政務班
2005年08月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>

  内政では、国会が閉会中のためか、大きな動きはなかったが、次期大統領選挙にむけた党内予備選挙のための各党候補の動きが活発化した。特に、PRI(制度的革命党)においては、党首交代を巡り、党内対立の構図が顕在化した。

  また、次期大統領選挙がメキシコ史上初となる在外投票手続きに関し、連邦選挙機関と外務省による協力協定が締結された。

  外交では、メキシコ−米国国境地域の治安悪化を巡り、米国がヌエボ・ラレド市の領事館を閉鎖して物議を醸した他、米ニュー・メキシコ州及びアリゾナ州が治安に関し「非常事態宣言」を発出、改めて治安対策への取り組みが問われた。

 

<クロノロジー>

1日   チアパス州政府、危険と判断された油井及び付属の石油輸送路を閉鎖。PEMEXは、これに反発。環境省を交え、繰り返し話し合い。19日、30日以内に設備の修理をすることを条件に再開。(内政)

1日   タマウリパス州ヌエボ・ラレド市の米国領事館、同市の治安状況を理由に一時閉鎖。3日、アバスカル内相とガルサ駐メキシコ米大使、同領事館の問題に関し、会談。8日、同領事館再開。16日、ガルサ大使、「同領事館一時閉鎖は、改善しないメキシコの治安状況に対する『罰』のようなもの」と発言、メキシコ政府から反発。17日、メキシコ外務省、「一大使の発言として相応しくない」と苦言。18日、ガルサ大使、不適切発言を認める。19日、メキシコ−米国、治安対策に繋がるとして「人身売買対策」に関する合意締結。(外交)

2日   エンシーナス前メキシコ市内務長官、メキシコ市長に就任。3日、市政府内の人事異動を発表。(内政)

2日   ハリスコ州で起きた手榴弾投げ込み事件、及びヌエボ・ラレド市の治安状況等への対応を議論すべく、治安閣議開催。(内政・治安)

2日   同日付主要紙、「次期上院議員選にヌエボ・レオン州から出馬するため、然るべき時期に辞任する」とのエリソンド・エネルギー相の発言を掲載。同日付「エル・ウニベルサル」紙は、エリソンド観光相も次期上院選への出馬の意向を持つと発表。(内政)

3日   PRD(民主革命党)、次期メキシコ市長選の党候補者選出に向け「TUCOI(Todos Unidos con la Izquierda)」結成を発表。7日、正式に発足。旧来の左派でないエブラール・メキシコ市社会開発長官の締め出し傾向が顕著に。(内政)

4日   PRI(制度的革命党)「反マドラソ・グループ(TUCOM)」、次期大統領選に向けた党内予備選の統一候補としてモンティエル・メキシコ州知事を選出。(内政)

5日   CTM(メキシコ労働者連合)、PRI大統領候補としてマドラソ党首の支持を表明。6日、アルカイネCTM書記長、急死。9日、新書記長として、ガンボア・メキシコ市労働者連合代表を選出(任期は2010年まで)。新体制でもマドラソ支持は変わらず。(内政)

6日   マルコス・サパティスタ民族解放軍(EZLN)副司令官、約4年振りに公に姿を見せる。次期大統領選挙で、PRDとその候補者であるロペス・オブラドール前メキシコ市長の不支持を表明。(内政)

8日   連邦最高裁、カスタニェダ前外相の訴えを退け、大統領選には政党に所属しない者は出馬出来ないとの判決。(内政)

9日   PAN(国民行動党)の大統領選党内予備選の立候補者、党の連帯を維持するとの合意に署名。(内政)

10日  フォックス大統領夫妻とエンシーナス・メキシコ市長、「国民健康保険(Seguro Popular)」のメキシコ市における運用開始記念式典に出席。エンシーナス市長、メキシコ市と連邦政府との新たな関係構築を宣言。(内政)

10日  メキシコ市議会、「公金の不正使用」及び「職権濫用」の疑いがあるとして、エブラール・メキシコ市社会開発長官の辞任を求める合意を承認。11日、エンシーナス・メキシコ市長、この要求を拒否。(内政)

10日  外務省、新駐キューバ・メキシコ大使として、イグナシオ・ピニャ氏を任命。両国間の関係正常化を目指すと発表。(外交)

11日  ロペス・オブラドール前メキシコ市長、国内遊説を開始。次期大統領選に向けた選挙運動本格化。(内政)

11日  連邦選挙裁判所、ゴルディージョPRI事務局長がマドラソ党首の辞任を受けて党首に就任した場合、本年3月の党大会で改正された党則のように、60日以内に党首選挙を公示する必要はなく、2006年末まで党首の座に留まれるとする判決。(内政)

11日  CNOP(全国人民組織連盟)、PRI大統領候補としてマドラソ党首支持を表明。(内政)

12日  米ニュー・メキシコ州知事、メキシコ国境地域での治安悪化を問題視し、「非常事態宣言」を発出。国境地帯の監視などの治安対策強化のために、追加予算適用を発表。16日、米アリゾナ州知事も同様の措置。17日、メキシコ政府、メキシコ人移民保護及び人身売買筧者処罰を目的とした「オアシス」計画を発表。19日、アリゾナ州知事とソノラ州知事、国境地域の治安対策に協力してあたることで合意。ニュー・メキシコ州とチワワ州政府間でも、治安対策を話し合う会合を開催。(外交・治安)

17日  元移民労働者(braceros)団体、米国における預金の保障を訴え、内務省でデモ。一部暴徒化。(内政)

18日  連邦選挙機関(IFE)、来年度予算として約5億ペソを請求。各方面から、非常識な額との批判が続出するも、必要額と強調。(内政)

20日  PRD、労働党及び結集党、「左派戦線(Frente de Izquierdas)」推進で合意。カルデナス元PRD党首、左派を連合し大統領選挙への出馬を仄めかす発言(後に出馬を否定)。(内政)

21日  フォックス大統領、次期大統領選でどの政党の候補者が勝利しても、結果を尊重すると明言。同時に、各政党も選挙プロセス及び選挙結果を尊重するよう呼び掛け。(内政)

22日  米国からの輸入中古車(通称「autos chocolates」:製造後10〜15年経過した車)合法化条例、官報に掲載、23日、施行。国内自動車業界から反発。また、環境面にも影響が懸念されるとの見解も。31日夜、メキシコ市で大規模抗議行動。(内政)

22日  「ミレニアム開発目標:中南米からの視点」と題するイベント開催。フォックス大統領、マチネア国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)事務局長を始め、メキシコ政府閣僚らが参加。(外交)

22日  スペクター米上院司法委員会委員長、メキシコを訪問(〜23日)。フォックス大統領及びカベサ・デ・バカ連邦検察長長官と移民、国境地域の治安問題や麻薬組織対策などについて会談。(外交)

23日  マドラソPRI党首、ゴルディージョ事務局長及びモンティエル・メキシコ州知事会談。予備選及び党首交代について議論するも、選挙資金上限等以外、根本的な点では合意出来ず決裂。同日、マドラソ党首派は、ゴルディージョ事務局長が後任党首となることに不満を表明。25、26日、マドラソ党首、後任党首就任を断念するようゴルディージョ事務局長に打診するも、拒否。29日、ゴルディージョ事務局長、マドラソ党首と決裂。30日、ゴルディージョ事務局長、インタビューで新党「新同盟」発足を助けたと発言、PRIから追放すべきとの声が上がる。31日、マドラソ党首辞任、新党首にマリアノ・パラシオス党全国政治評議会秘書官が就任。ゴルディージョ事務局長は、連邦選挙裁判所に提訴。(内政)

26日  カストロ・キューバ国家評議会議長、在メキシコ・キューバ人が、米国へのキューバ人不法移民斡旋を行っているとして、非難。(外交)

29日  外務省、ハリケーン・カトリーナの被害に関し、米ニューオリンズ地域在住メキシコ人に対する援助を発表。31日、外務省、同ハリケーンによる在米メキシコ人被災者の数を約10万人と試算。(外交)

30日  連邦選挙機関と外務省、2006年大統領選挙の在外投票手続きに関する協定締結。(内政)

30日  連邦下院、次期会期下院議長にエリオドロ・ディアス議員(PRI)を選出。PRDは不満を表明。(内政)

31日  連邦下院、次期会期上院議長にエンリケ・ジャクソン議員(PRI)を選出。(内政)

31日  内務省、不法移民の合法化プログラムを発表(9月1日施行)。(内政)

 

<内政>

1.各党党内予備選の動き

(1)PAN(国民行動党)

  9日、「党を分裂させるような動きはしない」と3候補者が合意し、候補者間の「非難合戦」は収まりを見せている。

  また、9月8日に、候補者による第1回政策ディベートが行われることが決定した。

(2)PRD(民主革命党)

  11日、ロペス・オブラドール前メキシコ市長(以下AMLO)は、国内遊説を開始し、本格的に選挙運動を始めた。カルデナス元PRD党首は、PRDの党内予備選への立候補を見送ったものの、未だに大統領選への出馬を仄めかす発言を繰り返しており、なかなか調整が出来ていない。PRDは、「AMLOでなければ勝利出来ない」と重ねて発言しているが、左派の一部やマルコス・サパティスタ民族解放軍副司令官からは、「AMLOは左派の候補者ではない」との批判も出ている。

(3)PRI(制度的革命党)

  4日、「反マドラソ・グループ(TUCOM)」は、統一候補としてモンティエル・メキシコ州知事を選出した。ジャクソン上院PRI会派長も敗北を受け入れた。TUCOMは、早速、次期党首に就任予定であるゴルディージョ事務局長との交渉を開始した。

  マドラソPRI党首は、8月中旬に党首辞任予定だったが、再度延期した。党首交代や党内予備選の方法に関し、23日、マドラソ党首、ゴルディージョ事務局長及びモンティエル知事が3者会談を行ったが、選挙公示は9月上旬、選挙資金上限は各候補4900万ペソという点が決まっただけで、決裂した。マドラソ党首派は、ゴルディージョ事務局長の党首就任に強い懸念を示しており、何とか阻もうとしているが、一方、29日、ゴルディージョ事務局長はマドラソ党首との話し合いを完全に拒否し、連邦選挙裁判所に提訴すると発表、31日に訴状を提出した。31日、PRIは全国政治評議会(CPN:Consejo Politico Nacional)を開催、マドラソ党首の後任としてマリアノ・パラシオス全国政治評議会秘書官を選出した。マドラソ党首は同日辞任した。

  党内の労働者セクター(CTM:メキシコ労働者連合)は、6日、アルカイネ書記長が急死したものの、マドラソ党首支持を引き続き表明し、更に人民セクター(CNOP:全国人民組織連盟)もマドラソ党首支持を表明した。

 

2.連邦選挙機関と外務省による在外投票手続きに関する協定締結

30日、ウガルデ連邦選挙機関(IFE)評議員長とデルベス外相は、2006年大統領選挙でメキシコ史上初めて実施される在外投票手続きに関する「在外投票推進のための協力協定」に署名した。本協定により、IFEは、各国のメキシコ大使館及び領事館において、在外投票に関する情報、及び在外選挙人登録申請用紙を配布可能になるなどの便宜を受けることが出来る。

また、IFEは、在外投票手続きに関する質問に対応するため、メキシコ国内フリーダイヤル開設を発表した。

 

<外交>

1.治安を巡るメキシコ−米国関係

(1)7月29日、在メキシコ米国大使館は、タマウリパス州ヌエボ・ラレド市の治安状況が著しく悪化しているとして、8月1日より改善が見られるまで一時的に領事館を閉鎖する旨発表した。メキシコ外務省を始め、タマウリパス州知事やヌエボ・ラレド市長らから「極端なやり方」と反発が出たものの、予告通り領事館は閉鎖された。3日、アバスカル内相はガルサ米国大使と会談し、治安改善対策を説明、ガルサ大使は、メキシコ政府の取り組みに理解を示し、8日、ヌエボ・ラレド市の領事館は再開した。

  しかし、ヌエボ・ラレド領事館領事がインタビューに答え、予め営繕の為に8月1日から8日まで領事館を閉鎖することは決まっていたと述べて物議を醸した他、16日には、ガルサ大使が、「ヌエボ・ラレド領事館閉鎖はメキシコに対する『罰』のようなもの」と発言し、メキシコ政府から「一国の大使として不適切な発言」との不快感が示された。18日、ガルサ大使は、メキシコ政府からの指摘を受け入れた。また、19日、治安改善に繋がるとして、両国間で「人身売買対策」に関する合意が結ばれた。

(2)国境地域の治安悪化に対する懸念は、タマウリパス州のみに留まらず、米国側の国境州にも拡大した。12日にニュー・メキシコ州、16日にはアリゾナ州政府が「非常事態宣言」を発出、監視強化などの治安対策強化の為に追加予算を充てると発表した。また、アリゾナ州はソノラ州と、ニュー・メキシコ州はチワワ州と、治安対策に関する二国間協力について話し合いを持った。

  一方、17日、メキシコ政府は、国境地域の治安改善に繋がるとして、メキシコ人移民保護及び人身売買関係者処罰を目的とした「オアシス計画」を発表し、米国国土安全保障省国境保護・関税局と合意した。

 

 
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