<概要>
内政では、治安に関し、客年12月から実施されている対麻薬組織作戦がティファナやゲレロ(アカプルコ)に拡大され、積極的に治安改善に取り組む政府の姿勢が見られた。また、カルデロン大統領は、社会福祉政策を次々に発表し、着実に公約を果たしている印象を与えた。
一方、新政権にとり、最初の課題となったのは、トルティージャなど基礎食品の値上げである。国民からの安定供給の声も大きく、大統領自ら緊急に経済関係大臣を招集し、対策を協議した。1月末の時点では、価格高騰は落ち着きを見せている。
他方、与党PAN(国民行動党)の内部紛争が連日報じられ、党幹部が火消しに躍起になる場面が多く見られた。
外交では、カルデロン大統領は、就任後初となる外遊を行った。エルサルバドルやニカラグアといった中米を訪問した他、ダボス会議出席に関係して欧州4カ国を歴訪した。ダボス会議におけるカルデロン大統領の発言を巡り、チャベス・ベネズエラ大統領が再び批判、両国間の緊張が更に高まった。
<クロノロジー>
1日 エスピノサ外相、ルーラ・ブラジル大統領の就任式出席。(外交)
2日 連邦政府、ミチョアカン州で展開する対麻薬組織作戦をバハ・カリフォルニア州、特にティファナ市に拡大。軍を含む3千人を超える連邦治安部隊を派遣。地元警察も捜査対象に。(内政・治安)
2日 最高裁、アスエラ裁判長の任期満了に伴い、マヤゴイティア判事を裁判長に選出。(内政)
4日 アカプルコ市でPAN(国民行動党)連邦下院議員殺害事件発生。7日、殺害された議員の代理、その夫、PANゲレロ州支部長らが、事件の黒幕として逮捕状が出される。代理は逃亡。(内政)
6日 PRI(制度的革命党)、党首や事務局長を始めとする党中央執行部刷新選挙を2月18日に実施すると決定。ジャクソン前上院議長、パレデス・コロシオ基金総裁を始め計5人が党首選に立候補。(内政)
8日 カルデロン大統領、「新しい世代のための医療保険」付与開始を発表。(内政)
8日 PRD(民主革命党)、ヒル前蔵相がイギリス系銀行の顧問に就任したことに関し、「公職にある者の行政責任に関する連邦法」に抵触するとして公共行政省に告発。与党PANからも、道徳に反する行為との発言。その後、前蔵相が手続きに関し、身内に便宜を図っていたとの疑惑も浮上。公共行政省、合わせて調査に着手。(内政)
9日 シナロア州政府、連邦政府へ連邦治安部隊増強を要請。(内政・治安)
9日 連邦政府、ゲレロ州アカプルコ市及びチルパンシンゴ市における連邦治安部隊による警備強化を表明。10日、軍を含む治安部隊を派遣。(内政・治安)
9日 最高裁、選挙日を統一するため、州議会の任期を1年延長するとのオアハカ州議会による選挙法改正に対し無効判断。(内政)
9日 カルデロン大統領、ニカラグアを訪問(〜10日)。オルテガ同国新大統領就任式に出席。(外交)
10日 連邦下院、トルティージャ等の基礎食品(canasta basica)の価格に関し、連邦政府が統制するべきとの見解採択。11日、カルデロン大統領、経済関係閣僚を緊急招集、対策を協議。12日、ソホ経済相、トルティージャ価格安定のために、原料の白トウモロコシ65万トン緊急輸入を発表。15日、トルティージャ価格の上限を1キロあたり8.5ペソと決定。それ以上の価格で販売している場合は、告発するよう呼びかけ。メキシコ中央銀行などは、トルティージャ価格の上昇がインフレ率上昇の呼び水になるのでは、との懸念。31日、労働組合、農民団体及び「進歩主義包括戦線(FAP)」を中心に、メキシコ市で値上げに反対する抗議デモ実施。約4万人が参加。(内政)
10日 ゴンサレス米司法長官、メキシコを訪問(〜11日)。11日、メディナ−モラ連邦検察庁(PGR)長官と会談。麻薬組織対策で両国が協力していくことを確認。(内政・治安)
12日 メキシコ政府、台湾の総統専用機の領土上空通過を拒否。台湾政府、「中国からの圧力があった」と反発。中国側はこれを否定。(外交)
13日 メキシコ外務省、メキシコ−米国国境で、メキシコ国民が米国境警備隊に射殺されたことに対する抗議書簡発出。(外交)
14日 エスピノサ外相、エクアドルを訪問(〜15日)。コレア同国新大統領就任式に出席。エスピノサ・エクアドル外相と会談。(外交)
15日 カルデロン大統領、「初めて(フォーマル・セクターに)就職する人」を対象として、IMSS(社会保険庁)保険料を政府が1年間負担する政策を発表。16日、カルステンス蔵相及びロサノ労働相、雇用創出には右政策では不十分と認める。(内政)
15日 カルデロン大統領、エルサルバドルを訪問(〜16日)。15日、サカ同国大統領と会談。16日、ライーネス外相と会談。また、同国和平合意署名15周年式典出席。(外交)
20日 連邦政府、オシエル・カルデナスら麻薬組織関係者の身柄を米国へ引き渡し。22日、米国政府、メキシコ側の対応に謝意表明。(治安・外交)
22日 カルデロン大統領、「全国治安閣議」を招集。治安対策10行動指針を発表。(内政・治安)
22日 バスケス文部相、公立小中学校の各校評価の公表を発表。23日、ホームページ上での情報公開開始。(内政)
24日 カルデロン大統領、貧困層に対し光熱費として月50ペソを支給すると発表。(内政)
24日 カルデロン大統領、欧州歴訪(〜31日)。エスピノサ外相、ソホ経済相、バスケス文部相ら同行。25日、ドイツを訪問。ケーラー大統領、及びメルケル首相らと会談。26日、ダボス会議出席のためスイスを訪問(〜28日)。ルーラ・ブラジル大統領、カルミ=レ・スイス大統領兼外相らと会談。28日、イギリスを訪問(〜29日)。ブレア首相と会談。29日、スペインを訪問(〜30日)。フアン・カルロス1世国王主催晩餐会出席の他、30日、サパテロ首相と会談。(外交)
25日 メディナ−モラPGR長官、コロンビアを訪問(〜26日)。コロンビア政府の治安関係閣僚らと麻薬組織対策に関し協議。(治安・外交)
25日 連邦選挙裁判所、2000年大統領選挙の際の「Amigos de Fox」事件に関し、PAN及び緑の党に対し罰金判決。(内政)
31日 連邦選挙機関(IFE)、連邦下院が独立法人(Autonomo)である同機関の歳出予算を決定する権利はないとの違憲審査申し立てを最高裁に行うとの決定。(内政)
31日 エスピノサ外相、オーストリアを訪問(〜2月1日)。フィッシャー大統領、グーゼンバウアー首相及びプラスニック外相らと会談。(外交)
<内政>
1.社会福祉及び治安に関する新政策の発表
(1)治安対策
(イ)2日、連邦政府は、客年12月半ばからミチョアカン州で展開している対麻薬組織作戦を、バハ・カリフォルニア州、特にティファナ市に拡大すると発表した。政府は、軍を含む3千人強の連邦治安部隊を同州に派遣し、検問などを実施した。また、同州及びティファナ市の警官と麻薬組織との癒着の疑いがあるとして、地方警察も捜査対象となった。
また、ミチョアカン州、バハ・カリフォルニア州と共に、かねてより麻薬組織絡みの犯罪が深刻な問題となっているシナロア州や、ゲレロ州も連邦治安部隊増強を要請し、連邦政府は両州に対しても、捜査官の増員を決定した。
(ロ)22日、カルデロン大統領は、「治安閣議」各閣僚、州知事及び州政府代表、有識者、及び市民団体代表を集め、「全国治安評議会(Consejo Nacional de Seguridad Publica)」を開催した。そして、全国の各治安組織の情報共有システム構築や各警察組織レベル共通のキャリア制度導入、麻薬小売り対策強化などを含む治安対策10行動指針を発表した。
(2)社会福祉政策
(イ)新生児を対象とする新医療保険
8日、カルデロン大統領は、「新しい世代のための医療保険(Seguro Mexico para una nueva generacion)」付与開始を発表した。客年12月1日の大統領就任式以降出生した新生児は満6歳を迎えるまで医療を無料で受けられる。
(ロ)雇用対策
「雇用の大統領」との公約を掲げたカルデロン大統領は、当月半ば、「シングル・マザーを対象とした託児施設の拡充」や「初めて(フォーマル・セクターに)就職する人」を対象として、IMSS(社会保険庁)保険料を政府が1年間負担する政策などを発表した。しかし、カルステンス蔵相やロサノ労働相など、閣僚からも、「(右政策では)雇用創出には不十分」との意見が相次いだ。
2.与党PAN(国民行動党)内部を巡る問題
(1)客年12月に、同党アグアスカリエンテス州支部が、州知事の党からの追放を求めたのを皮切りとなり、PAN内部の紛争が明るみに出始めた。4日には、ゲレロ州のPAN連邦下院議員が殺害され、その首謀者として右下院議員の代理及び同州事務局長らに逮捕状が出された。ユカタン州では、本年実施される同州知事選の党内候補選出を巡り、州都メリダ市長も務めたことのある大物が離党した。
(2)また、エスピノ党首のサパテロ西首相のテロ対策批判発言を巡り、当地メディアは再びカルデロン大統領と同党首との対立を盛んに報じた(外交6.参照)。
3.トルティージャなどの基礎食品値上げに対する政府対応
(1)客年末以来、ガソリンを始めとして様々な品物の値上げが相次いでいたが、1月に入り1キロあたり6ペソだったトルティージャの販売価格が、一気に10〜12ペソまで上昇したため、国民から強い不満が噴出した。また、連邦下院も、10日、政府が価格統制を図るべきとの見解を採択した。
(2)11日、カルデロン大統領は、経済関係閣僚を緊急に招集し、対策を協議した。12日、ソホ経済相は、トルティージャ価格安定のために、原料の白トウモロコシ65万トンの緊急輸入を発表し、更に15日、政府は、トルティージャ価格の上限を1キロあたり8.5ペソと決定した。そして、それ以上の価格で販売している場合は、告発するよう国民に呼びかけた。経済専門家らは、政府対応に関し、「付け焼き刃的」と批判的であったが、1月末の時点で、トルティージャの販売価格は9ペソ弱に抑えられており、一定の成果が出た形となった。
(3)メキシコ中央銀行などは、トルティージャ価格の上昇がインフレ率上昇の呼び水になるのでは、との懸念を表明していたが、これまでのところ、その傾向は見られない。
一方、31日、労働組合、農民団体及び「進歩主義包括戦線(FAP)」を中心に、メキシコ市で値上げに反対する抗議デモが実施され、約4万人が参加したが、大きな混乱はなかった。
<外交>
カルデロン大統領の欧州歴訪
1.カルデロン大統領は、24〜31日、就任後初めて欧州を歴訪した。今回の外遊には、エスピノサ外相を始め、ソホ経済相、バスケス文部相、モウリーニョ大統領府長官らが同行した。
2.25日、ドイツを訪問し、メルケル首相及びケーラー大統領らと会談した。メルケル首相との会談において、同首相は、G8ハイリゲンダム・サミットのアウトリーチ会合へカルデロン大統領を招待する予定である旨述べた。
3.26日〜28日、カルデロン大統領は、ダボス会議出席のためスイスを訪問した。また、同会議出席のためスイスを訪れていたルーラ・ブラジル大統領との首脳会談を行い、特にエネルギー分野における両国間協力について話し合った。
カルミ=レ・スイス大統領兼外相との会談では、定期的な政治会議を設立し、特に多国間分野、人権及び環境について対話を進めていくことで合意した。
4.一方、ダボス会議におけるカルデロン大統領の発言を巡り、ベネズエラとの関係が再び険悪化した。大統領は、同会議のセッションにおいて、投資などに関するメキシコの安全性を強調する発言を行ったが、その中で名指しはしないながら、土地の接収や国有化政策を批判した。これに、チャベス・ベネズエラ大統領が反応し、「帝国主義、世界資本主義に屈し、嘘ばかりついているメキシコ」と批判した。この発言に対し、カルデロン大統領は、「指導者個人への非難に陥ることなく、地域発展に関する議論を意見の差違についても話すべき」との見解を示した。
5.その後、カルデロン大統領は、28〜29日、イギリスを訪問し、ブレア英首相との首脳会談を行った。両国首脳は、気候変動やエネルギー問題などの地球規模の問題に対する協力、国連改革に対する協力などに関する共同宣言を行った。また、イランに対し、安保理の要求を受け入れ、核濃縮、再処理及び重水関連計画の停止を呼びかけることで一致した。
6.欧州歴訪の最終訪問地として、カルデロン大統領は、29〜30日、スペインを訪問した。大統領訪問に先立ち、スペインの日刊紙「ラ・ラソン」は、28日、ETAとの交渉路線をとったサパテロ西首相の対応を批判するエスピノPAN党首の発言を掲載しており、カルデロン大統領は右発言を受け、訪問先のイギリスでスペインのテロ対策を全面的に支持する旨のプレスコミュニケを発出した他、29日のフアン・カルロス1世主催の晩餐会、及び30日のサパテロ首相との共同記者会見においても、同党首の発言を批判し、スペイン政府に協力していく旨繰り返し述べた。
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