政務班
2006年4月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
 内政では、各大統領候補によるネガティブ・キャンペーンが活発化、3月に不用意な発言を行ったロペス・オブラドール候補が支持率を下げ、第1回公開討論会の「勝者」とされたカルデロン候補が支持率で1位に立った。
 また、鉱山業関係の労働組合と連邦政府の関係が悪化、製鉄所におけるストライキ参加者の強制排除を巡り死者も出て、問題は一層深刻化した。
外交では、パラシオ・エクアドル大統領及びバスケス・ウルグアイ大統領がメキシコを訪問した。

 

<クロノロジー>
2日   「レフォルマ」紙、マドラソ大統領候補への不満や上・下院議員選挙候補者選出方法などに対する不服により、直近2ヶ月間で3,000人以上のPRI(制度的革命党)党員が離党と報道。PRIは選挙に与える影響は少ないと強調。(内政)
2日   ミチョアカン州ラサロ・カルデナス市のSicartsa社製鉄所において、ストライキ発生。製鉄所を占拠。19日、労働仲裁委員会、本ストライキは違法との判断を下す。20日、連邦及び州治安機関、占拠者強制排除に着手。占拠者と正面衝突となり、占拠者側2人が死亡。強制排除失敗。21日、アバスカル内相、労働組合側トップと会談し解決を図るも平行線。労働組合側は、サラサール労相の辞任を要求。28日、鉱山業系労働組合及びUNT(全国労働者連合)系労働組合、労相の辞任を求め、全国で計400万人が参加する大規模デモ。(内政)
3日   最高裁、連邦下院からの提訴を受け、フォックス政権における成果を強調するスポット放映中止を決定。大統領府、この判断に不満を表明するも、スポットの内容を修正。(内政)
4日   メキシコ−米国両国政府、両国国境付近における人身取引業者の取締り強化のため、「オアシス計画」の枠組みの下、国境警備官の研修等を含めた協力を実施することで合意。(外交)
6日   ライネス・エルサルバドル外相、メキシコを訪問(〜7日)。メキシコ市において、第2回メキシコ−エルサルバドル二国間委員会開催。航空協定、公用旅券における査証免除協定、社会開発に関する覚え書きに署名(外交)
8日   米国上院、移民法改正案の審議延期を決定。中旬、米国各地でメキシコ系移民を中心に大規模デモ。5月1日にボイコット実施を呼び掛け。メキシコ外務省、政府としてはボイコットを支持しない旨表明。しかし、フォックス大統領は支持を表明。24日、米国上院、審議再開。27日、メキシコ下院、5月1日のボイコット支持を全会一致で決定。(外交)
10日  外務省、7月17、18日にロシア・サンクトペテルブルグで開催されるG−8における拡大首脳会合にロシア側から招待されたと発表。参加を表明。(外交)
11日  「メディア」法改正法、官報掲載、発効。中旬、右改正法に反対する上院議員、最高裁への違憲審査申請の準備開始。(内政)
11日  5大統領候補代表、公開討論会の概要を決定。また、討論会前2時間と討論会後8時間はメディアに出演しない「ミニ休戦」を決定したが、ロペス・オブラドール陣営は合意せず。他候補から批判。(内政)
11日  メキシコ軍及び連邦検察庁(PGR)組織犯罪捜査専門次官室(SIEDO)、カンペチェ空港において、ベネズエラ発米国行きのチャーター機(米国籍)からコカイン5.5トンを押収。ベネズエラ政府に捜査協力を要請。(内政・治安)
11日  デルベス外相、エジプトを公式訪問。アブルゲイド・エジプト外相他と会談。(外交)
12日  メキシコ政府、カンクンの海岸復旧作業終了を宣言。経費は約2億3,500万ペソ。(内政)
17日  「レフォルマ」紙、社会開発省などから何らかの援助を受けた場合、投票動向を変えるとの回答が、極貧層を中心に400万人に上るとの調査結果を発表。社会開発省側も、選挙結果を左右することがあると認め、注意深く対応すると表明。(内政)
17日  米ジョージア州、居住地を証明できない者には、社会サービスを提供しないと決定。18日、メキシコ外務省、右決定を批判。(外交)
18日  最高裁、ジャーナリストに対する脅迫事件へのマリン・プエブラ州知事関与捜査を決定。担当判事を任命。27日、プエブラ州知事、PGRへ出頭。事情聴取。(内政)
18日  欧州委員会、7月2日の大統領選挙への監視団派遣を発表。(外交・内政)
19日  連邦選挙機関(IFE)執行委員会、PAN(国民行動党)による「反ロペス・オブラドール候補」スポットは連邦選挙法に抵触するとして、放映中止を命じると決定(全会一致)。21日、IFE評議会、右決定を否決。但し、PAN自らが放映中止を表明。(内政)
19日  IMF年次報告、メキシコの国内総生産の規模は世界第14位と発表。また、メキシコ経済は石油への依存体質を改めるべきと勧告。メキシコ政府、当国経済は石油への依存を脱却しているとして反発。(内政・経済)
19日  ベナイッサ・モロッコ外務・協力相、メキシコを訪問。メキシコ市において、第2回メキシコ−モロッコ合同委員会開催。二国間関係深化及び国際場裡における協力について意見交換。(外交)
21日  サラサール農地改革相及びソホ公共政策担当大統領補佐官は、カルデロンPAN大統領候補の選挙運動に加わるため辞任。24日、フォックス大統領、アベラルド・エスコバル農地改革省全国農地登録機関所長を新農地改革相に、アルベルト・オルテガ氏を公共政策担当に任命。(内政)
23日  パラシオ・エクアドル大統領、メキシコを訪問(〜24日)。カリオン外相他4閣僚も同行。フォックス大統領と会談。デルベス外相とカリオン外相、両国の犯罪人引き渡し条約に署名。(外交)
25日  大統領候補による第1回公開討論会。ロペス・オブラドール候補は参加せず。視聴率13%。26日、当地全メディア、討論会での勝者はカルデロン候補と報道。(内政)
25日  バハ・カリフォルニア州治安長官、同州メヒカリ市において、麻薬組織に手榴弾等で攻撃される(軽傷)。(内政)
26日  バスケス・ウルグアイ大統領、メキシコを訪問(〜28日)。ガルガノ外相他2閣僚も同行。(外交)
28日  「エル・ウニベルサル」紙、プエブラ州の検察官が、連邦調査機関(AFI)が逮捕した麻薬組織関係者を釈放させたと報道。麻薬組織と同州検察の癒着疑惑浮上。(内政・治安)
28日  連邦上院、公正取引法改正案、少量の薬物所持の無処罰化を含む一般保健法及び刑法改正案他を可決。改正「メディア法」に関する修正案は審議持ち越し。30日、春期定例会期閉会。(内政)

 

<内政>
1.大統領選挙を巡る動き
(1)ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(ABT)」大統領候補(以下AMLO)による「おしゃべりは黙れ(Callate chachalaca)」と発言の余波は予想以上に大きく、支持率は3月に比べ低下した。一方、カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補陣営は、「AMLOはメキシコの脅威である」というスポットを作成、ネガティブ・キャンペーンを一層強化した。その効果が出たためか、カルデロン候補の支持率が上昇、月末には遂にAMLOを抜き、支持率1位となった。
(2)AMLO陣営は、PANによるスポットに対する不服申し立てをIFE(連邦選挙機関)に対し行い、19日、IFE執行委員会は、スポットは連邦選挙法に抵触するとして、全会一致で放映中止を決定した。しかし、上位意志決定機関であるIFE評議会は、21日、右決定を否決したため、AMLO陣営からは政治的意図が働いているとして批判が出た。但し、スポット自体は、PAN自らが放映中止を申し出た。
 PANによるネガティブ・キャンペーンについては、当地有識者から徒に憎悪を煽るばかりで好ましい結果は得られないとして警鐘が鳴らされている他、IFEによる基準作りが必要との意見が出されている。
(3)25日、大統領候補による第1回公開討論会が開催された。AMLOは宣言通り、討論会には参加しなかった。討論会の視聴率は約13%で、当地メディアは全て「討論会の勝者はカルデロン候補」と伝えた。
(4)主要3候補の世論調査による支持率は以下の通り。


*数値はいずれも%。「誰に投票するか分からない」と回答した者を除いた数値。

 

レフォルマ

ウニベルサル

06/3月

4月(討論前)

4月(討論後)

06/ 3月

06/ 4月

AMLO(ABT)

41

35

33

42

38

カルデロン(PAN)

31

38

40

32

34

マドラソ(APM)

25

23

22

24

25

(APM:「メキシコのための連合」)

2.製鉄所占拠者と治安当局との衝突事件
(1)2日より、ミチョアカン州ラサロ・カルデナス市にあるSicartsa社の製鉄所においてストライキが発生、会社側は労働仲裁委員会へ申し立てを行い、19日、同委員会は「本ストライキは労働条件の改善を目的としておらず違法である」との判断を下した。この判断を受け、連邦予防警察(PFP)及びミチョアカン州警察は、占拠者を強制排除する決定を行った。
(2)20日、950人以上の治安当局者と占拠者800人が正面衝突し、占拠者側は石や鉄パイプ、更には火焔瓶や手製の爆弾で抵抗、治安当局側もゴム弾や催涙ガスで応戦した。5時間に渡る攻防で、占拠者2人が死亡、双方合わせて70人以上が負傷し、多数の逮捕者が出た。しかし、占拠者排除には至らず、工員たちは引き続き製鉄所を占拠している。
(3)フォックス大統領は緊急に治安閣議を招集し、閣僚等と対応を協議した。労働組合側は衝突事件を受けて態度を一層硬化させている上に、労働相に対する不信感を募らせ、対話を拒否しているため、アバスカル内相が労働組合側と対応している。組合側は労働相の辞任を強く要求しているが、フォックス大統領及び労働相自身は辞任を否定している。但し、労働組合側は、各地でストライキを行っている他、UNT(全国労働者連合)系労働組合と歩調を合わせて28日にも400万人規模のデモを行うなど次第に先鋭化してきており、交渉は難航している。
(4)なお、同製鉄所は当国製鉄業にとって戦略的に重要であり、ストライキにより日々300万ドルの損失が出ているばかりか、鉄骨生産においてはラテンアメリカ最大の同社が機能不全に至っているために鉄骨などの在庫が不足してきており、値上がりが懸念されている。

3.農地改革相及び大統領補佐官の辞任
21日、フロレンシオ・サラサール農地改革相及びエドゥアルド・ソホ公共政策担当大統領補佐官は、カルデロンPAN大統領候補の選挙運動に加わるため辞任した。
24日、フォックス大統領は、アベラルド・エスコバル農地改革省全国農地登録機関所長を新農地改革相に、アルベルト・オルテガ大統領府公共政策担当次長を公共政策担当補佐官に任命した。

4.公正取引法他の改正案可決
(1)28日、連邦上院は、独占取引防止を目的とし、連邦公正取引委員会(CNC)の権限強化を柱とした公正取引法改正案を可決した。本改正案では、CNCの立ち入り調査を可能にするなど調査権限の強化を始め、3回以上独占取引を犯した企業を営業停止処分とすることが出来るなど、罰則面の強化が定められた。
(2)また、同日、少量の薬物所持の無処罰化を含む一般健康法、連邦刑法及び連邦刑事手続法の改正案が可決された。本改正案は、これまで「連邦犯罪」に区別され、連邦警察しか捜査出来なかった「麻薬小売り」を「一般犯罪」とし、地方レベルの捜査機関も捜査に参加することで、取締り及び犯罪予防強化を図るものである。但し、少量の薬物所持が無処罰化されたことで、かえって薬物消費増加を招くとの批判も多く出た。(注:フォックス大統領は、5月3日、本改正案への署名を拒否し、立法府へ差し戻したため、本改正案は事実上「廃案」となった。)

 

<外交>
1.第5回メキシコ・エルサルバドル二国間委員会開催
6日−7日、フランシスコ・ライネス・エルサルバドル外相は、メキシコを訪問し、デルベス外相と第5回メキシコ・エルサルバドル二国間委員会(於:メキシコ市)を開催した。
両国は、移民問題に関して、安全で秩序だったエルサルバドル移民の送還、及び移民の人身売買・密輸対策、特に女性・児童の人身売買対策について共同して行動することを確認した他、二国間協力の深化について意見を交換した。また、両国は、航空協定、公用旅券における査証免除協定、社会開発に関する覚え書きに署名した。

2.第二回メキシコ・モロッコ合同委員会の開催
19日、メキシコ市にて、デルベス・メキシコ外相及びベナイッサ・モロッコ外務・協力相が参加し、第二回メキシコ・モロッコ合同委員会が開催された。両国外相は、二国間関係、地域情勢について協議するとともに、人権の擁護等国際場裏における協力に関して、意見を交換した。

3.エクアドル大統領のメキシコ訪問
(1)23日−24日、アルフレド・パラシオ・ゴンサレス・エクアドル大統領は、メキシコ・メキシコ市を公式訪問した。今次訪問には、カリオン外相、イリンウォルス貿易相、リッツォ農業相、ロドリゲス・エネルギー鉱物資源相、アポロ行政相が同行した。パラシオ大統領は、フォックス大統領主催歓迎式典・夕食会に出席した他、メキシコに在住するエクアドル人との会合等の活動を行った。

(2)24日、パラシオ大統領歓迎式典にて、デルベス外相とカリオン外相は、両国の犯罪人引き渡し条約に署名した。また、パラシオ大統領より、メキシコ国立「バスコンセロス」図書館に200冊のエクアドルに関する本が寄贈された。
 
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