政務班
2006年6月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
 内政では、大統領選挙まであと1ヶ月を切り、選挙戦が激化した。また、オアハカ州においては、教職員組合員と同州政府との関係が硬直化、選挙を前に、同州の治安状況が懸念されることとなった。
 外交では、デルベス外相が米州機構(OAS)総会出席や、南米への外遊などの活動を行ったものの、国内総選挙が近づき、外交活動などを含めた自粛期間ということもあり、目立った動きはなかった。

 

 

<クロノロジー>
1日   「レフォルマ」紙、世論調査によるフォックス大統領の支持率を64%、10段階評価で6.8と発表。(内政)
1日   タメス教育相、モスクワで開催されたG−8教育相会合の拡大会議に出席。(外交)
2日   連邦検察庁(PGR)とメキシコ市治安庁、メキシコ市の前麻薬対策課長が、麻薬カルテルと繋がっていたとして指名手配。(内政、治安)
2日   米国アリゾナ州において、米−墨国境への州兵派遣開始。(外交)
3日   フォックス大統領、ドミニカ共和国を訪問。第2回、メソアメリカ・エネルギー・イニシアチブ首脳会合開催。(外交)
4日   連邦選挙機関(IFE)、カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補がFOBAPROAに関与したとする「全ての者の利益のための連合(CPBT)」によるスポット放映中止を決定。(内政)
4日   デルベス外相、ドミニカ共和国で開催された第36回米州機構(OAS)総会に出席(〜6日)。(外交)
5日   「レフォルマ」紙他、アウマダ容疑者(メキシコ市財務長官らへの贈賄容疑(「ビデオ・スキャンダル」))が、ロペス・オブラドールCPBT大統領候補関係者らの収賄場面が映っているビデオ5本を6日に公開と発表。名前が挙がった人々は関与を否定。6日、ビデオを公開するはずだったアウマダ容疑者の妻、自宅付近で銃撃されたと届け出。ビデオ公開延期。メキシコ市検察庁、証言の食い違い及び現場について不自然な点があり、「自作自演」の可能性を示唆。24日、同市検察庁、襲撃の疑いは低いとの捜査結果を発表。(内政)
6日   大統領候補による第2回公開討論会実施。ロペス・オブラドール候補、カルデロン候補の義兄による脱税及び違法契約疑惑について告発。7日、当地主要メディア、今回の討論会については「勝者なし」との見方を報道。9日、カルデロン候補義兄、ロペス・オブラドール候補を名誉毀損で告訴。PRD(民主革命党)、疑惑に関する証拠書類を提出。国税庁(SAT)、カルデロン候補義兄の経営する会社に関する内部情報漏洩があったと発表。20日、PRD及びPRI(制度的革命党)、カルデロン候補義兄の会社とIFEとの関係について調査を要請。IFE、これを受け入れ。25日、IFE、調査結果を発表し、右会社との関係を否定。(内政)
8日   全大統領候補代表、7月2日の大統領選挙で、IFEが発表する選挙結果を尊重することで合意。13日、右合意文書(通称「礼節協定(Pacto de la Civilidad)」)に署名。10日、ウガルデIFE評議員長、企業家らに対し、特定の政党及び候補者を支持するようなスポット放映及び経済的援助を自粛するよう要請。但し、CCE(企業調整協議会)はこの要請を拒否。22日、IFE、投票を呼びかけるCCEのスポットを連邦選挙法違反と判断。放映中止を決定。(内政)
11日  デルベス外相、コロンビア、ブラジルを始めとする南米6ヶ国外遊(〜17日)。(外交)
12日  メキシコ市長候補者による公開討論会。13日、当地各紙、エブラールCPBT候補の勝利と報道。(内政)
12日  メキシコ州政府、アテンコ事件に関し、職権濫用があったとして州警察の4人の上官を懲戒免職。20日、メキシコ州検察庁、本件に関し、職権濫用容疑で警察官23人に逮捕状発出。(内政)
14日  オアハカ州政府、賃上げなどを要求して座り込みを続ける教職員組合員を強制排除。組合員たちはオアハカ市の中央広場を再度占拠。オアハカ州知事の辞任を求め態度を硬化。15日、内務省の仲介により、オアハカ州政府と教職員組合交渉開始。19日、交渉決裂。22日、内務省、教職員組合に対し、大統領選挙を巡る休戦を打診するも、拒否。但し、選挙妨害はしない、と宣言。(内政)
14日  米テキサス州エルパソにおいて、移民保護及び人身売買取り締まりに関する「オアシス計画」のワーキング・グループ会合開催。人身売買取り締まり強化にメキシコ、米国両国が合意。(外交)
15日  外務省主催により第9回ビジネス・フォーラム「米国、カナダのイスパノ市場への接近」開催(〜16日)。(外交・経済)
15日  外務省、国連安保理改革に関するメキシコ政府見解コミュニケ発表。(外交)
18日  IFE、大統領選挙当日のクイック・アカウントや開票方法などを発表。(内政)
19日  社会民主主義及び農民の代替党(PASC)農民部会、マドラソ「メキシコのための連合(APM)」大統領候補支持を表明。20日、PASC中央執行部、同部会リーダーを中央執行部から追放(役職解任)。(内政)
20日  米下院、移民法改正に関する審議を8月まで延期すると決定。本決定に関して、メキシコ国内で目立った動きなし。(外交)
22日  デルベス外相、米ヒューストン、シカゴ及びロサンジェルスを訪問(〜24日)。
23日  連邦政府、対外債務の前倒し払い(70億ドル)決定。フォックス大統領、メキシコ経済の安定を強調。(内政、外交)
23日  大統領選挙に関する最終世論調査結果発表。過半数の調査結果で、ロペス・オブラドール候補の支持率が若干カルデロン候補を上回るも、実質同率。28日、大統領選挙及び同日に行われる連邦上・下院選挙、地方選挙のキャンペーン終了。(内政)
30日  連邦第2統一刑事裁判所、1968年の通称「トラテロルコの虐殺」に関し、エチェベリア元大統領の逮捕状を発出(高齢のため自宅軟禁)。PRIは、「与党PANによる選挙妨害」として反発。(内政)
30日  外務省、IWCの捕鯨に関する「セント・クリストファー・ネービス宣言」受け入れ拒否を表明するコミュニケ発表。(外交)

 

 

<内政>
1.大統領選挙を巡る動き
(1)大統領選挙まで1ヶ月となり、6月からの選挙戦は激しさを増した。特に6日に実施された大統領候補による第2回公開討論会は、政策論に関しては既出の公約の繰り返しで当地メディアからは「退屈」と評されたが、ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(CPBT)」(以下AMLO)候補が終盤、カルデロンPAN(国民行動党)候補の義兄による脱税及び違法契約疑惑を持ち出したため、討論会後からはこの義兄を巡る報道が紙面を占めることとなった。また、最終的関係は否定されたものの、連邦選挙機関(IFE)とカルデロン候補義兄の会社との「不適切な関係」も取り沙汰された。
AMLO候補に関しても、5日、既に贈賄の容疑で収監されているアウマダ容疑者が、再度同候補側近の収賄場面が映ったビデオを公開する旨発表し、「第2のビデオ・スキャンダル」か、と騒がれた。結局、ビデオ公開予定日にアウマダ容疑者の妻が「銃撃」され、公開は無期延期になったが、「銃撃」自体も自作自演の可能性が高くなり、同候補に対する選挙妨害との見解も出た。
(2)スポットについては、ネガティブ・キャンペーンより次第に候補者自身のイメージ・アップのものが多くなった。一方、候補者以外、特に企業家らによるスポット放映数が劇的に増えたが、こちらは明言しないまでも、暗にAMLO候補に投票しないことを呼びかけるものであったため、IFEは「特定候補に肩入れするスポット放映の自粛」を呼びかけた。しかし、CCE(企業調整協議会)はこの要請を拒否し、最終的にIFEは連邦選挙法違反を根拠に、CCEによるスポット放映中止を決定した。
(3)マドラソ「メキシコのための連合(APM)」の周囲も俄に騒がしくなった。ボレゴ上院議員は、カルデロン候補への投票を公に呼びかけ、PRI(制度的革命党)を離党、一方、バートレット上院議員は、マドラソ候補を「裏切り者」と非難、離党はしないものの、AMLO候補に対する戦略的投票(Voto Util)を呼びかけた。また、社会民主主義及び農民の代替党(PASC)の農民部会は、従来より同党のメルカド候補に対して不満を持っていたが、19日には、マドラソ候補支持を表明し、同党の中央執行部は同部会リーダーを執行部から追放した。
(4)主要3候補の世論調査による支持率は以下の通り。


*数値はいずれも%で、「誰に投票するか分からない」と回答した者を除いた数値。

 

ミトフスキー

レフォルマ

ウニベルサル

6月

最終

6月

最終

6月

最終

AMLO(CPBT)

35

36

37

36

34

36

カルデロン(PAN)

32

33

35

34

37

34

マドラソ(APM)

28

27

23

25

22

26

 

2.オアハカにおける教職員組合と治安部隊の衝突
(1)14日、オアハカ州都オアハカ市において、同州治安当局は、給与等の待遇改善を求め5月22日より市庁舎周辺で座り込みを続けていた教職員組合(SNTE)の強制排除に着手、一時的に排除に成功したものの、数で勝るSNTE側が再び市庁舎周辺を占拠した。
右作戦で、双方だけでなく、巻き添えとなった一般市民合わせて72名の重軽傷者を出した。
(2)同日、ウリセス・ルイス同州知事は、内務省に仲裁を要請、15日より内務省の仲裁により同州政府とSNTEの話し合いが持たれたが、強制排除を受けてSNTE側は態度を硬化し、待遇改善に加え、州知事の辞任を要求し、19日には交渉が決裂した。
(3)内務省は、7月初旬には学期が終了すること、また、7月2日には大統領選挙が予定されていることなどを理由に、SNTEに対し一時休戦を申し入れたが、SNTE側はこれを拒否した。但し、選挙妨害などは行わない旨宣言した。
解決の糸口が見つからないまま、依然座り込みが続いている。

3.エチェベリア元大統領に対する逮捕状の発出
30日、連邦第2統一刑事裁判所は、1968年10月2日に起きた政府による学生弾圧事件、通称「トラテロルコの虐殺」に関し、「過去の社会的・政治的運動に関する特別検察」の訴えに基づき、右事件を「大量虐殺」であると認め、事件当時警察組織の統括責任者である内相の立場にあったエチェベリア元大統領には右事件に関与した十分な証拠があるとして、同元大統領に対する逮捕状を発出した。但し、エチェベリア元大統領が高齢であるため、連邦刑事法に基づき自宅軟禁が命じられた。
一方、エチェベリア元大統領側のベラスケス弁護士は、裁判所に対し保護請求(amparo)を行うと述べた。

 

 

<外交>
1.第36回米州機構(OAS)総会
(1)4〜6日、ドミニカ共和国サント・ドミンゴにおいて、第36回OAS総会が開催され、デルベス外相が出席した。メキシコは、治安問題への取り組み、トラテロルコ条約枠組みの強化、本半球における自由貿易及び投資の促進等に関するイニシアチブを行った。
(2)また、本総会に先立ち、3日、同国ラ・ロマーナにおいて、第2回メソアメリカ・エネルギー・イニシアチブ会合が開催され、フォックス大統領を始めとする各国首脳が出席した。会合後、各国首脳は、SICA、メキシコ及びコロンビア地域のエネルギー分野における統合強化を目的とした共同宣言「ラ・ロマーナ宣言」に署名した。

 

2.国連安保理改革に関するメキシコの立場

15日、メキシコ外務省はコミュニケを発表し、次回国連総会におけるメキシコの安保理改革に関する立場を表明した。メキシコ政府は、安保理の包括的な改革の必要性を認めながらも、常任理事国の拡大ではなく、非常任理事国の拡大を提案する従来の主張を繰り返した。
 
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