政務班
2006年8月のメキシコの内政・外交の概要
 

<概要>
 内政については、ロペス・オブラドール大統領候補支持者による抗議行動の行方、及びオアハカ州における教職員組合と同州政府との対立先鋭化の2点に大きな関心が集まった。ロペス・オブラドール候補支持者は、メキシコ市の目抜き通りであるレフォルマ通りの占拠を続けており、加えて新たな抗議行動が発表されるなど、問題解決の糸口が見えない状態が続いた。オアハカ州の対立も、組合側による幹線道路封鎖などが影響し、観光産業に甚大な被害が出ており、内相自らが交渉にあたっているものの、全く歩み寄りが見られない。
 外交については、主要省庁が夏休みということもあり、特に大きな動きはなかった。

 

 

<クロノロジー>
1日   連邦下院、ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(CPBT)」候補支持者によるレフォルマ通り占拠に関し、事態解決を図っていないとしてアバスカル内相及びエンシーナス・メキシコ市長に対する非難声明採択。3日未明、CPBT、メキシコ証券取引所前を占拠(正午前には退去)。9日、一部銀行前を占拠。10日、連邦検察庁前で座りこみ。11日、国税庁前で座りこみ。ロペス・オブラドール候補、新たな抗議行動を発表。14日、PRD(民主革命党)所属下院議員、下院周辺にテントを設営しようとし、連邦治安当局により排除される。15日、CPBT、9月16日の独立記念軍事パレードの日に「民主主義全国大会」開催を発表。16日、フォックス大統領、PRDとの対話を行っている旨発言。PRD側は直ちにこれを否定。21日、レフォルマ通りの一部ロータリーを解放したものの、座りこみ抗議運動継続。(内政)
1日   オアハカ州教職員組合を中心とする「オアハカ人民会議(APPO)」、州営放送局を占拠。4日、オアハカ州政府とAPPOの仲介を行っていた市民グループ解散。APPOの活動先鋭化、市内にバリケード設置、バスなどを炎上させる。7日、オアハカ州治安当局、空砲や催涙弾などを使い、APPOと武力衝突。APPO、オアハカ市へのアクセス道一部封鎖を開始。APPOと治安当局との衝突により巻き添えとなった市民1人死亡。16日、社会保険庁(IMSS)系病院の医療関係者、ストライキに突入。22日、オアハカ州治安当局、「掃討作戦」実施。APPOとの衝突、更に激化。同州検察長官、APPOについて「ゲリラ」と発言するも、23日、連邦検察長官これを否定。29日、アバスカル内相、APPOとの交渉開始。同日、オアハカ市企業組合、抗議のためのストライキに突入。(内政)
5日   連邦選挙裁判所、CPBT陣営による大統領選挙の「全票数え直し」要求を棄却。但し、「不備がある」投票所については「再開票数え直し」を命じる。7日、ロペス・オブラドールCPBT候補、連邦選挙裁判所の決定に抗議し、抗議集会を裁判所前で開始(但し、2日間のみ)。8日、CPBT支持者、メキシコ市に繋がる有料高速道路の料金所でデモ。9日、一部投票所における再開票数え直し開始。13日、数え直し終了。(内政)
7日   メキシコ外務省において、第2回メキシコ−ドミニカ共和国科学技術二国間協力混合委員会開催。23のプロジェクトに関する今後2年間の計画を協議。(外交)
10日  メキシコ外務省、英ロンドンの空港で発生したテロ未遂事件を受け、国防省と共同で、空港警備対策強化を発表。(治安・外交)
14日  メキシコ外務省及び厚生省、国連開発計画(UNDP)、メキシコ南東部地域におけるマラリア、デング熱及びその他の伝染病の予防及び制御を目的とする協定に署名。(内政・外交)
14日  ジャマイカ・キングストンで開催された第12回国際海底機構総会において、メキシコのエスコバル候補が、同機構法律・技術委員会委員に選出。22日、メキシコが同機構理事国に選出。(外交)
16日  米国麻薬対策局(DEA)、メキシコ海域付近の公海上で、ティファナを拠点とする麻薬カルテルである「アレジャノ・フェリックス・カルテル」のボスの身柄を拘束したと発表。17日、カベサ・デ・バカ検察長官、「アレジャノ・フェリックス・カルテル」はほぼ壊滅した旨発言。専門家らはこの見解に否定的。(治安・内政)
17日  メキシコ外務省、エクアドルのトゥングラウア火山噴火の被災者に対し、哀悼の意を表明。(外交)
18日  客年発生したロペス・オブラドール候補側近らによる収賄事件「ビデオ・スキャンダル」に関し、贈賄側のアウマダ容疑者の新証言ビデオ公開。サリーナス元大統領、クリール前内相、フェルナンデス・デ・セバージョス前上院議長らによる「ロペス・オブラドール追い落とし陰謀」が窺われる内容。名指しされたクリール前内相らは関係を否定。一方、ロペス・オブラドール候補側は、「陰謀の証拠」として激しく非難。(内政)
20日  チアパス州知事選挙実施。上位2候補の得票差が1%未満の大接戦に。27日、チアパス州選挙機関、サビネスCPBT候補の当選を発表。PRI(制度的革命党)は不服申し立てを行う意向。(内政)
21日  ミチョアカン州ラサロ・カルデナス市のSicartsa社(製鉄所)のストライキ、140日ぶりに終了。(内政)
23日  連邦選挙機関(IFE)、連邦上・下院議員選挙に関する連邦選挙裁判所の審議終了を受け、両院における各党比例代表議席の配分決定。(内政)
26日  米国ユマにおいて、メキシコ−米国国境を越えようとしたメキシコ人1人が国境警備隊から銃撃される。27日、右メキシコ人死亡。メキシコ外務省、領事館を通じ米国政府に説明を要求。(外交)
28日  連邦選挙裁判所、大統領選挙の不服申し立てに関する全審議終了。一部投票所の無効化を決定したものの、「大勢に影響ない」との見解。引き続き最終集計及び選挙の評価に関する審議入り。(内政)
29日  次期国会議員、連邦上・下院両院の議長及び執行部メンバーを選出。上院では全会一致で選出されたが、下院では議長選出を巡り、PRDとPAN・PRIとの対立が顕在化。(内政)
31日  デルベス外相、ペルーを訪問。ガルシア大統領と会談。(外交)

 

 

<内政>
1.大統領選挙後のロペス・オブラドール候補陣営による抗議行動
(1)ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(CPBT)」(以下AMLO)大統領候補及び支持者は、大統領選挙の全票数え直しを要求し、7月30日よりメキシコ市の目抜き通りであるレフォルマ通り及びソカロ(憲法広場)を占拠し、座りこみ抗議運動を行っていたが、5日、連邦選挙裁判所は、「一部投票所に関しては、CPBTから不服申し立てが行われていない」という点を主な理由として、全票数え直し要求を棄却した。但し、一部投票所については明かな「不備」があるとして、再開票数え直しを命じた。
(2)AMLOはこの決定を不服とし、あくまでも全票数え直しを求め、新たな抗議行動計画を発表した。まず、9月1日の大統領教書演説を阻むとして、14日、PRD(民主革命党)の下院議員らが下院周辺にテントを設営しようとしたが、これは連邦治安当局によって強制排除され、それ以降、下院周辺は軍も含め厳戒な警備体制が敷かれた。更に、9月15日、16日にソカロで行われる独立記念式典(「独立の叫び」及び独立記念軍事パレード)の際にも座りこみ運動は継続し、16日には「民主主義全国大会」を開催すると発表した。一方、国防相は、例年通りパレードを実施する旨発言しており、CPBT支持者の強制排除が行われるのではないか、との懸念が出ている。
(3)加えて、28日、連邦選挙裁判所が、一部投票所の無効としたが、大勢に影響はない、との見解を示すと、AMLO候補はこれを認めないと発言、カルデロンPAN大統領候補を正式な大統領と認めないこと、代替政府設立などを主張する状況となっている。

 

2.オアハカ州における教職員組合と州政府との対立先鋭化
(1)5月よりストライキを続けていたオアハカ州教職員組合は、6月14日に発生した同州治安当局による強制排除に端を発し、先住民保護団体や農民団体と共に、「オアハカ人民会議(APPO)」を結成、当初はウリセス・ルイス・オアハカ州知事の辞任を要求していたが、7月以降は、「同州の三権(行政、立法、司法)の消滅」へと要求をエスカレートさせていた。問題解決のために、内務省や有識者を中心としたグループが、APPO側と州政府側の仲介を行っていたが、4日、右グループも解散し、その後は市内各地で両者の小規模な衝突が続いていた。
(2)1日より、同グループは州営放送局を占拠していたが、21日未明、そこを武装グループが襲撃し、放送機材を破壊し、APPO側に負傷者が出た。APPOは、本件は州政府によるものであると判断し、活動を先鋭化させ、オアハカ市への全アクセス道封鎖、市内主要道封鎖及び市内約50カ所にバリケードを築くなどの行動に出たため、22日以降、同市へのアクセスが一切出来ない状況になっている。
(3)加えて、21日深夜、オアハカ州治安当局は、「道路網掃討作戦(Operativo del Limpieza de Vialidades)」と名付けた作戦を敢行し、道路を封鎖しているAPPOに対して発砲、この作戦で、道路清掃を行っていた男性が巻き添えとなり死亡する事件も発生した。同州検察長官は、APPOについて「ゲリラ」と発言し、連邦政府の介入を要求する発言を行ったが、連邦検察庁側はこの見方を否定し、連邦治安当局は介入しないとの姿勢を貫いている。
(4)一方、事態の深刻化を受け、29日よりアバスカル内相自らがAPPOとの交渉にあたっているが、あくまでルイス州知事の辞任を要求するAPPO側との歩み寄りは見られていない。他方、APPOによる抗議行動で観光業界を中心とした経済活動に甚大な被害が出ている状況に抗議し、29日、オアハカ市企業組合は24時間ストライキに突入した。同組合は、事態解決まで、断続的にストライキを行うとしており、市民生活にも深刻な影響が出ている。

 

3.連邦上・下院の各党議席構成及び両院の議長選出
(1)連邦上・下院の各党議席構成
 (イ)連邦上院(128議席)
  ・PAN(国民行動党)   52議席  
  ・PRI(制度的革命党)   32議席  
  ・PRD(民主革命党)    30議席  
  ・緑の党            6議席  
  ・結集党            5議席  
  ・労働党            2議席  
  ・新同盟党(Panal)      1議席  
 (ロ)連邦下院(500議席)
  ・PAN   206議席  
  ・PRD   125議席

  ・PRI    104議席

  ・緑の党   19議席  
  ・結集党   17議席  
  ・労働党   16議席  
  ・新同盟党   9議席  
  ・社会民主主義と農民のための代替党  4議席  

(2)両院議長選出
29日、連邦上・下院は、本年9月1日から明年8月末までの議長及び執行部メンバーをそれぞれ決定し、下院はセルメニョPAN議員、上院はベルトローネスPRI議員が議長を務めることになった。上院では全会一致で議長及び執行部メンバーが決定されたが、下院では「第一党から政策調整委員長、第二党から議長を選出する」という1997年以降の慣習が守られず、第一党のPANから議長が選出されたため、第二党であるPRDが激しく反発して、議長選出にあたり議論が紛糾した。

 

4.チアパス州知事選挙

20日、チアパス州知事選挙が行われ、サビネス「全ての者の利益のための連合(CPBT)」候補とアギラル候補(PRI)の得票差が1%未満と極めて僅差となった。27日、チアパス州選挙機関(IEEC)は、最終結果として、サビネス候補の当選を発表した。得票差は僅か6,282票であった。選挙前から「サラサール現州知事がサビネス候補に肩入れしている」と強く批判していたアギラル候補陣営は、サラサール知事による圧力及びサビネス候補陣営による選挙不正があったとして、選挙裁判所に対し不服申し立てを行う旨発表したが、アギラル候補支持に回ったPANは、28日、州選挙機関の決定を尊重する決定を行った。
 
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