政務班

2007年3月のメキシコの内政・外交の概要

 

 

<概要>
内政では、フォックス前政権からの懸案事項であった「公務員共済庁(ISSSTE)年金改革法案」、及び構造改革に繋がる法案審議に関する規定を定めた通称「国家改革法案」が国会を通過し、今後の改革に明るい兆しが見えた。また、メキシコ市において史上最高額となる麻薬関連資金が押収され、カルデロン大統領就任以来強化されている治安対策が成果をあげている状況が窺えた。カルデロン大統領に関する世論調査でも、治安対策が最も評価される政策となっている。
外交では、ブッシュ米大統領、及びバチェレ・チリ大統領がメキシコを訪問した。両大統領共に、メキシコとの良好な関係を強調したが、ブッシュ大統領の訪問が厳戒態勢の中行われ、冷ややかな報道ぶりだったのに比べ、バチェレ大統領訪問に関しては、極めて好意的なコメントが目立ち、対照的であった。

 

<クロノロジー>
1日   「レフォルマ」紙、カルデロン大統領の世論調査による支持率を58%、10段階評価6.6と発表。(内政)
1日   ゴンサレス・ハリスコ州知事就任に抗議し、野党議員が式典会場で座り込み。式典開始直前に自主退去。(内政)
2日   カルデロン大統領、リオ・グループ・サミット出席のため、ガイアナを訪問(〜3日)。麻薬組織対策への協力、反テロリズムなどの共同声明を全会一致で可決。2009年の同サミット開催地として、メキシコが名乗り。(外交)
3日   通信運輸省、特定の高速道路運営に関し、民間企業へ委託するとの方針発表。94年の経済危機の際に救済された企業もあり、各界から疑問の声。5日、PRI(制度的革命党)及びPRD(民主革命党)、右方針への反対を表明。与党PAN(国民行動党)も慎重な対応を求める。(内政・経済)
4日   パレデス新PRI党首就任。(内政)
6日   連邦上院、「中傷、名誉毀損」に関する刑事処罰罪廃止を可決。民事に。(内政)
6日   連邦下院、情報公開に関する基準の統一化を含む「情報公開法案」可決。上院へ。(内政)
6日   メキシコ市において、第5回メキシコ−カナダ二国間会合開催(〜7日)。(外交)
6日   外務省、メキシコ北部国境地帯における米国境警備隊による国境侵犯に抗議する外交書簡発出。(外交)
8日   外務省、アフリカにおける外交強化のため、エチオピア大使を任命(アフリカ連合代表兼任)。(外交)
12日  ブッシュ米大統領、メキシコ・メリダ市を訪問(〜14日)。カルデロン大統領との首脳会談、拡大会合、共同記者会見などの一連行事をこなす。メリダ及びメキシコ市で訪問に対する抗議デモが行われるも、混乱なし。(外交)
12日  第6回メキシコ−グアテマラ科学技術協力混合委員会開催。(外交)
15日  連邦検察庁(PGR)、メキシコ市ローマス地区の一般住宅を家宅捜索し、史上最高額となる米ドル現金約2億560万ドル他を押収。17日、メキシコ州の製薬会社を家宅捜索し、香港からメキシコへメタンフェタミン(覚醒剤)の原料となる薬物を輸入するルートがあると示唆。(内政・治安)
16日  メキシコとイタリア、「2007−09年 科学技術協力実行プログラム」に署名。(外交)
18日  連邦下院、通称「国家改革法案」を修正、可決。29日、連邦上院、右法案を全会一致で可決、行政府へ。(内政)
19日  バチェレ・チリ大統領、メキシコを訪問(〜21日)。カルデロン大統領との首脳会談、各覚書への署名式出席、共同記者会見などを行う。21日、モンテレイ市に移動し、バスケス文部相と共に小学校訪問後、地元企業家たちと懇談。(外交)
20日  連邦統一裁判所、「トラテロルコの虐殺」に関するエチェベリア元大統領への逮捕状執行を無期限延期と決定。(内政)
21日  サパティスタ民族解放軍(EZLN)、「別のキャンペーン(La otra campana)」第2ステージ開始を発表。今回は、土地問題に関する訴え中心。(内政)
22日  連邦下院、「国家公務員共済庁(ISSSTE)年金改革法案」可決。25日、ロペス・オブラドール元大統領候補を中心とし、PRDを含む「進歩主義包括戦線(FAP)」、右法案に反対する抗議デモ。28日、連邦上院、右法案を可決、行政府へ。29日、FAP、右法案に関する違憲審査申し立て。右法案に反対する労働組合は、ゼネストの可能性を示唆。(内政)
22日  エスピノサ外相、李長春中国共産党中央政治局常務委員と会談。(外交)
22日  エスピノサ外相、ベナイッサ・モロッコ外相と会談。(外交)
28日  外務省、特にエネルギー分野におけるメキシコ−ブラジルの協力を推進する二国間委員会設置に関するプレス・コミュニケ発出。(外交・経済)
29日  エスピノサ外相、サントス・ニカラグア外相と会談。(外交)
31日  第1四半期の麻薬絡みの殺人事件(「処刑」と報じられるもの)件数、627件。昨年比で約25%増。(内政・治安)

 

<内政>
1.「国家公務員共済庁(ISSSTE)年金改革法案」及び通称「国家改革法案」の可決
(1)「ISSSTE年金改革法案」
(イ)28日、連邦上院は、「ISSSTE年金改革法案」を賛成73票、反対28票で可決した。本法案の柱は、加入者は個人毎に積み立て口座を持ち、資金を運用すること、運用は、「Pensionissste」という運用機関を設立し、そこが行うこと、今後2年毎に受給最低年齢を1歳ずつ引き上げ、2028年には男性60歳、女性58歳とすること、政府は、医療サービス拡充のため、80億ペソの予算を投じ、医療施設などを建設することなどとなっている。
(ロ)本法案については、PRD及び結集党から、26項目に関し、見直しの要請が出されたが、賛成に回った与党PANやPRIも修正の必要性は認めながらも、議論を退けた。PRDなどは、年金運用の場としてメキシコ証券市場を想定しており、年金の元本割れの危険性があること、また、証券市場という性質上、年金の運用により民間企業が裨益することになる、などの点を挙げ、反対している。
なお、PRD、結集党及び労働党などが組織する「進歩主義包括戦線(FAP)」は、29日、本法案には憲法に違反するところがあるとして、違憲審査の申し立てを行う一方、抗議のデモ行進などを実施すると発表した。他方、FAPにつながる労働組合は、ゼネストの可能性を示唆している。
(ハ)一方、カルデロン大統領は、全国放送を通じ、本法案可決を歓迎すると共に、賛成に回ったPAN、PRI、緑の党、新同盟党、及び本法案を支持した主要労働組合に対し、「責任感と愛国心を持って行動した」として謝意を表明した。
(2)「国家改革法案」
(イ)29日、連邦上院は、連邦下院で修正が加えられた、構造改革に繋がる法案審議に関する規定を定めた通称「国家改革法案」を全会一致で可決した。
(ロ)本法案のポイントは、構造改革に繋がる法案を作成すべく、両院議員からなる委員会を設置し、専門家及び市民の意見を法案作成に反映されること、本法案は、国家の政治体制及び政府に関するもの、民主主義及び選挙制度に関するもの、連邦主義に関するもの、及び司法改革に関するものの4分野を対象とすること、右に関する法案は1年以内(本年3月30日から明年3月29日まで)に、作成から採決まで行われなければならない、という3点である。
(ハ)当地有識者らは、本法案に関し、議員の「善意」が反映されているものの、拘束力がない、として懐疑的な見方をしている者が多いが、全く成果が上がらなかったフォックス前政権後半と比べ、与野党共に改革を進める意欲があることの証左との見解もある。

2.カルデロン大統領の支持率
(1)1日付「レフォルマ」紙は、大統領就任後3ヶ月が経過したカルデロン大統領の世論調査結果を、支持率58%、10段階評価6.6と発表した。また、客年7月2日の選挙に関しては、54%が「正統であった」との回答であったものの、「不正があった」と考える者が依然34%存在し、国民の約3分の1がカルデロン大統領の正統性を認知していない結果が出た。
(2)ここ3ヶ月のカルデロン大統領の成果に関しては、「麻薬組織対策」が26%と最も高い数値を示した。

3.史上最高額となる麻薬関連資金押収
(1)15日、連邦検察庁(PGR)組織犯罪捜査専門次官室(SIEDO)は、連邦調査機関(AFI)と合同でメキシコ市の高級住宅地であるローマス地区の一般住宅を家宅捜索し、史上最高額となる米ドル現金約2億560万ドル他を押収した。本「ドラゴン作戦(Operacion Dragon)」により、中国系メキシコ人(帰化)2名を含む7名が逮捕された。
(2)17日には、「ドラゴン作戦」の一環として、メキシコ州トルーカ市にある製薬会社を家宅捜査し、更に中国系メキシコ人2名を逮捕した。右製薬会社は、医薬品原料の名目で塩酸擬エフェドリン(clorhidrato de pseudoefedorina)を大量に輸入し、メタンフェタミン(覚醒剤)を製造していたことが判明した。塩酸擬エフェドリンは、香港から米ロング・ビーチを経由し、ミチョアカン州ラサロ・カルデナス港に輸入されたことが明らかになっている。メディナ−モラPGR長官は、本捜査を通じ、メキシコ・中国・米国を繋ぐ犯罪網の存在を示唆した。
なお、本件の首謀者は既に国外逃亡したと見られ、PGRはインターポールを通じ、国際逮捕手配書(通称「赤手配書」)を発出している。

 

<外交>
1.ブッシュ米大統領のメキシコ訪問
(1)12−14日、ブッシュ米大統領はローラ夫人と共に、今次中南米歴訪の最後の訪問国としてメキシコを訪れた。今次訪問には、ライス国務長官、ハドリー国家安全保障担当大統領補佐官、ボルトン行政管理予算局長らが同行した。治安上の問題もあり、今次訪問もユカタン州メリダ市で行われた。
(2)13日には、メリダ市郊外で、両首脳会談及び拡大会合が行われた。14日、両首脳は共同記者会見を開き、民主主義、人権の保護及び尊重、自由貿易推進、法治国家、安全保障、持続可能な開発、及び特に貧困との闘いに関する共通認識を確認したこと、移民問題、治安問題、2008年に迎える市場の完全自由化に向けインパクト軽減のためにワーキンググループを強化するなどの点で建設的な意見交換を行ったと評価した。また、ブッシュ大統領は、移民問題に関し、国会通過を楽観視している旨発言した。
(3)ブッシュ大統領訪問に備え、両大統領が滞在予定のホテル地区は3メートルの高さの鉄柵で包囲され、アクセスが厳しく制限されるなどの厳戒態勢が敷かれた。メリダ市では12日と13日、学生を中心とした「ブッシュ大統領訪問反対」を唱えるグループと治安部隊との衝突があったが、いずれも大きな混乱にはならなかった。また、メキシコ市にある在メキシコ米国大使館前でも、50人程のデモ隊と治安部隊との衝突があったが、催涙ガスなどで応戦した治安部隊により鎮圧された。

2.バチェレ・チリ大統領のメキシコ訪問
(1)19−21日、バチェレ・チリ大統領は、フォックスレイ外相、ロハス農相、与野党議員からなる議員団らを伴い、メキシコを訪問した。バチェレ大統領は、19日の歓迎式典出席を始め、20日には、愛国の碑(英雄少年碑)への献花、連邦下院における演説、及び連邦両院議員との昼食、最高裁判事との会談、「メキシコ市の鍵」贈呈式への出席、有識者たちとの会談、及びカルデロン大統領主催晩餐会出席など精力的に日程をこなした。
(2)20日、両首脳は、「メキシコ−チリ戦略連携協定の枠組みの下での評議会設置に関する覚書」他3つの覚書及び同意書の署名式に同席し、その後、両大統領は共同記者会見を行った。カルデロン大統領は、両国関係に関し、貿易量の増加、及び活発な相互投資を挙げ評価した。また、民主主義、自由経済、自由の尊重、公平性などに関する価値を同じくし、法治国家、治安に関する原則について一致したと述べ、チリとの緊密な協力関係を強調した。一方、バチェレ大統領も、今次訪問の成果に満足していると述べた。また、地域発展という点からチリも「プエブラ・パナマ計画」に寄与する意志があること、より効果的且つ民主主義的な多国間システム構築を立脚点とし、国連改革などに取り組むことなどを表明した。

 
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