<概要>
内政では、2006年大統領選挙に向けた各党の動きが活発化、PRIは、新党首の選出を巡る内紛の末、ゴルディージョ事務局長が辞任、また、28日に公示された党内予備選挙の方法を巡り、モンティエル前メキシコ州知事がマドラソ新党首を激しく批判するなど波乱含みである。PANは、党内大統領候補選出予備選挙第1タームを実施し、各種世論調査等の事前予測に反して、カルデロン元エネルギー相が2位のクリール前内相に10%以上の差を付け圧勝、その後も優勢が伝えられた。
また、ウエルタ治安相がヘリコプター事故で死亡し、その直後に、農牧相、エネルギー相が相次いで辞任を表明したため、フォックス大統領は内閣改造を断行、治安相、農牧相、エネルギー相及び経済相を新たに任命した。
外交では、メキシコ政府は、対アジア関係を中心に積極的な外交活動を展開。廬武鉉・韓国大統領及び胡錦濤・中国国家主席がメキシコ訪問し、フォックス大統領と会談した。また、デルベス外相及びルエヘ環境相が訪日し、日墨関係強化に努めた。
<クロノロジー>
1日 フォックス大統領、第5次年次教書発表。(内政)
1日 国会定例会期開催。上・下院の新執行部が発表されるも、議長以外はほとんど変更なし。(内政)
1日 当地主要各紙、フォックス大統領の支持率を61%と発表。(内政)
1日 連邦政府、ハリケーン・カトリーナの被害に対する支援発表。6日、救援物資を積載した軍用艦と国軍トラック、米国へ向けて出発。6日、エリソンド・エネルギー相、メキシコはエネルギー面では米国を援助出来ない旨発言。8日、国軍のトラック、195人の兵士を載せ、テキサス州へ入る。9日、本格的復興支援開始。10日、米国政府、今回の支援に対する謝意を表明。12日、ブッシュ大統領、ミシシッピ州のメキシコ軍設営地を訪問、激励。(外交)
2日 連邦政府、メキシコ石油公社(PEMEX)の財務枠組み(収益還元)枠組み修正を、下院へ差し戻し。「無責任」として政財界から批判続出。(内政)
3日 カスタニェーダ前外相、「政党に所属しなければ立候補出来ないとの最高裁判断は憲法違反」として、米州機構人権委員会への提訴を表明。(内政)
3日 PVEM(緑の党)、新党首にゴンサレス現党首を再選。(内政)
3日 マドラソ前PRI党首、大統領選挙のための党内予備選の選挙運動開始。(内政)
4日 オバサンジョ・ナイジェリア大統領、メキシコを訪問(〜5日)。5日、フォックス大統領、上院執行部議員らと会談。(外交)
5日 連邦政府、来年度予算案を下院へ提出。(内政)
5日 斡旋収賄容疑で逃亡中のフローレス前メキシコ市グスタボ・A・マデロ区長、逮捕される。これで「ビデオ・スキャンダル」関係者のほぼ全員が身柄を拘束されたことに。(内政)
6日 全国教職員組合(SNTE)、マドラソ前PRI党首不支持を表明。(内政)
7日 エブラール・メキシコ市社会開発長官、次期メキシコ市長選出馬のために辞任。後任の社会開発長官にはマルタ・ペレス氏が任命される。(内政)
8日 ロペス・オブラドール前メキシコ市長とその支持者、電話による寄付を認めないのは、連邦選挙機関(IFE)による資金調達妨害だと批判。12日、IFE、電話による選挙資金寄付を承認。(内政)
8日 廬武鉉・韓国大統領、国賓としてメキシコを訪問(〜11日)。9日、フォックス大統領との首脳会談、共同記者会見及び上院議員と会談。(外交)
11日 PAN(国民行動党)党内予備選第1ターム実施。カルデロン候補が、クリール前内相に10%以上の差をつけ勝利。(内政)
11日 胡錦濤・中国国家主席、国賓としてメキシコを訪問(〜13日)。12日、フォックス大統領との首脳会談、共同記者会見及び上院での演説を行う。(外交)
12日 フォックス大統領、天然ガスに関するエネルギー改革のイニシアティブ10項目を発表。採掘などへの民間資本導入などが入っており、議会は反発。(内政)
13日 連邦下院、購入額1200ペソ以上の場合、IVA(付加価値税)を旅行者へ返還する法案を可決。(内政)
13日 フォックス大統領、国連総会出席のためニューヨークを訪問(〜15日)。14日、国連総会で演説。(外交)
13日 ルエヘ環境天然資源大臣が訪日(〜16日)、小池環境相らと会談、愛・地球博のメキシコ・ナショナル・デーのイベントに参加。(外交)
15日 連邦選挙裁判所、ナジャリット州知事選挙及びメキシコ州知事選挙に関し、選挙プロセスに不適切な行為が見られたことを認めつつ、両州知事選挙の結果を承認。(内政)
16日 連邦選挙裁判所、8月31日のPRI全国政治評議会臨時総会におけるパラシオスPRI新党首選出プロセスの有効性を認め、ゴルディージョPRI事務局長の訴えを棄却。20日、ゴルディージョPRI事務局長、連邦選挙裁判所の判決を受けて、辞任を表明。30日、PRI中央執行委員会、ロサリオ・グリーン元外相を新事務局長に任命。
17日 組織犯罪対策に成果を上げていたと言われるミチョアカン州政府公共治安局長、殺害される。州検察当局、手口が犯罪組織のものであることを示唆。(内政)
18日 サパティスタ民族解放軍(EZLN)、チアパス州にて全体会議を開催。各党の大統領選挙キャンペーンと並行して、メキシコ全州を約半年で行進する「もう一つのキャンペーン」計画を発表。(内政)
21日 ラヴロフ露外相、メキシコを公式訪問。デルベス外相との会談、フォックス大統領への表敬訪問を実施。(外交)
21日 治安省のヘリコプターが墜落、同乗していたウエルタ治安相、バレンシア連邦予防警察長官他7名が死亡。内務省、事故の原因を濃霧による視界不良と発表。(内政)
23日 デルベス外相、訪日(〜27日)。愛・地球博閉幕式に出席し、町村外相及び中川経産相と会談。また、皇太子殿下に謁見。(外交)
25日 コアウイラ州知事選挙実施。前評判通り、PRI候補が圧勝。(内政)
26日 ウサビアガ農牧相、グアナファト州知事選挙出馬のため辞任。27日、エリソンド・エネルギー相、上院議員選挙出馬のため辞任。28日、フォックス大統領、メディナ新治安相、マヨルガ新農牧相を任命。カナレス経済相を新エネルギー相に、ガルシア・デ・アルバ中小企業担当経済次官を新経済相に任命。(内政)
28日 本使、フォックス大統領に信任状捧呈。(外交)
28日 PRI中央執行委員会、党公認大統領候補選挙を公示。モンティエル前メキシコ州知事、今回発表された選挙プロセスに抗議し、修正を要求。(内政)
29日 フォックス大統領、カナダ訪問(〜30日)。メキシコ・カナダ首脳会談、共同記者会見実施。(外交)
30日 フエンテス連邦選挙裁判所長官が「私的事情」を理由に辞任。同日、アラニス連邦選挙機関(IFE)事務局長がウガルデIFE評議員長との信頼関係の欠如を理由に辞任。(内政)
<内政>
1.第5次大統領年次報告
(1)1日、フォックス大統領は、第5次大統領年次報告を行った。しかし、今回の報告は、昨年の実績ではなく、「民主主義」を強調し、現政権の5年間を総括的に綴り、また、来年に控えた次期大統領選挙へ向けてのメッセージといった色合いが濃かった。具体的な指標に欠け、攻撃する内容が出なかったためか、今回野次の数は僅か4回と極めて少なく、演説時間も40分と非常に短いものであった。
一方、下院周辺では、デモを警戒してこれまで以上の厳戒態勢が敷かれ、与党の議員からすら批判が出る程であった。
(2)当地有識者からは「新たな教書」として評価する声も一部にはあったものの、大半は「今回の教書は『教書』ではない」との見解を示した。また、当地主要メディアは、大統領は非常に疲れ切っているように見え、嫌々年次報告をしているようだった」と批判した。
(3)他方、1日付当地主要各紙が発表した大統領支持率は、「レフォルマ」紙も「エル・ウニベルサル」紙も61%であり、いずれも前回6月調査時から上昇する結果となった。
2.ウエルタ治安相の事故死及び2閣僚の辞任
(1)21日、ラモン・マルティン・ウエルタ治安相が乗っていたヘリコプターが墜落し、同大臣他8名が死亡した。当初、本件に関し、一部メディアでは麻薬カルテルの関与が取り沙汰されたが、内務省は事故の原因について、濃霧による視界不良のため、岩壁に激突した模様であると発表した。
(2)26日、ウサビアガ農牧相がグアナファト州知事選挙出馬のため辞任を表明、さらに、同日、エリソンド・エネルギー相も2006年上院議員選挙出馬を理由に辞任した。
(3)1週間で3閣僚を失ったことを受けて、フォックス大統領は内閣改造を余儀なくされ、27日、メディナ国家安全調査局長官を新公共治安相に、28日、マヨルガ農産物商品化支援局長官を新農牧相に、さらに、カナレス経済相を新エネルギー相に任命し、その後任としてガルシア・デ・アルバ中小企業担当経済次官を新経済相に任命した。
3.大統領選挙に向けた各党の動き
(1)制度的革命党(PRI)
(イ)8月31日にPRI全国政治評議会臨時総会にて、マドラソ前PRI党首が辞任し、マリアノ・パラシオス新党首が選出された。これに対して、PRI党規約上、後任党首に就任する資格があるとされていたゴルディージョ事務局長は、新党首選出プロセスの無効を主張し、連邦選挙裁判所(TEPJF)に提訴したが、15日、TEPJFがゴルディージョ事務局長の訴えを却下し、これを受けて、19日、ゴルディージョ事務局長はPRI事務局長職を辞任した。辞任後の記者会見で、ゴルディージョ事務局長は、マドラソ前PRI党首が嘘つきであることを知らずに、PRIを改革したい一心で同前党首と協力したことが間違いであった旨述べるなど、同前党首への敵意を剥き出しにした。
なお、30日、PRIの中央執行委員会(CEN)は、後任の事務局長としてロサリオ・グリーン元外相を任命した。
(ロ)28日、CENは、党公認大統領候補選出のための党内予備選を公示した。予備選は、11月13日に直接・秘密投票形式で行われる。PRI党員に限らず、IFEの選挙認証を持つ者は誰でも投票権を持つ。1カ所の投票所に、その地域でIFEの選挙人名簿に登録されている人数の15%にあたる数の票が割り当てられる。割り当ての票が無くなった時点で、当該投票所における投票は打ち切りとなる。モンティエル候補(前メキシコ州知事)は、「マドラソのやり方で決められた公示である」と述べCENを批判した。
(2)国民行動党(PAN)
11日、PAN党内大統領候補選出予備選挙第1タームが実施され、大方の予想に反して、カルデロン候補(元エネルギー相)が、得票率45.7%で、2位のクリール候補(元内相)に得票率にして10%以上の差を付け圧勝。(クリール内相の得票率は35.5%。)(なお、10月2日に実施された第2タームでも、カルデロン候補は53.35%の得票率で、2位のクリール候補の33.04%に約20%の差を付けて勝利。)
4.不法移民の合法化プログラム施行
8月31日、内務省は、2001年以前にメキシコに不法入国し、且つ現在も当国に居住している外国人の合法化プログラムを発表し、1日、本プログラムが施行された。この不法移民合法化プログラムは恒常的なものではなく、2005年9月1日から2006年6月末までの期限付きで実施される。また、手続きを申請した者を不法滞在者として強制退去させることはないとしている。
<外交>
1.ハリケーン・カトリーナによる被害に対する政府対応
(1)1日、フォックス大統領は、米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナの被害に対し、援助を申し出る緊急記者会見を行った。4日、メキシコ政府は、具体的支援策として100万ドルの緊急援助(米赤十字を経由し供与)、トラック15台分の飲料水、食糧及び医薬品、船舶2隻、ヘリコプター2機、水陸両用車15台などの提供を発表した。6日には救援物資を載せた軍用艦と陸軍のトラックが出発、8日、トラックが米国へ入国すると、「メキシコ軍が米国本土へ入ったのは159年ぶり」と大々的に報道された。
(2)メキシコ軍の緊急支援チームは、ミシシッピ州及びテキサス州において人道支援活動を行い、12日にはブッシュ米大統領がミシシッピ州の設営地を激励に訪れた。また、米国政府から、今回の支援に対する謝意が示された。
(3)当地主要メディアは、今回の支援活動は、米国におけるメキシコのイメージ改善に繋がるだろうとの見解を発表した。
2.廬武鉉・韓国大統領のメキシコ訪問
(1)8〜11日、 廬武鉉・韓国大統領は、国賓としてメキシコを訪問した。今回のメキシコ訪問には、韓国外相を始め、経済・産業・エネルギー相、教育・情報相、科学技術相及び行政・内務相が同行した他、韓国の企業家も多数訪れた。
(2)9日、両国首脳は、首脳会談を行い、刑事分野に関する相互司法協力協定を始めとする計6つの協定や覚書を締結した。両国首脳は、友好関係が強化されてきていることを評価し、今後も様々な分野での協力関係強化を模索し、包括的な「戦略的経済補完協定(SECA)」締結を目指すとした。フォックス大統領は、韓国の農産品市場の一層の開放を望む発言も出た。
一方、廬韓国大統領は、今回の訪問で、協力協定の合意に至らなかった点に不満を述べ、更に、より良い友好関係及び協力関係を結ぶために、二国間の経済関係に横たわる障害や問題を取り除いて欲しい旨要望が出された。
3.胡錦濤・中国国家主席のメキシコ訪問
(1)11〜13日、胡錦濤・中国国家主席は、国賓としてメキシコを訪問した。今回のメキシコ訪問には、唐家セン国務委員や李肇星外交部長も同行した。
(2)12日、両国首脳は、首脳会談を行い、所得税に関する二重納税防止及び脱税予防のための合意など、計7つの合意や議定書などを締結した。両国首脳は、両国の関係、特に経済関係が年々拡大されている点を評価し、今後も引き続き戦略的パートナーシップを強化していくことで合意した。また、文化・教育分野における交流の重要性も確認された。
(3)共同記者会見において、フォックス大統領は、両国間の問題となっている密輸に関して、協働して密輸や非合法取引の削減について取り組んでいこうとの提案が、胡国家主席から出されたと述べた。また、広州市に新たな領事館を開設すると発表した。
一方、胡国家主席は、中国側は、メキシコ製品の中国市場進出を歓迎する旨述べ、農業、漁業、鉱業、家電、繊維産業などの分野においても、協力や投資についての議論に応じると表明した。
4.フォックス大統領のカナダ訪問
(1)29日〜30日、フォックス大統領は、カナダを訪問し、30日、共同声明を発出した。首脳会談では、2国間関係について、2004年10月に締結された「カナダ・メキシコ・パートナーシップ」の成果を確認するとともに、両国首脳は、同パートナーシップのワーキング・グループに、両国の競争力の強化、学生交流、学術・科学的交流の促進、住居供給の改善、及び農業関連産業における協力の開始を要請した。
(2)また、北米地域に関して、NAFTAの機能及び手続きの強化に合意するとともに、競争力強化、生活水準の向上及び安全保障面で協力していくことで一致した。
(3)第60回国連総会首脳会合のフォローアップとして、平和構築委員会、人権理事会及び「保護する責任」等の分野における協力を確認した。
5.オバサンジョ・ナイジェリア大統領のメキシコ訪問
4〜5日、オバサンジョ・ナイジェリア大統領は、メキシコを訪問し、5日、フォックス大統領との首脳会談及び上院議員等との会談を行った。両国首脳は、混合委員会の設立を決定し、エネルギー分野などでの拡大を図ることで合意した。
また、大統領府プレス・コミュニケは、年内にメキシコ商業ミッションがナイジェリアを訪問し、その後ナイジェリア企業グループがメキシコを訪問予定である旨伝えた。