メキシコ政治情勢(2月)

 
 

概要〉
内政では,1日に通常国会が開会した。3日,ペニャ・ニエト大統領はビルヒリオ・アンドラーデ・マルティネス経済省規制改革委員会委員長を公共行政大臣に任命する人事を発表,また併せて汚職対策への8項目からなるアクションプランを発表した。27日,ペニャ・ニエト大統領はムリージョ連邦検察庁長官を農地土地都市開発相に任命する人事を発表した。25日,第48回全国州知事会議がドゥランゴ州で開催された。27日,内務省が,犯罪組織「テンプル騎士団」首領セルバンド・ゴメス容疑者,通称「ラ・トゥタ」を逮捕した旨発表した。


外交では,2日~3日,メキシコにおける強制失踪の実態を検証する国連強制失踪委員会の会合がジュネーブで開かれた。9日~10日,ミード外相が英国を訪問した。11日~12日,エルドアン・トルコ大統領が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領との首脳会談等を行った。11日,モラレス・グアテマラ外相がメキシコを訪問し,ミード外相と会談した。13日,山田大使がペニャ・ニエト大統領に対し信任状を奉呈した。19日~21日,ミード外相がデンマーク,フィンランド及びスウェーデンを訪問した。26日,連邦上院議会は,1913年のマデロ大統領一族に対する日本公使館の庇護に関する決議を可決した。

 

〈内政〉
1.通常国会の開幕
1日,通常国会が開会した。

 

2.公共行政大臣の任命及び汚職対策のための8項目からなるアクションプラン
3日,ペニャ・ニエト大統領はビルヒリオ・アンドラーデ・マルティネス(Virgilio Andrade Martinez)経済省規制改革委員会委員長を公共行政大臣に任命する人事を発表,また併せて汚職対策への8項目からなるアクションプランを発表した。


【汚職対策アクションプラン】
(1)本年5月より,全ての公務員は法に則り資産公開を実施する。これに加え,国家公務員は利益相反の可能性がないか申告書を提出する。利益相反の可能性に関する申告書は公職に就く際に提出しなければならず,毎年更新することが義務づけられる。また,公務員が利益相反に関与する可能性が指摘された際にも更新されなければならない。利益相反の可能性に関する申告書の様式は,OECDの専門家によって保証されており,国際的にも最良の様式として実践されているものである。
(2)公共行政省に倫理及び利益相反予防専門部局(Unidad Especializada en Etica y Prevencion de Conflictos de Interes)を創設する。本部局は,利益相反の存在を特定し,それを予防する方法を指示し,必要に応じて,処罰が適切に適応されることを監視する責務を負う。また,本部局は,各行政機関の倫理委員会及び利益相反予防委員会の活動と関連し,その活動を実施する。
(3)現存する倫理に関する法規を拡大,より掘り下げた内容とした,公務員の職務従事に係る規則を発効させる。本規則は,汚職対策の新しい取り組みに則した内容のものとなる。
(4)公共行政省は,公的契約・ライセンス・許可の手続きに係る民間企業と行政責任者の接触に関し,公務員が遵守しなければならないガイドラインを明確かつ具体的に定める。
(5)上記(4)の措置を補完するために,各連邦公共機関は本年4月までに,上記の手続きに関与することの出来る職員のレベルを選定する。公共行政省は,各連邦公共機関によって定められた職員をリスト化し,それら職員が上記の手続きに関与することが適切かどうか精査する。
(6)これまで各連邦公共機関がそれぞれ提供していた公共手続き・サービスを一元化する目的で,全国統一窓口(Ventanilla Unica Nacional)をインターネット上に設立する。本日,全国統一窓口の設立のための政令を公布し,全国統一窓口のオペレーションを促進していく。全国統一窓口の設立により,国民と公務員が接する場が少なくなることによって,汚職が発生する可能性が減少する。
(7)連邦政府機関への納入業者で罰則処分を受けた業者のリストをより完璧かつ詳細なものとする。該当リストには罰則の内容が示される。
(8)透明性向上,汚職対策に関し,民間セクターとの協力メカニズムを拡大する。市民による積極的な参加は,利益相反及び汚職行為が起こるプロセス,脆弱な手続きを識別するために重要なことである。商工会議所,市民団体と相互協力のための合意に取り組み,共に違法行為を予防していく。

 

3.第48回全国州知事会議
(1)25日,ドゥランゴ州ドゥランゴ市で第48回全国州知事会議が開催され,29州知事,3州知事代理,及び,ペニャ・ニエト大統領,シエンフエゴ国防大臣,ソベロン海軍大臣,ビデガライ大蔵公債相,チュアイフェット公共教育省,マルティネス農牧大臣,フアン厚生大臣らが出席した。
(2)同会議において治安分野に話題が及んだ際,ペニャ・ニエト大統領は州知事に対し,メキシコ国内に法による統治を行き渡らせるためには,州政府が現状を見て見ぬふりをし,連邦政府のみに治安問題への責任を負わせることはあってはならず,連邦政府,州政府が連携し,同問題に対し共に取り組んでいくことが重要である等述べた。
(3)議長を務めたエレーラ・ドゥランゴ州知事は,ペニャ・ニエト大統領が昨年11月27日に発表した,統一州警察発足,全国統一緊急時通報電話911の制定,汚職対策等10項目からなる治安対策パッケージの実現に対し,全国州知事会議も責任を負っている旨述べ,連邦政府と協力し,これらの実現に尽力していくことを約束した。

 

〈人事〉
1.連邦最高裁判所判事人事案の提出
17日,ペニャ・ニエト大統領は,エドゥアルド・メディナ・モラ(Eduardo Medina Mora)駐米メキシコ大使を,連邦最高裁判所判事に提案する人事案を連邦上院議会に提出した。なお,同人事案ではメディナ駐米メキシコ大使に加え,フェリペ・アルフレド・フエンテス(Felipe Alfredo Fuentes)第二巡回地区第三民事裁判所判事,オラシオ・アルマンド・エルナンデス(Horacio Armando Hernández)第一巡回地区第五刑事裁判所判事の3名が候補者として提案されており,3名の候補者から連邦最高裁判所判事が任命される。なお,本人事は,昨年12月にセルヒオ・バジェス・エルナンデス連邦最高裁判所判事が死去し,判事のポストが空席となっていることを受けたもの。

 

2.連邦検察庁長官等
(1)27日,ペニャ・ニエト大統領はムリージョ連邦検察庁(PGR)長官を農地土地都市開発相に任命する人事を発表した。大統領官邸にて開かれた就任会見において,ペニャ・ニエト大統領は,非常に複雑かつ困難な職務を全うしたムリージョ前PGR長官の役割を称えると共に,その資質,能力を活かし,今後は農地土地都市開発相として,メキシコ国民の生活の質向上のために引き続き職務を全うすることを期待する旨述べた。これに対し,ムリージョ新農地土地都市開発相は,メキシコの抱える問題の一つに都市開発及び農村発展の問題が挙げられる旨述べ,右問題へ取り組むために創設された農地土地都市開発省の大臣として,しかるべく取り組んでいく所存である旨述べた。
(2)同会見において,ラミレス前農地土地都市開発相は,ペニャ・ニエト大統領に謝意を表すと共に,今日,メキシコ市民は以前よりもよりスペースの広い住宅を望むことが出来るようになっている等,同省の促進する住宅政策の成果に関し述べた。なお,ラミレス前農地土地開発相は,2月28日に公表された制度的革命党(PRI)の連邦下院議員選の比例候補者名簿に登録されている。
(3)2月27日,ムリージョ前PGR長官の後任として,アレリ・ゴメス・ゴンサレス(Arely Gomez Gonzalez)前上院議員が任命された。ゴメス前上院議員は連邦上院議会の承認をもって,PGR長官に就任することとなる。

 

〈治安情勢〉
1.タマウリパス州治安情勢
(1)3日,タマウリパス州バジェ・エルモソ市において,犯罪組織によるとみられる大型貨物車等を使用した道路封鎖が行われ,その後,マタモロス市~レイノサ市間の路上における陸軍等の連邦政府治安部隊と犯罪組織との銃撃戦により,被疑者9名が死亡する事件が発生した。また,同日,マタモロス市役所駐車場では手りゅう弾が発見され,一時的に職員が避難する事態となった。
(2)6日には,再びマタモロス市及びバジェ・エルモソ市周辺において道路封鎖が行われ,連邦政府治安部隊と犯罪組織との銃撃戦により,被疑者1名が死亡した他,テレビ局施設至近に手りゅう弾が投げ込まれ,警備員2名が負傷する事件が発生した。

 

2.犯罪組織「テンプル騎士団」首領「ラ・トゥタ」の逮捕
27日,内務省は,犯罪組織「テンプル騎士団」首領セルバンド・ゴメス容疑者,通称「ラ・トゥタ」を逮捕した旨発表した。
(1)27日午前4時過ぎ,連邦警察特殊オペレーション部隊がミチョアカン州モレリア市に潜伏していた犯罪組織「テンプル騎士団」首領,セルバンド・ゴメス容疑者,通称「ラ・トゥタ」を逮捕した。セルバンド・ゴメス容疑者からの抵抗はなく,同容疑者の逮捕は一発の銃弾も発することなく実施された。
(2)27日18時より開かれた記者会見において,オソリオ内相は,客年1月の「ミチョアカンの治安及び統合開発のための委員会」の設立以降,連邦治安当局による同州の治安回復が図られてきており,これまで犯罪組織メンバーの逮捕・殺害,犯罪組織の資金源獲得のための密輸が行われていたラサロ・カルデナス港のコントロール回復,犯罪組織との癒着が疑われる公務員の捜査等の成果があったと述べ,これら連邦治安当局のたゆまない努力が,本日のセルバンド・ゴメス容疑者の逮捕につながったとして,連邦治安当局の働きを称えた。
(3)同会見において,ルビド国家治安コミッショナーは,連邦治安当局のインテリジェンスの成果により,客年9月,セルバンド・ゴメス容疑者の側近の身元特定に成功したことが,同容疑者の逮捕につながったと説明した。また,同年12月には同側近がモレリア市に居住していることを特定,本年2月初旬にセルバンド・ゴメス容疑者の潜伏先を特定した由。そして,27日午前4時過ぎ,セルバンド・ゴメス容疑者が潜伏先から逃亡を図ろうとしたところを,連邦警察特殊オペレーション部隊が逮捕した由。また,セルバンド・ゴメス容疑者と共に,その協力者8名の身柄も拘束した旨併せて発表した。

 

〈外交〉
1.国連強制失踪委員会によるメキシコにおける強制失踪の実態聴取
2日~3日,メキシコの強制失踪の実態を検証する国連強制失踪委員会の会合がジュネーブで開かれた。
(1)2日~3日,10人の専門家から構成される国連強制失踪委員会は,メキシコにおける強制失踪の実態を聴取し,報告書を作成するために,メキシコ政府関係者,市民団体代表者らを招集し,会合を実施した。なお,本会合には,アヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件の被害者家族代表2人と,その弁護士も出席した。
(2)本会合ではアヨチィナパ教員養成学校生徒襲撃事件による強制失踪のみならず,メキシコを通過する移民の強制失踪,1970年,80年代の所謂「汚い戦争(Guerra sucia)」(注:反政府運動に対する軍事的・政治的弾圧の総称。メキシコでは長年,本問題に対する司法捜査が実施されてこなかったが,フォックス政権下において2001年,過去における政治社会運動のための特別捜査局(FEMOSPP)が創設され,司法捜査が開始されたものの,2007年,FEMOSPPは廃止された)による強制失踪等,メキシコで起こってきた強制失踪の事例に関し幅広く議論が交わされた。
(3)メキシコ政府代表団長を務めたゴメス=ロブレド多国間問題・人権担当外務次官は,同会合の開始にあたり,メキシコは,人権分野において重要な進歩を示してきた一方,依然,同分野において乗り越えなければならない課題に直面していることを認めているとしつつ,アヨチィナパ教員養成学校生徒の強制失踪は,メキシコ国家が犯罪組織,またそれに伴う暴力に立ち向かい,治安・司法の分野における国家の能力を強化するため,引き続き,貧困,社会的阻害,汚職の対策に取り組んでいく必要があることを示した事件となった等述べた。
(4)メキシコ国家人権委員会(CNDH)のゴンサレス・ペレス・オンブズマンは,メキシコにおける強制失踪は1970年,80年代の「汚い戦争」に根源を持つ問題であり,減少するどころか,アヨチィナパ事件が示すように,近年,悪化している旨述べ,正確な所在不明者の数を示し,それらが国家の何らかの関与によるものなのか,犯罪組織によるものなのか,それとも自発的な失踪によるものなのかを区別するための,効果的かつ網羅的な全国所在不明者登録データが存在していない等,本問題に対応する専門的な法の欠如が課題である旨述べた。右を踏まえ,CNDHは国連強制失踪委員会に対し14項目から成る強制失踪対策プランを提示した。右提案の中には,強制失踪に関する法の制定が含まれる。また,メキシコ政府関係者も,ペニャ・ニエト大統領の指示により,強制失踪に関する法を制定することに向けたイニシアティブを開始した旨発言した。また,ゴメス=ロブレド外務次官は,同法案が今次通常国会の会期中に成立することを期待していると述べた。
(5)ゴメス=ロブレド外務次官は,国連強制失踪委員会の会合を終えるにあたり,国際機関との意見交換は,国家のアジェンダ設定に関し前向きな効果を持つものであり,国連強制失踪委員会の結論が,本問題に関するメキシコ国家の規範を改善することに貢献するものであることを期待する旨述べた。
(6)国連強制失踪委員会の専門家ライナー・フーレ(Rainer Huhle)氏は,2日間にわたる会合により,強制失踪の問題に関し先例のない関心が生まれたと述べ,同委員会よりメキシコ政府に対し,同問題に関する勧告を10日程度で行う旨述べた。右勧告に関し,同委員会の会合には参加しなかったミード外相は,メキシコ国内テレビ局のインタビューにおいて,同委員からの勧告の内容を慎重に判断する旨述べた。

 

2.ミード外相の英国訪問
9日~10日,ミード外相が英国を訪問し,3月3日~5日のペニャ・ニエト大統領による英国への国賓訪問の準備状況を確認すると共に,英国における「メキシコ年」,メキシコにおける「英国年」の枠組みで文化,貿易,観光促進に関するイベント等に出席した。なお,2015年には本周年行事の枠組みで,100を超えるイベントが予定されている。

 

3.エルドアン・トルコ大統領の訪墨
11日~12日,エルドアン・トルコ大統領が訪墨し,ペニャ・ニエト大統領との首脳会談等を行った。両首脳から,墨-トルコFTAの早期妥結への期待が示されたほか,二国間貿易を50億ドルまで拡大すること等が合意された。

 

4.モラレス・グアテマラ外相の訪墨
11日,モラレス・グアテマラ外相がメキシコを訪問し,ミード外相と会談。モリーナ同国大統領の公式訪問の準備状況の確認等を行った。

 

5.山田大使の信任状奉呈
13日,国立宮殿にて,山田大使がペニャ・ニエト大統領に対し信任状を奉呈した。
詳細については,下記,在メキシコ日本国大使館ホームページを参照。
http://www.mx.emb-japan.go.jp/cartas2015jp.html

 

6.オソリオ内務相の米国訪問
18日,オソリオ内務相は暴力的過激主義対策サミットに出席するため,米国ワシントンを訪問。ジョンソン米国土安全保障長官と会談を行った。

 

7.ミード外相のデンマーク,フィンランド,スウェーデン訪問
19日~21日,ミード外相がデンマーク,フィンランド及びスウェーデンを訪問し,これら北欧諸国との関係を強化するとともに,貿易投資分野,これら北欧諸国が先進的な取組を行っているイノベーション,健康,エネルギー,教育,環境,水・森林資源分野といった戦略分野において協力を強化した。

 

8.バシール・レバノン外務・移民相の訪墨
23日,バシール・レバノン外務・移民相がメキシコを訪問し,ミード外相とともに墨レバノン政策協議メカニズム第2回会合を主催した。なお,本年は墨レバノン外交関係設立70周年。

 

9.1913年のマデロ大統領一族に対する日本公使館の庇護に関する連邦上院決議
26日,メキシコ連邦上院議会は,マルティネス上院議員(PRI所属)の提案を踏まえ,1913年のマデロ大統領一族に対する日本公使館の庇護に関して,日本国民,日本政府等に感謝する決議を可決した。詳細については,下記,在メキシコ日本国大使館ホームページを参照。
http://www.mx.emb-japan.go.jp/reconocimiento2015jp.html

 

 
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