政務班
2006年5月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
 内政では、大統領選挙まで2ヶ月となり、各大統領候補による「ネガティブ・キャンペーン」が一時激化したものの、連邦選挙裁判所及び連邦選挙機関による放映中止の決定を受け、下火になりつつある。一方、野党側から、フォックス大統領の選挙への介入に対し批判が高まり、選挙法違反であるとして連邦検察庁に提訴される事態も起きた。
 また、メキシコ州アテンコ市における露天商強制排除を巡り、職権濫用及び婦女暴行の疑いが出て、メキシコ州検察が捜査に乗り出した他、全国人権委員会も調査を行っている。本件に関し、メキシコ市に滞在しているマルコス・サパティスタ民族解放軍(EZLN)副司令官がアテンコ市グループを支持してデモを行うなど、別の要素も絡み、未だ解決には至っていない。
外交では、4月に引き続き、米国の移民法改正が関心の中心となった。米国国境警備強化のための州兵派遣に関しては、メキシコ連邦議会から批判が相次ぎ、政府としての懸念を表明する外交書簡発出に至った。
また、李肇星中国外交部長が、昨年9月に引き続きメキシコを訪問した。第2回メキシコ−中国二国間常任委員会には、両国ともに各分野の閣僚級が出席し、関心の高さが窺われる会合となった。

 

<クロノロジー>
1日   メーデー。各労働組合が、メキシコ市のソカロ(憲法広場)において大規模集会。鉱業労働組合が所属する全国労働者連合(UNT)、引き続きサラサール労相の辞任を要求。(内政)
1日   マルコス・サパティスタ民族解放軍(EZLN)副司令官、ソカロで集会。現政権、既存3大政党(PRI、PAN、PRD)及び各大統領候補者を批判。左派勢力結集を呼び掛け。(内政)
1日   米国の移民法改正を支持する大規模デモ及び不買運動。(外交・内政)
3日   メキシコ州アテンコ市で州警察と生花販売露天商を中心とした住民が衝突。死者1名、負傷者50名以上を出し、警官14名が人質となる。4日、連邦予防警察(PFP)も参加し、治安部隊約2,000人の大規模作戦。中央広場占拠者を強制排除し、人質を救出。逮捕者200名以上。マルコスEZLN副司令官、アテンコ市住民を支持し、逮捕者の釈放を求め集会。5日、アテンコ市支持者、メキシコ市へ幹線道路封鎖などの抗議行動。マルコス副司令官、事件解決までメキシコ市に留まると宣言。職権濫用及び婦女暴行があったと批判。全国人権委員会も、人権侵害と批判。7日、メキシコ州検察、「組織犯罪」として逮捕者のうち189名を起訴。17日、メキシコ州検察、婦女暴行容疑で、捜査官44名の取り調べ開始。10日、アルバレス和解調停委員会委員長、「マルコス副司令官は、暴力を誘発すべきでない」旨発言し、牽制。対話を提案するもEZLN側(マルコス副司令官)は拒否。28日、マルコス副司令官も参加し、メキシコ市でアテンコ市支持者による大規模デモ。29日、マルコス副司令官、7月2日の選挙には「平和的な」動員を全国で行うと表明。(内政)
3日   フォックス大統領、少量の薬物所持の無処罰化を含む麻薬関連法案差し戻し(事実上の廃案)。下院議員や連邦検察庁(PGR)、治安省からは、「麻薬小売り対策強化のためには、同関連法案は必要」と批判の声も。(内政)
4日   超党派の上院議員47名、最高裁に対し、通称「メディア法」に関する違憲審査申し立て。9日、最高裁、この申し立てを受理。(内政)
7日   連邦選挙機関(IFE)、フォックス大統領、エンシーナス・メキシコ市長、全州知事及び全市町村長に対し、7月2日の選挙の際には中立を保つよう要請。8日、フォックス大統領、この要請を受け入れ。19日、野党州知事27名、フォックス大統領の合意順守を条件に要請受け入れ。25日、選挙前40日となり、行政府による成果広告自粛開始。(内政)
7日   チャベス・ベネズエラ大統領、G−3からの脱退を示唆。8日、メキシコ政府、影響は小さいとコメント。21日、チャベス大統領、脱退を正式表明。23日、ベネズエラ政府より脱退を通知する書簡到着。(外交)
8日   ロペス・オブラドール候補を除く4大統領候補、市民団体「Mexico Unidos contra Delincuencia」による治安改善案に署名。(内政)
8日   フォックス大統領、大統領就任式出席のためコスタリカを訪問。(外交)
9日   メキシコ、国連人権理事会の理事に選出。(外交)
11日  フォックス大統領、オーストリアを訪問(〜13日)。第4回EU−ラ米・カリブ諸国首脳協議へ出席。13日、スロバキアを訪問。ガシュパロヴィチ・スロバキア大統領と会談。(外交)
12日  大蔵公債省、1億6千万ドル分の「カタストロフィ債」発行を発表。(内政・経済)
14日  フォックス大統領、ブッシュ米大統領と移民問題などに関し電話会談。15日、ブッシュ大統領、メキシコ−米国国境警備のため、6,000人の州兵派遣を含む移民政策を発表。16日、メキシコ政府、米国による国境の軍事化を否定。17日、連邦上・下院合同常任委員会、メキシコ−米国国境への州兵派遣に関し、米国政府へ懸念を表明するようフォックス大統領へ要請する合意文書を採択。18日、メキシコ外務省、州兵派遣及び17日に米国上院で可決された国境の防壁建設に関し、憂慮する旨表明する外交書簡を発出。25日、米上院、移民法改正案可決。両院協議会へ。フォックス大統領、同法案可決を歓迎。(外交)
16日  国税庁(SAT)、大統領候補による第1回公開討論会でカンパ候補より出された書類(マドラソ候補の税金未納を証明するもの)は、本物が漏洩されたものであると発表。内部調査実施。(内政)
17日  PRD(民主革命党)、フォックス大統領自身が、緑の党に対し、カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補への支援、及びPANとの連合を要請したとして、PGRに提訴。ゴンサレス緑の党党首も、事実であると証言。大統領府、これを否定。28日、ゴンサレス党首、本件に関し、大統領への質問状を発出。(内政)
17日  人権団体「Human Right Watch」、フォックス政権は情報公開については評価出来るものの、人権問題への取り組みには失望、とのコメント。(内政)
17日  李中国外交部長、メキシコを訪問(〜19日)。フォックス大統領と会談。18−19日、第2回メキシコ−中国二国間常任委員会開催。(外交)
19日  ロペス・オブラドール大統領候補、「移民問題等を話し合うため」フォックス大統領との面会を要望。大統領府、「中立」を保つためとしてこれを拒否。22日、ロペス・オブラドール候補、大統領に書簡発出。野党側からは、大統領はカルデロン候補には会ったとして、自党に肩入れしていると批判続出。(内政)
22日  PRD、大統領自身が選挙に介入し、選挙法を犯しているとしてPGRに提訴。勤務時間中に、カルデロン候補の選挙キャンペーンに携わった公職者のリストも提出。25日、PRI(制度的革命党)もPGRに対し同様の提訴。(内政)
22日  連邦選挙裁判所、PANによる「反ロペス・オブラドール」スポットの一部は選挙法に抵触するとの判決。24日、IFE、右スポット放映禁止を決定。右決定をうけ、PRD側も「反カルデロン」スポット放映取りやめを発表。(内政)
23日  フォックス大統領、米ユタ、ワシントン及びカリフォルニア州訪問(〜26日)。各州知事らと会談。(外交)
24日  IFE、有権者登録終了者最終数を7,135万人強と発表。在外投票登録者数は、4万人余。30日、各州選挙機関に対し、投票用紙や投票箱などの発送開始。(内政)
24日  連邦上・下院合同常任委員会、マルタ・フォックス大統領夫人子息による「政治的影響力の不正利用(Trafico de influencia)」の疑いに関し、審問実施を決定。(内政)
24日  グリア元蔵相、OECD事務総長に就任。(外交)
24日  ブリッツ・グアテマラ外相他4閣僚、メキシコを訪問(〜29日)。24−29日、第9回メキシコ−グアテマラ二国間委員会開催。(外交)
31日  IFE、アスナール前西首相による「PAN応援演説」(2月)に関し、選挙法違反があったとして14万6千ペソの罰金を科す決定。(内政)
31日  連邦上・下院合同常任委員会、政府から提出された「連邦放送委員会」委員候補4名のうち3名を不承認。(内政)

 

<内政>
1.大統領選挙を巡る動き
(1)第1回公開討論会終了後、各陣営は選挙戦略の見直しを図り、スポット放映数の増加などの対策をとった。カルデロンPAN(国民行動党)陣営は、引き続きロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(CPBT)」(以下AMLO)候補に対する「ネガティブ・キャンペーン」を継続、AMLO候補側もそれに対抗し、「ネガティブ・キャンペーン」合戦が一時激化した。しかし、22日、連邦選挙裁判所が、PANによる「AMLOはメキシコの脅威である」とするスポット他3スポットについては、「客観性に欠ける」「過去から未来を類推しただけであり、根拠がない」として選挙法の規定に抵触すると判断、放映中止を命じたことをきっかけに、連邦選挙機関(IFE)も右4スポットの放映中止を決定した。この判断を受け、AMLO陣営側も「反カルデロン候補」スポット放映中止を申し出て、「ネガティブ・キャンペーン」は多少下火になりつつある。
(2)一方、フォックス大統領は、IFEからの「選挙に介入せず、中立性を保つように」という勧告にも拘わらず、暗に自党PANの候補を支持し、野党候補を批判する発言を繰り返した。17日には、PRI(制度的革命党)とともの「メキシコのための連合(APM)」を組む緑の党のゴンサレス党首が、「フォックス大統領は、緑の党とPANとの連合を要請し、その席でどんな手を使ってもAMLO候補とマドラソAPM候補の当選を阻むと発言した」と暴露し、AMLO候補の所属政党であるPRD(民主革命党)は、選挙法違反であるとして連邦検察庁(PGR)に提訴した。また、公職にある者が勤務時間中にカルデロン候補の選挙キャンペーン活動をしていたとして、22日、PGRに関係者リストとともに提訴した。PRIも、25日、同様の提訴を行った。
(3)IFEは、選挙の正統性を保つため、大統領、メキシコ市長、全州知事、及び全市町村長に対し、選挙前40日前である23日以降、成果発表広告自粛を勧告した。大統領府は、右勧告に従う旨表明したが、野党所属の27州知事は、フォックス大統領が厳格に勧告を順守することを条件に、勧告受け入れを表明し、23日、全行政府の長は自粛期間に入った。
(4)主要3候補の世論調査による支持率は以下の通り。


*数値はいずれも%で、「誰に投票するか分からない」と回答した者を除いた数値。

 

ミトフスキー

レフォルマ

ウニベルサル

06/ 4月

06/ 5月

06/ 4月

06/ 5月

06/ 4月

06/ 5月

カルデロン(PAN)

35

34

40

39

34

39

AMLO(CPBT)

34

34

33

35

38

35

マドラソ(APM)

27

28

22

22

25

21

 

2.アテンコ市における治安部隊と市民の衝突
(1)3日、メキシコ州アテンコ市において、生花販売露天商を強制排除しようとしたメキシコ州警察と、露天商を中心とした市民が衝突し、火焔瓶などで抵抗、死者1名、負傷者50名以上を出す事件に発展した。警官14名が人質となったため、翌4日早朝、州警察及び連邦予防警察(PFP)合同による約2,000名規模の作戦を展開、人質を解放し、市庁舎周辺を占拠していた市民200名以上を逮捕した。7日には、メキシコ州検察が、「組織犯罪」として逮捕者のうち189名を起訴した。
(2)一方、アテンコ市の支持者及び、保釈された者から、4日の大規模作戦の際、明かに職権濫用及び婦女暴行が行われたとの証言が多数出された。全国人権委員会も、人権侵害と批判し、メディアで過剰に暴力を加える様子が放映されたこともあり、17日、メキシコ州検察は婦女暴行容疑等で、捜査官44名の取り調べを開始した。
(3)マルコス・サパティスタ民族解放軍(EZLN)副司令官は、本件発生当時メキシコ市に滞在しており、政府の対応を激しく批判、逮捕者の解放を要求して、道路封鎖やデモなどの活動を行った。アテンコ市は、2001〜2002年、空港建設に反対する左翼活動家を中心とするグループと政府との衝突があった場所であり、現在もEZLNシンパや左派過激派のグループが存在することもあり、マルコス副司令官は、本件解決までメキシコ市に滞在すると述べた。30日には、7月2日の選挙の際に、全国で大規模な動員を行うと発表し、連邦及び地方治安当局は、動きを注視していく旨述べた。

 

<外交>
1.移民法改正を巡る米国との関係
(1)15日、ブッシュ米大統領は、国境警備強化のために6,000名の州兵派遣を含む移民政策に関する演説を行った。この演説を受け、メキシコ政府は、引き続き包括的な移民改革が行われることを注視すること、国境の軍事化ではないとの認識を表明するプレスコミュニケを発表した。
(2)しかしながら、17日、連邦議会上・下院合同常任委員会は、ブッシュ米国大統領が表明したメキシコ−米国国境への6,000人の州兵派遣に関し、メキシコ政府として懸念を表明するようフォックス大統領へ要請する合意文書を採択した。また、同日、米国上院がアリゾナ州の両国国境に新に約600キロに亘る防壁建設、及びカリフォルニア・アリゾナ2州の国境に約800キロの防護柵建設を可決したことに対し、議員から批判が相次いだ。
また、同日、合同常任委員会は、当月23〜26日のフォックス大統領のカリフォルニア、ユタ及びワシントン州訪問承認にあたり、委員からは、メキシコが移民法改正に関し憂慮している点を明確に表明し、理解を得てきて欲しいとの要望が出された。
(3)18日、メキシコ政府は、在米メキシコ大使館を通じ、州兵派遣及び国境防壁建設に関するメキシコ政府としての不満(inconformidad)を、「慎重に、しかしはっきりと(prudente pero firme)」表明する外交書簡を発出した。特に、州兵が移民を逮捕、拘束する権限がないにも拘わらず、「自衛のために」武装している点への懸念を示した。
(4)25日、米上院は、一定条件下で米国に定住し就労している不法移民合法化を含む包括的移民改革に関する法案を可決した。フォックス大統領は、外遊先のカリフォルニア州にて、本件は「正義の決断」であると評価し、ブッシュ大統領、米上院等に謝意を表明するコメントを発表した。
しかし、同法案は今後両院協議会での審議を経て、可決されなければならず、一部有識者からは、フォックス大統領のコメントは時期尚早との見解も出されている。

 

2.李中国外交部長のメキシコ訪問及び第2回メキシコ−中国二国間常任委員会の開催
(1)17日、李肇星中国外交部長率いる中国代表団は、第2回メキシコ−中国二国間常任委員会出席のため、メキシコを訪問した。同日夜、李外交部長を始めとする中国政府高官はフォックス大統領と会談し、相互協力関係の一層の強化を確認した。
(2)18−19日、第2回メキシコ−中国二国間常任委員会が開催された。メキシコ側はデルベス外相、中国側は李外交部長が代表団を率い、外交、経済、社会開発、エネルギー、教育、通信運輸、観光、農業、財政、文化、科学技術などの分野で話し合いが持たれた。小委員会には、両国から閣僚級が参加した。
同委員会は、19日、共同行動計画、及びエネルギー分野における協力に関する覚書等4つの覚書に署名し、閉幕した。
第3回二国間常任委員会は、2008年北京で開催することが決定された。

 

3.第4回EU−ラ米・カリブ諸国首脳協議出席、及びスロバキア訪問
(1)11−13日、フォックス大統領は、ウィーンで開催される第4回EU−ラ米・カリブ諸国首脳協議出席のためオーストリアを訪問した。12日には本会議で演説を行った他、モラレス・ボリビア大統領との首脳会談が実現した。
(2)13日、フォックス大統領は、メキシコ大統領として初めてスロバキアを訪問し、ガシュパロヴィチ・スロバキア大統領との首脳会談を行った。また、二重課税防止に関する協定に署名した。

 

4.メキシコ−グアテマラ二国間委員会
(1)24−29日、第9回メキシコ−グアテマラ二国間委員会が開催された。両国の代表は、デルベス・メキシコ外相とブリッツ・グアテマラ外相が務めた。委員会には、グアテマラよりビエルマン内相、カスティージョ通信インフラ住宅相、オルティス・エネルギー鉱業相、ベテタ大統領府計画相が参加し、それぞれメキシコ側のカウンター・パートと会談した。
(2)国境の治安問題に関しては、両国間の協力メカニズムを通じて、安全且つ平和な国境を確保すること、また、移民問題については、グアテマラ系不法移民の安全且つ秩序ある本国送還、密入国斡旋対策強化に合意した。また、国際場裡における協力については、メソアメリカ地域の包括的かつ持続可能な開発を推進していくことの重要性を確認した。

 
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