内政では、党内選挙キャンペーンで制度的革命党(PRI)および民主革命党(PRD)が候補者リストを提出、PRIに対する国民行動党(PAN)のネガティブ・キャンペーンを巡って、両党が論戦となった。また、連邦選挙機関(IFE)と連邦選挙裁判所の対立も見られた。
外交では、米墨国境地域の治安状況を巡り、両国政府関係者の間で激しいやりとりがあった。
<クロノロジー>
1.治安状況を巡る米墨政府の動き
1日 ゲーツ米国防相、メキシコの麻薬組織浸透は、カルデロン大統領以前の大統領が麻薬組織との戦いを実行しようとしなかったからであると述べる。
4日 カルデロン大統領、麻薬密輸の責任は米国内の汚職にも起因すると発言、米国に姿勢の変化およびメキシコの麻薬組織に対する武器密売のより効果的なコントロールを求める。
6日 ミューレン米統合参謀本部議長、訪墨。国防相および海軍相と会談し、組織犯罪対策として両国の軍の協力強化を提案。
10日 ブレア米国家情報長官、麻薬組織による暴力の増大により、カルデロン大統領は国土の一部で統治をできなくなっていると指摘。これに対し、サルカン駐米墨大使、この発言を拒否した上で、部分的、表面的な論拠で、見当違いであると評価。
同日 米国連邦上院、予算案を可決。メリダ・イニシアティブには合計4億500万ドル、うちメキシコには3億ドルが充てられる。これはホワイトハウスが提案した額よりも1億5000万ドルの減少。
11日 10日のブレア米国家情報長官の発言に対し、カルデロン大統領、米国当局の汚職により米国への麻薬密輸が可能となっていると非難し、米国に対して麻薬の密輸のみならず武器密輸およびマネー・ロンダリングに対しより幅広い、真剣な支援を求める。ゴメス=モント内相、メキシコは治安当局の汚職を一掃するための統合的な戦略を推進しており、麻薬組織は国境に関係なく存在するので、北の隣人もそうすべきであると発言。またエスピノサ外相は、麻薬組織による汚職は麻薬組織の存在する全ての国で起こっていると述べる。
同日 オバマ米大統領、米墨国境地域の治安状況について見直すも、現時点で軍を配備するつもりはないと発言。
同日 フォーブズ誌の2009年長者番付で、シナロア・カルテルのリーダー、ホアキン・「エル・チャポ」・グスマンが701位にランキングされる。
12日 カルデロン大統領、米国閣僚に対し、すべてが統治されていることを自らの目で確かめるようメキシコ全土どこにでも訪問して構わないと発言。また、フォーブズ誌2009年長者番付でホアキン・「エル・チャポ」・グスマンがランキングされたことについて、「米国の雑誌までもがメキシコの状況を非難し、犯罪者を賛美している」と非難。
同日 ウッズ米国国土安全保障省報道官、米国政府は反メキシコのキャンペーンを展開しているわけではないと発言。
17日 プラシド米司法省薬物取締局(DEA)副長官、カルデロン大統領が麻薬組織との戦いに負けているとの見解を否定、武器密輸やマネー・ロンダリングに対し米国としてまだやるべきことがあると述べる。また、レニュアート米北方軍司令官は、麻薬組織と戦うためにメキシコ軍と共同で能力強化の戦略を進めており、詳細については翌週明らかにすると発言。
18日(〜19日) ゴメス=モント内相、ガルバン国防相およびサイネス海軍相とともに、ワシントンを公式訪問。麻薬組織との戦いのメカニズム強化についてナポリターノ米国土安全保障長官、ブレア米国家情報長官等と話し合う。
同日 米国政府、4月16〜17日のオバマ大統領の訪墨を発表。また、ホルダー米司法長官も4月初旬の訪墨を発表。
20日 ゴメス=モント内相、米国の武器密輸、マネー・ロンダリングおよび麻薬消費に対する理解と政治的意思を評価するも、さらにできることがあると、さらなる協力を求める。メディナ=モラPGR長官、4月に来墨予定のオバマ米大統領に対し、麻薬組織による武器密売および米国内の麻薬消費に対する共同戦線を形成することを求めると述べる。
21日 エスピノサ外相、メキシコは法の力と効果的かつ結果を伴う外交をもって、麻薬組織との戦いに対する共同責任を担うと述べる。
24日 米国政府、米墨国境地帯の警察および装備を強化、麻薬組織との戦いへの姿勢を示す。エスピノサ外相、米国の姿勢を評価。
26日 レオンハートDEA長官、米国の麻薬対策は麻薬消費が減少しないことから失敗であったと認める。しかしここ数年の麻薬組織に打撃を与えるという戦略は機能していると述べ、「完璧な解決策」は麻薬の流通だけでなく、消費に決定的な打撃を与えることであると強調。
25日(〜26日) クリントン米国務長官が訪墨。カルデロン大統領を表敬訪問し、移民問題、貿易関係と競争力強化、国境地帯の発展と安全等につき意見交換を行う。治安問題に関しクリントン国務長官、米国は麻薬組織との戦いに対する責任を共有すると強調。
2.党内選挙キャンペーン期間の各党の動き
8日 ソノラ州知事選出のための予備選挙が州内で実施される。PRIはブルス州知事が推薦するアルフォンソ・エリアス(Alfonso Elias Serrano)連邦上院議員(休職中)が優勢。
15日 PRD、党内候補選出のための選挙実施。党内選挙で不正を行わないとの合意にもかかわらず、食料品提供や脅しによる買票運動が展開される。
15日 カトリック教会、連邦政府が実施する麻薬組織との戦いおよび薬物との戦いを支援していないとして、PRDおよび社会民主主義党(PSD)を批判。
15日 PRI、カンペチェ州知事候補にオルテガ(Fernando Ortega Barnes)連邦上院議員(休職中)を擁立。
21日 PSD党執行部選挙議会、連邦下院議員選挙の党候補を賛成多数で承認。比例区の候補選出を巡り、ベグネ党選挙委員会委員長とアルビズ連邦下院PSD会派長が対立。
22日 PAN、新規石油精製施設建設予定地未定のまま、連邦政府の進める施設建設を強調したパンフレットを配布。
22日 労働党、全国レベルでPRIとの連合を解消。アナヤ労働党合同党首、進歩主義包括戦線(FAP)を組むPRDおよび結集党以外とは連合を組まないと発言。
29日 PAN党内選挙が実施され、ラミレス元内相、ナバ前大統領秘書官が下院議員選挙の党候補に選出される。
30日 PRD、連邦下院議員選挙の候補者リストをIFEに提出。リストの中には、ヘスス・サンブラーノ、グアダルーペ・アコスタ前代理党首等が含まれる。他方、比例第1区で名簿の第1位に載らなかったレオネル・コタ元党首は、離党をちらつかせ抵抗。
同日 PRI執行部、連邦下院議員選挙の候補者を全会一致で承認。候補者にはパレデスPRI党首、サパティスタ民族解放軍(EZLN)のマルコス副司令官の姉妹パロマ・ギジェン(Paloma Guillen)氏、レルド現IFE代表、の他、マドラソ元大統領候補の息子フェデリコ・マドラソ(Federico Madrazo)氏、サリナス元大統領の姪等PRI重鎮の親族が多数登録される。
30日 IFE、PANが求める連邦下院議員選挙の名簿提出期限の延長を賛成7、反対2で認め、4月15日までに延長することを決定。バルデス議長、3月19日にPRIが求めた期限延長を却下したことを言及し、この判断には賛成できないと発言。
3.PANとPRIの非難合戦
4日 PRI、結党80周年記念集会を開催。パレデス党首、党の組織犯罪との戦いに向け国民の結束を強化する用意があることを強調するとともに、同党は麻薬組織と関連がないと述べる。
9日 ガンボア連邦下院PRI会派長、マルティネスPAN党首が展開している一連のビデオメッセージによるPRIへのネガティブ・キャンペーンを中止するよう求める。
19日 銀行業界の会議に招待されたマルティネスPAN党首、PRIは大統領の側にいるのか、麻薬組織の側にいるのか、立場をはっきりすべきだと述べ、これに対しパレデスPRI党首、麻薬組織の勢力が拡大したのはPANが大統領になってからで、特にPANが施政する地方での成長が著しいと反論。その後、ベルトローネス連邦上院政策調整委員長(PRI所属)、石油精製施設の建設、カセ容疑者の仏政府への身柄引き渡し、シティ・グループ傘下にあるバナメックス銀行の営業に関し、カルデロン大統領は責任をもって取り組むべきであると発言、これに対しマデロ連邦上院議長、カルデロン大統領は十分責任をもってこれらの事項に取り組んでおり、ベルトローネス連邦上院政策調整委員長は不毛な論争を展開して市民の意見を撹乱しようとしていると非難。またゴメス=モント内相、ベルトローネス連邦上院政策調整委員長は大統領に対する発言は不当な批判であることを認めるべきであると発言。さらにベルトローネス連邦上院政策調整委員長、真実を述べることは立腹する理由とはならないとのプレスリリースを発出。
22日 マルティネスPAN党首、新たなビデオメッセージをHPに掲載。PRIの歴代大統領の中に、現在カルデロン大統領が取り組んでいるような麻薬組織との戦いを実行した大統領は一人もいなかったと発言。
25日 ベルトローネス連邦上院政策調整委員長、予算の30%が未執行であると指摘し、カルデロン大統領は予算の使い方も投資の仕方も知らないと批判、またマルティネスPAN党首に対しても、連邦政府の事項を選挙に利用していると指摘。
31日 テレビサ社主催の青年向けイベント「エスパシオ2009」に出席したPAN、PRI、PRDの各党首、非難合戦を展開。
4.選挙スポットCM放映を巡る連邦選挙機関(IFE)および連邦憲法裁判所の動き
3日 テレビサ社およびTVアステカ社、2月7日および8日の選挙スポットCM放映違反に対しIFEが課した罰金に対する異議を連邦選挙裁判所に申し立てる。
11日 連邦選挙裁判所、1月31日および2月1日にスポーツ中継を中断して党内選挙キャンペーンのスポットCMを放映したことに関し、2月13日にIFEがテレビサ社およびTVアステカ社を罰しないとの判断を下したことについて、テレビサ社への罰金適用の手続きを再び行うよう命じる。IFEと連邦憲法裁判所の対立続く。
13日 IFE、改めて1月31日および2月1日のスポットCM放映に関するテレビサ社への罰金を否定。
19日 連邦憲法裁判所、TVアステカ社が1月31日および2月1日に有料衛星放送「スカイ」の自社チャンネルでの選挙スポットCMの放映を妨害したとして200万ペソの罰金を命じたIFEの判断を無効とし、IFEに再審議を行うよう命じる判決を下す。
20日 IFE、サン・ルイス・ポトシ州でのスポットCM放映に違反があったとして、TVアステカ社に計685万2000ペソの罰金を科す。
24日 IFE、「スカイ」での選挙スポットCM放映を巡り、IFE、TVアステカ社の13チャンネルでのスポットCM放映違反に対し200万ペソの罰金を科すも、7チャンネルについては罰金科さず。
5.その他
3日 テジェス通信運輸相が辞任。モリナール・メキシコ社会保険庁(IMSS)長官が後任に任命される。IMSS新長官にはカラム国民保険委員会長官が就任。また、やはり辞意を表明したベラ国家文化芸術審議会(CONACULTA)の後任には、サイサール文化経済基金(Fondo de Cultura Economica)長官が任命される。さらに、7月に実施されるハリスコ州議会議員選挙に立候補するため辞表を提出したゴンサレス・ウエダ筆頭内務次官の後任には、グティエレス外務省ラテンアメリカ・カリブ担当次官が就任。
4日 チワワ州のチワワ刑務所で「ロス・アステカス(Los Aztecas)」と呼ばれるグループの服役囚が対抗グループ「ロス・アルティスタス・アセシノス(Los Artistas Asesinos)」および「ロス・メヒクレス(Los Mexicles)」の服役囚20名を銃や暴行により殺害。
9日 6日より来墨中のサルコジ大統領およびカルラ・ブルーニ夫人が公式行事に出席。カルデロン大統領およびサバラ大統領夫人とともに、国立宮殿で実施された歓迎式典に出席、その後首脳会談、連邦上院での演説、仏墨学院(リセ)において在墨仏人コミュニティとの懇談を行った後、エブラール・メキシコ市長との懇談を行い、大統領主催の晩餐会に出席。注目された2005年に誘拐組織に関連していた容疑によりメキシコで逮捕された仏人女性カセ(Florence Cassez)容疑者の取り扱いについては、両国は法的な解決を目指して法の分析作業を行うグループを作り、この件について扱うと発表。両国間の受刑者移送条約の適用により、仏国内での司法手続きを踏む可能性を残す。
16日(〜19日) ホーコン・ノルウェー皇太子及びメッテ=マリット同妃が訪墨。ホーコン皇太子、歓迎式典において、メキシコの国連安保理非常任理事国入りに祝意を表すとともに、気候変動、環境保護、先住民の権利保護問題等につき両国間の協力を促進する方策を探っていきたいと述べる。
16日 チワワ州フアレス市の公共治安長官に退役軍人のリベラ(Julian David Rivera Breton)大将を任命。これで、現在軍関係者の治安長官就任者は全国で14名を数える。
18日 石油国有化71周年記念式典で、カルデロン大統領、新規石油精製施設建設を公開フォーラムにより決定すると発言。現在の候補はカンペチェ州、グアナファト州、イダルゴ州、ミチョアカン州、オアハカ州、プエブラ州、タバスコ州、タマウリパス州、トラスカラ州およびベラクルス州。
19日 シナロア・カルテルの構成員で、同カルテル幹部の一人、イスマエル・「エル・マジョ」・サンバダ(Ismael "El Mayo" Zambada)の息子、ビセンテ・サンバダ・ニエブラ、通称「エル・ビセンティージョ」(Vicente Zambada Niebla, "El Vicentillo")がメキシコ市内で逮捕。
23日 PGR、麻薬組織のリーダー逮捕につながる有力な情報を提供した市民に1500万〜3000万ペソの懸賞金を発表。
25日 石油精製施設建設に関する公開フォーラムで、候補地の各州知事、第2の新規石油精製施設建設を求める。27日、第2回フォーラムで、グラニエル・タバスコ州知事、エレラ・ベラクルス州知事およびマリン・プエブラ州知事、石油精製施設建設の決定に際し透明性および公平性を求める。
27日 IFE、ロペス・オブラドール元大統領候補の活動資金の出所について調査を開始すると発表。
29日(〜4月2日) カルデロン大統領、ロンドン・サミット出席のため訪英。エリザベス二世女王に謁見。また、ゴードン・ブラウン英首相と会談。共同記者会見の席上、米墨国境地帯の治安について、情報や技術、設備等での共有は含めるものの、「協力して努力しなければならないが、これは軍事的共同作戦および両国軍の共同参加を意味するものではないし、これを含めるつもりはない」と発言。また、国境地域の各都市での事案状況は深刻であるものの、メキシコ政府は前例になく問題に確固として立ち向かっているとも発言した。さらに、米国政府に対し、メキシコへの武器の密輸に歯止めをかけるよう求めた。
30日 第36回全国州知事会議がヌエボ・レオン州モンテレイ市で開催される。州知事ら、各政党に対し、治安問題を政治的に利用しないよう求める。
31日 連邦下院、給料上限法(Ley de Salarios Maximos)を可決、同法案を連邦上院に送る。
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