政務班
2005年11月のメキシコの内政・外交の概要
 

  内政では、PRI(制度的革命党)が党内選挙を実施し、主要3党の大統領候補が出揃った。大統領候補決定を受けて実施された世論調査では、調査機関毎の数値のばらつきが激しく、PRIやPRD(民主革命党)からは、数字を操作しているのではないかとの批判が出た。

 客年非常にもめた予算案審議は、大きな混乱もなく、歳入、歳出予算案とも可決された。

 外交では、米州サミットにおけるFTAA反対国に関するフォックス大統領の批判発言が波紋を呼び、メキシコ−ベネズエラ両国が大使を召還する事態に発展した。また、フジモリ元ペルー大統領のメキシコ立ち寄りを巡るメキシコ政府の対応に関し、通報遅延などの批判が出た。

<クロノロジー>

1日   フォックス大統領、ハリケーン・スタンによるチアパス州被災地の復興資金として85億ペソを自然災害基金(Fonden)から拠出すると発表。(内政)

1日   メキシコ市選挙機関、2003年選挙の際に選挙違反があったとして230万ペソの罰金をPRD(民主革命党)へ科す。(内政)

2日   フォックス大統領、国賓としてコスタリカを訪問(〜3日)。デルベス外相も同行。パチェコ・コスタリカ大統領と会談。(外交)

3日   マドラソ前PRI(制度的革命党)党首とモレノ元下院議員、大統領候補選出のための党内予備選を前に、テレビ政策討論会開催。5日、ラバスティダ前大統領候補、PRI大統領候補として党外候補擁立を示唆。マドラソ、モレノ両候補及び党中央執行部からの反発があり、10日、右発言を撤回。13日、PRI党内予備選実施、マドラソ候補圧勝。16日、党中央執行部、マドラソ候補をPRI大統領候補と承認。(内政)

3日   フォックス大統領、デルベス外相及びサラサール労相を伴いアルゼンチンを訪問(〜5日)。4〜5日、マル・デル・プラタで開催された第4回米州サミット首脳会合出席。5日、インタビューの中でサミット議長を務めたキルチネル・アルゼンチン大統領を批判。7日、右発言が報道され、8日、キルチネル大統領、痛烈にフォックス大統領を批判。9日、メキシコ−アルゼンチン両国外相が会談し、両国の友好関係を確認し、収束。(外交)

5日   フジモリ元ペルー大統領、チリへ向かう途中、ティファナ空港立ち寄り。6日、内務省、右立ち寄りに関し、プレス・コミュニケ発出。7日、アバスカル内相及びデルベス外相、対応の遅れに関し弁明。同日、アバスカル内相、本件の調査を命令。8日、連邦上院、本件に関し、責任者の召喚を含めた調査を上院外交委員会で審議すると決定。11日、内務省、本件に関する調査結果を発表し、職務遂行怠慢などを理由に移民局関係者6名を懲戒免職処分。18日、フォックス大統領、本件に関し、ペルーへの通報遅延の原因究明をトレド・ペルー大統領に約束。(内政・外交)

8日   連邦上院、PEMEX(メキシコ石油公社)の財務枠組み修正改正案可決。10日、連邦下院、同改正案可決。(内政)

8日   連邦下院、ラテン・アメリカ内で報道関係者にとって最も危険な国はメキシコとの報告を発表。(内政)

9日   チャベス・ベネズエラ大統領、フォックス大統領を「帝国の子飼いの犬」と発言。10日、メキシコ外務省、右発言の説明を求め、駐メキシコ・ベネズエラ大使を召喚。11日、デルベス外相、ベネズエラ大使の説明は不十分として、ロドリゲス・ベネズエラ外相と会談。12日、両国はほぼ合意に至ったと発表。13日、チャベス大統領、再びフォックス大統領を批判。同日、メキシコ外務省、ベネズエラ政府からの謝罪を要求。14日、ベネズエラ外務省、謝罪を拒否し、駐メキシコ・ベネズエラ大使を即日召還。メキシコ外務省も、駐ベネズエラ・メキシコ大使召還を決定。19日、ベネズエラで大規模な「反フォックス」集会開催。21日、メキシコ外務省、正式謝罪がない限り、ベネズエラとの大使級外交関係回復はないと再度発言。23日、ランヘル・ベネズエラ副大統領、謝罪はしないと強調。24日、連邦上院、ベネズエラとの関係に関し、フォックス大統領支持を表明(PRDを除く)。(外交)

10日  連邦選挙機関(IFE)、年末年始の選挙活動自粛「クリスマス休戦(Tregua navidena)」を決定。(内政)

11日  当地主要各紙、アウマダ被告に絡む新たな「ビデオ・スキャンダル」を報道。PRDは、新たな「陰謀」と非難。(内政)

11日  連邦検察庁(PGR)、スイス捜査当局と司法協力協定に署名。特に、マネーロンダリングに関する捜査協力を強化することで合意。(外交)

14日  連邦下院、2006年度歳入予算改正案を可決。引き続き、来年度歳出予算案審議に入り、15日早朝、歳出予算案を可決。(官報へは未掲載)(内政)

15日  ゴルディージョ前PRI事務局長、ラジオ番組においてマドラソPRI大統領候補を直接非難、論争に。同日、PRI中央執行部、ゴルディージョ前事務局長の追放を提案。16日、ゴルディージョ前事務局長の党員資格停止。PRI上院議員、右処分に反発。PRI党内で交渉、18日、連邦上・下院会派長とマドラソ候補支持の協定締結。19日、全国教職員組合(SNTE)、マドラソ候補不支持を正式表明、22日、全国紙にマドラソ候補に反対する全面広告掲載。28日、「レフォルマ」紙、マドラソ候補のオフショア金融を利用した「隠し財産疑惑」を報道。マドラソ候補側は沈黙。29日、マドラソ候補、選挙公約を発表。(内政)

15日  クリール前内相及びカルデナス前環境相、カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補の選挙運動に加わると発表。(内政)

16日  フォックス大統領、APEC出席のため韓国を訪問(〜19日)。17日、ブッシュ米大統領と会談。18〜19日、APEC首脳会合出席。(外交)

18日  「レフォルマ」紙、カルデロンPAN候補とゴルディージョ前PRI事務局長との協合を窺わせる電話の会話を掲載。カルデロン候補は、ゴルディージョ前PRI事務局長との連合を否定。20日、カルデロン候補、盗聴があったとしてPGRに告訴。(内政)

21日  「レフォルマ」紙、カルデロンPAN候補がロペス・オブラドールPRD候補に支持率で肉薄しているとする世論調査結果を掲載。PRDとPRI、数値が操作されていると反発。(内政)

21日  PGRと軍、フアレス・カルテルのボスを逮捕と発表。(内政・治安)

22日  PRI、PAN及び緑の党、民間セクターから提言された国の発展に繋がる次期政権基本政策要請、通称「チャプルテペック合意」に署名。ロペス・オブラドールPRD候補は、署名式に招待されていたが、未だ正式候補ではないとして欠席。(内政)

23日  PRDとPT(労働党)、2006年の全ての選挙で連合を組むことで合意。30日、PRD、結集党との連合にも合意。左派連合結成へ。(内政)

23日  当地主要各紙、選挙人証が米国及びグアテマラで偽造、販売されていると報道。連邦選挙機関(IFE)が調査へ。(内政)

25日  公共行政省、自然災害基金(Fonden)に関し、不正資金流用があったとして、セグラ内務省市民保護担当総括責任者(PAN党員)を懲戒免職処分。セグラ氏及びPANは無実を主張。30日、公共行政省、クリール前内相の本件への関与を否定。(内政)

29日  主要3党大統領候補、在メキシコ米国商工会議所年次総会セミナーにおいて、経済政策について発表。(内政)

29日  ブッシュ米大統領、メキシコ−米国国境は「危険である」として、国境警備強化を表明。メキシコ政府、右発言に反発。30日、アバスカル内相、右発言に苦言。メキシコ人移民の人権保護を重ねて要請。(外交)

30日  IFE、次期大統領選の選挙資金上限を、各候補6億5千万ペソ強と設定。PANとPRDは、「非常識な額」として反発。(内政)

30日  グリア元外相、次期OECD事務総長として正式に指名される。(外交)

 

<内政>

1.2006年大統領選を巡る動き

(1)大統領選出馬予定主要3候補の支持率

(イ)ミトフスキー社(調査実施日:11月10−14日、対象者1,200人、誤差+/−3.1%)(( )内は8月の数字)

・ロペス・オブラドールPRD候補  29.5% (37.9%)

・マドラソPRI候補        25.7% (25.0%)

・カルデロンPAN候補       24.4% ( な し )

(ロ)レフォルマ紙(調査実施日:11月11−14日、対象者1,515人、誤差+/−2.5%)(( )内は8月の数字)

・ロペス・オブラドールPRD候補  29% (40%)

・カルデロンPAN候補       28% (20%)

・マドラソPRI候補        21% (20%)

(ハ)エル・ウニベルサル紙(調査実施日:11月18−22日、対象者1,000人、誤差+/−3.1%)(( )内は6月の数字)

・ロペス・オブラドールPRD候補  34% (35%)

・カルデロンPAN候補       22% (21%)

・マドラソPRI候補        18% (24%)

(ニ)支持率の数値があまりに違うため、PRI(制度的革命党)やPRD(民主革命党)からは、数字が操作されているのではないかとの批判が出た。また、連邦上院でも、世論調査実施基準を設けるべきではないかとの意見が出た。

(2)PRI(制度的革命党)

(イ)13日、大統領候補を選出する党内予備選が実施され、前評判通りマドラソ前PRI党首が約93%の票を集め、圧勝した。16日、党中央執行部は、PRI大統領候補としてマドラソ候補を承認し、マドラソ候補は、29日、大統領選に向けて公約を発表した。

(ロ)予備選に前後して、PRI内部では、党内統一を保つべく、頻繁に会合が持たれた。マドラソ候補を公に支持すると発表し、PRIの一体化が強調される中、ゴルディージョ前PRI事務局長は、ラジオ番組内でマドラソ候補を直接批判し、党中央執行部は前事務局長の追放を提案して、16日、彼女の党員資格を停止した。前事務局長率いる全国教職員組合は、この処分に反発し、マドラソ候補不支持を改めて宣言した。

(ハ)一方、28日から「レフォルマ」紙は連日、マドラソ候補がオフショア金融を利用し、国内外に莫大な資産を隠し持っていると報じた。国内メディアが説明を求めたものの、マドラソ候補は本件に関し沈黙を守っている。

(3)PRD(民主革命党)

23日、コタPRD党首とアナヤPT(労働党)党首は、2006年に実施される大統領選挙、連邦上・下院議員選挙及び全ての地方選挙で連合を組むことで合意した。また、PRDは、30日、結集党とも連合を組むことで合意し、左派連合結成の見込みとなった。連邦選挙機関への登録は、12月7日に行われる予定である。

(4)IFE(連邦選挙機関)

(イ)10日、IFE評議会は、年末年始に選挙活動を自粛する「クリスマス休戦(Tregua navidena)」を全会一致で決定した。自粛期間は12月11日から明年1月18日までとなる。IFEは、フォックス大統領に対しても、同期間中は現政権での成果を発表するスポット広告を流さないように要請し、大統領府もこれを受諾した。

(ロ)30日、次期大統領選挙の選挙資金上限を各候補あたり約6億5千万ペソと決定した。しかし、PAN(国民行動党)及びPRD代表からは、「非常識な額」との批判が出た。

 

2.2006年度歳入出予算案可決

(1)14日、連邦下院は、上院によって修正が加えられた2006年度歳入予算案を可決した。歳入予算総額は約1兆9735億ペソ、PEMEX(メキシコ石油公社)の原油販売基準価格は1バレル当たり36.5米ドルと定められた。

(2)連邦下院は、引き続き来年度歳出予算案の審議に入り、15日早朝、同歳出予算案は可決された。事前の交渉で蚊帳の外におかれたPRDは反対票を投じた。

フォックス大統領は、来年度歳入出予算案可決を歓迎し、来年度歳出予算はしっかりとした根拠に基づいて配分されており、且つ後年に多額の負債を残すこともない質素なものだと評価した。(但し、未だ本予算の官報掲載はなされていない。)

 

<外交>

1.メキシコ−ベネズエラ両国政府による大使召還

(1)5日、アルゼンチンで開催された第4回米州サミットの帰途、フォックス大統領はFTAAに反対した国々、及び議長を務めたキルチネル・アルゼンチン大統領を批判した。右発言に対し、キルチネル大統領が強く反発し、メキシコ国内メディアは、両国関係の危機を伝えた。しかし、9日、両国外相が協議し、両国関係の重要性を再認識し、友好関係を強調した共同コミュニケを発出、事態は収束した。

(2)他方、9日、チャベス・ベネズエラ大統領が、今般の米州サミットにおけるフォックス大統領の態度を批判し、フォックス大統領を「帝国の子飼いの犬」と発言し、メキシコ外務省は、10日、駐メキシコ・ベネズエラ大使を召喚、説明を求めた。しかし、納得出来る説明が得られなかったとして、その後両国外相が会談を行い、12日、ほぼ両国は合意に達したと報じられた。

(3)ところが、13日、チャベス大統領が再びフォックス大統領を批判し、メキシコ外務省はベネズエラ政府からの正式な謝罪を要求するコミュニケを発出した。しかしながら、14日、ロドリゲス・ベネズエラ外相は謝罪を拒否し、駐メキシコ・ベネズエラ大使の即時召還を決定、これを受けて、メキシコ政府も大使を召還した。

(4)メキシコ政府は、ベネズエラ政府からの謝罪がない限り大使レベルの外交関係を回復しないとの立場を崩さず、一方、ベネズエラ政府は、謝罪の意志はないと繰り返し表明し、両国関係は代理公使レベルに縮小されたままである。

 

2.フジモリ元ペルー大統領のメキシコ立ち寄りを巡る波紋

(1)5日、フジモリ元ペルー大統領を乗せたチャーター機が、ティファナ空港に燃料補給の為に寄港した。インターポールから手配されているにも拘わらず同元大統領がメキシコで身柄拘束されなかったことに関し、アバスカル内相及びデルベス外相は、非常に短時間の立ち寄りだったため、実質的に不可能だったと説明した。

(2)しかし、一部報道で、連邦検察庁(PGR)がインターポール本部へ通報していたと伝えられ、7日、アバスカル内相は事実調査を命じた。また、連邦上院でも、本件への対応が問題となった。

(3)11日、内務省は、本件に関し、定められた出入国手続きを行わず、また、報告を怠ったとして、職務遂行怠慢、不正確な情報の提出及び上司への報告の遅れを理由に、ティファナ空港移民局関係者6名を懲戒解雇した。但し、同元大統領の身柄を拘束しなかった点については、身柄拘束は国内法の手続きに則って行うとの立場を説明し、インターポールからの理解を得た。

(4)一方、18日、フォックス大統領はトレド・ペルー大統領と会談し、同元大統領の立ち寄りをペルーへ通報するのが遅延した原因の究明を約束した。

 

3.フォックス大統領のコスタリカ訪問

(1)2〜3日、フォックス大統領は、国賓としてコスタリカを訪問した。3日、大統領はパチェコ・コスタリカ大統領との会談を行い、更に、両国首脳は、両国の発展及び福祉のための共同宣言に署名した。また、エネルギー分野の開発促進及び石油価格高騰や石油不足に対処するための戦略的プラン形成の必要性について合意した。

(2)フォックス大統領は、コスタリカ商工会議所主催の朝食会の席上、近々メキシコと中米各国が共同で、同地域の需要に応えるに足る能力を備えた石油精製プラント建設計画を発表した。

  但し、本計画に関しては、メキシコ国内から非現実的として反対の声が上がり、具体的な協議はされなかった。

 
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