政務班
2005年04月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

 内政では、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の刑事免責特権剥奪問題が、国民や政治家らの関心の中心となり、連日メディアを賑わせた。一時は、国内の政治・社会的混乱が懸念されたものの、フォックス大統領が「政治的解決を模索する」と表明するに至り、事態は収束に向かいつつある。
  外交では、日メキシコEPAが発効した。
  また、12月以降、デルベス外相が精力的に支持を要請してきた米州機構(OAS)事務総長選挙が行われたが、結局決まらなかった。国内外から、デルベス外相は出馬を取り下げるべきとの意見が出る中、デルベス外相は5月2日の選挙への立候補登録を行ったが、最終的に出馬を取りやめた。
  一方、国連人権委員会での「キューバ人権決議」にメキシコが賛成したことを巡り、キューバからの批判が相次いだ。

 

<クロノロジー>

 1日  下院予審委員会、ロペス・オブラドール・メキシコ市長(AMLO)の刑事免責特権剥奪を下院本会議で審議すると決定。3日、外国企業数社、AMLOの免責特権剥奪問題解決まではメキシコへの投資は控えるべきとの報告を発出。7日、下院本会議でAMLOの免責特権剥奪決定。8日、メキシコ市議会、免責特権剥奪に関し、下院の手続き不備の違憲審査を最高裁へ申請。11日、下院は、本件に関するメキシコ市議会の越権行為の違憲審査を最高裁へ申請。14日、最高裁、双方の違憲審査を受理。20日、連邦検察庁(PGR)、AMLOの召喚を裁判所へ請求。同日、PAN(国民行動党)の市議会議員2人が保釈金を支払う。21日、AMLO、保釈金を無効にするよう裁判所へ申し入れ。22日、裁判所、手続き上の違法性を理由に召喚状の申請を却下。24日、メキシコ市でAMLO支援者による史上最大規模のデモ。25日、AMLO、「市長」として登庁。大統領府、PGRはこれを批判。26日、AMLO、大統領との会談を求める公式書簡発出。27日、フォックス大統領、対話を受け入れ、「法的枠組みの中で出来る限り政治的解決を模索する」との演説を放送。28日、AMLOとPRD(民主革命党)はこれを評価。マドラソPRI(制度的革命党)党首やPANの一部議員は大統領の決断を批判。29日、コタPRD党首、AMLO支援者による「市民抵抗運動」を全て中止すると宣言。(内政)

 1日  日メキシコEPA、発効。東京で第1回合同委員会会合開催。メキシコ側はカナレス経済相、日本側は町村外相、谷垣財相、中川経産相及び島村農水相が出席。(外交)

 1日  米国反移民民間団体「Minuteman Project」、予告通り米アリゾナ州で、メキシコ−米国国境地帯における不法移民監視活動開始。両国の国境警備隊が、同団体の武力行使に警戒を強めるも、大きな混乱なし。(外交)

 4日  PAN、ガルシア党事務局長の辞職に伴い、アレハンドロ・サパタ氏を新事務局長に任命。(内政)

 5日  上院、国連人権委員会での「キューバ人権決議」を棄権するよう、行政府に勧告する合意文書を承認。9日、外務省、棄権はしないと発表。14日、メキシコ政府、「キューバ決議」に賛成。カストロ・キューバ国家評議会議長から厳しい批判相次ぐ。(外交)

 5日  連邦政府、国民健康保険(Seguro Popular)のメキシコ市での適用開始。(内政)

 5日  アナン国連事務総長、セディージョ前大統領を国連改革担当特使に任命。(外交)

 6日  バスケス・モタ社会開発相、訪日(〜8日)。7日、IDB総会のセミナーに出席。(外交)

 7日  最高裁、「誰でも立候補出来るとの憲法規定があるのに、所属政党がないと大統領選に出馬できないのは違憲」とのカスタニェダ前外相の訴えを受理。(内政)

 7日  フォックス大統領、マルタ大統領夫人及びデルベス外相、ヨハネ・パウロ2世の葬儀出席のため、バチカンを訪問(〜9日)。(外交)

 8日  刑事裁判所、アコスタ前大統領府国内外訪問日程調整部長が、麻薬組織と内通していた証拠は不十分として釈放を命令。アコスタ前部長は、「拷問によって自白を強要された」として、12日に全国人権委員会へ、13日には検察庁へバスコンセロス検察庁副長官を提訴。(内政)

 9日  ヒル蔵相、IDB総会出席のため訪日(〜12日)。(外交)

 10日 コリマ州知事選挙実施。カバソス・制度的革命党(PRI)候補が勝利。(内政)

 11日 米州機構(OAS)事務総長選挙実施。5回の引き分けを経て、5月2日に選挙持ち越し。上院と下院から、立候補を取り下げるようにとの意見が相次ぐ。26日、下院、デルベス外相はOAS事務総長選から降りるべきとの勧告を可決。29日、デルベス外相、チリにおいて、ライス米国務長官とインスルサ・チリ内相との会談後、事務総長選への出馬取りやめを発表。(外交)

 12日 最高裁、民間企業のエネルギー生産を認める契約を取りやめるようにとした連邦高等監査局の命令は、いきすぎであるとの政府有利の判決。(内政)

 14日 当地主要各紙、当地で頻発する報道関係者の襲撃事件を批判するユネスコ理事長の発言を掲載。同日、下院、PGRが本件を捜査するよう求める勧告を承認し、政府へ提出。フォックス大統領、報道関係者の保護、及び犯人発見に努めると約束。(内政)

 17日 デルベス外相、ホンジュラスを訪問(〜18日)。18日、マドゥーロ・ホンジュラス大統領と会談。「メキシコ・ホンジュラス両国のカリブ海における海の境界画定条約」に署名。(外交)

 18日 メキシコ政府、コロンビア政府とコロンビア国民解放軍(ELN)との交渉促進役を終了すると発表。21日、デルベス外相、双方からの要請があれば、いつでも交渉促進役を務めると表明。(外交)

 19日 下院、「特急誘拐(Secuestro Expres)」を連邦犯罪とし、重罰化する刑法改正案を承認。28日、上院、この改正案を承認、発効へ。(内政)

 22日 レオネル・コタ民主革命党(PRD)新党首就任。(内政)

 24日 ソフィア・スペイン王妃、メキシコを訪問(〜26日)。フォックス大統領と会談。(内政)

 25日 「エル・ウニベルサル」紙、大統領の支持率を2月調査時より4%減の60%とする世論調査結果を発表。(内政)

 26日 PGR「過去の社会的・政治的運動に関する特別検察局」、「汚れた戦争(guerra sucia)」時代の行方不明被害者家族に対する補償金として、総額2億ペソを大蔵省に要請したと発表。一方、マセドPGR長官が、調査を妨害していると批判。(内政)

 26日 米国務省、米メキシコ国境地帯の治安状況に注意を喚起する「告知」発出。メキシコ政府、誇張されたものとこれを批判。(外交)

 26日 メキシコ市において、85カ国が参加し、非核地帯会議開催(〜28日)。 27日  マセドPGR長官、辞職願を提出し、フォックス大統領はこれを受理。副長官2人も同時に辞任。28日、フォックス大統領、新PGR長官として、カベサ・デ・バカ氏を任命し、上院はこれを承認。同日、PGR高官12人が辞職申し入れ。(内政)

 27日 上院、大統領選挙に限り、郵便投票での在外投票を認める選挙法改正案を可決。会期末ということもあり、上・下院ともに、小規模な改正案を相次ぎ可決。28日、上院、臨時会期開催を承認(5月中旬以降の予定)。(内政)

 28日 政府、最終的な裁判所の判断が下るまで被疑者の権利を保護するための法改正のイニシアティブを下院へ提出。(内政)

 28日 デルベス外相、チリを訪問(〜30日)。第3回民主主義共同体閣僚会議に出席。(外交)

 30日 PRD、大統領候補党内予備選挙を9月18日に実施すると決定。(内政)

 

<内政>

1.ロペス・オブラドール・メキシコ市長の刑事免責特権剥奪問題

(1)1日、下院予審委員会は、ロペス・オブラドール・メキシコ市長(AMLO)の免責特権剥奪審議に関し、下院本会議で審議することを賛成3(PRI 2、PAN 1)、反対1(PRD)で承認した。
  本決定に関し、4日、Merrill LynchやJP Morgan等の外国企業数社が、投資家に対し、この問題が解決するまではメキシコへの投資に慎重になるようにとの報告を行った。これを受けて、5日、フォックス大統領は、「メキシコの経済安定性は保証されている」とのコメントを出し、内外の企業関係者は恐怖心を持たずに投資をするように呼びかけた。

(2)7日、下院本会議において、AMLOの刑事免責特権剥奪が審議され、9時間に及ぶ議論の後に採決が行われ、賛成360票、反対127票、棄権2票で特権剥奪が可決された。
  AMLOは、下院での弁明の前に、ソカロ(憲法広場)に集結した約37万人の支持者の前で演説を行い、本件は司法問題ではなく、政治問題であるとの主張を繰り返した。また、例え刑務所の中にいようとも、PRDの大統領候補選出予備選には出馬すると述べた。加えて、支持者に対し、第三者に被害が及ぶような行為、ましてや暴力的な方法を用いて特権剥奪反対行動をしないよう、繰り返し呼びかけた。
  下院での弁明では、AMLOは、土地問題を巡る裁判所の判断に背いたことはなく、法を蔑ろにしたこともないとして、自身の正当性を主張した。また、フォックス大統領やクリール内相、アスエラ最高裁長官を名指しで非難した。
  免責特権剥奪決定後、AMLO支援者たちは、AMLOの要請に従い、デモ行進などは行わず、混乱はなかった。市場も、予想されていたような混乱がなかったことを受けて、落ち着いた推移となった。
  しかし、当地有識者の大半は、今回の決定は、今後のメキシコ民主主義に深刻な影響を与えるとの懸念を表明した。

(3)一方、政治の舞台では、俄に動きが慌ただしくなった。特権剥奪決定の翌日8日、PRD議員が過半数を占めるメキシコ市議会は、特権剥奪を認知しないことを決定、更に下院の手続きの不備に関し、最高裁へ違憲審査を申請した。一方、下院は、11日、特権剥奪を認知しないとのメキシコ市議会の決定は、越権行為であるとして、こちらも最高裁へ違憲審査を申請した。14日、最高裁は双方の申請を受理した。
  20日、PGRは、AMLOの召喚を裁判所に請求した。同日、PANのメキシコ市議会議員2人が、「AMLOが収監され、「犠牲者」としてのイメージ流布を阻止するため」保釈金を支払った。AMLOは、「卑劣な行為」としてこれを非難し、21日、この保釈金を無効にするよう裁判所に申し立てた。22日、裁判所は、保釈金に係る手続き上の不備を理由に、PGRによる召喚状の申請を却下した。

(4)24日、AMLO支援者主催による「沈黙のデモ行進」が行われ、メキシコ史上最大規模となる市民60万人以上が参加した。AMLOは、支援者への謝意を表明し、自身の「国家代替プロジェクト」を説明したものの、今回の演説では特定の人物を名指しで批判することはなかった。一方、AMLOは特権剥奪後、新たな告発の口実となるのを避けるため、市長として登庁していなかったが、25日、再び「市長」としての職務を再開した。これに対し、PGRや大統領府からは非難が相次いだ。

(5)他方、デモのインパクトの大きさからか、和解を求める動きが活発化した。クリール内相が「政治的解決の可能性」を口にし、26日、AMLOは、大統領に会談を求める書簡を出した。27日、大統領は演説を行い、AMLOとの会談を受け入れること、及び「法的枠組みの中で出来る限り政治的解決を模索する」と表明した。また、あくまでも司法の場で裁くとの立場を崩さなかったマセドPGR長官の辞任も発表された。AMLOは、この決定を歓迎し、PRDとPANが対話を持つことも確認された。PRIからは反発が出ているものの、事態は落ち着きを見せ始めている。

 

2.大統領選挙に限定した在外投票を認める選挙法改正案可決

(1)27日、上院は、下院から提出されていた大統領選挙に限り在外投票を認める選挙法改正案に関し、投票方法を郵便投票に限定する修正を加え、賛成91票、反対2票、棄権1票で可決した。本案は、下院に差し戻され、再び審議、採決される。

(2)対象となるのは、予め選挙人登録をしている在外居住者で、選挙人登録証のコピーと在外居住地を証明する書類を同封の上、書面にて連邦選挙機関(IFE)に、「在外投票の選挙人名簿」への登録を申請することで投票が可能となる。その後、IFEは投票用紙を郵送し、選挙人は選挙の1日前までにIFEに到着するよう投票用紙を返送する。

(3)上院議員の多くは、本件可決を歴史的に重要な一歩だと評価し、在外居住者も本決定を歓迎した。また、IFEも、郵便投票は実現可能であるとの見解を示した。
  但し、選挙人登録証を持つ在外居住者だけでも400万人に上ると見られ、本人確認をどうするのか、また、2億ペソ以上かかると試算されている経費はどこから計上するのかなどの問題点が下院議員から指摘されており、そのまま可決されるかどうかは微妙となっている。

 

 <外交>

1.日メキシコEPA発効

 1日、日メキシコEPAが発効した。東京では、メキシコ側はカナレス経済相、日本側は町村外相、谷垣財相、中川経産相及び島村農水相が出席して第1回合同委員会が開催された。
  また、メキシコでは21日、第1回ビジネス環境整備委員会が開かれた他、27−30日には、在米日系企業約80社(約100名)が参加して、JETRO主催によるビジネス環境投資ミッションが実施された。

 

2.デルベス外相の米州機構(OAS)事務総長選挙出馬

(1)11日、米州機構(OAS)事務総長選挙が実施され、デルベス・メキシコ外相とインスルサ・チリ内相がそれぞれ17票を獲得し、引き分けたため、OAS総会手続き規定に基づき、計5回投票が行われたものの、すべて引き分けとなったため、選挙は5月2日に持ち越しとなった。

(2)第1回目の選挙で当選できなかったことで、デルベス外相は出馬を取り下げるべきだとの意見が出始めた。ジャクソンPRI上院会派長は、今回の出馬は、ただ時間と資金の無駄遣いに終わったと非難した。更に、下院は26日、デルベス外相はOAS事務総長選挙を降りるべきとの勧告を可決した。また、カストロ・キューバ国家評議会議長も、米国が支持している限り、メキシコの当選の可能性は極めて低いため、デルベス外相は出馬を取り下げるべきとのコメントを出した。

(3)国内外からの批判にも拘わらず、デルベス外相は当選への自信を覗かせていたが、29日、訪問先のチリで会見を行い、事務総長選挙への出馬を取り下げると発表した。その理由として、今回の事務総長選を巡り、ラ米諸国が分裂の危機にあり、それを避けるため、またラ米全体の利益を考えて、ライス米国務長官とインスルサ・チリ内相と話し合った結果だと述べた。
  本決定に関し、国内ではメキシコ外交の失敗との冷ややかな見方が大半を占めている。

 

3.国連人権委員会における「キューバ人権決議」の波紋

(1)5日、上院は、キューバに対して政治的圧力をかけるための道具にすぎないとして、国連人権委員会での「キューバ人権決議」に関し、メキシコ政府として棄権することを行政府に促す勧告を承認した。しかし、9日、外務省は、棄権はしないとして、上院の勧告を受け入れない旨発表した。14日、メキシコ政府は、国連人権委員会における「キューバ人権決議」に賛成した。

(2)これに対し、キューバ政府は、「メキシコは、OAS事務総長選挙での米国の支持を取り付ける代わりに、キューバ政府との取り決めを破棄し、キューバとの対立を選択した」と、激しく非難した。また、カストロ・キューバ国家評議会議長は、連日、デルベス外相やフォックス大統領を批判した。

(3)メキシコ国内では、カストロ議長の発言を「内政干渉」であり容認できないとの声が高まり、上院では公式に書簡で抗議すべきとの意見も出たが、外務省はあくまで外交ルートを通じ関係修復を図るとの態度を示した。しかし、依然両国間の緊張関係は続いている。

 
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