<概要>
内政では、ロペス・オブラドール大統領候補の失言を利用したカルデロン大統領候補陣営のスポットを巡り、チャベス・ベネズエラ大統領から批判が出た。大統領選挙に関しては、ネガティブ・キャンペーンが本格化している。
また、放送産業の特定企業による寡占状態を招くとして批判が続出していた「メディア法」が上院を通過した。本件については、大統領選挙を睨み、テレビ局から特定候補に便宜が計られているとの疑惑もあり、今後も注目される。
外交では、メキシコ市で開催された第4回世界水フォーラム御臨席のため、皇太子殿下がメキシコを訪問された。
また、カンクンにおいて、北米3カ国首脳会談が開催され、3カ国間の関係強化を確認、「競争力に関する北米審議会」の設置、治安に関する相互協力などに合意した。
<クロノロジー>
1日 横領の疑いで捜査されているゴメス前鉱業労働組合長の支持者、新組合長の承認無効とサラサール労働相の辞任を訴え、ストライキ(〜2日)。7日、同団体、大規模デモを行い、ゼネストを示唆し圧力をかけるも、連邦政府は応じず。(内政)
2日 各大統領候補代表、3月〜6月の最後の火曜日に計4回のディベートを実施することで合意。ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(ABT)」大統領候補、ディベートへの参加は1回のみとの姿勢を崩さず。22日、各候補代表者、ディベートは4月25日と6月6日の2回のみと決定。連邦選挙機関(IFE)もこれを承認。(内政)
2日 デルベス外相、カナダを訪問(〜3日)。ハーパー首相、マッケイ外相他2閣僚と会談。(外交)
3日 テキサス州ブラウンズビルにおいて、アバスカル内相とチャートフ米国国土安全保障長官会談。両国国境警備を協力して実施するとの合意に署名。麻薬取引や組織犯罪に関する情報を共有することで合意。(外交)
6日 メキシコ市イスタパラパ区の不法移民収容施設で暴動。キューバ人が主導したとされ、複数の逮捕者。(内政・外交)
8日 米国務省、メキシコの人権に関する報告。メキシコ政府は「概ね」人権を尊重しているものの、汚職と無処罰が蔓延っているために、人権分野において少なくとも15の問題があると述べる。(内政・外交)
10日 国連の調査機関、2005年にメキシコ治安当局によって摘発されたコカインは、当国内に輸入された量の僅か8%分に過ぎないとの調査結果を発表。(内政)
11日 デルベス外相、チリを訪問(〜12日)。12日、バチェレ新チリ大統領の就任式に出席。13日、バチェレ大統領、メキシコとの関係強化を表明。(外交)
12日 メキシコ州議会及び同州市町村首長選挙実施。PRD(民主革命党)が大きく票を伸ばす。(内政)
13日 連邦選挙機関(IFE)、大統領選挙期間前の「選挙前哨戦」において、選挙法違反があったとしてPAN(国民行動党)に約82万ペソ、PRI(制度的革命党)に約15.3万ペソの罰金を命じる。(内政)
中旬 エネルギー問題、特に電気料金を巡り、「料金値下げは現実的に不可能」とするフォックス大統領と、「運営の効率化により値下げは可能」とするロペス・オブラドール候補による応酬。一方、ラミレスPEMEX(メキシコ石油公社)総裁は、値下げは可能との見解を示す。(内政)
15日 皇太子殿下、第4回世界水フォーラム(WWF4)御臨席のためメキシコを御訪問(〜19日)。16日、WWF4開会式御臨席。17日、「江戸と水運」と題した基調講演。18日、ユカタン州のウシュマル遺跡御訪問。19日、セレストゥン生物圏保護区御訪問。(外交)
16日 全国教職員組合(SNTE)所属のPRI下院議員18名、PRI会派離脱。(内政)
16日 WWF4、メキシコ市において開催(〜22日)。水フォーラム及び水資源の民営化に反対する諸団体による大規模デモ。21〜22日、閣僚級会合。日本からは江碕国交副大臣及び江田環境副大臣が出席。(外交)
18日 PAN(国民行動党)、連邦上院選挙の比例代表拘束名簿発表。クリール前内相等が上位に登録される。(内政)
20日 メキシコ外務省、「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」など米国主要紙に、米国がメキシコからの一時的労働者を受け入れる提案を支持する広告を掲載。(内政)
21日 チャベス・ベネズエラ大統領、彼とロペス・オブラドールABT大統領候補を対比するPANのスポットを批判。同日、PAN、ロペス・オブラドール候補とベネズエラ政府との関係を調査するようIFEに要請。23日、ベネズエラ政府、PANに対する調査をIFEに要請。(内政・外交)
23日 メキシコ外務省、「国際法に反する外国規定からの通商及び投資保護法」違反があったとして、キューバ代表団を強制退去させたマリア・イザベル・シェラトン・ホテルに対し、2,400万ペソの制裁金を科す。(内政・外交)
23日 米ワシントンD.C.において、第22回米墨二国間委員会開催(〜24日)。デルベス外相、アバスカル内相、メディナ−モラ治安省、カベサ・デ・バカ連邦検察庁長官及びソホ公共政策担当大統領補佐官が訪米し、各カウンターパートと会談。(外交)
27日 米国上院司法委員会、非合法移民の合法化を含む移民関連法案可決。メキシコ政府、本法案歓迎を表明。29日、上院本会議での審議開始。(外交)
28日 上院委員会、「ラジオ・テレビ法(通称メディア法)」を可決、上程。30日、上院本会議で審議。31日早朝、「メディア法」可決。(内政)
29日 カンクンにおいて北米3カ国首脳会合(〜31日)。30日、米国及びカナダと二国間首脳会談。31日、「競争力に関する北米審議会」の設置、治安に関する相互協力などに合意し、北米3カ国首脳会合閉幕。(外交)
<内政>
1.大統領選挙を巡る動き
(1)フォックス大統領は、対象者を名指ししないながらも暗にロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(ABT)」大統領候補(以下AMLO)を批判する発言を繰り返し、AMLOは大統領に対し「おしゃべりは黙れ(Callate chachalaca)」と発言、この発言をカルデロンPAN(国民行動党)候補が利用し、チャベス・ベネズエラ大統領とAMLOを対比させ、「権威主義的」とアピールするスポットを作成した。このスポットに対し、ベネズエラ政府は反発、連邦選挙機関(IFE)に対し調査を依頼した。一方、PANは、本件が内政干渉に当たるとして批判している。
(2)経済界や米国政府は、大統領選挙に対して慎重な姿勢を見せ、いずれも「誰が大統領に当選したとしても関係は変わらない」との声明を出した。
他方、国際機関やNGOからは、連邦政府の弱者対策(社会福祉や貧困対策)プログラムが、選挙に利用される危険性が高いとする報告が出された。
(3)各大統領候補によるディベートを4回実施するとの合意が一度なされたものの、22日、4月25日と6月6日の2回のみと決定し、IFEもこれを承認した。但し、AMLOはディベートには1回しか参加しないとの姿勢を崩していない。
(4)主要3候補の世論調査による支持率は以下の通り。
*数値はいずれも%。ミトフスキー社及び「レフォルマ」紙は、「誰に投票するか分からない」と回答した者を除いた数値。 |
|
ミトフスキー |
レフォルマ |
ウニベルサル |
06/ 2月 |
06/ 3月 |
06/ 2月 |
06/ 3月 |
06/ 2月 |
06/ 3月 |
AMLO(ABT) |
39.4 |
37.5 |
38 |
41 |
30 |
38 |
カルデロン(PAN) |
29.8 |
30.6 |
31 |
31 |
27 |
25 |
マドラソ(APM) |
27.5 |
28.8 |
29 |
25 |
22 |
21 |
(APM:「メキシコのための連合」)
2.「メディア法」改正案の上院通過
(1)31日午前3時30分、上院は、13時間以上に亘る審議の後、賛成81票、反対40票、棄権4票で「ラジオ・テレビに関する連邦法」及び「遠距離通信に関する連邦法」(合わせて通称「メディア法」)改正案を可決した。
(2)今回可決された改正案は、表面上は技術革新に合わせ、且つ放送事業における自由競争を促進するように見えながら、実は当国最大手の放送局である「テレビサ」社の独占を促すものとして、各界が反対していた。「テレビサ」社も所属する「放送業会議所」ですら、本改正案の廃案を訴えていた。
同改正案では、現在、各局に与えられているブロードバンド及びデジタル波の総使用量(データ量)を、例え今後技術が進歩して1プログラムあたりのデータ量が小さくなってもそのまま維持すると定めている。現在、メキシコでは「テレビサ」社と「テレビシオン・アステカ」社の2強が放送業界を占めており、デジタル化を契機に、右2社の寡占状況が加速すると懸念されている。
(3)上院においては、本法案に関し、法律分野や放送分野の各専門家から広く意見を聴取し、慎重に審議を進めていたが、3月に入り、突然審議を終了して採決にかける動きが出たため、選挙を睨み「テレビサ」社から圧力を受けた政治家が本改正案を通過させたいために焦っているとの報道がなされた。特に、企業家からの支持を集めるカルデロンPAN大統領候補は、選挙運動に何らかの便宜を同社から受けているとの疑惑が出て、連日批判されていた。また、本改正案を巡っては、PANとPRI(制度的革命党)が党内で分裂する状況となった。
3.メキシコ州議会及び同州市町村首長選挙実施
12日、本年度最初の地方選挙となるメキシコ州議会議員及び同州市町村首長選挙が実施された。州議会選挙では、ペニャ同州知事の所属党であるPRIはほぼ現状を維持し、PANは議席を減らした。選挙前第3勢力であったPRD(民主革命党)は大きく票を伸ばし、州議会第2勢力となった。
一方、市町村首長選挙では、PRIが大きく減らし、PANは現状維持、ここでもPRDの躍進が目立った。
<外交>
1.皇太子殿下のメキシコ御訪問
(1)15〜19日、皇太子殿下は、第4回世界水フォーラム(WWF4)御臨席のためメキシコを御訪問された。16日、WWF4開会式御臨席になり、17日には、「江戸と水運」と題した基調講演をされ、それぞれの地域に最も相応しい水問題の解決策の重要性を強調された。
メキシコ市においては、日墨会館における歓迎式典を始め、日墨学院の御訪問などを通じ、在墨日系人や駐墨日本人と交流された。また、世界遺産に登録されているソチミルコ自然公園を御訪問されるなど、メキシコ文化に触れる機会を持たれた。
(2)18日にはユカタン州に移動され、ウシュマル遺跡御訪問になった。また、同日夜にはユカタン州知事主催の夕食会に御出席された。19日、セレストゥン生物圏保護区を御視察され、湿地保全の我が国技術協力に取り組むJICA専門家2名と懇談された。
2.北米3カ国首脳会合(第2回北米安全・繁栄パートナーシップ首脳会合)
(1)30〜31日、キンターナ・ロー州カンクンにおいて、北米3カ国首脳会合(第2回北米安全・繁栄パートナーシップ首脳会合)が開催された。
30日、フォックス・メキシコ大統領、ブッシュ米国大統領及びハーパー・カナダ首相は午前中にユカタン半島のマヤ文明遺跡チチェン・イツァを訪問した後、午後、メキシコとカナダ及びメキシコと米国の二国間首脳会談を行った。
(2)カナダ首相との会談では、フォックス大統領は、両国関係の強化を強調し、一時労働者に関するプログラムの拡大を要請し、ハーパー首相もその可能性を示唆した。
また、ブッシュ大統領との会談において、フォックス大統領は、現在米国上院で審議されている一時労働者プログラムを含む包括的移民法改正案(スペクター案)の可決を望む旨述べた上で、メキシコ側にも経済を発展させ、雇用機会を創出する義務があると認めた。ブッシュ大統領も、移民問題については、安全保障の観点と一時労働者プログラムの観点を含む包括的な提案を行うと約束した。更に、両国首脳は、両国国境地域の治安については相互協力が必要であるという見解で一致した。
(3)31日に行われた3カ国首脳会談においては、各国の民間セクター代表も参加して意見を交換し、昨年3月に確立した「北米安全・繁栄パートナーシップ」の下、経済統合の深化及び相互協力の強化の方針を確認した。そして、昨年の自然災害に関する教訓を踏まえ、緊急事態の際には、速やかに支援する枠組みを構築することで合意した。
一方、北米3カ国の競争力強化のために、「競争力に関する北米審議会(Consejo Norteamericano de Competitividad)設置を決定、民間セクターも参加し、本年6月を目途に、戦略や公共政策などのメカニズムを制度化するための具体的計画を立案することで合意した。
国境の治安問題では、3カ国が協力し、適切な技術を用いて安全を確保しつつも、合法的な人や物の往来を妨げない方法を模索するとした。
(4)共同記者会見後の質疑応答において、ブッシュ大統領は、移民法の改正は、国境地域の安全が保障され、且つ米国社会に寄与する包括的なものであるべきとして、スペクター案を支持すると述べた。但し、現在非合法に米国で就労している者に対する恩赦に関してははっきりと否定した。 |