メキシコ政治情勢(12月)
平成28年1月13日
メキシコ政治情勢(12月)
〈概要〉
【内政】
・1日,当地世論調査機関が発表したペニャ・ニエト政権3年目終了時の大統領支持率は,「エル・ウニベルサル」紙が42%,「レフォルマ」紙が39%,Parametria社が40%となった。
・2日,ペニャ・ニエト大統領は,メキシコ国内で高まりつつあるマリファナ合法化を巡る議論に関し,反対の立場を表明した。
・15日,メキシコ連邦区(Distrito Federal(D.F.))を32番目の州(Entidad Federativa)とし,メキシコ市と呼称する憲法改正案が可決された。
・16日,ペニャ・ニエト大統領は文化省(Secretaria de Cultura)創設にかかる法律に署名,同法が公布された。21日,ペニャ・ニエト大統領はトバル前国家文化芸術審議会(CONACULTA)長官を文化大臣に任命した。
【外交】
・6日~9日,山田大使がシナロア州を公式訪問した。
・10日,ルイス=マシュー外相はペニャ・ニエト大統領の代理として,マクリ新アルゼンチン大統領の就任式に出席した。
・14日~16日,ルイス=マシュー外相がワシントンを実務訪問し,バイデン米副大統領,ケリー国務長官,アルマグロOAS事務総長等と会談した。
〈内政〉
1.大統領支持率
1日,当地各世論調査機関は,ペニャ・ニエト政権3年目終了時の大統領支持率を発表した。
(1)各世論調査機関によるペニャ・ニエト政権3年目終了時の大統領支持率は,「エル・ウニベルサル」紙が42%(前回8月調査時の35%から7ポイント回復),「レフォルマ」紙が39%(前回7月調査時の34%から5ポイント回復),Parametria社が40%(前回9~10月調査時の39%から1ポイント回復)となった。
他方,不支持率についても,「エル・ウニベルサル」紙が51%(同57%から6ポイント回復),「レフォルマ」紙が58%(同64%から6ポイント回復),Parametria社が59%(同60%から1ポイント回復)となった。
(2)いずれの調査においても,ペニャ・ニエト大統領の支持率は上昇,不支持率は低下するなど,回復基調に入りつつあることが示された。
(3)他方,政権発足時と比して依然低迷している支持率の背景としては,経済情勢,治安,汚職の問題が指摘されている。
2.マリファナ合法化を巡る議論
2日,ペニャ・ニエト大統領は,大統領官邸で開かれた国家児童・青少年統合保護システム(el Sistema Nacional de Protección Integral de Niñas, Niños y Adolescentes)の設立式において,メキシコ国内で高まりつつあるマリファナ合法化を巡る議論に関し,右に反対の立場を表明した。
(1)ペニャ・ニエト大統領発言概要
(ア)マリファナの消費が有害であり,児童・青少年の精神・身体の発達を害することは明らかであることから,自分(「ペ」大統領)はマリファナ合法化に反対の立場である。端的に言えば,マリファナは若者の健康を害するものである。
(イ)マリファナ合法化により,この薬物の不法販売等を担う犯罪組織の撲滅が容易になるという考えには賛同できない。犯罪組織撲滅のために,児童・青少年の健康を危険にさらす必要があるのかという問いに対する自分(「ペ」大統領)の答えは「No」である。国家は,児童・青少年の健康を危険にさらすことなく,治安当局による犯罪組織撲滅に取り組まなければならない。
(ウ)マリファナ合法化を巡り,専門家によるパネルディスカッションが実施されることには賛成である。マリファナ使用禁止を継続するのか,医療など限定された使用目的を定めるのか,専門家の賛成・反対の意見を聞き,国家が公衆衛生及び児童・青少年の権利を保障するために如何なる政策を採るべきか,その指針を定めることを目的とした議論の場を広く開くことがパネルディスカッションの意図である。
(2)マリファナ合法化を巡る議論の高まり
(ア)11月4日,最高裁判所は,市民団体「犯罪に対するメキシコの団結(México Unido Contra la Delicuencia A.C)」のメンバー4名が行っていた保護請求訴訟(アンパロ違憲審査)に関し,同4名のマリファナ自家栽培と消費を認める判決を下した。右判決は同4名のみに適用されるものであり,当国では少量の携帯は刑法の例外であるものの,栽培・消費・販売は引き続き認められていない。但し,同判決を前例として,最近マリファナ合法化を巡る議論が高まりを見せている。連邦政府は,同判決はあくまで限定された個人を対象としており,国民全般に適用されるものではないことを強調しつつ,マリファナ合法化に関しては,広く国民的議論を検討していくべきとしている。
(イ)12月2日,オソリオ内相は記者会見を開き,2015年1月第3週より,マリファナ合法化の是非を分析するために,(1)電子プラットフォームによる国民への情報提供,(2)全国の異なる地域で計5回のパネルディスカッションの開催,(3)国際社会の情報聴取を順次実施する旨,また,パネルディスカッションにおいては,公衆衛生,予防,倫理,人権,経済,治安の側面から議論し,最終的にメキシコ市でそれぞれの議題を統合したパネルディスカッションを開催する旨発表した。
3.メキシコ連邦区の政治改革
(1)15日,連邦上院議会は,賛成74票,反対20票,棄権1票で,連邦区(Distrito Federal(D.F.))を32番目の州(Entidad Federativa)とし,メキシコ市と呼称する憲法改正案を可決した。同憲法改正案は,2015年4月28日に連邦上院で可決されたものが,同12月9日に連邦下院にて修正を加え可決,連邦上院に再送付されていたもの。なお,同憲法改正案は,憲法改正に必要となる各州議会における審議・採決のため,各州議会に送付された。同憲法改正案により,連邦区(D.F.)は連邦政府から独立した自治権を有する州と同格になる。
(2)憲法改正案の主な内容
(ア)連邦区(D.F.)を32番目の州にする。名前はメキシコ市(Ciudada de Mexico)と定められ,法的に首都として規定される。
(イ)首都として規定されるメキシコ市は,他州とは異なり,連邦政府より教育及び保健にかかる財源支援及び首都財源(Fondo de Capitalidad)を従来通り受け取る。
(ウ)メキシコ市憲法の制定
(a)他州同様に,独自のメキシコ市憲法が制定される。
(b)同市憲法制定のため憲法制定議会(Asamblea Constituyente)が設立される。右憲法制定議会は,選挙によって選出される60名,連邦上院,下院からそれぞれ14名,大統領任命の6名,メキシコ市長任命の6名から選出される計100名の議員によって構成される。
(c)同憲法制定議会議員選出のための選挙は,全国選挙管理機関(INE)の下で実施される。INEは憲法改正が発効後15日以内に憲法制定議会議員選挙の告示を行う。右選挙日は明年6月5日が予定されている。
(d)メキシコ市憲法は2017年1月31日までに制定され,同年2月5日までに公布されなければならない。
(エ)メキシコ市議会には,他州議会と同様に,憲法改正案に対する議決権,拒否権,連邦議会に対する法案の提出権等の権能が付与される。
(オ)現在の16区(Delegacion)は,他州の市に相当する管轄区域(demarcacion territorial)に,また区長(Jefe de delegacion)はより権限の強い区長(Alcalde)に格上げされる。各区域は,区長と10名の議員(Concejales)から構成される区議会によって運営され,区長及び区議会議員は2018年の選挙で選出される。2021年より,16の区は,20以上の区に再区分されることが可能となる。
(カ)憲法76条によって定められている連邦上院議会の専権事項であるメキシコ市長の罷免権及び暫定市長の任命権は廃止される。
(キ)現在,メキシコ市長の提案を受け,大統領が任命しているメキシコ市公共治安長官,同検察長官の任命権は,メキシコ市長に付与される
(3)連邦上院議会における審議・採決に同席したマンセラ・メキシコ市長は,今般の憲法改正案を歴史的成果であると述べ,審議の中で挙がった各種賛成,反対の意見はいずれも重要なものであり,今後のメキシコ市市政に活かしていく旨,また,本日はメキシコ市にとって歴史的な日であり,メキシコ市市民にとって大きな一歩が踏み出された日である旨述べた。
4.政府機構改革:文化省の創設
(1)16日,ペニャ・ニエト大統領は,文化省(Secretaria de Cultura)創設にかかる法律に署名,同法は公布された。国立宮殿で開かれた署名式には,ヌニョ教育相,トバル国家文化芸術審議会(CONACULTA)長官他,学術界,文化界から多数の著名人が出席した。文化省の創設は,9月2日の第3回大統領年次教書演説において発表された10の政策の1つである。9月7日,文化省創設にかかる法案が連邦議会に提出され,12月11日に連邦下院で可決,次いで12月15日に連邦上院で可決,成立していた。
(2)署名式におけるペニャ・ニエト大統領の発言概要
(ア)メキシコの文化界から長く切望された文化省の創設にかかる法案審議・採決に取り組んだ連邦議員の役割に敬意を表する。
(イ)文化省の創設は歴史的決断であり,憲法第4条に定められた国民の文化にアクセスする権利をより効果的に保障するものである。豊かな文化を有する国家は,日々,より良い未来を構築する強固な基盤を有する国家である。
(ウ)文化省の創設は予算負担の増大,官僚制度の増幅を意味するものではない。また,文化という重要なセクターに従事する者たちの権利に影響を与えるものでもない。文化省は,文化振興のための効率的かつ近代的な,透明性を有した包摂的組織にならなければならない。
(3)主なポイント
(ア)教育省傘下のCONACULTAに代わり文化省が創設される。CONACULTAの資材・人員は,そのまま文化省に引き継がれる。
(イ)国立人類学歴史研究所(INAH)及び国立美術文学院(INBA)は文化省の管轄下に置かれる。
(ウ)文化省は,映画芸術,ラジオ,テレビ,出版産業における教育的ガイドラインを制定し,振興する。国営ラジオ及びテレビ放送の運営は文化省の管轄下に置かれる。文化省は国家の文化遺産である考古学的,歴史的,芸術的モニュメントの保護,保管,修繕を実施する。また,国家文化プログラムを策定する。
(4)トバル文化大臣の任命
21日,ペニャ・ニエト大統領はトバル前国家文化芸術審議会(CONACULTA)長官を文化大臣に任命した。同日,トバル新大臣による宣誓式が行われた。
〈外交〉
1.山田大使のシナロア州訪問
6日~9日,山田大使は,シナロア州出身のセルヒオ・レイCOMCE(メキシコ貿易協議会)アジア太平洋委員会委員長とともに,シナロア州のロスモチス,マサトラン,クリアカンの3都市を訪問した。山田大使はこれら3都市で,政府関係者,企業家,日系コミュニティ等との幅広い意見交換を行った。
詳細は関しては以下,在メキシコ日本国大使館ホームページ参照。
https://www.mx.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/00_000283.html
2.ルイス=マシュー外相の亜大統領就任式典出席
(1)10日,ルイス=マシュー外相はペニャ・ニエト大統領の代理として,マクリ新アルゼンチン大統領の就任式典に出席,ペニャ・ニエト大統領からの祝辞を伝えると共に,メキシコが同国との二国間関係を重視していることを強調した。
(2)ルイス=マシュー外相はブエノスアイレス滞在中,マルコラ外務・宗務大臣と面談,同大臣の任命に祝辞を述べた。
3.ルイス=マシュー外相の訪米
14日~16日,ルイス=マシュー外相がワシントンを実務訪問し,バイデン米副大統領,ケリー国務長官,アルマグロOAS事務総長等と会談した。
(1)移民問題に関するフォーラム
14日,ルイス=マシュー外相は,Migration Policy Institute主催,Woodrow Wilson Center共催の移民問題に関するフォーラムにおいて,概要以下の通りスピーチを行った。
(ア)世界における昨今の移民の増大に対し,外国人嫌いの者や排他主義的な者たちは,移民を安全保障に対する脅威とカテゴライズするが,そうした考えは許容できない。我々は,移民を一つの好機として理解しなければならない。
(イ)メキシコ政府の新しい移民政策の三つの基本方針は,国際協力,一貫性,イノベーションである。また,メキシコ政府は,最大限の人権尊重を強調しつつ,グッド・プラクティスを積み重ねてきた。そして,メキシコにおいて移民が享受することが出来るものと同等の対応を,メキシコ人が海外でも受けられるよう求めている。
(ウ)メキシコ国外に在住するメキシコ人がそれぞれ生活の質を向上させ,移住先となる各社会にメキシコ人が与えるポジティブな影響に見合う評価を得られるよう,メキシコ政府は在外メキシコ人に最良のサービスを提供する義務を負っている。
(2)バイデン米副大統領との会談
(ア)14日,ルイス=マシュー外相は,「米州10万人の力(La Fuerza de los 100,000 en las Americas)」イニシアティブのイベントの中で,バイデン米副大統領と会談した。右はオバマ米大統領のイニシアティブで始まった米国とラテンアメリカ諸国の学生交流プログラムであり,2020年までに10万人の米国人学生をラテンアメリカ諸国に留学させ,代わりに10万人のラテンアメリカの学生を米国に留学させることを目標としている。
(イ)ルイス=マシュー外相はバイデン米副大統領に対し,「米州10万人の力」イニシアティブは,墨米二国間の学生交流を促進し,高等教育・研究・イノベーションに関する二国間フォーラム(FOBESII)で定められた目標達成に寄与しており,過去2年間で米国で学ぶメキシコ人学生の数は2倍となった旨述べた。また,2018年までに10万人のメキシコ人を米国に留学させ,5万人の米国人学生をメキシコに留学させることを目標とした「Proyecta 100,000」プログラムにも言及した。
(ウ)最後に,ルイス=マシュー外相は来年2月に開催されるハイレベル経済対話(DEAN)に出席するために,バイデン米副大統領を訪墨招待した。
(3)ケリー米国務長官との会談
(ア)16日,ルイス=マシュー外相は,ペニャ・ニエト墨大統領,オバマ米大統領の両政権下,共同で行われてきた米墨二国間の新しいアジェンダの制度化について協議するためケリー米国務長官と会談を行った。
(イ)ルイス=マシュー外相とケリー米国務長官は,二国間の新しいアジェンダのメカニズムの成果,とりわけ,ハイレベル経済対話(DEAN),高等教育・研究・イノベーションに関する二国間フォーラム(FOBESII)の成果を強調した。さらに,イノベーション,起業の促進,また北米地域の競争力強化のための人材開発に向けた取り組みを継続する必要性につき一致した。この点に関し,北米首脳会合で到達した取り決め,及び地域アジェンダのフォローアップを実施する目的で,2016年初頭に米,墨,加の三国間外相会合を開催する重要性を強調した。
(ウ)また,両者は米墨両国にとっての優先事項であり価値観を共有する,国連気候変動枠組条約第21回締約国会合(COP21),TPP交渉,国連麻薬特別総会等の主要な多国間アジェンダに関し意見交換を行った。
(エ)最後に,ルイス=マシュー外相は,治安,移民という重要なテーマに関して,両国共同で取り組みを継続していく重要性を強調した。
(4)アルマグロOAS事務総長との会談
15日,ルイス=マシュー外相は,アルマグロOAS事務総長と会談した。また,ルイス=マシュー外相はラバサ(Emilio Rabasa)OAS墨代表部大使と共に,常設理事会に出席,メキシコ基金(Fondo Mexico)設立に関する墨外務省とOASのMOUに署名した。
(5)この他,ルイス=マシュー外相はワシントン滞在中に,ライス米大統領補佐官(安全保障担当)と会談,米墨間国境の安全保障,国境間協力,移民の問題に関し意見交換を行った。また,モレノ米州開発銀行総裁と会談した他,複数の大学,研究機関のメキシコ及びラテンアメリカの専門家と会談,意見交換を行った。さらに,在米メキシコ大使館領事部を訪問し,12月1日よりはじまった新パスポート発給の手続きを視察した。