<概要>
内政では、1ヶ月ほど前から行方不明になっていた大型スポーツチェーン店社長息子が遺体で発見された事件をきっかけに、治安改善を求める動きが強まり、これを受け臨時の全国公安会議が開催された。外交では、潘基文国連事務総長が就任後初めてメキシコを訪問したほか、執行一時停止を指示する国際刑事裁判所の判決にもかかわらず米国内の刑務所でメキシコ人死刑囚への死刑が執行されたことが、国内で波紋を呼んだ。
<クロノロジー>
1.治安を巡る動き
1日 6月に誘拐されて以来行方不明であった大手スポーツチェーン店「マルティ」のアレハンドロ・マルティ社長の息子、フェルナンド少年がメキシコ市コヨアカン区で発見された盗難車のトランクから遺体で発見される。死後1ヶ月ほど経過。同日、メキシコ市検察庁、ロメロ(Jose Luis Romero)容疑者(メキシコ市検察警察空港地区班長)およびモレノ(Marco Antonio Moreno)容疑者を逮捕したと発表。
7日 カルデロン大統領、増加する組織犯罪に対し、終身刑の導入を再度提案。刑を重くすることは必ずしも抑止力とはならないとの声も。他方、オルテガ・ユカタン州知事、ガンボア連邦下院PRI会派長が提案した死刑制度を支持する姿勢示す。13日 モレラ「犯罪対策のための国家団結(Mexico Unido Contra la Delincuencia)」代表、カルデロン大統領、最高裁、連邦議会議長、州知事およびメキシコ市長に対し、早急に多発する誘拐に対するアクションを決断すべきであると、30日以内に会議の開催を訴える。エブラール・メキシコ市長、モレラ代表の意向を支持し、メキシコ市で開催する用意があるとの書簡を同代表に送る。
14日 カルデロン大統領、モレラ代表との会談を踏まえ、臨時全国公安評議会を召集すると述べる。
21日 国立宮殿で第23回国家公安審議会が開催される。同審議会には国家公安審議会(治安関係の省庁閣僚を含む)のメンバー、全国州知事、メキシコ市長、連邦議会議員及び市民団体メンバー、そして招待者としてカルデロン大統領、アレハンドロ・マルティ氏、モレラ「犯罪対策のための国家団結」代表が参加。マルティ氏、「もし誘拐対策を不可能である、実行できないと考えているのであれば、職に留まらず辞任すべきである」と訴える。74の項目を盛り込んだ「治安・正義及び合法性のための国家合意(Acuerdo Nacional por la Seguridad, la Justicia y la Legalidad)」に署名。モレラ代表、マルティ少年の誘拐殺人事件を受け、100日間で結果を出すことを提案するも、カンパ全国公安評議会行政官が30日後に進捗状況を確認する会合を開催することを指示。
25日 2007年9月10日から誘拐されているバルガス元国家スポーツ委員会会長の娘、シルビア・バルガスさんの帰還を求め、母親のシルビア・エスカレラ氏が巨大広告等のスペースを使用し訴える。
26日 シルビア・エスカレラ氏、「娘が神と共にいるのならば、教えて欲しい」と、誘拐犯に再びコンタクトをとるよう訴える。
30日 メキシコ市で治安悪化および無処罰体質に対し市民が大規模デモを実施。「メキシコを照らそう(Iluminemos Mexico)」と名付けられたこの行進には、アレハンドロ・マルティ氏をはじめとして、家族を誘拐された被害者や治安悪化を懸念する市民が白い服を着て憲法広場まで行進、日没後ろうそくを灯し、もうたくさんだとの市民の声を訴える。同時にハリスコ州グアダラハラ市、ヌエボ・レオン州モンテレイ市およびミチョアカン州モレリア市といった大都市でも行進が行われる。いくつかの都市では麻薬組織を恐れ、行進が中止される。
2.潘基文国連事務総長の訪墨
3日(〜5日) 潘基文国連事務総長が初めてのメキシコ訪問を実現。3日に開幕した第17回国際エイズ会議の開幕式にカルデロン大統領と共に出席。4日、大統領府でカルデロン大統領と会談。また、潘事務総長は、アラニス連邦選挙裁判所長官及びバルデス連邦選挙機関(IFE)議長と会合を行った。外務省においては、ラテンアメリカ核兵器防止機構(OPANAL)の特別会合に出席。また、エスピノサ外相と会談した。さらに、連邦議会常設委員会で演説を行った潘事務総長は、国際場裡でのメキシコのリーダーシップを強調し、カルデロン大統領が提案した「緑の基金」は、ラテンアメリカ地域のみならず、世界の他の地域でも多大なる関心を呼び起こしたと言及した。国立人類学博物館でのレセプションでは、国連関係者、連邦政府関係者及び外交団が出席。
3.米国内のメキシコ人死刑囚の死刑執行
5日 米国テキサス州ハンスビル市に収監されていたメデジン(Jose Ernesto Medellin)死刑囚の死刑が執行される。墨外務省、メデジン死刑囚の死刑執行は、2008年7月16日に国際刑事裁判所が米国政府に対し、2004年3月31日に国際刑事裁判所「アベナ及びその他のメキシコ人に関する事件」で下した判決の通り、メデジン死刑囚に対する再審理手続きが進められるまで死刑執行を停止するための可能な限りの措置を講じるよう厳命した判決に対する明確な不服従であり、テキサス州政府が同死刑囚の逮捕が在米墨領事館に通告されるという権利について通報しなかったことは、領事関係に関するウィーン条約の明白な侵害であると糾弾。
4.その他
<内政>
3日 民主革命党(PRD)のエルネスティナ・ゴドイ保証監視委員会委員長、同委員会のナサレス委員が新左派に肩入れをしていると批判し、辞任。
4日 マリセラ・モラレス(Marisela Morales Ibanez)氏、組織犯罪捜査専門次官室(SIEDO)の新次官に就任。麻薬組織の戦いに対する組織強化を図る連邦検察庁(PGR)組織改編の一環。また、ラミレス(Noe Ramirez Mandujano)前SIEDO次官は、国連麻薬犯罪対策事務所PGR代表に任命される。また、PGRはサンティアゴ・バスコンセロス(Jose Luis Santiago Vasconcelos)法務・国際担当次官が3日他の公務員職への転任を理由に辞任したと発表。
6日 カルデロン大統領は、連邦上院に対してソホ経済大臣を新国立統計地理情報院(INEGI)の院長に指名すると発表。経済大臣の後任には、ルイス(Gerardo Ruiz Mateos)大統領府長官が任命された。これに伴い、フローレス大統領府運営顧問を新大統領府長官に任命した。
6日 連邦上院エネルギー・立法研究合同委員会、エネルギー改革に関し、PANおよびPRIの提案を反映させた議案の作成を開始することを宣言。また、主要3政党の会派長が会合を行い、エネルギー改革の最終的議論は9月から開始する議会通常会期中に行うことで一致。
10日 FAPによるエネルギー改革に関する第2回住民投票が実施される。
11日 エブラール・メキシコ市長、メキシコ市司法警察(Policia Judicial)をなくし、捜査警察(Policiia Investigadora)に取って代わることを発表した。
11日 クラブ「ニュース・ディバイン」圧死事件の責任を問われ身柄を拘束されていたサヤス・メキシコ市統一警察(Unipol)元幹部が庇護与えられる。
15日 新IFE評議員3名、就任。
16日 PRD新執行部の選出を行うための執行部臨時総会の開催会場、左派連合に封鎖される。ラサロ・カルデナス前ミチョアカン州知事を代理党首に擁立したい左派連合とアコスタPRD代理党首を続投させたい新左派との間での対立。
25日(〜31日) カルデロン大統領、大統領教書提出を前に、テレビでここ1年の成果をアピールするスポットCMの放送を開始。
26日、27日 タマウリパス州、ヌエボ・レオン州、コアウイラ州、サカテカス州、サン・ルイス・ポトシ州、ベラクルス州およびキンターナ・ロー州でカルデロン大統領がシナロア・カルテルを保護している、軍とシナロア・カルテルが結託していると批判する麻薬組織の横断幕が現れる。
27日 最高裁、メキシコ市の中絶容認を合法と認める。
28日 ユカタン州メリダ市で11名、ブクツォッツ(Buctzotz)市で1名の斬首死体
が発見される。オルテガ・ユカタン州知事、同州治安担当職員が3ヶ月ほど前から検問をやめさせよ、さもなければ誰かを殺すとの匿名の脅迫があったと語る。29日、キンターナ・ロー州カンクン市で、12名の斬首容疑で3名の「ロス・セタス」構成員が逮捕される。
29日 PRI所属のセサル・ドゥアルテ下院議員、9月1日からの次期連邦下院議長に選出される。連邦上院はPAN所属のグスタボ・マデロ上院議員が議長に選出。
29日 クラブ圧死事件で逮捕・収監されていたサヤス前グスタボ・A・マデロ区統一警察長、釈放される。
<外交>
1日 カルデロン大統領、コロンビア・カルタヘナ市で開催の「第1回麻薬、治安及び国際協力に関する地域首脳拡大会合」に出席。麻薬対策に対する資金及び技術援助を要請すると共に麻薬対策にむけた地域協力を宣言したカルタヘナ宣言に署名。
3日(〜8日) 第17回世界エイズ会議開幕。
20日 セラヤ・ホンジュラス大統領が訪墨、カルデロン大統領と会談。
27日 ダライ・ラマ、訪墨をキャンセル。カラム・「チベットの家」創設者、訪問キャンセルは健康上の問題で、政治的要因はないとコメント。
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