在メキシコ日本国大使館

政務班

２００7年7月のメキシコの内政・外交の概要

内政ではグアナファト州及びケレタロ州において、人民革命軍（ＥＰＲ）によるメキシコ石油公社（ＰＥＭＥＸ）のパイプライン爆破事件が発生、また今年３月に家宅捜索で過去最高額の現金を押収され、国際警察に指名手配されていた中国系メキシコ人チェンリー・イエ・コン容疑者が逮捕された。また、大統領選挙から一年が経過、オアハカ州での州政府対オアハカ人民会議（ＡＰＰＯ）の衝突からも一年、厳戒態勢の中、一年振りにゲラゲッツァ祭が開催された。

外交ではサパテロ西首相がメキシコを訪問。麻薬対策を中心にカルデロン大統領と会談した他、エブラール・メキシコ市長と会談、さらに墨西の企業家、及びスペイン内戦時にメキシコへ亡命した人々（通称ニーニョス・デ・モレーリア）とも懇談を行った。また、キルチネル・アルゼンチン大統領がメキシコを訪問、カルデロン大統領及びエブラール・メキシコ市長と会談を行い、また連邦上院で演説を行った。

＜クロノロジー＞
１日　　大統領選挙一周年に際し、民主革命党（ＰＲＤ）のロペス・オブラドール元大統領候補（以下ＡＭＬＯ）を中心とするＰＲＤのデモ及び集会が行われる。ＡＭＬＯ元候補は現政権に対して、批判的発言を繰り返す。これに対しナバレテＰＲＤ上院会派長は党とＡＭＬＯの間の矛盾は否定したものの、党は独自の財政改革案を手に議会での議論に参加することを言明。（内政）
１日　　チワワ州、ドゥランゴ州及びサカテカス州で市長選挙及び州議会議員選挙が実施される。チワワ州及びドゥランゴ州では制度的革命党（ＰＲＩ）が過半数を獲得。国民行動党（ＰＡＮ）は現状維持、ＰＲＤは大きく議席を失う。（内政）
２日　　大統領選挙から一年を迎え、カルデロン大統領、官邸で国民行動党（ＰＡＮ）党員と共に勝利を祝う。
２日　　カルデロン大統領、モンテレイ市を訪問し、「国家安全戦略（Estrategia Nacional de Seguridad）」の一つとして「回復されつつある地メキシコをきれいに（Limpiemos Mexico Zona en Recuperacion）」の開始を発表。プログラムは①安全な公共の場を取り戻すこと、②（父兄の許可を得ての）学校での対薬物使用検査及びかばん検査の実施、③薬物依存者への予防とケアの三点を軸としている。３日、コルドバ厚生大臣、既に聞き取り調査により薬物使用を明らかにする方法があり、薬物検査の実施は特別な場合に限定すると発言。（内政・治安）
２日　　今年３月に家宅捜索で過去最高額の現金を押収され、国際警察に指名手配されていた中国系メキシコ人チェンリー・イエ・コン容疑者に対し、本年５月に行われたインタビューが米国で放映され、イエ容疑者が、２００６年の大統領選挙の選挙活動に資金を確保するよう、ロサノ労働大臣に恐喝された（coopelas o cuello）と、与党国民行動党（ＰＡＮ）との関係を述べる。政府は即座に否定。３日、イエ容疑者の弁護士、メキシコ政府で関与していたのはロサノ労働大臣だけではないと言及。６日、米国麻薬取締局、米国内にあるイエ容疑者名義の銀行口座を凍結。８日、イエ容疑者がメキシコ州に建設した工場は従業員１，５００人、２４時間態勢で稼働させる予定であったことが明らかに。１０日、イエ容疑者が当時州知事であったアルトゥロ・モンティエル前メキシコ州知事、現ベラクルス州知事であるフィデル・エレラ前上院議員（当館注：両名共にＰＲＩ党員）と関係があったと述べていたことが明らかに。１１日、中国企業イ・チェン代表のキ・イエ・ヨン・キン氏、ペニャ・ニエト・メキシコ州知事がイエ容疑者の工場を訪ねたと述べる。１２日、連邦検察庁、３月にメキシコ市で押収された現金以外に、家族用に１，５００万米ドルを隠し持っていたことを明らかに。米国麻薬取締局（ＤＥＡ）、カリフォルニアに在住のイエ容疑者の義姉妹に５万米ドルが隠されていたと指摘。１４日、大蔵省、イエ容疑者と銀行での取引のあった企業を調査すると発表。連邦検察庁、国税局のナンバー２、ルイス・アルベルト・パトロン・アレギ革新・品質管理官がイエ容疑者とつながりがあることを明らかに。２０日、連邦検疫リスク予防委員会（Cofepris）及び農牧省の人間も関わっていると発表。２３日、米国メリーランド州において米国麻薬取締局がイエ容疑者を逮捕。２４日、米国内でＤＥＡに身柄を拘束された中国系メキシコ人チェンリー・イエ・コン容疑者に対し、米国内へのメタンフェタミン持ち込み共謀、及びマネー・ロンダリングの容疑で米国の連邦裁判所が裁判を行うことに。２５日、連邦検察庁、少なくとも２０名の税関職員の調査を行なうことを公表。２６日、Cofeprisが不法輸入の薬物材料の荷揚げを許可したと連邦検察庁。イエ容疑者の家宅捜索で押収された現金、連邦検察庁、厚生省、連邦司法機関で分配することに。それぞれ、麻薬犯罪対策強化や麻薬撲滅のための資金として使用される見込み。２７日、マネー・ロンダリング幇助の罪で、イエ容疑者の愛人がラスベガスで逮捕される。（内政・外交・治安）
３日　　前下院議長のセルメニョ駐スペイン大使、カルロス国王に信任状奉呈。（外交）
４日　　キューバで第９回墨・キューバ議員会合開催。カルデロン政権下では初。６日、両国の関係改善を推進することで合意。ただし、最終的な決定はカルデロン大統領とカストロ議長に委ねられる。（外交）
５日　　グアナファト州でＰＥＭＥＸの石油・天然ガス及びＬＰガスのパイプラインが３都市５カ所でほぼ同時に爆発。そのうち４カ所では火災につながった。同日、内務省は原因について「事故はパイプ内の圧力低下により内部爆発が起こり、ガスパイプラインの弱った部分の破裂を招いた。」と述べる。７日、グアナファト州にある連邦検察庁支部が事件性を指摘し、捜査に乗り出すと発表。１０日、ケレタロ州のガスパイプラインで爆発。同日、ＥＰＲが５日と１０日のパイプ爆破の犯行声明を発表。１３日、爆破されたパイプラインの修復には半年かかると試算。１５日、ＰＲＤ議員がＰＥＭＥＸのパイプラインに対する不注意を批判、ＰＥＭＥＸ改革を訴える。１６日、カルデロン大統領、ＥＰＲの攻撃は予想不可能であったものの、政府の捜査能力の強化が必要であることを認める。（内政・治安）
５日　　ゴルディージョ全国教職員組合委員長に反対するグループがバハ・カリフォルニア州で新勢力設立に同意。７日、全国教職員組合審議会がゴルディージョ委員長の無期限続投を決定。１２日、ゴルディージョ全国教職員組合委員長、バスケス教育大臣に対し、教育省が支給する中高等・高等教育に対する奨学金の一部を現金で全国教職員組合に分配するよう求める書簡を送る。１４日、ＰＡＮとＰＲＤの議員ら、奨学金用の資金不足緩和のために教育省の奨学金の一部を現金で分配することはできないと警告。（内政）
６日　　連邦憲法裁判所、立候補無効の取り消しを請求していた、ハンク・ロン「よりよく生きるための同盟」バハ・カリフォルニア州知事選挙候補の請求を認める。再度候補として選挙戦に復帰。２７日、ＰＲＩ、選挙過程に介入しているとして、エロルドゥイ知事（ＰＡＮ所属）を非難。（内政）
７日　　第８回ＰＡＮ全国大会のＰＡＮ青年部の代表選挙でフアン・カルロス・マルティネスが５８％の得票率で青年部長に選出される。対抗馬のエクトル・リベラは、不当な過程があったとコメント。（内政）
９日　　カルデロン大統領と会談したＰＲＩ州知事ら、税制改革について修正、調整が必要であると述べる。企業単一税（ＣＥＴＵ）には不安の声も。政府は税制改革の一部として、ＰＲＩ上院議員が求めるＰＥＭＥＸを含める用意があると述べる。２４日、連邦下院、各州政府及び大蔵省は、ガソリン、ディーゼル、タバコ、酒類及びビールに対し、各州政府が直接徴税できるシステムについて議論。２６日、カルデロン大統領、税制改革案の見直しを受け入れる。（内政）
９日　　今年の米国内のメキシコ人不法移民の自主的帰国を促すプログラムが開始。第一陣７４人がメキシコシティ空港に到着。（内政）
１１日　　内務省、聖職者の政治的権利を求める動きに対し、宗教協会及び公共信仰に関する法律の改革は、国家の計画で短期実現を目指す優先的課題ではないと述べる。１５日、メキシコカトリック大司教が、聖職者の政治的権利を求める枢機卿の発言を政治家が批判したことに反発。（内政）
１２日　　連邦政府、国家森林機関（ＣＯＮＡＦＯＲ）が実施する森林計画（Proarbol）の一環として、正式に２億５千万本の植樹を開始。（内政）
１２日　　高裁審議、１９６８年にトラテロルコで発生した学生殺害に関し、大量虐殺があったことを認めるも、当時内務大臣であったルイス・エチェベリア元大統領の関与を認める直接的証拠は一つもないと述べる。（内政）
１６日　　オアハカ市で独自のゲラゲッツァ祭を実施する予定であったＡＰＰＯ及び第２２教職員組合約１５０名と警官隊約３００名が衝突。車両放火の他、店舗が破壊の被害を受ける。また少なくとも警察官の負傷者１５名、ＡＰＰＯメンバーの負傷者５０名、逮捕者４０～５０名。２３日、オアハカ市で一年振りに州政府主催のゲラゲッツァ祭が開幕。大きな衝突はなく、会場も満員。３０日、ゲラゲッツァ祭、大きな混乱なく終了。（内政・治安）
１４日　　サパテロ西首相がメキシコを訪問、カンクンにてカルデロン大統領と会談。カルデロン大統領の麻薬犯罪とのたたかいに支援を表明。１５日、カルデロン大統領に対し財政改革への懸念を述べる。その後墨西の企業家と懇談。１６日、メキシコシティにてエブラール・メキシコ市長と会談。また、スペイン市民戦争時にカルデナス元大統領が受け入れた亡命スペイン人「ニーニョス・デ・モレリア」と懇談。
１８日　　カルデロン大統領、通信運輸大臣、環境天然資源大臣、エネルギー大臣及び観光大臣と共に、「国家インフラ計画」を発表。（内政）
１９日　　米国国防省は、会計年度が終了する９月３０日までに、テキサス州とメキシコの間に国境安全のための柵を建設すると発表。（外交）
２０日　　メキシコ市及びその衛星都市で、新道路交通条例が施行。警察が判断し、侮辱すれば罰金という警察優勢の内容に、専門家の間では懸念の声も。（内政）
２２日　　１６－１９日に行われたＰＲＤの全国大会に参加する代表者を選出する選挙で、ヘスス・オルテガ率いる新左派（通称ロス・チュチョス）が全体の６３％を獲得、ＡＭＬＯ派を抑える。（内政）
２４日　　ＰＲＤの新左派代表レネ・アルセ氏は、財政改革に関し、この国の重要な転換の主役として、政府と交渉する用意があると述べる。また、ＡＭＬＯのリーダーシップは永遠に続くものではない、と発言。（内政）
２５日　　テジェス通信運輸大臣、イダルゴ州に貨物空港の建設を発表。着工は２００８年。（内政）
２７日　　ＰＥＭＥＸのラウル・ムニョス・レオス元総裁が石油労働者組合に不法な形で資金を渡していたとして公共行政省に罰されていたことが明らかに。２８日、石油労働者組合側、ＰＥＭＥＸから受け取った金は合法なものであり、今回の件とは関係ないと述べる。
３０日　　キルチネル・アルゼンチン大統領、メキシコを訪問。カルデロン大統領と会談。３１日、エブラール・メキシコ市長と会談、また連邦上院で演説を行う。（外交）
３１日　　カルデロン大統領、メキシコを訪問中のゴア前米副大統領と会談、環境問題について協力を提言。（外交）

＜内政＞
１．大統領選挙一周年の各候補の動き
（１）１日、ＡＭＬＯは大統領選挙一周年を記念して、独立記念塔から憲法広場まで行進し、その後集会を行った。集会には約１０万人が参加し、ＰＲＤ、労働党（ＰＴ）及び統一党（Convergencia）からなる進歩主義包括戦線（Frente Amplio Progresista：ＦＡＰ）からは「正統な大統領」の内閣のメンバーやエブラール・メキシコ市長が参加したが、ＰＲＤの連邦議員やハビエル・ゴンサレス連邦下院議会会派長、ＰＲＤの執行部は姿を見せなかった。

ＡＭＬＯは現政権に対して「国民に反する政治を執り行う、主権を外国に売り渡すような人たちとは交渉の余地などゼロ、繰り返す、ゼロだ。すべてを非人間化する右翼とは交渉などしない。」と述べた。
（２）一方、カルデロン大統領は２日、ＰＡＮ党執行部及び閣僚を中心に、大統領選挙での勝利一周年を祝した。カルデロン大統領は「より良いメキシコを目指すために、国民はより上を目指して成功をイメージし、それに向けて努力しなければならない。また、豊かなメキシコの心に争いの種をまく人間とメキシコ国民に存在するあらゆる傷を根気よく治し対立を完全になくさなければならない。それは対話と忍耐、他人への尊敬の念を通じてのみ成し得るものである。」と述べた。
（３）４日、当地「ミレニオ」紙はマドラソＰＲＩ元大統領候補のインタビューを掲載した。マドラソ元候補は一年前の大統領選挙を振り返り、自分（マドラソ元候補）は、ＰＲＩのイデオロギーはＰＲＤに近く、ＰＡＮとは離れており、左派の勝利の可能性を前に、右派に投票するよう内部での操作があったことは、イデオロギーの背信であった。ＰＲＩはＰＲＩ自身に負けたのだ、と述べた。

２．パイプライン爆破事件の概要と犯行声明
５日、グアナファト州を横断するＰＥＭＥＸのガスパイプラインが３都市（サラマンカ市、セラヤ市及びバジェ・デ・サンティアゴ市）の５カ所でほぼ同時に爆発した。そのうち４カ所では火災につながった。これにより、グアナファト州、ミチョアカン州、アグアスカリエンテス州及びハリスコ州でのガスの供給に影響が出た。
さらに１０日、ケレタロ州でのコレヒドーラ市にある切断バルブ施設で爆発が発生、メキシコ市とハリスコ州グアダラハラを結ぶ天然ガスパイプライン、カクトゥスとグアダラハラを結ぶＬＰガスパイプライン及びベラクルス州ポサリカとグアナファト州サラマンカを結ぶ石油パイプラインの爆発につながった。この爆発によりグアダラハラ市、ケレタロ市、アグアスカリエンテス市及びグアナファト州レオン市への天然ガスの供給に影響が出ている。
これらの事件について、１０日にＥＰＲが、①今回の行動は、連邦政府及びオアハカ州政府が、同年５月２５日オアハカ州で逮捕し行方不明になっている我々の同志、エドムンド・レイエス・アマヤ及びライムンド・リベラ・ブラボ（又はガブリエル・アルベルト・クルス・サンチェス）を生きて返すまで続くものである、②我々は、少数支配者集団及び反民主的な現政権の経済利益に対する全国撹乱キャンペーンを開始した。その軍事目的の標的はカルデロン不法政府を押し付けた少数支配者集団のあらゆる利益である、という趣旨の犯行声明を出した。

３．「国家インフラ計画２００７－２０１２」の発表
１８日、国立宮殿においてカルデロン大統領が「国家インフラ計画２００７－２０１２」を発表した。総括としてカルデロン大統領が、次のように述べた。
（１）「国家インフラ計画」には、３つの基本的な目的がある。
（イ）全ての国民、特に持たざる者の発展の機会均等に貢献する。より多くの、より良いインフラのみが孤立や共同体の差別を打開し、水、電気及び排水設備をもたらし、学校や病院の建設を可能にする。
（ロ）国家経済の競争力を高めるために必要なインフラの建設と拡張をする。メキシコは戦略的な地理に位置する。即ち世界で最も大きな市場であるアメリカの隣国であり、海岸線から１万１，０００㎞でアジアやヨーロッパともつながり、もちろんラテンアメリカともつながっている。また、４４カ国１０億人市場にアクセスを可能にする幅広い条約や貿易協定を結んでいる。
（ハ）本計画により、メキシコを地理的また貿易面での利点を生かし、経済成長及び雇用創出を加速する、高い競争力を持ったロジスティックの基盤にする。
（２）メキシコは過去６年間の通信運輸部門、水部門及び電気部門での年平均投資額がＧＤＰの２％を下回っている。石油部門のインフラを合わせても３％にやっと届く程度である。また、インフラ整備の不足は社会的不均衡を広げていた。
この状況を改善するために、本計画では次の概括的な目標を提起する。
（イ）インフラの普及率、品質及び競争力の増加
（ロ）特に運輸及びエネルギー部門において、地理的条件や国際条約を利用して、競争力のある価格で供給し、メキシコを世界のロジスティックスの基盤の一つにすること
（ハ）特に不足の多い地域における国民の公的サービスへのアクセス増加
（ニ）中部、南部及び南東部が遅れを取り戻すよう配慮しながら、北部の競争力の成長を妨げることのない、バランスのとれた地方発展の促進
（ホ）終身雇用創出の促進
（ヘ）持続可能な開発の促進
（ト）観光事業促進のために必要なインフラの発展
（３）また本計画には前提条件がある
（イ）支出の質を向上させ、公的資金の使用できる分を増加させつつ、インフラ整備に対する公的投資を実質的に増加させなければならない。
（ロ）あらゆる経済において、もちろんメキシコも例外ではなく、公的投資は不十分であり、発展の不可欠な推進力としてインフラ整備への民間投資を促進することが求められる。

（ハ）メキシコは、公的財政の運用の規律が国に提供している経済的安定及び現在ある国際資金の流動性を活用できるし、また活用しなければならない。

４．中国系メキシコ人麻薬密売容疑者逮捕
２３日夜、米国メリーランド州ロック・ビル市内のレストランで、メキシコ政府が指名手配していた中国系メキシコ人チェンリー・イエ・コン（Zhenli Ye Gon）容疑者が、麻薬売買及びマネー・ロンダリングの容疑で米国麻薬取締局（ＤＥＡ）に逮捕された。身柄はワシントンにあるＤＥＡの事務所で同局の監視下に置かれた。米国内のイエ容疑者の弁護士らはすぐにイエ容疑者の保釈をワシントン市内にある連邦裁判所に求めたが、国外逃亡の可能性があるとして却下された。
メキシコ政府は３月よりイエ容疑者の逮捕を、インターポールを通じて米国政府に申し入れていた。また、１０日以上前に、仮に米国内でイエ容疑者が逮捕された場合には、組織犯罪、反衛生、マネー・ロンダリング及び武器の不法所持の容疑で、メキシコに身柄を引き渡すよう米国政府に申し入れていた。しかしながら、ＤＥＡ側は６月１５日、連邦裁判所に逮捕状を請求、今回の逮捕も「独自の捜査によるもの」として、イエ容疑者は米国内法に基づき、米国内で裁判にかけられることになったと。これにより、メキシコへの早期の身柄引き渡し及びメキシコ国内での裁判の可能性は非常に低くなった。更に、メキシコ連邦検察庁が本年３月にイエ容疑者の自宅で押収した２億５６０万ドルに及ぶ現金の半分を米国側が要求する可能性もある。
なお中国政府は、「イエ容疑者はメキシコ国籍を有している人物であり、我々とは関係ない」とのコメントを発表している。
中国出身のイエ容疑者は、１９９０年に渡墨。表向きはメキシコ市内のレストランを経営していたが、１９９７年に製薬会社を設立。２００３年にはメキシコに帰化申請をしてメキシコ国籍を取得、記念式典では１，７００人以上の帰化者を代表してフォックス前大統領から直接証明書を受け取っていた。フォックス政権下の長期に亘り、マンサニージョ港の税関職員を買収し、医薬品原料の名目で合成薬物アンフェタミンを製造可能な塩酸擬エフェドリンを大量に輸入していた。本年３月、ＰＧＲがメキシコ市ローマス地区のイエ容疑者の自宅を家宅捜索し、米ドル現金約２億５６０万ドル他を押収した。同月、ＰＧＲはインターポールを通じ、イエ容疑者を国際手配していた。

＜外交＞
１．サパテロ西首相のメキシコ訪問
１４－１７日、サパテロ西首相がメキシコを訪問し、カルデロン大統領と会談を行い、共同宣言に署名した。この他にも、エブラール・メキシコ市長と会談を行い、またエスピノサ外相、ゴンサレス・キンターナ・ロー州知事、アロール・カンクン市長等と会い、さらに墨西の企業家、及びスペイン内戦時にメキシコへ亡命した人々（通称ニーニョス・デ・モレーリア）とも懇談を行った。
共同記者会見では、共同宣言にも含まれる、ＥＴＡを含めたテロ対策について問われ、サパテロ首相は、「メキシコの対テロ、特に対ＥＴＡ協力は、スペインにとって、またテロとの戦いを代表する自由及び平等といった価値の保護という観点から、非常に満足できるものであった。我々は、テロ活動、ＥＴＡの活動へ影響を与える全てのことについて共通の意思を改めて確認し、この活動がもたらす戦線は多く、当然のことながら我々の行政及び警察は、協力がより効果的となるように、具体的な各ケースにおいて今後とるべき手段を決めることとなる。」と述べた。カルデロン大統領も、「メキシコには犯罪人引き渡しのための有効な法的メカニズムがあり、またグローバル化した現在の世界において、メキシコはスペインその他の国々と、犯罪者がどんな場合でも法の手から逃れることがないよう、協力していく明確な政治的意思を有している。テロとのたたかいに関しては、メキシコはスペイン国民及び政府を支援するとはっきり申し上げる。」と回答した。

２．キルチネル・アルゼンチン大統領の訪墨
３０日－８月１日、キルチネル大統領は、クリスティーナ・フェルナンデス夫人（上院議員、次期大統領候補）、タイアナ外相他とメキシコを訪問し、カルデロン大統領及びエブラール・メキシコ市長と会談を行い、また連邦上院で演説を行った。
カルデロン大統領との首脳会談において、両国首脳は、①合意内容をフォローするため、年１回委員会を開催、②国際組織犯罪との戦い、③年２回の首脳会談実現、④二国間レビューフォーラムの再開、⑤民主主義の促進及び保護、⑥人権擁護、⑦投資促進、⑧銀行送金手続きの簡素化、⑨中小企業支援、⑩文化、学術、科学面での交流、⑪農業、環境及びエネルギー分野におけるイニシアティブ促進、からなる戦略連携協定に署名した。
首脳会談後の記者会見において、キルチネル大統領は、メキシコのメルコスール加盟を促した。これに対しカルデロン大統領は、メルコスール加盟各国との関係強化は重要であるが、ラテンアメリカ統合組織(Aladi)のような、より大きな枠組の下で貿易が実現することを希望する旨述べた。
カルデロン大統領は墨亜両国には民主主義、正義、及び人権尊重といった共通の価値観があると述べ、キルチネル大統領は、両国関係はよい雰囲気で、フォックス前政権時に形成された緊張関係は緩和されたと考える旨述べた。

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