政務班
2005年07月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
   内政では、主要3党の党内予備選に向けた動きが本格化し始めた。「次期大統領選の前哨戦」と見られていたメキシコ州知事選は、棄権率が高く、元々同州で強い固定票を有しているPRI(制度的革命党)候補の圧勝となった。ナヤリット州知事選でもPRIが勝利する一方、PAN(国民行動党)はメキシコ州で苦戦、ナヤリット州では惨敗した。フォックス大統領は当選5周年を迎え、「民主主義化」記念と銘打った集会を行ったが、国民の不満が浮き彫りとなる結果となった。
   外交では、フォックス大統領が英グレン・イーグルスで開催されたG−8サミットのアウト・リーチ会合に出席した。また、メキシコ市において、パナマ、スペイン及びアルゼンチンとそれぞれ二国間委員会が開催され、意見交換が行われた。

<クロノロジー>
1日   連邦選挙機関(IFE)、各党予備選の監視を開始。(内政)
2日   フォックス大統領当選5周年。独立記念塔で「民主主義化」記念集会を開催するも、閑散。(内政)
3日   メキシコ州及びナヤリット州知事選挙。両州ともにPRI(制度的革命党)候補が勝利。4日、メキシコ州知事選挙に関し、PAN(国民行動党)とPRD(民主革命党)がそれぞれ不服申し立て。(内政)
5日   カルデナス元PRD党首、次期大統領選への出馬を断念すると発表。(内政)
5日   メキシコ政府(大統領府と外務省)、次期IDB総裁選に、中米諸国と共にコロンビアの候補を推すと表明。同日、ヒル蔵相、IDB総裁候補決定権は大蔵省にあると反発。6日、本件に内務省が介入し、各省間の対立が表面化。(内政・外交)
5日   ベハラノ前メキシコ市議会議長、収賄容疑に関し、証拠不十分で不起訴処分。選挙違反容疑は残るが、6日、保釈金を支払い保釈される。(内政)
5日   フォックス大統領、スコットランドを訪問(〜8日)。7日、G5(新興経済諸国5カ国)首脳会合、及びG−8サミットのアウト・リーチ会合に出席。ロンドンで発生したテロに関し、哀悼の意を示し、また犯人に対する非難声明発出。(外交)
7日   PAN、大統領候補選出のための党内予備選への立候補受付開始。バリオ前下院PAN会派長、党内予備選の公平性に疑問があるとして、出馬を断念すると発表。10日、立候補受付締切り。5人が申請。11日、PAN中央執行部、クリール前内相、カルデロン前エネルギー相及びカルデナス前環境相の3人を立候補者登録。12日、党内予備選の選挙運動開始。20日、PAN党内予備選の選挙資金上限額を下方修正。(内政)
8日   メキシコ司教会議、聖職者への被選挙権授与及び「非宗教教育(educacion laica)」表現の削除という憲法条文改正を希望するとの声明。有識者から反対の声があがる。(内政)
8日   デ・ラ・フエンテ・メキシコ国立自治大学学長、次期大統領選挙への出馬の可能性を否定。(内政)
8日   タバスコ州でPEMEX(メキシコ石油公社)の石油輸送管が爆発、炎上。多数の死傷者。(内政)
11日  PRI中央執行委員会開催。マドラソ党首の続投示唆。12日、「反マドラソ・グループ(TUCOM)も賛成し、8月中旬までの党首続投が決定。21日、新党首選出プロセスを決定。(内政)
11日  ナバロ・パナマ外相、メキシコを訪問(〜13日)。11〜12日、第3回メキシコ−パナマ二国間委員会開催。(外交)
13日  サパティスタ民族解放軍(EZLN)、「非常事態宣言」を解除。15日、設営地での活動を再開。(内政)
13日  PAN、次期メキシコ市長選に関し、候補者選出の党内プロセスを決定。(内政)
13日  モラティノス・スペイン外相、モンティリャ通産観光相、ロペス司法相、カルデラ労働相他3名、メキシコを訪問(〜14日)。13〜14日、第7回メキシコ−スペイン二国間委員会開催。移民協定に関し、意見の相違。14日、モラティノス西外相、ロペス・オブラドール・メキシコ市長と会談。(外交)
15日  厚生省、緊急避妊用ピル(モーニングアフターピル)を「基礎医薬品」として承認。カトリック教会、アバスカル内相及びPANが猛反発。見直しを迫るも、本件は発効。フレンク厚生相と内相の間にしこり。(内政)
15日  デルベス外相、国連PKOへのメキシコ国軍の参加は未だに合意に達していないと改めて強調。(外交)
17日  ロペス・オブラドール・メキシコ市長、次期大統領選挙にむけて「公約50」を発表。実質的に選挙活動開始。(内政)
18日  外務省、国際問題担当次官に法学者ゴンサレス氏を任命。(内政・外交)
20日  連邦下院常任委員会、大統領に対する歳出予算の被服費項目から「配偶者」を削除すると決定。21日、フォックス大統領、本件を提案した議員を非難。22日、マルタ・フォックス大統領夫人も反論。一方、下院議員からも反発。25日、マルタ夫人、購入した服飾品はすべてガンに罹っている子供のためのNPOに寄付すると表明。(内政)
20日  連邦上院、臨時会期を終了。(内政)
25日  ビエルサ・アルゼンチン外相、メキシコを訪問。第2回メキシコ−アルゼンチン二国間委員会開催。(外交)
26日  ロペス・オブラドール・メキシコ市長、メキシコ市議会へ辞表を提出。29日、辞任。30日、PRD党内予備選への立候補登録。31日、PRD、ロペス・オブラドールを大統領候補として承認。(内政)
26日  メキシコ市第5刑事高等裁判所、1971年の学生に対する大量虐殺事件に関し、エチェベリア元大統領とモヤ・パレンシア元内相に対する逮捕状請求を棄却。連邦検察庁は反発。27日、大統領府、本件への両名の関与を認め、有罪との見解を発表。(内政)
26日  ガルサ駐メキシコ米国大使、再度メキシコ北部国境地域の治安状況を批判。27日、メキシコ外務省、同地域の治安状況は認めるが、批判は受け入れられないと反発。29日、在メキシコ米国大使館、8月1日付でタマウリパス州ヌエボ・ラレド市の領事館を一時閉鎖すると発表。メキシコ政府はこの決定に抗議。(外交)
27日  「サトウキビ(砂糖)産業法」の官報掲載を求め、サトウキビ労働者約2万人がメキシコ市で大規模デモ。(内政)
28日  フォックス大統領、パナマを訪問(〜29日)。28日、第4回カリブ諸国連合首脳会合出席。29日、トリホス大統領と会談。(外交)
29日  メキシコ市議会、ロペス・オブラドール・メキシコ市長の後任として、エンシーナス同市内務長官を任命(就任は8月2日)。(内政)
29日  ペレス・ロケ・キューバ外相、現在のメキシコ−キューバ関係は正常とは言い難いが、フォックス政権中の関係修復は困難と発言。(外交)

 

<内政>
1.各党党内予備選の動き
(1)PAN(国民行動党)
10日に立候補登録が締め切られ、12日、サンティアゴ・クリール前内相、フェリペ・カルデロン前エネルギー相及びアルベルト・カルデナス前環境相の3人が、党内予備選に向けた選挙活動を開始した。出馬を表明していたフランシスコ・バリオ前下院PAN会派長は、党内予備選は公平に行われないとして、立候補を取りやめた。3者とも、テレビCMを使っているが、クリール候補のスポット数が圧倒的に多く、「テレビサ社からの便宜があるのでは」との疑いも出ている。多すぎるとして党内外から批判されていた予備選における選挙資金上限額は、20日、40%程下方修正された。
(2)PRD(民主革命党)
5日、クアウテモック・カルデナス元党首が出馬を取り止め、実質的にロペス・オブラドール・メキシコ市長(以下AMLO)が唯一の候補となった。AMLOは29日に選挙戦に集中するためメキシコ市長を辞職し、30日に予備選立候補登録を行った。31日、PRDは予備選に立候補したのがAMLOだけだったとして、選挙なしでAMLOを大統領候補として承認した。しかし、連邦選挙機関への立候補登録は11月以降になる見込みである。
   AMLOは、17日、「公約50」を発表し、本格的な選挙活動を開始した。
(3)PRI(制度的革命党)
12日、党内予備選が「市民一般投票」で実施されると決定したものの(承認は15日)、それ以外の枠組みはまだ決まっていない。当初7月15日に予定されていたマドラソ党首の辞任も、「反マドラソ・グループ(TUCOM)」の候補者決定も、8月上旬以降に延期された。TUCOMは、25日からグループ内の候補者選出のための世論調査を開始した。同グループ内では、ジャクソン上院PRI会派長とモンティエル・メキシコ州知事の一騎打ちとなると予想されている。

2.メキシコ州及びナヤリット州選挙結果
   3日、メキシコ州とナヤリット州知事選挙、ナヤリット州議会選挙及び市町村首長選挙が実施された。
(1)メキシコ州
 エンリケ・ペニャPRI候補が、他候補に20%以上の得票差を付け圧勝した。同州は、メキシコ全体の12%に上る有権者を有し、また、主要3党の支持者の割合も全国バランスと似通っていることから、「次期大統領選の前哨戦」として注目度が高かった。しかし、PANとPRDの候補はスキャンダル等のために支持を伸ばせず、また、投票率が約42%と低く、結果的に強い地盤を持つPRIが、固定票で勝った形となった。メンドーサPAN候補は、当初支持率で1位だったが、その優位を保てず、最終的には2位PANと3位PRDは僅差という結果となった。
(2)ナヤリット州
   州知事選挙では、予想に反し接戦となり、ネイ・ゴンサレスPRI候補が僅差でPRD候補を破り当選した。一方、州議会選挙ではPRIの圧勝となり、過半数議席を獲得した。また、市町村首長選挙でも、PRIは既得ポストを維持した。
  他方、現州知事の所属党であるPANは、州知事選での得票率僅か6%と惨敗した。

 

3.フォックス大統領当選5年
(1)1日付「エル・ウニベルサル」紙による大統領に関する世論調査では、大統領の支持率は低下傾向にあるものの、59%と依然高い数値を保っている。一方、2日付「レフォルマ」紙による世論調査では、フォックス大統領になってから、何らかの変化はあったものの、国にとっては重要な変化ではない(55%)との国民意識が明らかになった他、PANはPRIと大差ない(55%)との見解も示された。
(2)2日、フォックス大統領は、独立記念塔で行われた「民主主義化」記念集会に出席し、現政権の成果及び旧政権からの変化を強調した。しかし、PANが党員を動員したにも拘わらず、出席者は25,000人程(海外メディアでは「8,000人」と伝えたところも有り)で、閑散とした印象だった。当地有識者からは、次期大統領選挙を暗示するかのような惨憺たる結果とのコメントも出された。

 

4.エチェベリア元大統領他に対する逮捕状請求棄却
(1)26日、メキシコ市第5刑事高等裁判所は、1971年6月10日にメキシコ市で起きた学生運動に対して政府が行った「大量虐殺」事件(通称「halconazo」)に関し、本件は「大量虐殺」の定義に当てはまらないとして、エチェベリア元大統領とモヤ・パレンシア元内相に対する逮捕状請求を棄却した。当国では、「二重(重複)起訴の禁止」が定められているため、今回の判決により、「halconazo」関係者全てに対する起訴は出来なくなった。
(2)逮捕状請求棄却の判断を受け、連邦検察庁「過去の社会的・政治的運動に関する特別検察」のカリージョ・プリエト特別検事は、裁判所から示された根拠を不服としながらも、判断には従う旨述べた。
また、大統領府は、27日、裁判所の判断を尊重し遵守するが、「halconazo」への両者の関与は明白であり、有罪であるとの認識を示した。

 

<外交>
1.フォックス大統領の英グレン・イーグルス・サミット出席
(1)7日、フォックス大統領は、英グレン・イーグルスにて開催されたG5(新興経済諸国5カ国:メキシコ、ブラジル、中国、インド及び南アフリカ)首脳会合、及びG−8サミットのアウト・リーチ会合に出席した。
(2)G5首脳は、G−8サミットで実施される国際社会の主要問題の分析に、途上国・新興国の視点を加えるため、G5共通の立場確立を目的に会合を開催した。そして、多国間主義の推進、南北協力への拡大、持続可能な開発へのコミットメントの再確認を通じて、国際協力を強化し、グローバル化の恩恵が全てのセクターに及ぶための取り組みが必要との合意に達した。
(3)アウト・リーチ会合では、フォックス大統領は、中米諸国の債務削減要請、ドーハ・ラウンド交渉進展の重要性、先進国市場における途上国産品のアクセス拡大の必要性、貧困国や新興国の発展支援、及び地球温暖化問題に対する国際社会の協力などについて演説した。
(4)また、G−8及びG5首脳は、7日ロンドンを襲った悲劇的なテロ攻撃を非難し、犠牲者及びその家族に弔意を表した。

 

2.第7回メキシコ−スペイン二国間委員会開催
(1)13〜14日、メキシコ市において、第7回メキシコ−スペイン二国間委員会が開催された。両国は、安全保障・開発・人権保護が相互に関連していることを認識し、国際法と人権擁護の原則に則った多国間システムが必要との点で一致し、国連改革に関しても、包括的な改革との目的を共有していると確認した。また、メソアメリカ地域の成長を促進するためのプエブラ・パナマ計画の重要性を強調した。そして、二国間貿易の拡大を評価し、WTOドーハ・ラウンド交渉成功に向け、各方面で協力することを約束する一方、相互投資推進保護協定更新に向けて、引き続き検討を行うこととした。本委員会では、経済、観光、労働、エネルギー、治安及び司法分野において、両国のカウンターパートの会合が持たれた。
(2)一方、懸案事項である二国間移民労働者協定締結については、委員会開始直前にデルベス・メキシコ外相が、「移民協定については、まさに合意に達しようとしている」旨述べ、期待が高まったが、合意には至らず、交渉継続となった。また、スペインから早期送還を強く求められているメキシコで身柄拘束中のETA構成員と見られるスペイン人6名の引き渡しに関しては、現在、メキシコ−スペイン犯罪人引き渡し条約に基づき、手続きが進められている旨伝えられた。
(3)また、モラティノス・スペイン外相は、14日、次期大統領選挙の最有力候補と目されているロペス・オブラドール・メキシコ市長と、朝食を共にしつつ会談した。

 
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