政務班
2005年03月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

 内政では、PRI、PAN、PRDの主要3党が、それぞれ党大会を行い、PRIでは、エネルギー改革や財政改革に繋がる党綱領の改正が決定された他、PANとPRDは、それぞれ新党首と新党執行部を選出した。
  外交では、北米3カ国首脳会合が米国テキサス州で実施され、また、ライス国務長官がメキシコを訪問したが、話題はほとんど安全・治安問題に終始し、移民問題に関する成果はほとんど上がらなかった。中旬以降は、4月から米国アリゾナ州で不法移民の監視活動を開始するとした民間団体に対し、メキシコ国内から反発が強まった。

 

<クロノロジー>

1日  コリマ州議会、州知事代理としてアルノルド・オチョア同州内務長官を任命。(内政)

1日  「レフォルマ」紙、大統領の支持率を昨年12月調査時より5%増の59%とする世論調査結果を発表。(内政)

1日  マルコス・サパティスタ民族解放戦線(EZLN)副司令官、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の免責特権剥奪に反対する声明を発表。(内政)

2日  第19回PRI全国党大会開会。4日、エネルギー改革や財政改革推進を可能とする政策綱領への改定を決定し、閉会。5日、クリール内相、PRIの右決定を歓迎する声明を出す。6日、マドラソPRI党首、PANの改革案は推進しないと牽制。(内政)

2日  ガルサ駐メキシコ大使、「国境での安全確保とメキシコ国内での経済的機会創設が達成されて初めて、移民改革の可能性が生ずる」と発言。メキシコ国内から反発。(外交)

2日  デルベス外相、米州機構(OAS)事務総長選への支持要請のために、セントルシア、グラナダ、アンティーグア・バーブーダの3カ国を歴訪。(外交)

3日  「レフォルマ」紙、70%の国民が、「ロペス・オブラドール・メキシコ市長とフォックス大統領の対立は、国を危険な状況に陥れている」と見なしているとの世論調査結果発表。(内政)

4日  米国務省、メキシコの麻薬組織に関し、「麻薬組織が政府を買収する危険性がある」との見解を発表。メキシコ政府は反発。(外交)

5日  PANの党首選で、マヌエル・エスピノ前PAN事務局長が当選。新党執行部も発表される。14日、新体制に反発し、クルティエール下院議員離党。他にも党内から新党首への反発が出たものの、収束へ。(内政)

6日  在米移民団体、「Minuteman Project」をはじめとする反移民団体に対する監視を強化するよう、メキシコ政府へ要請。8日、デルベス外相、右記反移民団体に対し、法的手段をとると表明。(外交)

8日  ドゥアルテ・パラグアイ大統領、メキシコを公式訪問。(外交)

8日  米FBI、メキシコの治安問題、麻薬組織の現状、及び「アル・カーイダがメキシコから米国に密入国している」との調査報告を発表。フォックス大統領、「メキシコは圧力も脅迫も必要ない」と非難。17日、米CIAもメキシコ−米国国境警備の状況を危惧する発言。クリール内相をはじめ、国内から反発。(外交)

8日  ウサビアガ農牧相、訪日(〜9日)。島村農水相と会談。「Foodex Japan 2005」開会式に出席。(外交)

10日 PAN、新下院同党会派長にホセ・ゴンサレス・モルフィン議員を任命。(内政)

10日 メキシコ市議会、市長辞任の際の臨時市長任命に関し、絶対過半数(34人以上)の承認でよいとする市議会法改正案を可決。改正により、PRD議員だけ(全37人)で、任命が可能に。(内政)

10日 下院予審委員会、証拠不十分を理由に、エストラーダ・モレロス州知事に関する免責特権剥奪審議を中断。証拠文書が揃い次第、審議再開予定。(内政)

10日 ライス米国務長官、メキシコを公式訪問。フォックス大統領、デルベス外相と会談。(外交)

11日 エスピノPAN党首、マルタ・フォックス大統領夫人の2006年メキシコ市長選への出馬の可能性を示唆。(内政)

11日 米アリゾナ州知事と当該諸機関、「法令200」に関する情報交換のため訪米したメキシコ上院議員団の受け入れを拒否。メキシコ側はこれを非難。(外交)

12日 ベアトリス・パレデス・コロシオ基金総裁(PRI)、メキシコ市長選への出馬を表明。党内有力者らはこれを支持。(内政)

14日 ウガルデIFE(連邦選挙機関)を評議員長、下院で可決された在外投票法案では、実施は困難との見解を表明。15日にデルベス外相、30日には連邦選挙裁判所裁判長も同様のコメント。(内政)

17日 下院予審委員会、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の免責特権剥奪に関する採決を、30日に行うと発表。29日、審議時間不足を理由に、採決を4月1日に延期。(内政)

17日 メキシコ市議会、休職した市長や市議会議員は、直ちに免責特権を失うとする市議会法改正案を全会一致で可決。22日、PRDの市議会議員、右改正案を無効とする議案を可決。他党議員らは、無責任と反発。30日、下院、改正案の廃棄を承認。(内政)

17日 上院、死刑を廃止する憲法第14、22条改正案を可決。(内政)

20日 PRDの党首選で、レオネル・コタ・モンターニョ南バハカリフォルニア州知事が当選(就任は4月22日)。各地で選挙妨害が多発したため、対立候補は選挙の正当性を疑問視。(内政)

22日 「エル・ウニベルサル」紙、米国「Pew Research Center」の報告として、米国には600万人のメキシコ人不法移民が居住しており、毎年8%ずつ増加と発表。(外交)

23日 米テキサス州ワコにおいて、北米3カ国首脳会談。「北米安全・繁栄パートナーシップ」に署名。(外交)

27日 「レフォルマ」紙、たとえ免責特権が剥奪されなくても、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の休職、あるいは辞職を待って告発するとの連邦検察庁(PGR)の見解を掲載。(内政)

28日 メキシコ外務省、7月に開催されるG−8に招待国として参加すると発表。(外交)

29日 エスピノPAN党首、「アコスタ大統領府国内外訪問日程調整部門部長に対する麻薬組織との癒着嫌疑は、PGRによるPANを陥れる陰謀」との非難声明を発出。30日、マセドPGR長官、この内容を否定。(内政)

29日 メキシコ外務省、「Minuteman Project」に対する抗議文発出。30日、内務省も国境付近の警備強化を表明。(外交)

29日 ゴンサレス米司法長官、メキシコを訪問(〜30日)。フォックス大統領、デルベス外相及びマセドPGR長官と会談。(外交)

30日 上院、公的資金を得ている信託基金に対し、収支内容開示を義務付ける情報公開法第7、14条改正案を可決。(内政)

 

<内政>

1.PRI(制度的革命党)全国党大会と党綱領改正

(1)3月2〜4日、1万人以上が参加してPRIの第19回全国党大会が開催された。初日には、マドラソ党首に反発し、「反マドラソ・グループ(Tucom)」が議論の途中で席を立ち、混乱が予想される場面もあったが、表面的には平穏に閉会した。

(2)本大会では、(イ)エネルギー分野(石油、天然ガス、電気)の民営化に反対する党綱領の改定、(ロ)IVA(付加価値税)の食品及び医薬品への適用に反対する党綱領の改定、(ハ)党綱領見直しのための特別委員会「適合性、合法性及び合憲性委員会」の設置、(ニ)選挙で選ばれた職にある者が、党の役職を兼任出来るようにする、(ホ)党内予備選の大枠、などが決定されたが、大半はこれから議論が重ねられ、詳細が決定される。

(3)このPRIの決定に関し、クリール内相は、構造改革に繋がるものとして歓迎の意を示したが、これに対し、マドラソ党首は、PANと交渉するつもりはなく、PRIは独自のエネルギー改革を目指すと述べ、与党を牽制した。

 

2.PAN(国民行動党)新党首選出

(1)5日、党内で最も保守的なグループに属するマヌエル・エスピノ・バリエントス(Manuel Espino Barrientos)前PAN事務局長が、決選投票の末、メディーナ・プラセンシア上院議員を破り、当選した。エスピノ氏は、同日直ちに党首に就任し、任期は2005−2008年の3年間となる。

(2)同日、PAN新執行部(CEN)のメンバーも発表され、大幅な刷新により、若返りが印象づけられる一方、エリソンド観光相、カルデナス環境相、カナレス経済相をはじめ、フェルナンデス・デ・セバージョス上院議員やバリオ前下院PAN会派長など、党の大物がメンバーから外された点が非常に特徴的な人事であった。また、10日、エスピノ党首は、バリオ下院会派長の休職に伴い空席となっていた会派長職に、党首選前には就任がほぼ確実視されていたヘルマン・マルティネス副会派長ではなく、ホセ・ゴンサレス・モルフィン(Jose Gonzalez Morfin)下院議員を任命した。

(3)新執行部選出に絡み、14日、タティアナ・クルティエール議員(PANの精神的支柱の1人である故マヌエル・クルティエール氏の娘)が、党の右傾化を理由に離党した。また、アルバレス元党首が、今回党首選で不正があったと匂わせる発言を行い、党の方針転換への懸念を表明した他、他の党内大物からも不満が噴出し、党内対立が目立った。しかし、その後、カルデロン前エネルギー相や、バリオ前下院会派長らが、新党首に協力していく旨発表し、事態は一応収束に向かった。

 

3.PRD(民主革命党)新党首選出

(1)20日、PRDの党首選が行われ、レオネル・コタ・モンターニョ(Leonel Cota Montano)前南バハカリフォルニア州知事が、カミロ・バレンスエラ候補に圧勝した。レオネル・コタ氏は、4月22日に党首に就任し、任期は2005−2008年の3年間となる。 一方、同日行われたメキシコ市支部長選挙は、バトレス前メキシコ市内務副長官が当選した。

(2)今回の選挙は、全国のPRD党員約50万人が投票したが、オアハカ、タマウリパス及びタバスコ州では、投票箱が投票用紙ごと盗まれたり、焼却されたりしたため投票が中止されたところが出た他、その他の州でも同様の選挙妨害が報告された。また、カルデナス元党首の名前が投票人名簿に記載されておらず、投票出来なかったなどの手続きの不備も見られた。バレンスエラ候補は、選挙結果を甘受すると述べたものの、様々な選挙違反が散見されたことから、選挙の正当性に疑問を呈した。

 

<外交>

1.北米3カ国首脳会合

(1)23日、米国テキサス州ワコで、メキシコ、米、加の北米3カ国首脳会合が開催された。会合国境の安全保障、組織犯罪対策、テロリズム対策が主に話し合われ、その後の共同声明では、「北米安全・繁栄パートナーシップ(Alianza para la Seguridad y la Prosperidad de America del Norte)」設置が表明され、安全で、競争力があり、経済成長を達成できる北米地域の建設に取り組むことを約束した。

(2)本パートナーシップでは、(イ)北米を、外からの脅威から守り、安全を保障するため、国境における警備の協力、(ロ)競争力を強化し、生活の質向上のため、エネルギー、交通、技術など、国民に還元される分野における協力関係増進などが謳われ、実現のために、各国閣僚級によるワーキング・グループの設置が表明された。最初の報告は90日以内に出され、その後半年毎に、ワーキング・グループの報告が提出される。

(3)共同記者会見の中で、ブッシュ米大統領は、移民問題に関し、引き続き移民協定の締結に取り組んでいく旨表明したものの、その進展如何は、米国議会の手中にあると述べた。また、メキシコで、左派が次期大統領になる可能性について問われ、「それが誰であろうと、メキシコ国民により民主的に選出された大統領と仕事をするつもりである」と言明した。

(4)本会合では、移民問題などメキシコ米2カ国間の懸案事項については特に進展がなかったが、多くのメディアは、これを当然の結果と受けとめたのか、成果について厳しく批判する姿勢はあまり見られなかった。

 

2.ライス米国務長官のメキシコ公式訪問

(1)10日、ライス米国務長官は、6時間と短時間ながら、メキシコを公式訪問した。同長官は、フォックス大統領を表敬し、3月23日の北米3カ国首脳会談について意見交換した。フォックス大統領は、米国の移民制度改革を要請するとともに、アリゾナ州の「法令200」や、米メキシコ国境における「Minuteman Project」などの民間の反移民団体による監視行動に対する懸念を表明した。これに対し、ライス長官は、米国の法律を犯す如何なる行為も許さないという立場を示した。他方、フォックス大統領は、人権問題、麻薬問題などに対するメキシコの成果を強調し、組織犯罪対策のため、両国政府が協力を強化する必要性を説いた。

(2)デルベス外相との会談では、両国政府が、「1944年の水条約」に従い、国境の水問題の包括的な解決に合意し、メキシコは水資源に関する負債を返済することになった。他方、移民問題に関しては、「センシティブな問題であり、十分な検討の上で進展を図る」と述べるに留まった。

(3)メキシコに関し、ライス長官は、「麻薬問題に取り組む良きパートナー」、「選挙に米国の介入を必要としない民主国家」と評価する一方で、米メキシコ国境を利用したテロリスト侵入の可能性を肯定し、防止の必要性を強調した。

 

3.メキシコ米国国境の治安と移民を巡る問題

(1)2日、ガルサ駐メキシコ米大使は、「メキシコと米国は、21世紀の必要性に応じた国境を構築する必要があり、それは米国に安全を提供するとともに、人とモノの合法的な移動を容易にするものでなければならない。」旨述べ、移民改革が現実化するのは、国境の安全が確保されるようになってからであると主張した。また、経済改革の必要性についても触れ、移民送金に依存する状況は、現実的な経済政策ではなく、メキシコ国内での雇用創出が、移民問題解決に先立たなければならないと言明した。 この発言に対し、グティエレス外務省北米担当次官は、合法的な移民メカニズムの構築は、メキシコ・米国両国が分かち合うべき責任であり、それでこそ初めて安全な国境が保障されるとして、ガルサ米大使の発言を批判した。

(2)一方、2月から様々な懸念が表明されている米国の武装反移民団体「Minuteman Project」に対し、同団体がアリゾナ州の国境監視を開始する4月1日を前に、メキシコ外務省は、29日、活動に抗議するプレス・リリースを発出した。その中で、国境警備や移民関連法規の遵守を確保するために必要な措置は、国家当局により排他的に行われなければならず、メキシコ政府は、民間のグループがメキシコ人移民を拘束することは許容できないと非難した。また、アリゾナ州のメキシコ領事館に対し、事態の進展を注視し、メキシコ国民への支援を行うよう指示し、何らかの人権侵害があった場合には、法的手段をとることも辞さない旨断言した。 他方、30日、フォックス大統領も、メキシコを訪問中のゴンサレス米司法長官に対し、米国政府は、移民の人権保護のため、同団体に対して早急に何らかの行動を起こして欲しい、と要請した。

 

4.ドゥアルテ・パラグアイ大統領のメキシコ公式訪問

(1)8日、ドゥアルテ・パラグアイ大統領が、メキシコを公式訪問した。両国首脳は、メキシコとメルコスールとの自由貿易協定の締結に取り組む意志を表明し、4月上旬アスンシオンで開催される交渉のテーマ、範囲、実施方法について定義するための検討会合の重要性を強調した。

(2)また、両国は、メキシコ・パラグアイ犯罪人引き渡し条約、及び刑事分野における司法協力協定に署名した。一方、合意には至らなかったものの、農牧畜産品の貿易拡大のために、検疫分野における合意締結の必要性を確認しあった。

(3)ドゥアルテ大統領は、メキシコ政府が、今後もパラグアイの学生に対する奨学金制度を維持すると表明したことに対し、謝意を表明した。

 
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