政務班
2005年05月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

 内政では、ロペス・オブラドール・「メキシコ市長」の免責特権剥奪問題が、政治的決着を見せ、収束する一方、来年の大統領選挙の前哨戦として注目されるメキシコ州知事選挙に絡む不正疑惑が噴出し、新たな政争の火種となった。また、下旬には、政府の治安対策に関する批判が再燃し、治安改善を求める声が高まった。
  客年12月以来の懸案事項である本年度歳出予算に関し、最高裁は大統領の「拒否権」発動を認める判決を下し、下院に予算を差し戻したものの、臨時会期が開かれず、最終判断は出ていない。
  外交では、再び米国の「反移民的政策」に対する批判が強まった。一方、フォックス大統領のアフリカ系米国人に関する不適切発言が、「人種差別的」として米国から激しく避難された。

 

 <クロノロジー>

 2日  米州機構(OAS)事務総長選挙実施。メキシコは棄権。(外交)

 2日  フォックス大統領、ボリビア及びジャマイカを訪問(〜4日)。デルベス外相、バスケス社会開発相も同行。メナ・ボリビア大統領と会談。3日、大統領、ボリビア国会で演説。4日、パターソン・ジャマイカ首相と会談。(外交)

 4日  連邦検察庁(PGR)、ロペス・オブラドール・「メキシコ市長」の不起訴決定(訴追期限は6月3日)。(内政)

 4日  下院、マルタ・フォックス大統領夫人及びその子息の関連事業に対する不正調査のための特別委員会設置を決定。7日、フォックス大統領、この決定を非難。(内政)

 6日  フォックス大統領とロペス・オブラドール・「メキシコ市長」会談。短時間で終了。(内政)

 7日  ウサビアガ農牧相、グアナファト州知事選(2006年9月)出馬のために、本年中に辞任する意向を表明。(内政)

 9日  ロペス・オブラドール・「メキシコ市長」、免責特権剥奪に反対する市民運動の終了を宣言。また、7月31日に市長を辞任すると発表。(内政)

 9日  最高裁、本年度歳出予算の違憲審査の審議開始。12日、大統領の歳出予算に対する拒否権を認める。17日、最高裁、同歳出予算の下院への差し戻しを決定。(内政)

 9日  賈慶林中国共産党全国政協主席、メキシコを訪問(〜12日)。10日、フォックス大統領と会談。11日、上院を訪問し、上院議員らと会談。(外交)

 10日 公共行政省、"Pemexgate"のPEMEX側関係者6名に対し、メキシコ史上最高額となる罰金計28億ペソ超を科す行政処分を決定。PANとPRDは、"Pemexgate"の真相究明を要求。PRIはこの決定に反発。(内政)

 10日 米国上院、反移民的条項(Real ID)を含む法案を可決。11日、ブッシュ米大統領、これに署名、発効。フォックス大統領、メキシコ外務省は本決定に反発し、16日、在米メキシコ大使館を通じ抗議書簡発出。(外交)

 12日 モンテレイ市で「北半球サミット2005」開催(〜13日)。北米3カ国の政財界要人が参加。13日、ガルサ駐メキシコ米国大使、演説の中でメキシコの経済政策及び治安状況を批判。(外交)

 13日 メキシコ州選挙機関評議員と企業の癒着疑惑発覚。15日、新たな収賄疑惑が浮上、州知事候補者全陣営から、評議員全員の辞任要請が出される。19日、メキシコ州議会、全評議員に辞任を命令。21日、全評議員辞任。同州議会、新評議員を任命し、23日就任。(内政)

 13日 フォックス大統領、米国の移民政策を批判。その一部が、アフリカ系米国人に対する差別発言と報道され、米国側が反発。16日、米国務省、本発言に対する説明を要求。フォックス大統領、アフリカ系米国人のリーダーと電話会談。18日、大統領、ジャクソン牧師と会談。ジャクソン師は、「誤解である」との説明に理解を示す。23日、大統領、シャープトン牧師と会談するも、シャープトン師側はあくまでも謝罪を要求し、しこりを残す。(外交)

 13日 デルベス外相、ジョハンズ米農務長官と共に、「米メキシコ農村開発支援社会イニシアティブ」に署名。(外交)

 16日 メキシコ州知事選挙に絡み、PRI候補の選挙資金違反疑惑報道。18日、PRDとPAN、PRI候補の候補者登録抹消を要求。(内政)

 16日 PAN、大統領候補選出のための党内予備選規定を決定。28日、多過ぎると批判されていた選挙資金上限の引き下げを決定。(内政)

 16日 サカ・エルサルバドル大統領、メキシコを公式訪問(〜18日)。17日、フォックス大統領と会談。(外交)

 20日 UNICEF及びメキシコ連邦人権委員会、シウダー・フアレスで頻発する未成年女性に対する性的暴行・殺人事件に警鐘。(内政)

 24日 オンド赤道ギニア連邦外相、メキシコを訪問。デルベス外相と会談。(外交)

 25日 アムネスティ・インターナショナル、2004年年次報告を発表し、メキシコにおける治安と人権問題に警鐘。クリール内相、発表を受け、シウダー・フアレスの問題に関し、対策の再検討を公約。(内政)

 26日 フォックス大統領、麻薬組織絡みの殺人が頻発するシナロア州を緊急訪問。治安閣議を招集し、対策を検討。「治安対策ワーキング・グループ」の創設、及び「殺人、処刑捜査のための混合検察」設置を発表。(内政)

 26日 デルベス外相、ルクセンブルグを訪問(〜27日)。EUとの会合に遅れ、非難が噴出。(外交)

 27日 フォックス大統領、ジャーナリストに対する犯罪対策強化をPGRに指示。(内政)

 27日 シウダー・フアレスで治安改善を求める大規模デモ。(内政)

 30日 フィッシャー・オーストリア大統領、メキシコを公式訪問。フォックス大統領と会談。(外交)

 31日 クリール内相、米国を訪問。チェルトフ米国土安全保障長官と、二国間の懸案事項について会談し、移民問題に懸念を表明。(外交)

 

<内政>

1.「メキシコ市長」に対する不起訴決定と大統領との二者会談

(1)4日、連邦検察庁(PGR)は、ロペス・オブラドール・「メキシコ市長」(以下AMLO)の刑事免責特権剥奪の原因となった私有地「エル・エンシーノ」における道路建設工事中止命令への不服従(desacato)問題に関する再検証を終了し、AMLOに対する不起訴を決定した。その理由として、PGRは、AMLOが裁判所の命令に従わなかった明確な証拠はあるものの、刑法には「法廷侮辱罪(desacato al tribunal)」にあたる規定が存在せず、よって適用し得る処罰もないため、と説明した。

(2)本決定に関し、AMLOは、一部有罪とされたことには納得出来ないが、PGRの判断に従う旨述べ、刑事プロセスの中止を歓迎した。
  一方、フォックス大統領は、PGRの決定を尊重する旨表明し、本決定には、政府は介入していないと強調した。

(3)6日、大統領公邸で、フォックス大統領とAMLOの会談が約7ヶ月ぶりに行われたものの、報道関係者を一切シャットアウトし、通常行われる写真撮影もなく、僅か15分で終了する異例なものとなった。会談終了後、AMLOは記者会見において、会談が和やかに終了し、満足していると言明した。また、2006年の選挙が、クリーン且つ平和裡に実施されるよう、AMLOのグループも協力を約束したと述べたが、両者間で取り決めが行われたかとの問いは否定した。

 

2.治安問題に対する警鐘

(1)25日、「アムネスティ・インターナショナル(AI)」は、『2004年年次報告』を発表し、メキシコの治安と人権問題に警鐘を鳴らすレポートを発表した。特に、シウダー・フアレスにおける女性を狙った殺人事件に関し、対応を強化しているにも拘わらず、依然として発生件数が多いと危惧した。
  また、年次報告の発表にあたり、ゴメスAIメキシコ代表は、メキシコだけでなくラテンアメリカ全体で、犯罪組織、特に麻薬組織による犯罪、及び誘拐事件発生率は高く、市民の人権にマイナスとなっていると断言した。そして、シウダー・フアレスの問題に対する政府の取り組みを激しく非難した他、頻出する麻薬組織絡みと思われる殺人事件が、ほぼ統制不可能な状況にあるとして、政府の早急な対策を要請した。

(2)本年次報告を受け、クリール内相は、25日、シウダー・フアレスの問題も関し、治安改善が進まないことを認めた上で、戦略を練り直し、有効な手段を講じるよう努めると述べた。また、26日、PGRは、本件の特別検察がより一層力を注ぐとともに、PGRの組織犯罪捜査専門次官室(SIEDO)の研究機関が初動捜査から捜査及び証拠などの分析に協力する旨発表した。

(3)一方、大統領府は、シナロア州で組織犯罪絡みの殺人犠牲者が、本年既に270人以上に上る点を憂慮し、26日、フォックス大統領が急遽同州を訪問して、治安閣議を招集、同州政府、治安担当機関とともに、今後の対策を検討した。そして、犯罪組織に対する有効な対策を講じるべく、連邦、州政府高官で構成される「治安対策ワーキング・グループ」の創設、及びSIEDOの調整の下「殺人、処刑捜査のための混合検察」の設置を発表した。
  他方、フォックス大統領が、シウダー・フアレスの問題に関し、殺人被害者の数は誇張されており、また、特別検察は着実に成果を上げていると述べたことに対し、報道機関から「現実の認識不足」との非難の声が高まっている。

 

3.メキシコ州知事選挙に絡む不正疑惑

(1)13日、当地主要各紙は、メキシコ州知事選に絡み、同州選挙機関のゴメス評議員長が、投票箱等設置の入札に関し、特定企業に落札させるため、2評議員に対し、企業からの賄賂を分配する話を持ちかけたと報じた。ゴメス評議員長は、収賄の話は冗談だったとして切り抜けようとしたものの、州知事選に立候補している3候補者陣営から、15日、全評議員の辞任が要求され、19日、メキシコ州議会は全評議員に辞任を命じた。23日には新たな評議員が就任したものの、事実究明は進んでおらず、また、「期日までに間に合わない」として贈賄の疑いが持たれている企業がそのまま作業を進める結果となっている。

(2)一方、PRI(制度的革命党)のメキシコ州議会議員2人が、州議会議員の立場を利用し、公共事業の場で、ペニャPRI州知事候補の選挙支援活動を行っていることも大きく報じられた。更に、ペニャ候補は、選挙資金上限を大幅に上回る資金を投じ選挙活動を行っている疑いがあり、18日、PAN(国民行動党)とPRD(民主革命党)は、同候補の登録抹消を申し立てたが、結論は出ていない。

 

4.本年度歳出予算に対する大統領の拒否権を認める最高裁判決

 17日、最高裁は、客年12月末に行政府から出されていた2005年度歳出予算の違憲審査申請に関し、本歳出予算は「法」ではなく、予算の承認は「行政行為」であるとして、大統領の「拒否権」を認める判断を下した。そして、最高裁は、本歳出予算を可決した下院に差し戻し、臨時会期を招集して、再度歳出予算配分を見なおすよう求めた。
  しかし、PRIとPRDは、既に予算配分見直しを拒否する旨発言しており、野党が結託し、3分の2以上の反対票で、修正を否決する公算が大きい。

 

<外交>

 1.メキシコ−米国の移民問題再燃

 (1)10日、米連邦上院は、「国防・国際テロ戦争・津波救援緊急追加支出法(以下「追加支出法」を可決し、11日、ブッシュ大統領が同法に署名、発効した。本法は、国際テロ対策と称し、2月に連邦下院を通過した「2005年真正ID法案」を盛り込んでおり、(イ)亡命・保護制度を利用したテロリストの侵入を阻止するための亡命・保護手続きの厳格化、(ロ)運転免許証取得の際に、米国における合法的滞在を証明する書類の提示を取得要件とする、(ハ)米メキシコ国境沿いの防壁建設の許可に関する国土安全保障省の権限拡大、といった反移民的条項を含む。
  この米国の決定に関し、11日、フォックス大統領、デルベス外相等政府首脳が、「反移民的措置の強化は、問題の根本的な解決にはならない」として遺憾の意を表明した。また、16日、メキシコ外務省は、在米メキシコ大使館を通じ、本件に対する抗議書簡を発出した。

(2)これに対し、米国では、11日、アリゾナ州で不法移民を発見した場合には、警察官であれば誰でも(逮捕状なしで)逮捕できるとする法案を可決した。一方、12日、マケイン、ケネディ両上院議員が、罰金の支払いなどの厳格な条件付きで、一部の不法移民の合法化法案を提出したが、不法移民への人権的配慮というよりも、懲罰的な意味合いが強いとして、在米移民団体から批判が出た。

(3)他方、ガルサ駐メキシコ米国大使は、13日、モンテレイ市で開催された「北半球サミット2005」に出席し、北米3カ国の政財界人を前に、再びメキシコの移民対策を批判した。特に、「米国在住メキシコ人からの送金と、高騰する石油価格に依存する経済は、経済政策と呼べない」と発言、これに対しクリール内相からあからさまな不快感が示された。

 

2.アフリカ系米国人に関するフォックス大統領の不適切発言

(1)13日、フォックス大統領は、米国の「反移民的政策」を批判し、メキシコ人は米国で「黒人すら」やりたがらない仕事に従事していると、同国人を評価した。この発言の中の「黒人すら」という部分が、「差別的」として米国メディアによって大きく取り上げられ、アフリカ系米国人から批判やフォックス大統領の謝罪を求める声が続出し、16日には、バウチャー米国務省報道官が、同発言は「非常に無神経で不適切」として、メキシコからの公式な説明を求めた。

(2)米国からの反発を受け、14日、メキシコ大統領府と外務省は、「人種差別的発言」との批判は、誤解に基づくものだとのコメントを発出した他、16日、フォックス大統領は、アフリカ系米国人の指導者的存在であるジャクソン、シャープトン両師と電話会談を行い、釈明した。更に、18日にジャクソン牧師、24日にシャープトン牧師と直接会談を行い、「言葉の誤用」と説明した。ジャクソン師は、大統領の説明に理解を示したが、大統領があくまで謝罪は行わないとの姿勢を貫いたため、シャープトン師側は納得せず、しこりを残す結果となった。

 

3.サカ・エルサルバドル大統領のメキシコ訪問 サカ・エルサルバドル大統領は、16〜18日、メキシコを訪問した。17日には、フォックス大統領と会談し、米国、ホンジュラス首脳の参加を募り、安全保障・マラス対策首脳会合を開催することに合意した。また、移民問題に関し、「人身売買・人の密輸から女性及び未成年者を保護するための政府覚書」及び、「エルサルバドル系移民の迅速・安全な本国送還に関する合意」が署名された。

 
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