政務班

2006年11月のメキシコの内政・外交の概要

 

<概要>
内政では、オアハカ問題が相変わらず国内の中心的関心事項であり、加えて、APPO(オアハカ人民会議)に対する政府対応に不満を持つ小規模ゲリラによる同時多発爆破事件が起きるなど、治安問題に不安が高まった。
一方、カルデロン次期大統領は、新政権における組閣を発表し、着々と政権移譲の準備が進んだ。しかし、大統領就任式に関しては、野党PRD(民主革命党)が妨害の姿勢を崩さず、与野党による連邦下院本会議場占拠という事態に発展した。
外交では、フォックス大統領がイベロアメリカ・サミットに出席し、そこで米国によるメキシコ・米国国境における障壁建設に関する抗議声明が採択された。フォックス大統領は、最後の外遊としてオーストラリア訪問及びAPEC出席を予定していたが、国内問題を理由に連邦下院が承認せず、結局中止となった。

 

 

<クロノロジー>
1日   セラヤ・ホンジュラス大統領、メキシコを訪問(〜2日)。フォックス大統領及びカルデロン次期大統領と会談。(外交)
2日   オアハカ州立自治大学前のバリケード撤去を巡り、オアハカ人民会議(APPO)と連邦予防警察(PFP)衝突。APPO、アバスカル内相とでなく、フォックス大統領との直接交渉を要求。5日、オアハカ市においてルイス・オアハカ州知事の辞任を求める大規模デモ。7日、アバスカル内相、「ルイス州知事は、州内政治を立て直すか、辞任すべき」と発言。州知事及びPRI(制度的革命党)反発。13日、オアハカ州立自治大学、授業再開するも、14日、APPOにより再び中断。15日、オアハカ州PGR、10月に発生した米国人ジャーナリスト殺害事件はAPPOによるものとの調査結果を発表。16日、APPO側反発。更に、診察した医師らからも事実と異なるとの見解。25日、APPOとPFP再び衝突。州裁判所が放火されるなどの被害。PFPは、APPOのメンバー140人以上を逮捕し、ナヤリット州の刑務所へ移送。(内政)
3日   ロペス・オブラドール元大統領候補、「正統な内閣」の組閣発表。20日、同元候補、「『正統な』大統領」へ就任。(内政)
3日   フォックス大統領、イベロアメリカ・サミット出席のためウルグアイ訪問(〜5日)。デルベス外相同行。米国のメキシコ米国国境における障壁建設への抗議声明採択。(外交)
6日   未明、メキシコ市で同時多発爆破事件発生。小規模ゲリラ5グループが犯行声明。8日、連邦検察庁(PGR)、「事件の背後にはEPR(人民革命軍)がいる」との見解。同日、EPR、「反極右」声明発表。(内政・治安)
6日   デルベス外相、アンデス共同体との間で「相互関心分野における政治・協力対話メカニズム設立」に合意。(外交)
7日   連邦下院、11月に予定されていたフォックス大統領の外遊不承認を決定。フォックス大統領、全国放送を使い、野党を批判。8日、野党側反発。9日、連邦上院、下院における決定を承認。フォックス大統領の外遊中止正式決定。(内政)
8日   カルデロン次期大統領、訪米(〜9日)。(外交)
9日   メキシコ市議会、事実婚(同性、異性とも)にも同様の権利及び義務を認める通称「同居法(Ley de Convivencia)」可決。16日、メキシコ市政府、同法公布(発効は90日後)。(内政)
14日  カルデロン次期大統領、10月から開始した「Vision 2030」の最終会合。野党PRD(民主革命党)の州知事は、エンシーナス・メキシコ市長を除き全員参加し、次期大統領への協力を表明。(内政)
16日  連邦下院、Liconsa(低所得者向けに政府が製造している牛乳)の値上げを巡り、紛糾。野党が反発し、議長席周辺を占拠。(内政)
16日  オアハカ州の公立小中学校、5ヶ月ぶりにほぼ全学校で授業再開。(内政)
16日  日本−メキシコ間の直行便就航(アエロメヒコ)。エリソンド観光相訪日。(外交・経済)
16日  メキシコとニュージーランド、「所得税の二重課税回避及び脱税防止のための合意」に署名。(外交)
17日  メキシコとベトナム、「両国観光省間の観光分野における協力に関する覚え書」に署名。(外交)
19日  12月1日の大統領就任式を前に、連邦下院周辺の警備開始。下院周辺に鉄柵。28日、与党PAN(国民行動党)と野党PRDの議員、大統領就任式会場となる連邦下院本会議場でもみ合い、一部殴り合いに。その後、両党が入り乱れたまま本会議場を占拠(〜12月1日)。(内政)
19日  PGR「過去の社会的・政治的運動に関する特別検察」、「汚い戦争(Guerra sucia)」時代の3大統領(ロペス・マテオス、ディアス・オルダス、エチェベリア)の関与についての報告書提出。次期政権へ引き継ぎへ。29日、第2統一裁判所、下級審の判断を却下し、エチェベリア元大統領の逮捕を命じる(但し、高齢及び健康上の理由から在宅拘禁)。(内政)
19日  ベネズエラ、正式にG−3を脱退。(外交)
21日  カルデロン次期大統領、経済関係閣僚6人を発表。24日、社会関係閣僚6人、28日、政治関係閣僚3人、30日、治安関係閣僚4人を発表。(内政)

 

 

<内政>
1.政権移譲を巡る動き
(1)次期政権における組閣発表
カルデロン次期大統領は、21日より、経済、社会、政治、及び治安関係閣僚の順に組閣を発表した。当初、PRI(制度的革命党)との協調を目指すため、いくつかの閣僚ポストは同党に割り当てられると言われていたが、結果的に経済関係ポストにPRIのテクノクラート2人が据えられただけであった。
当地主要紙は、「身内にのみポストを割り振った」との見解を掲載している。

(2)大統領就任式を巡る混乱
PRD(民主革命党)と労働党が「大統領就任式妨害」を繰り返し表明する中、28日、「PRD議員が大統領就任式会場となる連邦下院本会議場を占拠する」という噂に神経を尖らせていた与党PAN議員らが、議長席周辺に集結した。その光景を見たPRD議員らも議長席に向かい、両党入り乱れてのもみ合い、一部殴り合いとなった。その後、下院議長が休会を告げたものの、両党は本会議場で睨み合いを続け、両党議員による占拠の状況となった。その後、「休戦協定」が結ばれ、暴力事件は起こらなかったが、大統領就任式当日朝まで占拠は続いた。

(3)ロペス・オブラドール元大統領候補の動向
3日、ロペス・オブラドール元大統領候補(以下AMLO)は、11月20日に自身が「正統な大統領」に就任するのに先立ち、「正統な内閣」12名及び顧問5名を発表した。組閣発表にあたり、AMLOは、この「正統な内閣」と共に、平和裡な方法で国民を保護していくつもりである旨述べた。また、国民生活改善に必要な政策や改革に遅れが出た場合や人権侵害が起きた場合には、国民を動員してデモなどを行い、圧力をかけていくとの方針も発表した。
そして、20日、AMLOは、ソカロに支持者を集め、自らが「『正統な』大統領」に就任した。就任演説において、AMLOは、新憲法制定、組織改革、報道等の自由の保障などの20の提案を行った。また、12月1日の大統領就任式の際には、PRD、結集党及び労働党は、「不正に」大統領に当選したカルデロン大統領の就任を阻むよう呼びかけ、何らかの示威行動を行うとの提案をした。

 

2.オアハカ問題
(1)10月末に連邦予防警察(PFP)がオアハカ市に投入され、オアハカ人民会議(APPO)はオアハカ州立自治大学周辺に撤収していたが、同地区のバリケード撤去を巡り、2日、再び衝突が発生した。PFP側は、ヘリコプターから催涙弾を打ち込むなどの攻勢を行ったが、APPOのバリケードを撤去するには至らなかった。APPO側は更に態度を硬化させ、アバスカル内相との対話も拒否し、フォックス大統領との交渉を要求した。
(2)一方、APPOから辞任を要求されているウリセス・ルイス同州知事は、「問題は解決した」として、既にガバナビリティは回復したと繰り返し表明し、辞任を否定したが、連邦議会及び内相からは、問題を直視していないとして厳しく批判された。
(3)APPO側は、オアハカ州立自治大学における授業再開、及び同州の全公立小中学校における授業再開と、一部政府からの要求に応じる姿勢を見せ始めた。しかし、25日、再びPFPと激しく衝突し、今回は州裁判所を放火するなどの行為にエスカレートしたため、PFPはメンバー140人以上を逮捕し、ナヤリット州の刑務所へ移送した。

 

3.メキシコ市における同時多発爆破事件
(1)6日未明、メキシコ市内3カ所で強烈な爆発事件が発生、連邦選挙裁判所施設の一部、制度的革命党(PRI)党本部内講堂の正面入口部分、並びにスコティア銀行支店建物ほぼ全部が破壊された。死傷者はなく、対象施設及び周辺民家の物的損害のみであったが、仕掛けられた箇所は全部で5カ所で、2カ所は事前通報により発見、解除された。
(2)同日夕方、「革命民主傾向−人民軍(TDR−EP)」を始めとする小規模ゲリラ5グループが犯行声明を発出した。文中では、現在国内の主要関心事項となっているオアハカ市におけるAPPOと政府との対立に関し、連邦及び州政府や、与党PAN及びPRIに対する非難が中心となる一方、「メキシコに存在する社会・政治的侵害の首謀者は、権力及び富に群がり、国民に対し卑劣なネオリベラルな戦いをする者」を糾弾する内容も見られた。
(3)治安省及び連邦検察庁(PGR)は、本件に関し、国家の転覆を意図するような行為ではなく、むしろプロパガンダ的な目的を持つものとの見解を示した。一方、事件の背後にはEPR(人民革命軍)が関与しているとの見方を発表した。

 

 

<外交>
フォックス大統領のイベロアメリカ・サミット出席
3〜5日、フォックス大統領は、イベロアメリカ・サミット出席のため、ウルグアイを訪問した。サミットにおいては、主要テーマを「移民」に据えて各国首脳による活発な意見交換が行われた。フォックス大統領は、メキシコ・米国の国境問題を取り上げ、最終的に、両国国境における障壁建設に関する抗議声明が採択された。

 
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