<概要>
内政では、連邦選挙裁判所がカルデロンPAN(国民行動党)大統領候補の当選を正式に決定する判断を下し、2ヶ月に及ぶ選挙後の混乱状況に一応の終止符が打たれた。一方、ロペス・オブラドール元大統領候補は今後も抵抗運動を続けていく旨表明し、11月20日には「正統な」大統領に就任すると発表された。
また、オアハカ州におけるオアハカ人民会議による抵抗運動は継続しており、内相との交渉も無期延期となるなど、更に事態の深刻化が懸念される状況となっている。
外交では、フォックス大統領が第61回国連総会に出席し、メキシコにおける民主主義の強化を強調する演説を行った。
<クロノロジー>
1日 フォックス大統領、年次教書提出のため連邦下院へ赴くも、議長席周辺をPRD(民主革命党)党員が占拠したため最後の大統領教書演説が実施出来ず。後に全国放送で演説ビデオ放映。(内政)
1日 フレンク厚生相、WHO事務局長選に正式出馬。(外交)
5日 連邦選挙裁判所、今次大統領選挙の評価に関する最終判断。カルデロンPAN(国民行動党)大統領候補の当選を正式に決定。ロペス・オブラドール「全ての者の利益のための連合(CPBT)」大統領候補陣営は、この決定を認めない旨発表。6日、連邦選挙裁判所、カルデロン次期大統領に当選証書を交付。(内政)
7日 連邦最高裁、今次大統領選挙に関し、憲法に抵触するような違反はなかった旨判断し、最高裁が大統領選挙に関する審議を行う可能性を否定。(内政)
8日 連邦上・下院、国会規則を改定し、下院で第三党であるPRI(制度的革命党)のガンボア会派長を下院政策調整委員長に任命。(内政)
10日 ロペス・オブラドール元大統領候補、独立記念式典の軍事パレードが実施出来るように、ソカロ(憲法広場)及びレフォルマ通の占拠撤収を明言。但し、ソカロで彼自身による「独立の叫び(El Grito)」を行うとの宣言は撤回せず。14日、フォックス大統領、「独立の叫び」をグアナファト州ドローレス・イダルゴ市で行うと決定。その後、ロペス・オブラドール元大統領候補側も、「独立の叫び」はエンシーナス・メキシコ市長が行う旨発表。15日、座りこみ運動終了、全区間の撤収完了。15日及び16日、独立記念式典実施。問題なく全行事終了。(内政)
11日 主要3党(PAN、PRI及びPRD)、カルデロン次期大統領との対話を承諾。但し、PRDは「(カルデロン)大統領就任後」との条件。(内政)
12日 全国州知事会議(Conago)、ウリセス・ルイス・オアハカ州知事支持を全会一致で決定。PRD所属の州知事は出席せず。(内政)
12日 チャベス・ベネズエラ大統領、「カルデロン次期大統領はロペス・オブラドール候補の勝利を横取りした。ベネズエラは、次期大統領を承認するか否か検討中である」との発言。13日、メキシコ外務省、「メキシコは、大統領選挙の結果を他国に承認してもらう必要はない」とのプレス・コミュニケ発出。(外交)
14日 PRD、労働党及び結集党、「進歩主義包括戦線(Frente Amplio Progresista)」結成。27日、連邦選挙機関(IFE)に戦線の登録を申請。(内政)
14日 在メキシコ米国大使館、メキシコ−米国国境地域を中心としたメキシコの治安問題に関する注意情報発出。メキシコ外務省、国境の治安問題はメキシコ・米国双方の責任と反発。22日、ガルサ駐メキシコ米国大使、メキシコ米国国境付近には、「無法地帯」があると発言。フォックス大統領、国境地域の治安状態の悪さを認めるも、国境治安は両国に責任がある問題と再度主張。28日、連邦上院、ガルサ大使の発言に抗議する合意を採択。(外交)
16日 ロペス・オブラドール元大統領候補陣営、「民主主義全国大会(Convencion Nacional Democratica)」開催。カルデロン次期大統領の不承認、ロペス・オブラドールを「正統な」次期大統領として指名し、11月20日に大統領に就任することなどを決定。(内政)
18日 フォックス大統領、第61回国連年次総会出席のため、米国ニューヨーク訪問(〜20日)。デルベス外相同行。デルベス外相、李肇星中国外交部長と会談。また、G5(新興経済諸国5カ国:メキシコ、ブラジル、中国、インド及び南アフリカ)外相による非公式会合出席。19日、フォックス大統領、総会の場で演説。メキシコにおける民主主義の強化を強調。20日、パラシオ・エクアドル大統領と会談。(外交)
19日 オアハカ州教職員組合(SNTE)、ウリセス・ルイス同州知事が辞任しない限り授業再開はない、と表明。20日、SNTE及びオアハカ人民会議(APPO)、アバスカル内相らと続けていた交渉を無期延期。21日、APPO、オアハカからメキシコ市に向けて行進開始。26日、ウリセス・ルイス州知事支持者、APPOに先駆けメキシコ市に到着。内務省及び連邦上院前でデモ。同日、APPO、組織再編及び行動計画見直しを発表。27日、SNTE、抵抗運動継続を発表。30日、国防省、オアハカ州に空軍を派遣し、オアハカ市上空における見回り開始。(内政・治安)
20日 IFE、今後の選挙運営に反映させるため、今般大統領選挙プロセスの調査実施を決定。但し、情報公開法に基づき一部メディアや有識者から出されている全票公開については、否定。(内政)
21日 カルデロン次期大統領、フォックス大統領と会談。本格的に政権移譲過程に入る。27日、各党に対し、次期政権の政策アジェンダを配布。(内政)
27日 メキシコとツバル、外交関係樹立。(外交)
28日 ハリス・セント・クリストファー・ネービス外相、メキシコを訪問(〜30日)。デルベス外相と会談。(外交)
29日 米国連邦議会、メキシコ−米国国境における1,200キロの二重防壁建設を含む法案可決(メキシコ政府は、採択に先立ち28日、防壁建設は二国間関係に裨益しないとの懸念を表明するプレス・コミュニケ発出)。(外交)
30日 米国不法移民に対する「2006年、自発的本国送還プログラム」終了。(外交)
<内政>
1.次期大統領の正式決定
(1)5日、連邦選挙裁判所は、今般大統領選挙に関し、最終集計結果の発表及び大統領選挙の評価に関する最終審議を行った。カルデロンPAN候補は14,916,927票、ロペス・オブラドールCPBT候補(以下AMLO候補)は14,683,096票の得票であり、両者の得票差は僅か233,831票(0.56%)であった。
(2)大統領選挙の評価については、(イ)フォックス大統領による選挙介入や、CCE(企業調整員会)のような一部企業家団体による特定候補支持に繋がる選挙キャンペーンはあったが、選挙結果を決定する要因とは考えられない、(ロ)ネガティブ・キャンペーンは好ましくない影響を与えたが、投票動向を左右しなかった、(ハ)一部再開票を実施した結果、幾つかの不正が発見されたが、深刻なものではなかった、との見解を示し、今回の選挙は正当に実施されたとの判断を下した。その上で、得票数で1位となったカルデロンPAN候補の当選を発表した。
(3)カルデロン次期大統領は、連邦選挙裁判所の判断を受け、国民に向けて「国家の統一」を強調するメッセージを発出した。
一方、敗れたAMLO元候補は、右判断を批判し、カルデロン次期大統領は正当且つ民主主義的に選出されておらず大統領としての正統性は認めない、と強調して、カルデロン次期大統領と対話及び交渉する可能性を否定した。
(4)カルデロン次期大統領は、21日、フォックス大統領と会談し、本格的に政権移譲チームを始動させる一方、27日には各党に対し、次期政権の政策アジェンダを配布して、合意形成のため動き始めた。
2.AMLO元大統領候補陣営による抵抗運動
(1)AMLO陣営は、連邦選挙裁判所がカルデロン候補に有利な判断を下すとの見通しが示される中、1日、抗議のため大統領教書演説が行われる連邦下院の議長席周辺を占拠し、フォックス大統領に演説を行わせないという異例の事態となった。
(2)5日に連邦選挙裁判所によって大統領選挙の敗北が決まると、AMLO陣営はカルデロン次期大統領を正統な大統領と認めないと宣言し、AMLOが「正統な」次期大統領として15日にソカロ(憲法広場)で「独立の叫び(El Grito)」を行うと発表した。世論を考慮し、ソカロ及びレフォルマ通りにおける座りこみ運動解除が決定されたものの、AMLOによるこの発言は「フォックス大統領とAMLOが同時に『独立の叫び』を行い、混乱が起きるのではないか」との新たな懸念を生んだ。14日になり、フォックス大統領はグアナファト州ドローレス・イダルゴ市で「独立の叫び」を行うと決定し、その後AMLOも「独立の叫び」は行わないと発表したため、衝突という最悪の事態は回避された。
(3)16日、AMLO陣営は、「民主主義全国大会(Convencion Nacional Democratica)」を開催し、(イ)カルデロン次期大統領及びその政権を承認しない、(ロ)現在の制度を否定し、現状に適した新たな制度・組織を構築する、(ハ)AMLOを「正統な」次期大統領に指名し、就任式は11月20日とすることなどを決定した。
(4)また、民主主義全国大会に先立ち、選挙で「全ての者の利益のための連合(CPBT)」を形成していたPRD、労働党及び結集党は、立法府において協働で改革を進めていくことを目的とし「進歩主義包括戦線(Frente Amplio Progresista)」を結成した。
(5)一方、以前からAMLO批判を続けていたカルデナス元PRD党首は、AMLOを「正統な」次期大統領に指名するという行為を批判しており、党内の亀裂が目立ってきている。
3.オアハカ市における治安情勢
(1)8月下旬より、アバスカル内相自身がイニシアチブをとり、オアハカ州教職員組合を中心とするオアハカ人民会議(APPO)との交渉が進められたが、APPO側はあくまでもウリセス・ルイス・オアハカ州知事の辞任を要求し、話し合いは膠着状態となった。オアハカ州の企業家団体や保護者たちによる授業再開要求の声も次第に強くなり、教職員組合側は授業再開時期について相談していたが、オアハカ州政府側が再び強硬姿勢を取り始めたため、授業再開については白紙撤回され、また、内相との交渉も無期延期となった。
(2)APPOによる抵抗運動は、更に先鋭化が予想される事態になっており、オアハカ州政府からの要請もあって、30日には国防省が空軍を派遣し、連日空からの見回りが行われている。
但し、連邦上院で同州知事の罷免が審議されているものの、連邦政府は同州知事の辞任の可能性は否定している。また、州知事自身も辞任の意志はないことを繰り返し表明している。
<外交>
1.フォックス大統領による第61回国連総会出席
(1)フォックス大統領は、第61回国連年次総会に出席するため、18〜20日、米国ニューヨークを訪問した。19日には、総会においてメキシコの民主主義が強化されていることを強調する演説を行った。また、右演説の中で、国連改革、特に「国連の民主化」について言及し、常任理事国拡大ではなく、非常任理事国議席を拡大し、より多くの国の意志が反映される組織とするべきとする従来からの立場を繰り返した。
(2)一方、この機会を捉えて二国間会談も行い、20日、パラシオ・エクアドル大統領と会談した他、昼食会の際にブッシュ米大統領とも短時間ながら移民問題などについて話し合いを持った。
(3)また、今次ニューヨーク訪問にはデルベス外相も同行し、18日には李肇星中国外交部長と会談。また、G5(新興経済諸国5カ国:メキシコ、ブラジル、中国、インド及び南アフリカ)外相による非公式会合に出席した。
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