政務班
2005年02月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

  内政では、上院通過が期待されていた議員の連続再選に繋がる憲法改正案が否決される一方、在外投票に関する選挙法改正案が、下院で可決された。

  また、大統領府高官と麻薬組織の内通疑惑は、先月に引き続き麻薬絡みの殺人事件が起きている状況と合わせ、早急に治安改善対策を講じる必要性を再認識させた。

  当月は、本年最初の地方選挙が実施され、ほぼ全ての州で現職知事の出身党候補が当選したものの、PRIの大票田の1つゲレロ州で、PRDの候補が勝利する波乱もあった。一方、コリマ州知事が飛行機事故死するという事件が起きたため、本年中に同州の臨時知事選挙が行われる可能性も出てきた。

  外交では、米国で移民政策の硬直化を伺わせる法案が可決され、メキシコ政府からの反発が強まる一方、フォックス大統領はスペインやイタリアなどを歴訪し、二国間関係強化を確認した。

 

<クロノロジー>

1日   ゴンサレスPVEM(緑の党)党首、連邦選挙機関(IFE)が新党規を承認するか、IFEの評議員を解任するための政治裁判が下院で開始されるまで、IFE総会の場には戻らないと宣言。3日、上院、IFEと連邦選挙裁判所(TEPJF)に対し、PVEMの党規問題解決を促す勧告発出を全会一致で可決。16日、TEPJF、PVEM党規の速やかな改正を命じる。17日、PVEM、判決を不服としながらも、それに応じる旨発表。(内政)

2日   フォックス大統領、正式に国家安全保障委員会(Consejo de Seguridad Publica)を設置。(内政)

4日   ロペス・オブラドール・メキシコ市長、彼の免責特権剥奪は、フォックス大統領夫妻や、クリール内相、マドラソPRI(制度的革命党)党首らの間で既に合意済みと、名指しで非難。大統領側は、あくまでも法を遵守するのみと反論。(20〜21日、28日にも同様の議論。)(内政)

4日   ウエルタ治安相、捜査組織の統合や警察官の専門化を含めた治安対策指針を発表。(内政)

5日   連邦検察庁(PGR)、3日、大統領の行動を麻薬組織に内通していた疑いで、アコスタ大統領府国内外訪問日程調整部門部長を拘束したと発表。7日、マセドPGR長官、家宅捜索の結果、多数の証拠書類を押収と発表。フォックス大統領、事態の重大性を認める(後に「誇張されすぎ」と否定)。(内政)

5日   アカプルコ市で、警官3名と市民1名が死亡する襲撃事件発生。(内政)

6日   キンターナ・ロー(QR)、ゲレロ、南バハカリフォルニア(BCS)各州で、州知事選挙実施。QR州ではPRI、ゲレロとBCS州ではPRD(民主革命党)の候補が勝利。(内政)

7日   メキシコ州選挙機関、選挙資金違反があったとして、メンドーサPAN(国民行動党)候補の同州知事選出馬を認めないと発表。11日、選挙資金減額及び罰金徴収で、同候補の登録を承認。(内政)

8日   エブラール前メキシコ市治安長官、同市社会開発長官に任命される。(内政)

8日   フォックス大統領、スペイン、イタリア、モロッコ及びアルジェリアを歴訪(〜13日)。(外交)

8日   ホンジュラス、米州機構(OAS)事務総長選挙でのデルベス外相支持を表明。(外交)

10日  上院、議員連続再選のための憲法改正案を否決。(内政)

10日  米連邦下院、運転免許証の取得要件厳格化等を規定する「2005年真正ID法案(通称「法案418」)」を可決。メキシコ外務省、本件が移民コミュニティへの敵意に満ちた議論に陥ることを懸念する旨発表。(外交)

11日  IFE総会、全会一致で、新しい選挙区割りを承認。(内政)

11日  ロペス・オブラドール・メキシコ市長、「特権剥奪反対運動計画」を発表し、市民及びメキシコ市職員を動員。連邦議会や野党メキシコ市議会議員らから、公金流用との批判続出。(内政)

13日  フォックス大統領、米国政府のメキシコ−米国の国境沿いの防壁建設政策を批判。(外交)

14日  フォックス大統領、治安対策として50億ペソの追加予算を適用すると発表。(内政)

15日  デルベス外相、訪米。ライス米国務長官と会談。(外交)

15日  フォックス大統領、「2006年の選挙戦は事実上開始されている」と発言。(内政)

16日  米国CIA長官、「2006年、メキシコは大統領選挙に絡み、混乱するだろう」との調査報告を発表。17日、クリール内相とマセドPGR長官、報告は誇張されていると反発。18日、米国政府、メキシコ側が報告を誤解していると弁明。(外交)

17日  連邦最高裁、2005年歳出予算のうち65億ペソの凍結を決定。判決が出るまでは、行政府もこの分を使えないとして牽制。(内政)

17日  連邦司法警察(AFI)と米国麻薬捜査局(DEA)、シウダー・フアレスにおいて10トンのマリファナを押収。(内政)

17日  シナロア州において、軍が参加しての大規模な麻薬取締り作戦実施。(内政)

18日  連邦最高裁、下院による「宝くじ・カジノ法」は無効との訴えを棄却。(内政)

18日  下院予審委員会、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の免責特権剥奪に関する議論を終了。19日、分析と議案作成に取りかかるが、議案提出日時には明言せず。(内政)

18日  フォックス大統領、検察官らからの提案を取り入れ、新しい警察の創設を発表。5億ペソを新たな警官1500人の給与と訓練に充てると述べるが、具体的な施策には言及せず。(内政)

18日  マセドPGR長官、「マラス」対策として、メンバーの情報などを集積したデータベース構築を発表。(内政)

20日  フォックス大統領、「麻薬問題は前の政権(PRI)が軽視したため」と発言。PRI議員からは、責任転嫁との批判が続出。(内政)

20日  イダルゴ州知事選挙実施。現職知事の出身党PRIの候補が圧勝。(内政)

21日  マルティネス前トラワック区長、アウマーダ氏からの収賄容疑で逮捕される。(内政)

22日  アランダ外務次官、訪日(〜24日)。第4回日・メキシコ政策協議出席や「愛・地球博」会場視察などを行う。(外交)

22日  下院、在外投票に関する選挙法改正案を可決。(内政)

22日  マドラソPRI党首と「反マドラソ」グループ、大統領候補選出の党内予備選を7月に行うことで合意。しかし、翌日には「反マドラソ」派が、日程前倒しの可能性に言及。(内政)

22日  ベルシェ・グアテマラ大統領、メキシコを公式訪問(〜23日)。(外交)

23日  連邦最高裁、1971年「大量虐殺」事件に関し、時効成立との判決。(内政)

24日  バスケス・コリマ州知事他6名、飛行機事故死。(内政)

28日  ユニセフ、メキシコはOECD諸国の中で、貧困状況にある児童の割合が最も多い(27.7%)」との調査結果を発表。(内政)

28日  金元基(キム・ウォンギ)韓国国会議長、フォックス大統領と会談。(外交)

28日  デルベス外相、メキシコ・米国国境において、反移民民間団体による不法移民攻撃・捕獲行為に対し、法的対抗手段をとると発言。(外交)

28日  米国国務省、人権に関する年次報告で、メキシコの治安問題、汚職や無処罰の問題に関する懸念を表明。メキシコ外務省や人権委員会は、「公平性」に疑問が残るとして、報告を批判。(外交)

 

<内政>

1.選挙改革の行方

(1)議員の連続再選のための憲法改正案否決(上院)

(イ)10日、上院本会議は、国会議員の連続再選を可能とするための憲法改正案を、賛成50票(うちPAN40票、PRD4票、PRI1票)、反対51票(うちPRIが48票)、棄権1票で否決した。本改正案は、憲法第59条及び第116条を改正し、下院議員は3期9年、上院議員は2期12年までの連続再選を可能とする内容であった。

(ロ)改正に反対したPRIの議員らは、地元の利権に結びついた腐敗を助長する可能性や、大統領の再選にまで道を開く可能性などを反対の理由として挙げたが、従来より連続再選に賛成していた多くの有識者は、大きな失望感を露わにし、長期的視座に欠ける決定だと非難している。

(2)在外投票に関する選挙法改正案可決(下院)

(イ)22日、下院本会議は、大統領選挙に限り在外投票を認める選挙法改正案を、賛成391票、反対5票、棄権22票で可決した。本法案では、既にメキシコ国内で選挙人登録済みの在外居住者が、最寄りの選挙人証発行所で登録、更新を行うことにより、投票を可能とした。また、実施面では、連邦選挙機関(IFE)が、各国に臨時出張所を設け、選挙人証発行や登録、投票所の設置などを行うと定めた他、在外投票実施に必要な各国の担当機関との交渉も執り行うとされた。また、本法案が今会期内に上院でも可決されれば、2006年選挙における実施に向けて、本年7月には在外投票環境整備に着手出来るとされた。

在外投票が実施されれば、米国に約400万人ともいわれる潜在的有権者の投票動向が、選挙結果を大きく左右する可能性もある。

(ロ)しかし、選挙実施機関の詳細や資金調達など、様々な技術的問題は未解決のままであり、上院で法案に何らかの修正が加えられ、再び下院に差し戻される可能性もある。他方、IFEも、在外環境整備のための予算不足を指摘しており、問題が残っている。

 

2.大統領府高官と麻薬組織との癒着疑惑

(1)連邦検察庁は、5日付プレスコミュニケで、3日、大統領の行動を麻薬組織に内通していたとして、ナウム・アコスタ大統領府国内外訪問日程調整部門部長を拘束したと発表した。更に、7日、マセドPGR長官は、家宅捜索の結果、麻薬組織との繋がりを裏付ける多数の書類を発見したと述べた。また、同日、連邦裁判所は、同部長の禁則を命じ、PGRの保護施設に抑留された。

(2)同部長は、大統領府高官としての立場にあって、2001年から大統領府内の全ての場所に出入りしていた他、PGR内の組織犯罪調査専門次官室(SIEDO)等にも頻繁に訪れており、大統領の日程だけでなく、麻薬組織対策に関する精度の高い情報が事前に漏れていた可能性も指摘された。しかし、大統領府とPGRは、同部長は重要な情報にはアクセス出来ないはずとして、この可能性を否定している。

(3)7日、フォックス大統領は、麻薬組織関係者が大統領府にまで入り込んでいたことの重大性を認め、治安関係機関だけでなく、行政機関における警備強化が必要との見解を示した。一方、大統領府の要職にある者の逮捕は、現政権が正面から組織犯罪撲滅に動いている証左だとも強調した。

 しかしながら、10日、フォックス大統領は、外遊先のスペインで、「麻薬組織の影響が大統領府にまで及んでいるとの報道は誇張されすぎ」と発言し、報道加熱を牽制した。

 

3.コリマ州知事の飛行機事故死

(1)24日、バスケス・コリマ州知事を乗せた同州政府所有の飛行機が、メキシコ州トルーカの空港を離陸し、コリマ州に向かう途中、機長より、機体に問題があるため緊急着陸を要請する連絡が入った。その直後、機体はレーダーから消え、消息不明となり、ミチョアカン州の山中に墜落しているのが発見された。同機には、バスケス知事他、コリマ州の財務長官、観光長官、観光振興局長らも同乗していたが、機長を含め7名全員の死亡が確認された。

(2)バスケス知事は、2004年1月に就任したばかりで、1年2ヶ月しか任期を務めていないため、コリマ州法の規定により、州議会による州知事代理の任命、及び臨時州知事選挙の日程決定が行われる予定である。知事の葬儀終了後、直ちに臨時会期が招集されており、早ければ3月1日にも州知事代理が任命される見込みとなっている。(当館注:3月1日、州議会は、アルノルド・オチョア同州内務長官を州知事代理に任命した。)

 

4.州知事選挙結果

(1)6日、ゲレロ、南バハカリフォルニア(BCS)及びキンターナ・ロー(QR)州の各州知事選挙が実施され、BCSとQRでは、現州知事と同政党の候補(BCSはPRD、ORはPRI)が順当に勝利したが、ゲレロ州では、接戦になるとの予想に反し、PRDの候補が圧勝して、PRIは大票田の1つを史上初めて失う結果となった。

同日に行われたBCSとQR各州議会選挙では、BCSではPRDが議席を伸ばし過半数を獲得する一方、QRでは、現在第1党であるPRIが勝利したものの苦戦し、過半数を占められず、明暗を分けた。

(2)20日、イダルゴ州知事選挙及び同州議会選挙が実施され、両選挙とも現州知事の出身党であるPRIの圧勝となった。

しかし、その後、当選したオソリオ候補の学歴詐称疑惑が報じられ、更に本人も大学未修了であることを認めたため、今後混乱する可能性も出ている。

5.1971年「大量虐殺」事件に関する時効判決

(1)23日、連邦最高裁は、1971年6月10日にメキシコ市で起きた学生運動に対する政府による「大量虐殺」に関し、連邦検察庁(PGR)「過去の社会的・政治的運動に関する特別検察局」の上告を退け、大量虐殺は時効を有さないとする「人類に対する犯罪」を裁く国際条約(メキシコでは2002年6月に発効)は、同条約の国内での発行以前の事例には遡及して適用されない旨の判決を下した。この判決により、当国刑法が「大量虐殺」関して規定している30年の時効が、本件については既に成立しており、エチェベリア元大統領他10名の本件関係者を訴追出来ないことが示された。

(2)一方、「特別検察局」は、同検察局が上告した他の要素に関しては、今後審議が行われることから、まだ本件に関する最終的な結論が出たことにはならない旨コメントしている。

 

<外交>

1.移民関連法案の米下院通過

(1)10日、米連邦下院は、「2005年真正ID法案(Real ID Act of 2005、通称「法案418」)を可決した。同法案は、運転免許証の取得要件厳格化(パスポートや合法的な米国滞在を証明する書類等の提示を義務化)、国境沿いに防壁の建設を許可する国土安全保障省の権限の拡大、亡命・保護の申請手続き厳格化を含んでいる。

(2)メキシコ外務省は、本法案に関する議論が、米国の移民コミュニティに対する反感に結びつく懸念を表明し、更に、本件は移民問題解決に関する包括的アプローチには値せず、建設的ではないと批判した。

 また、フォックス大統領も、13日、同法案に反対する立場を表明した。

 他方、15日に米国を訪問したデルベス外相は、メキシコ−米国国境監視を行う民間団体「Minute Man Project」などの活動に対する懸念を述べたものの、本法案に関するホワイト・ハウスの立場は移民排斥的な動きとは認識しておらず、米国の安全保障に関する問題だとの見解を示した。

2.フォックス大統領のスペイン他3カ国訪問

フォックス大統領は、8〜13日、スペイン、イタリア、モロッコ、アルジェリアの4カ国を歴訪した。9日、フォックス大統領は、スペイン財界人と会談し、メキシコ経済の安定性を強調して、スペインからの積極的な投資を呼びかけた。また、ホアン・カルロス国王と共に、国際現代美術展開会式に出席した。10日、サパテロ首相と首脳会談を行い、その後の共同記者会見では、メキシコ・スペイン両国間の戦略的同盟関係を強化し、経済、政治、文化の各分野における協力を推進することで合意した旨述べた。更に、フォックス大統領は、国際現代美術展会場付近で、開会式当日ETAによる自動車爆弾テロが発生したことを踏まえ、テロ対策にスペインと協力していく旨述べた。

 また、イタリア、モロッコ、アルジェリアの各国においても、二国間のさらなる関係強化を確認した。

 

3.グアテマラ大統領のメキシコ訪問

(1)22〜23日、オスカル・ベルシェ・グアテマラ大統領が、メキシコを公式訪問した。フォックス大統領との首脳会談の他、両国国境地域の貿易・観光推進のため、「エル・セイボ−ラグニータス間の道路建設に関する覚書」に署名した。また、国境における人と物の移動や観光を促進するためのメカニズム構築の必要性を確認した。

(2)一方、国境地域の安全保障に関し、両国関係機関の間で、「組織犯罪に対する司法協力に関する覚書」が交わされた。また、移民問題にも引き続き協力して取り組んでいくことが確認された。

(3)他方、米州機構(OAS)事務総長選挙に関して、フォックス大統領は、ベルシェ大統領にデルベス外相への支持を働きかけたものの、「ベ」大統領は、フローレス元エルサルバドル大統領支持の立場を崩さなかった。

 
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