メキシコ政治情勢(4月)

 
 

 

メキシコ政治情勢(4月)

 

 

 

〈概要〉
内政では,5日,6月7日に実施される連邦下院議員選挙に向けた選挙キャンペーンが開始された。6日,ハリスコ州サン・セバスティアン・デル・オエステ市において,犯罪組織「カルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン」の待ち伏せによる襲撃により,ハリスコ州警察特殊部隊の隊員15名が死亡,5名が負傷する事件が発生した。16日,連邦下院議会で透明性及び公共情報アクセス法案が可決され,成立,同法は官報掲載のため連邦政府に送られた。19日,ルビド国家治安コミッショナーが,チワワ州アウマダ市において,犯罪組織「フアレス・カルテル」の幹部,ヘスス・サラス・アグアヨ容疑者,通称「エル・チュイイン」を,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。21日,国家汚職対策システム創設に係る憲法改正案が,連邦上院議会で可決され,同憲法改正案は各州議会に送られた。30日,通常国会が閉会した。


外交では,9日,ミード外相が米州サミットの枠組みで開催された米州閣僚会合に出席した。11日,メキシコ政府及び中米統合機構(SICA)加盟国政府がパナマシティにおいて共同声明を署名・発出した。9日~11日,ペニャ・ニエト大統領は第7回米州首脳会議に出席するためパナマを訪問した他,10日及び11日には,ペルー及びコロンビアとの三国首脳会談,ブラジル,オランダとの二国間首脳会談,国際労働機関(ILO)との会談をそれぞれ行った。20~21日,ミード外相はブリュッセルを訪問した。21日,連邦上院議会でマデロ元大統領家族に対する日本公使館の庇護に関するメキシコ連邦上院決議記念プレート除幕式が催された。29日~30日にかけて,墨外務省(メキシコシティ)において,ミード外相及びグアハルド経済相の共催で,第13回太平洋同盟閣僚会合が開催され,太平洋同盟加盟4カ国の大臣・副大臣が出席した。

 

〈内政〉


1.連邦下院議員選挙キャンペーンの開始
5日,6月7日に実施される連邦下院議員選挙に向けた選挙キャンペーンが開始された。

 

2.透明性及び公共情報アクセス法の成立
16日,透明性及び公共情報アクセス法が,連邦下院議会で賛成385票,反対24票,棄権3票で可決,成立した。同法案は2013年11月及び,2014年2月の連邦情報公開庁(IFAI)改革に係る憲法改正の関連二次法案にあたり,本年3月18日,連邦上院議会で賛成110票,反対1票,棄権1票で可決された後,連邦下院議会に送付されていたもの。同法は官報掲載のため連邦政府に送られた。


【主なポイント】

(1)国家情報公開庁(INAI)への名称変更
透明性及び公共情報アクセス法の公布により,従来の連邦情報公開庁(IFAI)の名称が国家情報公開庁(INAI)に変更される。


(2)全国透明性システム(Sistema Nacional de Transparencia)
INAI,各州に設置される透明性保証機関(Organismos garantes),連邦高等司法官(ASF),国家資料館(Archivo General de la Nacion),国立統計地理情報院(INEGI)より構成される全国透明性システムが設立され,法の官報掲載から60日以内に同システム内に設置される全国評議会によって運営される。同評議会の議長はINAI議長が務める。全国透明性システムは,法の官報掲載から1年以内に,透明性及び公共情報アクセス法の定める目的を達成するためのガイドラインを制定する。


(3)透明性保証機関
各州に設置される透明性保証機関は,透明性及び公金会計説明に係る情報公開の対象者が,課せられた情報公開の義務を果たしているかを監督する。


(4)透明性に係る全国プラットフォーム(Plataforma Nacional de Transparencia)
透明性保証機関は,情報公開の対象者が情報公開の手続及び義務を果たし,情報公開請求者が情報にアクセスすることのできる電子プラットフォームを設置する。全国透明性システムは,各透明性保証機関が設置する電子プラットフォームが要件を満たすものになるよう,必要に応じた対策を講じる。


(5)透明性及び公金会計説明に係る情報公開の対象
(ア)公的資金を受け取り,使用する連邦及び地方の三権,自治機関,政党,公的基金,個人,法人,労働組合等のあらゆる機関の透明性及び公金会計説明が情報公開の対象とされる。
(イ)ただし,大統領警護隊,組織犯罪捜査専門副長官組織(SEIDO),国家安全調査局(CISEN),連邦通信機関(IFT)等11の組織及び機構は,情報公開請求に対し,その都度,情報を公開するかどうか審議するものとする。
(ウ)その他の組織及び機構に関しては,情報公開請求を拒否するためには,該当の情報を公開することが公共の利益,または国防上の理由により不適切であることを証明しなければならない。また,情報公開請求の対象となる情報は,5年間非公開とすることができ,各組織及び機構に設置される透明性委員会の決定により,さらに5年間非公開の期間を延長できるものとする。
(エ)人権侵害,人道犯罪,汚職に係る事項に関しては,如何なる組織及び機構も情報公開を拒否することはできない。


(6)罰則
情報公開請求に対し,定められた期限内に情報を開示しない行為,情報の隠蔽,改ざん等の行為,又は不完全な情報の提示,アクセスが不可能なフォーマットによる情報提示等に対しては,罰則が科せられる。

 

3.国家汚職対策システム(Sistema Nacional de Anticorrupcion)創設に係る憲法改正
21日,国家汚職対策システム創設に係る憲法改正案が,連邦上院議会で賛成97票,反対8票,棄権2票で可決された。憲法改正には,過半数以上の州議会(17州以上)での可決が必要なところ,同憲法改正案は審議・採決のため各州議会に送られた。


【主なポイント】


(1)国家汚職対策システムは,連邦高等司法官(ASF)長官,汚職対策検察長官,公共行政省,連邦行政司法裁判所長官,連邦情報公開庁(IFAI)(注:透明性及び公共情報アクセス法の公布により,国家情報公開庁(INAI)へ名称が変更される)議長,連邦司法審議会代表1名,市民参加委員会代表1名から構成される調整委員会を通して,機能する。 
(2)ASFに対し,告発があった事例に関し,当該会計年度内に会計監査を行い,不正行為に対しては適切な時期に罰することを可能とする権限を付与する。また,前会計年度における不正行為疑惑に関しても,会計監査を行うことを可能とする権限を付与する。
(3)ASFは,各州政府への地方交付金を監査する権限が付与される。これによって,従来,不明瞭となっていた各州における公共支出の監査が可能となる。
(4)連邦行政司法裁判所に自治権が付与され,法が定める深刻な行政責任に係る違反行為,及びその行為に関わった公務員に判決を下し,罰する権限が与えられる。
(5)深刻な行政責任に係る違反行為の時効が3年から7年に延長される。
(6)利益相反の問題への対策として,公務員に対し,資産公開,及び利益相反の可能性の有無に対し,宣誓して申告がすることが義務づけられる。
(7)公共行政大臣の任命は,その中立性を保証する目的で,大統領提案人事案を連邦上院議会が承認するものとする。
(8)各州は,国家汚職対策システムに準ずる汚職対策システムを設置する。

 

4.2015年世界不処罰指数の発表
(1)21日,ラス・アメリカス大学の不処罰・司法研究所(Centro de Estudios sobre Impunidad y Justicia)が「2015年世界不処罰指数(Indice Global de Impunidad 2015)」報告書を発表した。この調査は,国連加盟国のうち59ヶ国を対象に,治安機構,司法,人権保護の各分野における効率性を評価し,対象国における不処罰の現状を0~100(100に近いほど不処罰の問題が存在する)で指数化したもの。メキシコの不処罰指数は75.7であり,フィリピンの80に次ぎワースト2位という結果であった。なお,同研究所は,不処罰を犯罪加害者が法によって適切に罰せられるかどうかという問題のみだけではなく,治安,司法,人権が多次元的に関わる問題として定義している。
(2)同報告書では,メキシコが不処罰問題の是正に取り組むための優先事項として,次の2点を挙げている。第一に,治安システムを機能させることであり,これは警察官を増員するのではなく,既存の警察官の職務執行を確保することを意味する。メキシコは人口10万人あたりに355名の警察官がおり,この数値は今般の調査対象国59ヶ国の平均332名より多い。第二に,司法制度の改革が必要であり,具体的には裁判官を増加する必要がある。今般の調査で最も低い不処罰指数であったクロアチア(27.5)の人口10万人あたりの裁判官数が45名であるのに対し,メキシコのそれは4名である。メキシコでは,刑務所に服役中の者の約半数が,未決囚と推測されるが,裁判官の数を増加することによって,未決囚の数を減らすと同時に,刑務所のキャパシティーオーバーの問題を解決できる。

 

5.通常国会の閉幕
30日,通常国会が閉会した。

 

〈治安情勢〉


1.ハリスコ州における犯罪組織による州治安当局者の殺害事件
(1)6日,ハリスコ州サン・セバスティアン・デル・オエステ市において,犯罪組織「カルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)」の待ち伏せによる襲撃により,ハリスコ州警察特殊部隊の隊員15名が死亡,5名が負傷した。ハリスコ州検察庁の発表によると,治安維持活動のためプエルト・バジャルタ市からグアダラハラ市に向かっていた特殊部隊は,サン・セバスティアン・デル・オエステ市の幹線道路上でCJNGによる襲撃を受けた。
(2)3月23日,ハリスコ州サコアルコ・デ・トーレス市におけるハリスコ州警察特殊部隊とCJNGの銃撃戦により,CJNGの幹部エリベルト・アセベド・カルデナス,通称「グリンゴ」が殺害されており,ハリスコ州検察庁は,今回のハリスコ州警察特殊部隊への襲撃は幹部殺害に対するCJNGによる報復活動であると見ている。

 

2.犯罪組織「フアレス・カルテル」幹部の逮捕
(1)19日,ルビド国家治安コミッショナーが,チワワ州アウマダ市において,犯罪組織「フアレス・カルテル」の幹部,ヘスス・サラス・アグアヨ容疑者,通称「エル・チュイイン」を,連邦治安当局が逮捕した旨発表した。昨年10月,「フアレス・カルテル」の首領,ビセンテ・カリージョ・フエンテス容疑者,通称「ビセロイ」を連邦治安当局が逮捕した後,ヘスス・サラス・アグアヨ容疑者がその後継者として,「フアレス・カルテル」を指揮してきたと見られている。
(2)ルビド国家治安コミッショナーは記者会見において,同容疑者の逮捕により,連邦政府が最も重要な容疑者と指定する122名のうち,93名が逮捕されたことになる旨強調した。

 

〈外交〉


1.メンデス国連人権理事会特別報告者による報告書に関するメキシコ外務省プレスリリース
5日,メキシコ外務省は,3月9日に発表された,メキシコにおいて拷問が一般化している(generalizada)等としたメンデス国連人権理事会特別報告者による報告書に関し,要点以下のとおりプレスリリースを発出した。
【プレスリリース概要】
(1)拷問は未だに様々な形態で利用され,根絶には至っていない慣行であることを認める。そして,これはメキシコが国家として日々迅に解決すべく取り組まなければならない課題の一部である。
(2)メキシコ外務省は,メンデス氏の調査訪問及び勧告を評価している。他方で,メキシコにおいて拷問が一般化しているという記述等,いくつかの点において受け入れられない内容が含まれている。
(3)メキシコは,国際的な人権状況の調査メカニズム,国際赤十字委員会,EU等のその他の組織との協力について,引き続きオープンである。

 

2.ミード外相のOAS閣僚会合出席
9日,ミード外相が米州サミットの枠組みで開催された米州閣僚会合に出席した。また,10日,ミード外相がパロリン・バチカン国務長官(首相に相当)と会談を行った。
(1)米州閣僚会合
(ア)9日,ミード外相は,同10日及び11日に開催される米州サミットの枠組みで開催された米州閣僚会合に出席した。
(イ)閣僚会合において,ミード外相は,今回の米州サミットには,平和な半球(hemisferio de paz)としての米州地域を強化するために,キューバを含む同地域の全ての国々が出席する,同サミットはアメリカ大陸における対話と協力の新たな時代の幕開けとなる旨強調した。
(ウ)ミード外相は,同サミットの開催に向けて何ヶ月もの間,地域の開発プロセスを強化する8つのテーマ(教育,衛生,エネルギー,治安,環境,移民,市民参加,民主主義)に集約された議題の準備にかかるパナマ政府の尽力に対する謝意を表した。
(エ)ワーキング・セッションにおいて,ミード外相は,この的を射たテーマ選定によって,政策対話を通じた米州大陸の結束を祝福するだけでなく,今回のサミットに集約された大きなテーマの中に,地域の平和に関連したテーマで行われている取組を特定することができる旨述べた。
(オ)ミード外相は,サイン・マロ・パナマ副大統領(兼外相),グアテマラ,ペルー,コロンビア,アルゼンチン,パラグアイの外相のほか,インスルサOAS事務局長,アルマグロOAS次期事務総長,グリーンスパン・イベロアメリカ事務局長と懇談を行った。
(2)パロリン・バチカン国務長官との会談
(ア)10日,ミード外相は,米州サミットの枠組みで,パナマ市内においてパロリン・バチカン国務長官(首相に相当)と会談を行い。二国間及び多国間イシューについて協力分野を拡大していく必要性がある点で一致し,また,墨バチカン間のハイレベル政策対話に継続性を与える旨合意したほか,米州サミットにおける課題について分析を行った。
(イ)両国政府は,平和,軍縮,人権,死刑制度,環境,貧困との闘い,移民といった分野における価値観の擁護・促進に関し,多国間のフォーラムで共同歩調をとっている。移民問題に関しては,両国は,昨2014年7月にメキシコ外務省で第一回会合が開催された移民と開発に関する対話の第二回会合を実施する可能性について分析した。

 

3.メキシコSICA共同声明の発出
11日,メキシコ政府及び中米統合機構(SICA)加盟国政府(グアテマラ,ホンジュラス,コスタリカ,エルサルバドル,ニカラグア,パナマ,ドミニカ共和国,ベリーズ)がパナマシティにおいて共同声明を署名・発出した。


【共同声明概要】


(1)我々は,治安及び司法分野でいくつかの国が直面している大きな課題を認識するとともに,我々の制度を強化する必要性を確信している。制度の効率性を監視し,独立性を保証するために,あらゆる分野において重要な努力を行う必要がある。
(2)国際協力は,主権の尊重,平等や内政不干渉等,様々な国際文書に掲げられている国際法上認められた原則の枠組みで利用される場合には,常に重要なツールとなる。
(3)我々は,制度を強化し平和を醸成するために,各国政府及び地域の政治的指導者が行っている努力を支援する。
(4)我々の制度強化は,主権行使の制限にも,第三者の意思にも条件付けられるものではない。

 

4.ペニャ・ニエト大統領の第7回米州首脳会議出席
9日~11日,ペニャ・ニエト大統領は第7回米州首脳会議に出席するためパナマを訪問した。また,同大統領は,10日に開催された第2回米州企業サミットにパネリストとして出席,10日及び11日,ペルー及びコロンビアとの三国首脳会談,ブラジル,オランダとの二国間首脳会談,国際労働機関(ILO)との会談をそれぞれ行った。
(1)第7回米州首脳会議
11日,ペニャ・ニエト大統領は,第7回米州首脳会議第1セッションにおいてスピーチを行った。
【ペニャ・ニエト大統領スピーチ概要】
(ア)現在政権が推し進めている構造改革は,包摂性(inclusion)にとってプラスの変化であり,メキシコがより速いスピードで成長しつつ,何人も置き去りにせず全ての人々が繁栄を享受することを目指している。経済成長が持続的なもの(duradero)であるためには,成長が包摂的(incluyente)でなければならない。
(イ)米国・キューバ関係が対話の段階に入ったことを評価する。(初めて米州の全ての国が参加することとなった)今回の首脳会議は,キューバと米国というメキシコの偉大なる友が,対話を再開させたからこそ可能となった。メキシコはこの対話プロセスを支持し,評価するとともに,当該プロセスと連携(aliado)していく。両国首脳は,この対話の開始が未来と可能性に満ちたものであることを世界に示した。
(ウ)コロンビアの和平プロセスを評価するとともに,平和の実現が早期に完了することを切望する。メキシコは,和平プロセスに関し,コロンビアを支援するとともに,この合意を促す建設的な意思の下行われている取組に国際社会が協力することを望む。
(エ)1810年代に,シモン・ボリバルが米州大陸の独立国をパナマシティに招集したのが,政治的統合に向けた最初の試みであった。それ以来,各国はそれぞれ異なる政治・経済モデルを採用してきたが,米州諸国は米州の団結・協力を特権的なものとする(previlegiar)道を模索してきた。だからこそ,我々の(相互)理解のためのモデル,ツールとして,政治対話を引き続き推進していくとともに,我々の社会の繁栄と厚生を(地域の)共通目的としたい。


(2)第2回米州企業サミット
10日,ペニャ・ニエト大統領は,バレーラ・パナマ大統領,オバマ米大統領,ルセフ伯大統領とともに,第2回米州企業サミットのパネル・ディスカッションに出席した。
【ペニャ・ニエト大統領発言概要】
(ア)メキシコは,長年構造改革を行うことを提案してきたが,それがようやく実現した。民主主義の下で構造改革を実現するための政治的合意に達し,現在我々はメキシコの更なる成長及びメキシコ国民の更なる繁栄のために,これらの改革の具体化,実施に尽力しているところである。構造改革の実施によって,より多くのメキシコ人がその創造的能力(capacidad creativa)及び起業能力(capacidad emprendedora)を通じて裨益することとなった。
(イ)政府が主要な資本家であった時代を経て,メキシコは,世界に開かれた国家となること,企業家を通じて世界と競争すること,また,企業家とともに世界の他の市場に参入することを決断した。今では,メキシコ企業及び企業家の対外投資の70パーセントが中南米,米州地域に向けられている。
(ウ)(Facebok創設者であるマーク・ザッカーバーグ同社CEOから,民間企業に対してより多くの参入機会を与える用意があるかとの質問がなされたことを受けて,)メキシコの場合,まさにそれが我々が求めているものであり,構造改革のいくつかは,メキシコ及び外国の民間企業に参入機会を与えることを目的としている。自国企業が地域市場,グローバル市場へ参入するためには,自国において高い能力を有することができるかどうかにかかっている。だからこそ,メキシコは(企業の)能力面での強さ,競争条件における強さを獲得し,メキシコ企業による他市場への進出に繋げたいと考えている。


(3)ペニャ・ニエト大統領の二国間会談等
10日及び11日,第7回米州首脳会議に出席するためパナマを訪問していたペニャ・ニエト大統領は,ペルー及びコロンビアとの三国首脳会談,ブラジル,オランダとの二国間首脳会談,国際労働機関(ILO)との会談をそれぞれ行った。
(ア)ペルー及びコロンビアとの三国首脳会談
(a)4月10日,ペニャ・ニエト大統領はウマラ・ペルー大統領及びサントス・コロンビア大統領と会談を行い,米州首脳会議の発展について分析を行い,教育,衛生,移民,エネルギー,環境等,今回の米州首脳会議に関連したテーマについて議論した。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,今回のサミットは米州大陸における対話と協力の新たな時代の始まりを告げるものであるとの認識を示した。また,三国は共通の目的を志向している近しい国であり,それぞれの地域でリーダーシップを発揮している点を強調しつつ,建設的対話と平和的地域の強化の精神を反映したサミット実現のために,他の米州大陸の国々と協力していく必要性を訴えた。
(c)ペニャ・ニエト大統領は,中南米カリブ地域において最も深化した貿易自由化に関する,太平洋同盟の過去三年間の偉大なる成功を祝福するとともに,(同じく太平洋同盟加盟国である)チリにおいて発生した自然災害による被害者への追悼,並びにチリ政府・チリ国民に対する連帯の意を示した。
(イ)ブラジルとの首脳会談
(a)4月10日,ペニャ・ニエト大統領はルセフ伯大統領と会談を行い,初めて米州の全ての国々が出席することとなった米州首脳会議の展望について議論を行った。
(b)ペニャ・ニエト大統領は,両国の戦略的関係を強化し,多くの点で共通の立場を有する二国間関係を緊密化する意向を再度示した。これに対して,ルセフ大統領からは,ペニャ・ニエト大統領からの招待に応じ,5月にメキシコを訪問する旨述べた。
(c)両首脳は,両国の貿易・投資関係を強化する必要性につき合意,また,両国の民間セクター間の戦略的同盟関係(alianzas estrategicas)を促進する重要性を表明した。現在,ブラジルはメキシコにとって世界で第8位,中南米で第1位の貿易相手国であり,メキシコはブラジルにとって世界で第10位,中南米で第2位の貿易相手国である。昨2014年の二国間貿易は90億ドルを超え,過去20年間で475%の増加を記録した。
(d)ペニャ・ニエト大統領からは,ALADI(ラテンアメリカ統合連合)経済補完協定55号(ACE55)第5次改定議定書(いわゆる墨伯自動車協定)の署名を達成した最近の交渉における相互理解に賛辞が述べられた。
(e)両首脳は,農業,教育,文化に関する様々な協力プロジェクトに言及。特に,文化関係に関し,ペニャ・ニエト大統領は,①「分断された自然(Naturaleza Fragmentada)」と題する展示会(於:ブラジリア),②ルイス西沢回顧展(注:ルイス西沢画伯は昨年2014年10月に逝去。メキシコにおける同画伯の評価はたいへん高く,同画伯の葬儀にはペニャ・ニエト大統領自ら出席),③マヤ展(②及び③は,於:サンパウロ)という,三件の重要なメキシコの展示会が開催されたことにつき祝辞が述べられた。
(ウ)オランダとの首脳会談
(a)4月11日,ペニャ・ニエト大統領はルッテ・オランダ首相(注:潘基文国連事務総長とともにオブザーバーとして米州首脳会議に出席)と,2013年3月のフランシスコ法王就任式,昨2014年9月の国連総会の機会に引き続き,三度目となる首脳会談を行い,二国間アジェンダや国際場裡において共通の立場を有するテーマについて議論を行った。
(b)両首脳は,両国の繋がりを強化し,具体的な協力案件を貿易・投資同様に拡大させていくために,最もハイレベルでの政策対話を継続することに合意した。この目的のために,ペニャ・ニエト大統領は,メキシコが両国の企業コミュニティ間での交流を拡大し,通商ミッションに対して必要な支援を行う決断をした旨述べた。
(c)両首脳は,それぞれの国において推進してきた諸改革について分析した。ルッテ首相からは,ペニャ・ニエト大統領に対して,構造改革の実施における同大統領のリーダーシップに賛辞が述べられるとともに,オランダ企業コミュニティが,特にエネルギー分野を始め,構造改革で生じた投資機会へ関心を有している点が示された。
(d)会談では,国際経済システム並びにメキシコ及びEUの状況が著しく変化している中で生じている機会を双方が活用するために,両国の関係を律している現行の法的枠組み(当館注:墨EU経済連携協定(Acuerdo de Asociacion Economica, Concertacion Politica y Cooperacion)をさす)の更新する必要性がある旨言及された。
(e)ルッテ首相は,ペニャ・ニエト大統領を明2016年,オランダに国賓として招待する旨述べた。
(f)オランダは,メキシコにとって,世界で第13位,EU内で第4位の貿易相手国である。また,過去15年間のオランダによる累積投資額は500億ドルを超えており,同国はメキシコにとって世界で第2位,EU内で第1位の投資国である。メキシコには,主に製造業を中心に(全体の投資額の62.4%),2132社のオランダ企業が進出している。同国との間では,近年,政策協議メカニズムやハイレベルの会合が継続的に開催されており,政策対話が強化されてきた。
(エ)国際労働機関(ILO)
(a)11日,ペニャ・ニエト大統領は,ライダーILO事務局長と会談し,メキシコがILOとの間で推進してきた協力プロジェクトについて協議した。
(b)ペニャ・ニエト大統領からは,児童労働への対処,環境に配慮し労働基準に従った労働環境,フォーマルセクターの普及,産学連携による若年技術者の育成,労働移民,労働査察等,同国の関心分野におけるプログラムの始動にかかるILOの積極的働きに謝意が表された。また,同大統領は,特にチアパス,ゲレロ,オアハカ州の若者向けの雇用創出が目的の一つとなっている,メキシコ南部開発戦略(本年3月公表)の実施にかかる,ライダー事務局長の多大なる支援を評価する旨述べた。
(c)両者は,G20等の多国間フォーラムにおいて雇用に関連したテーマにかかる議論を推進していくこと,ポスト2015開発アジェンダに雇用を入れ込むことで一致した。

 

5.ミード外相のブリュッセル訪問
20~21日,ミード外相はブリュッセルを訪問し,フェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表(閣僚級),ピエール・モスコヴィッシ欧州委員(経済・財政問題,税制,関税同盟担当)(閣僚級)等と会談を行った。
(1)訪問概要
(ア)20~21日,ミード外相はブリュッセルを訪問し,モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表,モスコヴィッシ欧州委員(経済・財政問題,税制,関税同盟担当),Marcos Sefcovicエネルギー総局次長等と会談を行った。
(イ)モベリーニ上級代表との会談では,経済,政治,協力に関する墨EUの戦略的連携について再検討され,次回CELAC-EU首脳会議の開催について言及がなされたほか,その他のグローバル課題についての分析がなされた。また,概要以下(2)のとおり,共同コミュニケが発出された。
(2)共同コミュニケの概要
(ア)モゲリーニ上級代表とミード外相は,本4月21日,ブリュッセルにおいて,墨EUの戦略的連携(Asociacion Estrategica)の基礎となっている共通の価値を再確認するため,閣僚会合を開催した。
(イ)墨EU包括協定及び共同執行計画(Plan Ejecutivo Conjunto)の下で深化・強化された墨EU関係に現れているような,2013年9月の前回閣僚会合以降の進展を歓迎した。また,ハイレベル政策対話(Dialogo Politico de Alto Nivel)の始動を歓迎するとともに,第二回会合の早期実施の必要性を訴えた。
(ウ)墨EU包括協定の現代化(Modernizacion)に関し,共通見解に関する報告書の作成を通じた作業進捗を歓迎,早期妥結への期待を示した。また,2013年1月の両首脳から示された包括協定の野心的な現代化の方策を探るコミットメントを強調。
(エ)4月16日にメキシコシティで開催された人権に関する第5回ハイレベル対話,及び同15日に開催された市民社会セミナーの結果を歓迎した。人権分野における墨EUの立場の類似性に言及しつつ,国レベルだけでなく,マルチのフォーラム,特に人権理事会において両者の戦略的協力関係を強化していくコミットメントを強調した。
(オ)エネルギー,ITC,地域政策,高等教育,雇用及び社会問題といった新しい分野における対話を歓迎した。
(カ)地域的・テーマ別の協力プログラムにおける,EUによる協力の新たな枠組みを分析。メキシコにおける炭素削減技術の分野に関するイニシアティブを歓迎した。次回対話において,引き続き,共通関心を有する分野の特定を行っていくこと,また,第三国との国際協力が可能な分野の発掘を行っていくことに合意した。
(キ)地域課題及びグローバル課題に関する分析,意見交換を行い,グローバル・ガバナンスを強化し,様々な国際フォーラムにおけるコンセンサス形成を慫慂するために,引き続き協働することに合意した。
(ク)ポスト2015国連開発アジェンダに関し,コンセンサスを形成するためにすべての加盟国と作業を進めていく重要性を強調。同アジェンダは,持続可能な開発の3つの側面を満たし,野心的であり,かつ,平和で安全な社会を促進するにあたり貧困削減及び持続可能な開発に関連する課題が強調される形で,一律に適用可能で,測定可能で,明確な目標の総体に基づいたものでなければならない。
(コ)気候変動,環境,生物多様性の保護,防災等の調和した行動が求められるグローバル課題に関し,マルチのフォーラムにおいて,対話と協力を継続する重要性に合意。気候変動について,気候変動枠組条約の下で全ての締約国に適用され,野心的で,公正で,法的拘束力がある合意がCOP21で採択されるよう,協働することで合意。EU及びメキシコによる約束草案(INDC)の提出(メキシコは新興国としては初の提出)を歓迎した。
(サ)「モ」上級代表は,メキシコ政府が行ったPKOへの参加の決定を歓迎した。この点に関し,「モ」上級代表及びミード外相は,平和維持活動の訓練に関するEUのメキシコに対する協力の可能性を認めた。ミード外相は,メキシコの訓練計画の一環として,メキシコ軍隊の要員が2015年にEU諸国が実施する訓練コースに参加することを発表した。
(シ)「モ」上級代表及びミード外相は,麻薬問題に関するバランスのとれた人道的政策の推進への関心を共有し,2016年国連麻薬特別総会の準備プロセスにおいて協働する重要性を強調した。各国の経験,科学的裏付け,地域及び国際機関の見解,国連の他の機関の見解,市民社会や学会の見解を考慮に入れた,実質的で,開かれ,包摂的で,幅広い議論を促すことに合意した。
(ス)EU-CELAC間の戦略的連携のこれまでの進捗に対して満足の意を示すとともに,グローバルな課題,両地域間の問題に関する連帯と相互理解の精神に基づいた同連携の可能性をテイクノートした。2015年6月10日及び11日に,ブリュッセルにおいて開催予定のEU-CELAC第二回首脳会議の成功を確かなものとするため協働するコミットメントを確認した。また,EU-CELACビジネスサミット(6月10日,於:ブリュッセル)が開催されることを歓迎するとともに,技術,ビジネス分野におけるEU,中南米カリブ地域,メキシコの間の,特に中小企業の利益のための,協力強化を支援する旨述べた。
(セ)墨EU包括協定の現代化についての共通見解に関する報告書の作成作業が終了した段階で,合同評議会(Consejo Conjunto)の枠組みで,ブリュッセルにおいて,会合を実施することで合意。
(ソ)墨EU首脳会議を相互に都合の良い日程で実現することで一致した。

 

6.マデロ大統領家族に対する日本公使館の庇護に関するメキシコ連邦上院決議記念プレート除幕式
21日,連邦上院議会でマデロ元大統領家族に対する日本公使館の庇護に関するメキシコ連邦上院決議記念プレート除幕式が催された。また,記念プレート除幕式に先立ち,連邦上院中庭上階において,メキシコ空手連盟他による空手道の実演が行われた。本件プレートは後刻上院中庭の壁(muro de honor)に飾られる予定。詳細については,下記,在メキシコ日本国大使館ホームページ参照。


http://www.mx.emb-japan.go.jp/senado2015jp.html

 

7.太平洋同盟(閣僚審議会及びハイレベル・グループ(GAN)会合の開催)
(1)29日~30日にかけて,墨外務省(メキシコシティ)において,ミード外相及びグアハルド経済相の共催で,第13回太平洋同盟閣僚審議会が開催され,太平洋同盟加盟4カ国の大臣・副大臣が出席した。
(2)出席閣僚は,自由貿易に関する合意,太平洋同盟加盟国民の観光目的の訪問にかかる査証免除,奨学金プログラムの始動,貿易振興事務所の共有等,これまでに統合メカニズムの下で達成された成果について確認したほか,統合を深化させる必要性を強調し,インフラ,中小企業,保健,知的財産,金融協力をはじめとする新世代(nueva generacion)のテーマにおける合意を目指すためのロードマップを策定した。
(3)出席閣僚は,開かれた包摂的な統合メカニズムとしての太平洋同盟の使命を再確認し,オブザーバー国との協力プロジェクトの進捗について議論を行った。
(4)7月2日~3日,ペルーのウルバンバにおいて開催される第10回太平洋同盟首脳会議に向けた詳細の検討を行った。
(5)なお,閣僚審議会に先立ち,ルビオ外務次官及びローゼンウェイグ経済次官の主催により,太平洋同盟ハイレベル・グループ(GAN)会合が開催された。

 

 

 
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