者たちからは、マルコス副司令官はあらゆる候補者を否定しているため、かえって有権者の混乱を招き、棄権に繋がるのではないかとの批判が出ている。

(3)1月の主要3候補の支持率は以下の通り。

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ミトフスキー

レフォルマ

ウニベルサル

05/ 11月

06/ 1月

05/ 11月

06/ 1月

05/ 11月

06/ 1月

AMLO(ABT)

34.8

38.7

29

34

34

33

カルデロン(PAN)

28.8

31.0

28

26

22

27

マドラソ(APM)

30.4

29.2

21

22

18

20

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2.アカプルコ市における銃撃事件

(1)27日午後2時40分過ぎ、ゲレロ州アカプルコ市中心部において、麻薬カルテル関係者と見られるグループと治安当局が約40分に亘り銃撃戦を繰りひろげた。その結果、同グループの3人を逮捕したものの、4人が死亡、治安当局側に5人の負傷者が出た。同グループは、多額の現金、カラシニコフ(AK−47)等の銃や銃弾の他、連邦捜査機関(AFI)の捜査官の偽身分証明書を所有していた。

(2)右事件を受け、治安省は、連邦予防警察(PFP)捜査官200人の増員を決定し、連邦検察庁(PGR)もAFI捜査官を派遣した。アカプルコ市政府は、普段は武器を携行しない交通警察の警察官も全員武器を携行するよう指示し、市内では至る所で検問が行われ、ビーチでも銃を携行したPFP捜査官が巡回し警戒にあたった。連邦及びゲレロ州治安当局は、麻薬カルテルからの報復の可能性もあるとして、軍の協力を仰ぎながら厳戒態勢を敷いている。

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3.社会開発相の交替

  6日、ホセフィナ・バスケス・モタ社会開発相は、カルデロンPAN大統領候補の選挙対策チームに加わるため辞任した。フォックス大統領は、その後任として、アナ・テレサ・アランダ・オロスコ米州児童機関理事長を任命した。

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<外交>

1.米墨国境地域における治安及び移民を巡る問題

(1)客年12月30日、米墨国境を越えようとしたメキシコ人が、米国国境警備隊員に射殺される事件が発生し、メキシコ外務省は、2日、事件究明を求め、銃器使用を非難する外交書簡を米国政府へ発出した。本件の究明が為されないまま、15日には2人目の犠牲者が出て、17日に再度抗議の書簡を送った。

  また、9日、メキシコ市においてメキシコ、中米各国、ドミニカ共和国及びコロンビアの各国外相が、主に移民問題に関して意見交換を行い、米国の移民政策の転換を求める「メソアメリカ共同宣言」を採択した。12日、エクアドルも、右宣言の支持を表明した。

(2)一方、24日、テキサス州警察とFBIは、メキシコ軍風の制服を着た30人余のグループが、米国国境を越え麻薬を密輸しようとした事件が23日に発生したと報告し、メキシコ政府に事実確認を求めた。同日、メキシコ軍及びPGRは、証拠として示されたビデオに映っている者たちの使用している制服や車両は、メキシコ軍のものと異なるとして、明確に関与を否定した。しかし、米国側は、25日、マクレラン米大統領報道官は、同事件への懸念を表明し、事実の徹底究明を求めた他、ガルサ駐メキシコ米国大使が、メキシコ外務省に対し、事件の徹底調査、及び昨年来急激に悪化している米墨国境地域の治安問題取り組みを要請する外交書簡を発出した。ガルサ大使は、更に、米国下院を通過した「通称センセンブレナー法」に関し、メキシコ政府は、米国側の治安対策を「人種差別的」というレトリックを用いて、米州地域における反対勢力を煽っていると批判した。

(3)26日、メキシコ外務省は、駐米メキシコ大使を通じライス米国務長官宛に、本件に関するメキシコ政府の回答を外交書簡で送付した。デルベス外相は、麻薬カルテルがメキシコ軍の制服を着用していた可能性もあると述べ、麻薬カルテルは多国籍化しており、同グループは米国人だったかもしれないとの仮定を示した。また、ガルサ大使の言動に関し、徒に国境地域の状況を政治問題化すべきでなく、適切な対応をとるべきだと苦言を呈した。しかし、27日、ガルサ大使は再び本件に関する外交書簡を発出し、米国政府も、同大使の発言を支持した。

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2.フォックス大統領のチリ及びホンジュラス訪問

(1)25〜26日、フォックス大統領はチリを訪問し、26日、ラゴス・チリ大統領と首脳会談を行った。また、メキシコ・チリ二国間の政策調整、経済及び貿易関係、そして協力関係を制度化し、グローバルな連携統合を目指す戦略的連携協定に署名した。

  更に、フォックス大統領は、短時間ながら、バチェレ次期チリ大統領との会談を行った。

(2)26〜27日、フォックス大統領は、チリ訪問の帰途ホンジュラスを訪問し、27日、セラヤ・ホンジュラス新大統領就任式に出席した。

 
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