政務班
2005年06月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
   内政では、大統領候補選出のための党内予備選に出馬するとして、内相と天然資源相が辞任し、また、後任の内相に労働相が任命されたため、内相、労働相及び天然資源相の3閣僚が交代する人事があった。また、次期大統領選で郵送による在外投票が可能となる選挙法改正案が可決された。
   一方、サパティスタ民族解放軍(EZLN)が、突如活動を活発化し、武装闘争を止め、政治活動を行うと表明した。
   外交では、フォックス大統領が活発に外遊を行い、18〜22日にウクライナ及びロシア、28〜30日にはベリーズ及びホンジュラスを訪問した。また、メキシコ国内で発売された切手の図柄を巡り、アフリカ系米国人団体から「人種差別的」との反発が起きた。

 

<クロノロジー>
1日   クリール内相、大統領候補選出のための党内予備選出馬を理由に辞任。(内政)
1日   「レフォルマ」紙、世論調査による大統領支持率を56%、10段階評価で6.4と発表。いずれも前回3月の調査より低下。(内政)
2日   フォックス大統領、アバスカル労働相を新内相に任命。3日、後任の労働相に、サラサール労働省次官が就任。(内政)
2日   フォックス大統領、2005年、2006年分の対外債務の前倒し支払いを表明。(内政)
2日   連邦選挙機関(IFE)、得票率が足りず政党登録を抹消された党は、政党助成金を国庫に返納しなければならないと決定。大統領府、不当な助成金受領を防ぐとしてこの決定を歓迎。(内政)
3日   連邦検察庁(PGR)、麻薬組織関係者の保釈をメキシコ市刑事裁判所の判事が決定したことに対し、判事の信頼性と麻薬組織との癒着に疑念を示す。大統領府もPGRのコメントを支持。4日、アバスカル内相、司法府に対する不信感は否定するも、信頼性に欠ける判事が存在すると発言。判事は、責任の所在のすり替えと政府を非難。(内政)
3日   ロペス・オブラドール・「メキシコ市長」に対する起訴期限。PGRは、起訴せず。(内政)
4日   フォックス大統領、7月2日に「民主主義化」5周年の記念式典を開催すると発表。PRI(制度的革命党)、PRD(民主革命党)やIFEは、「政治的混乱を引き起こす」として中止を求めるも聞き入れられず。(内政)
5日   アギラル・シンセル前国連大使、交通事故死。6日、大統領や多数の議員からだけでなく、アナン国連事務総長や米州機構総会でも弔意が示された。(外交)
9日   ラウル・サリーナス(カルロス・サリーナス元大統領の兄)、ルイス・マシュー元PRI事務局長殺害に関し、証拠不十分で無罪判決、無罪確定。不当利益取得の嫌疑は残るも、13日、3200万ペソの保釈金を支払い、保釈される。(内政)
9日   ガルサ駐メキシコ米国大使、再度メキシコ−米国国境地帯の治安悪化を批判。13日、大統領府、国境付近の治安対策に米国の協力を要請。16日、ライス米国務長官、メキシコ−米国国境付近、特にヌエボ・ラレド市の治安は「深刻な状況」と発言。17日、メキシコ政府、「圧力をかけるのではなく、両国間の協力」を要請。19日、メキシコ外務省とPGR、メキシコ−米国国境付近の治安対策の一環として、米国政府に対し、米国からメキシコに密輸される武器の監視強化を求める共同コミュニケを発出。(内政・外交)
9日   チアパス州サン・クリストバル・デ・ラス・カサス市で、「統合はどこへ向かうのか」と題するラテンアメリカ会合開催(〜10日)。特に、「マラス」の問題を議論。(外交)
10日  メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)、上位10%の家庭に富の42.1%が集中しているとの2004年の調査結果を発表(2002年時は、40.8%)。(内政)
10日  第44回メキシコ−米国議会間会議開催(〜11日)。治安問題が中心議題。(外交)
11日  大統領府、軍を投入し、麻薬組織関連の犯罪取締りを中心とした「メキシコ治安作戦(Operativo Mexico Seguro)」を、タマウリパス、シナロア及びバハ・カリフォルニア州の4都市で行うと発表。30日、ウエルタ治安相、同作戦を国内全域で展開すると表明。(内政)
12日  クリール前内相と遊興業界の癒着疑惑発覚。テレビ業界最大手テレビサ社関連が多かったため、党内予備選を有利にするためではとの批判が噴出。(内政)
14日  「特急誘拐」の厳罰化を含む刑法改正を公布、発行。(内政)
15日  最高裁、「刑事免責特権を有していた者は、特権が消滅した時点から時効の進行が始まる」との判断を下し、1971年の大量虐殺に関し、エチェベリア元大統領とモヤ・パレンシア元内相はまだ時効を迎えていないとして、高等刑事裁判所に両者に対する逮捕状発出の可否を審議するよう命じる。(内政)
15日  連邦上・下院、21日からの臨時会期開催を決定。(内政)
15日  IFE、2006年の総選挙に関し、選挙関連物品の確認及び監視を「Transparencia Mexicana」が行うという契約書に署名。(内政)
15日  当地各紙、「メキシコで麻薬組織対策がうまくいかない一番の原因は、警察の堕落にある」とする米国麻薬対策局(DEA)高官の談話を掲載。大統領府、外相、内相、上・下院議長等から反発。(内政・外交)
16日  最高裁での審議の様子が初めて生中継される。(内政)
17日  CROC(全国工業・農業労働者組織連盟)から、約600の工業労働組合が離脱し、メキシコ労働組合連合(Confederacion Mexicana Sindical)を結成。(内政)
18日  フォックス大統領、ウクライナ及びロシアを訪問(〜22日)。フレンク厚生相、エリソンド・エネルギー相同行。19日、ユーシチェンコ・ウクライナ大統領と会談。21日、プーチン露大統領と会談。(外交)
18日  デルベス外相、第28回メルコスール共同市場審議会出席のためパラグアイを訪問(〜19日)。19日、バスケス・ウルグアイ大統領と会談。(外交)
20日  サパティスタ民族解放軍(EZLN)、「非常事態宣言」を発出し、設営地の閉鎖及び移動を発表。22日、武装活動を否定。27日、政治活動を表明。28日、フォックス大統領、この決定を歓迎。30日、行動指針を発表。(内政)
21日  フォックス大統領、「来年の大統領選挙では自党を応援する」と発言。PRI、PRDから反発。22日、ウガルデIFE評議員長、「法的根拠を示して反対する」と表明。(内政)
21日  連邦上院、国際刑事裁判所(ICC)の設立及びその活動を定めた「ローマ規定」批准を承認。
21日  連邦下院、副議長にアルバロ・エリアスPAN(国民行動党)議員を任命。(内政)
23日  カルデナス環境天然資源相、辞任。大統領府、ルエヘ環境保護担当連邦検察長官を後任として任命。(内政)
23日  最高裁、「行政府はFOBAPROA(銀行預金保護基金)への補填をすべきでない」とする連邦高等監査庁(Auditoria Superior de la Federacion)の判断は無効との判決。(内政)
23日  メキシコ市検察庁、同市トラワック地区の不法占拠者約1500人を強制退去。警官2000人と不法占拠者が衝突。(内政)
26日  IFE、選挙の際には、大統領や州知事らは所属政党の応援に加わらず、中立を保つべきとの見解を発表。(内政)
27日  デルベス外相、アナン国連事務総長と会談。国連改革に対するメキシコの立場を改めて強調。(外交)
27日  カナダ・オタワ州で「北米安全・繁栄パートナーシップ」の一環として、最初の報告が発表される。アバスカル内相、カナレス経済相及びソホ公共政策担当大統領補佐官が出席。メキシコ−米国国境地帯の治安改善に向けた相互協力を強調。(外交)
28日  下院、郵送による在外投票、PEMEX(メキシコ石油公社)の財務枠組み修正案他を可決。本年度歳出予算見直しは保留。臨時会期を終了。(内政)
28日  フォックス大統領、ベリーズ及びホンジュラスを訪問(〜30日)。28日、ムサ・ベリーズ首相と会談。ベリーズ国会で演説。29〜30日、ホンジュラスにおいて、中米サミット出席。(外交)
29日  オラメンディ外務次官、下院外交委員会でメキシコのPKO参加の可能性を示唆。30日、大統領府、この発言を否定。オラメンディ次官、大統領府のコメントに反発し、辞任を表明(7月1日、正式に辞任)。(内政)
30日  米国ホワイト・ハウス、メキシコで発行された切手の図柄が「人種差別的」であるとして、販売中止を求める。メキシコ政府、米国の批判は的を射ていないとして、要求には応じない旨発表。(外交)

 

<内政>
1.大統領選挙にまつわる閣僚の辞任・異動
(1)1日、クリール内相は、PAN(国民行動党)の大統領候補選出のための予備選挙が同日公示されたのに合わせ、「選挙運動に専念したい」として、フォックス大統領に辞意を表明し、大統領はこの申し出を受け入れ、翌2日付で辞任することを了承した。
(2)2日、大統領は、クリール内相の後任として、カルロス・アバスカル労働相を新内相に任命し、同氏は直ちに就任した。また、新労働相には、3日、ハビエル・サラサール労働次官が任命された。
(3)23日、カルデナス環境天然資源相がPANの党内予備選出馬のために辞任し、新環境天然資源相として、ルエヘ環境保護担当連邦検察長官が就任した。
(4)PANの大統領候補が全て公に出馬を表明し、さらに予備選が公示されたことで、大統領府や各省庁の高官の中からも、選挙運動に協力したいとの理由で辞職する者が続いた。

2.臨時会期の開催と、下院における在外投票を認める選挙法改正を含む諸法改正案の可決
(1)15日、連邦上・下院両院常任委員会は、21日からの臨時会期開催を決定した。開催期間は特に限定されず、臨時会期で議論される計12議題について、担当議会での審議、採決し尽くされるまでとされた。
(2)21日、上院は、国際刑事裁判所(ICC)の設立及びその活動を定めた「ローマ規定」批准を承認した。
(3)28日、下院は、大統領選挙に限り郵送での在外投票を認める選挙法改正案を可決した。本改正可決に関し、フォックス大統領が「歴史的なこと」として高く評価した他、米国の移民諸団体も「偉大な第一歩」として歓迎する旨発表した。本改正は、30日、大統領によって署名・承認され、即日官報に掲載されて、7月1日発効した。
   また、下院は、今後4年間でPEMEX(メキシコ石油公社)から国庫への納税率を段階的に引き下げ、同公社の財務力を強化することで、生産力増強を図ることを目的とする財務(収益還元)枠組み修正案を可決した。他に、イニシアティブの「凍結状態」を防止することを目的とする憲法改正案及び麻薬捜査に地方の警察組織が参加することを認める憲法改正案が可決された。
  しかし、本臨時会期の中心議題とされた本年度歳出予算の見直しに関しては、再度予算委員会に差し戻すことが決定され、9月からの次期通常会期に持ち越された。
 28日、下院は臨時会期を終了した。

 

3.サパティスタ民族解放軍(EZLN)による「非常事態宣言」発出と新行動指針の発表
(1)20日夕方、マルコスEZLN副司令官は、同グループのインターネット掲示板にコミュニケを発出し、「非常事態」を宣言、チアパス州の5つの設営地、及び他地域の活動拠点の閉鎖を発表した。また、今後は、EZLNの活動は秘密裡に移動しながら行うと表明した。
(2)27日、EZLNは「第6ラカンドン宣言」を発出し、武装闘争を停止し、政治活動を行うと発表した。更に、30日には、今後の行動指針として、EZLN独自の政治活動を行うべく、真の左派勢力を結集し、そのために国中を巡り、全国キャンペーンを行うと表明した。ただし、政治活動は、既存の政党を応援したり、特定の候補者を支持するような選挙運動ではないとした。
(3)フォックス大統領は、EZLNによる政治活動宣言を歓迎した。また、他の政治家からも概ね好意的な意見が表明されている。
(4)当地有識者からは、EZLNが突然行動を活発化させた理由として、2001年以来政府との交渉が中断し、同グループの活動に対する関心が薄れている現状を打開するためではないか、との見解が示されている。

 

4.1971年の「大量虐殺」事件に関する元大統領及び元内相の逮捕の可能性
15日、最高裁判所は、1971年6月10日にメキシコ市で起きた学生運動に対して政府が行った「大量虐殺」事件に関し、エチェベリア元大統領とモヤ・パレンシア元内相については、未だ時候が成立していないとの判決を下した。最高裁は、事件当時、両者は刑事免責特権を有しており、刑事訴求されない立場にあったため、時候の進行は、両者が離職し免責特権が消滅した1976年12月から始まり、2006年12月までは時効が成立しないとの判断の根拠を示した。
また、最高裁は、メキシコ市刑事高等裁判所に対し、本件に関する両者への逮捕状発出の可否を審議するよう命じた。

 

5.大統領支持率
1日付「レフォルマ」紙は、3ヶ月毎のフォックス大統領の世論調査結果を発表し、大統領の支持率は、前回3月の調査から3%減少し56%となった。また、10段階評価の数値も低下し、6.4であった。
項目別調査でも、全ての項目で否定的評価が増加し、特に「汚職対策」と「失業対策」に対する取り組みが不十分であるとする回答が大きく増えている点が特徴的である。

 

<外交>
1.フォックス大統領のウクライナ及びロシア訪問
(1)フォックス大統領は、18〜20日にウクライナ、20〜22日にロシアを訪問した。フレンク厚生相とエリソンド・エネルギー相も今回の外遊に同行した。メキシコ大統領のウクライナ訪問は初、また、ロシアになってからの訪問も初めてである。
(2)19日、フォックス大統領は、ユーシチェンコ・ウクライナ大統領と首脳会談を行い、特に有機堆肥生産及び航空機生産、宇宙開発の諸分野における相互協力について協議した。また、フォックス大統領は、ウクライナの民主化が市民運動によって達成されたことを賞賛し、自身が大統領に当選した時のメキシコの様子に擬えた。
   更に、リトヴィン最高会議議長やティモシェンコ首相と会談を行った他、在ウクライナ・メキシコ大使館の開設、メキシコ・ウクライナ・ビジネスフォーラムの開催などを行った。
(3)21日、フォックス大統領は、プーチン露大統領と首脳会談を行い、特に、テロ及び超国家的(transnacional)犯罪組織対策、人権問題や環境問題について意見交換した。また、両国の担当省庁の間で、相互司法協力条約、保健衛生分野における協力に関する合意、航空機分野に関する協定、及びエネルギー分野における協力に関する同意書などが締結された。
   更に、フォックス大統領は、ロシアの政財界人と幅広く意見交換した他、モスクワ国際関係大学で講演を行った。

 

2.フォックス大統領のベリーズ及びホンジュラス訪問
(1)フォックス大統領は、デルベス外相を伴い、28日にベリーズ、29〜30日にホンジュラスを訪問した。ベリーズでは、ムサ・ベリーズ首相と首脳会談を行い、更に、国境の治安に関する協力のための覚書、防災に関する技術協力協定及び両国間国際橋建設に関する合意を締結した。
(2)29日、フォックス大統領は、ホンジュラスのテグシガルパで開催された第7回トゥクストラ・サミットに出席した。同サミットには、メキシコ、中米5カ国、パナマ、ベリーズ及びコロンビア(オブザーバー)の大統領、及びドミニカ共和国の外相が参加し、メソアメリカ地域における対話と合意のメカニズム、及び「マラス」と呼ばれる青少年犯罪グループの取締りを強化する旨の「テグシガルパ宣言」に合意、署名した。
サミット出席に先駆け、フォックス大統領はマドゥーロ・ホンジュラス大統領、ムサ・ベリーズ首相と共に、メキシコが融資を行っている幹線道路CA−13の開通式に出席した。

3.切手の図柄を巡るアフリカ系米国人からの反発
(1)29日、メキシコ郵便サービスは、「メキシコ大衆文化切手シリーズ」として、図柄に1940〜60年代特に人気を博したコミック「メミン・ピングイン」を採用した切手5種類を発売した。
(2)この切手の発売が米国で報道されると、「メミン・ピングイン」は「分厚い唇、大きく見開いた目」というかつての「黒人に対する誇張されたステレオタイプのイメージ」を表象するとして、アフリカ系米国人の団体から「図柄が人種差別的」であるから販売を中止するよう求める声が上がった。米国ホワイト・ハウスも、30日、本件はメキシコ国内の問題であるとしながらも、「このような図像は現在では受け入れられず、メキシコ政府はそれを認識すべき」とのコメントを出した。
(3)しかし、デルベス・メキシコ外相は、30日、米国側のコメントはメキシコの文化に対する完全な認識不足であり、受け入れられないとの見解を示した。また、大統領府も、切手の販売中止を命じるつもりはない旨コメントした。(なお、7月1日には発行した75万枚が完売した。)

 
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